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ロジカル・シンキング その⑧

「あ、ヒオちゃんやっほ。……可愛い衣装だね?」
「ん、フウリ」
ヘイローは自身の魔法によって頭上の光輪を操作し、崩落する建物から逃げ遅れた一般人を守っていた。
「突然で悪いんだけど、ヒオちゃん。助けて? ちょっと今動けそうに無いんだけど……私の魔法、火力あり過ぎて巻き込んじゃいそうだし……」
「分かった。こっちは任せてフウリは怪物の方を片付けて」
「うん。いくら私でもヘイロー無しで怪物とは戦えなかったから……じゃ、まず避難路を作ってくれる? そしたら攻撃用に使えるようになるから」
「了解」
ヒオ、もといアリストテレスが手を翳すと、その手の中に魔力の塊が光球となって出現した。
光球を、退路を阻む炎に投げ込み、続いてもう一つ光球を生成する。そちらの光球はゆっくりと彼女自身と一般市民たちを飲み込むように膨張し、彼らが完全に取り込まれたタイミングで、事前に火の中に投げられていた光球が炸裂し、炎の中に道ができた。
「はい皆さん、あの『避難路』が消えないうちに早く逃げてください。大丈夫、全員通り抜けるのにかかる3倍くらいは維持できるので」
一般市民はよろよろと順番にその通路を通って火の外へ逃げ出していった。完全に避難が完了するのを確認してから、指を鳴らして避難路を形成していた力場を消滅させる。
(……よし。今のところきちんと使えてる。そうだ、早くフウリの手伝いに行かなきゃ)
再び光球を生成する。
「〈Parameters〉」
アリストテレスの目の前に、光のウィンドウが出現する。
(『魔法』とは、『魔力』というエネルギーを別のエネルギーに変換する技術。熱と音は……別にいらないかな。射程も少し削って……下げた分を威力と貫通力に乗せる)
各パラメータを操作し終えたところで、光球は小さな塊となってアリストテレスの掌の上に落ちた。
先端のすぼまったおおよそ円筒形のそれを、腰のホルスターから取り出したリボルバー・ハンドガンの回転弾倉に込める。
「〈Preset : Crush Bullet〉」

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ただの魔女 その③

再び戦地へ視線を戻す。ゴーレムはまだ手探りを続けていたので、やめさせる。
さぁ、俯瞰できているこの状況を活かして探さなきゃ。『さっき倒した魔法少女』と、『それを逃がした奴』。
ゴーレムは適当に暴れさせながら、辺りに注意を払う。
ふと、首筋に嫌な寒気みたいなものが走った。反射的に身を伏せると、頭上を何かが高速で通り過ぎた。
「……誰?」
振り向いて、私に攻撃してきた奴を見る。さっき倒した魔法少女とどことなく似た感じの衣装を着た女の子が、短槍を構えていた。
「あぁ……また“魔法少女”か。アレの仲間かな。よく私が犯人って分かったね。あのヌイグルミにチクられたかな」
小型ゴーレムを私と魔法少女の間に移動させ、棘状に変形させて攻撃する。
彼女は回避するでも無く、後退するでも無く、『突撃』してきた。そしてゴーレムの棘が命中する直前、彼女の姿が消えて目の前の景色が僅かに変化した。
「……いや違う!」
ゴーレムの棘が私の背中に直撃する。セーフティが作用してすぐに崩れたけど、これで私の武器は無くなった。
背後から放たれた槍の刺突を身を捩って躱し、彼女の方を見る。
「私とあんたの位置を入れ替えたんだ。これも魔法なの? 不思議な術使うねぇ……ん?」
突き出された槍をよく見てみると、穂先じゃなく石突の方がこちらに向いていた。つまり、こいつは私を殺す気が無いってこと?
……彼女が短槍を下ろした。

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ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 21.ティアマト ②

「…ま、穂積はうちを守るために彼女に手を貸していただけだもんね~」
「ちょっ、恥ずかしいから言わないでよ‼」
雪葉にからかわれる穂積を見ながらわたしは苦笑する。
…この街は、常識の外の存在である”異能力者”が存在する街なのだが、ここ最近1つだけ問題がある。
それは他の異能力者の異能力を奪う異能力者…”ヴァンピレス”の存在だ。
どこからともなく現れては、気ままに他の異能力者襲いかかる厄介者。
ついでに本名を始め素性が全く不明なため、彼女に対抗することは非常に難しかった。
「…やっぱ、ヴァンピレス対策って難しいよね~」
ネクロマンサー位協力な異能力者じゃないと倒せそうにないし、と雪葉は空を見上げながら呟く。
「情報屋のミツルも彼女についてたくさんは知らないみたいだし」
もうどうしようもないよね~と雪葉は笑った。
「ホント、全くよ」
穂積もそう言って腕を組んだ。
…暫くその場に沈黙が流れたが、ふと雪葉がわたしの方を見た。
「そう言えば君…何であの4人とよく一緒にいるの⁇」
君、常人だよね?と雪葉は聞く。
わたしはへっ、と驚く。

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回復魔法のご利用は適切に_7

「_あ、待ってリサちゃん、教室に忘れ物してきちゃった」
さっきまでまあまあ格好いいことを言っていたシオンの、突然の忘れ物発言にエリザベスは心底安心したように肩から力を抜いた。
「なにを忘れましたの?」
「プールバッグ」
「まあ大変」
同級生たちはみんな下駄箱へ流れたようで、教室には誰もいなかった。
「そういえば、シオンさんはとても速く泳ぎますのね」
「プール好きなんだぁ。バタフライが得意なんだけど中々やらなくて残念だよ」
そんな会話を交わしつつ、教室を出ると水道の水が出しっぱなしになっていた。
「…さっき水出てたっけ」
「さあ…とりあえず止めます?」
「止めよっか」
シオンが蛇口を閉めようと手を伸ばすと、蛇口からでる水の量と勢いが一気に増した。
「うわっ」