「なぁ何買うー?」
「俺コーラ」
「オレンジジュースにしようかな」
「そう言えばさー」
おれ達は他愛もない話をしながら列に並んだ。
「それでさー、ソイツがギャーギャー言うから~」
「何それ~」
自販機に並びながら、おれ達の会話も盛り上がる。
これもおれ達の日常だ。
「でさでさ」
「うわヤベーじゃん!」
話が盛り上がった拍子に、仲間の1人がちょっと突き飛ばされた。
そして偶然前にいたおれにどんとぶつかる。
「おっと」
そのまま前につんのめったおれは、目の前に並んでいた小柄な少女にぶつかった。
ちょうど自販機で買った商品を取り出そうとしていた少女は、自販機に突っ込むようにして転んだ。
フラッフィア
側頭部のやや頭頂部寄りに、毛の生えた大きな耳が生えている(要するに獣耳)人類種族。ちなみに、人間の耳がある辺りに、また別に1対、先の尖った耳が生えている。
体格は小柄痩身になる者が多く、成人の平均身長は男女ともに145㎝程度。『腱』を利用した特殊な生体構造によって、握った手指を完全に固定できる。また足指が長く可動域が大きいため、登攀能力に秀でている。
2対の耳によって聴覚能力が優れている。具体的には聴覚情報に対する方向感覚と絶対音感及び相対音感に優れ、音質の僅かな差も感知できる。
その特性から音楽家が多いと思われがちだが、そんなことは全く無い。むしろ、技能が未熟な間に不完全な音に耐えられず、早々に音楽から離れたがる。代わりに四耳人の成熟した音楽家は、本当にすごい。音に関する感覚を余すことなく存分に使い切り、人々の魂を揺さぶる素晴らしい作品を作り上げることができる。
「杖かぁ!そりゃあ大変だ、ほら、こっち座った!」
半ば強制的に椅子に座らされる。
巻き尺の巻きつきまくった、見るからに何かはかる用であろう椅子だ。
エルはくるくると椅子の周りを歩き出した。
「ふぅん…見た目より小柄だな。手足が長めで…うーん、やっぱ軽いな、ちゃんと食ってんのか?」
エルの独り言であろう言葉に目を白黒させていると、リンネが呆れながら口を開いた。
「エル、ブツブツ呟きながら観察するのやめなよ。結構怖いんだよ?それ。」
「知るか、採寸は重要なんだよ…左の靴底が低いな…兄ちゃん、アンタ利き手どっちだ?」
「ふゥーん……? 大分おイタを働いたようじゃあないか。ンで、青葉ちゃんに負けたと」
「何か悪い?」
「いやァ? ……で」
少女千ユリから離れ、種枚は青葉の顔を覗き込んだ。
「そんな危険人物連れて私の前に現れて、どうしたいのさね」
「彼女を〈五行会〉に引き入れます。彼女の『悪霊を封じ、使役する』異能は、必ず人類のためになりますから」
「…………へェ。青葉ちゃんや、随分と強くなったねェ?」
「……そうですかね?」
「いや、元からタフなところはあったっけか……。あー、ユリちゃんだっけ?」
「千ユリだバカ野郎」
「女郎だよ。千ユリちゃんね。じゃ、青葉ちゃんの下で面倒見てもらうとするかね……」
「はぁ⁉」
種枚の言葉に、千ユリが食い気味に反応する。
「誰が誰の下だって⁉」
「いや実際負けたんじゃあねェのかィ?」
「こんな霊感の1つも無しに外付けの武器だけでどうこうしてる奴の下とかあり得ないんだけど⁉」
「えー……面倒な娘だなァ…………」
種枚はしばし瞑目しながら思案し、不意に指を鳴らした。
「じゃ、いっそ新しく役職作っちまうかィ。面白い異能持ってるようだし、たしかに誰かの下につけとくべきタマじゃねェやな」
「ようやく理解したか……」
半ば呆れたように溜め息を吐く千ユリにからからと笑い、種枚は天を仰ぎながら考え始めた。