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ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 番外編 スプリングミーティング ④

さっきのあの子のかな、とおれの中にそんな考えがよぎる。
「…どうした耀平」
仲間の1人がおれの様子を伺う。
「あ、あー」
えーとな、とおれは言いかけてふとあることを思いついた。
「あ、そうだ」
おれは不意に呟く。
「ちょっとさ…行ってきて良い?」
そう言って、おれは先程の少女が去っていった方を指さす。
「ちょっとって何?」
「どういう事?」
皆は口々にそう言ったが、おれは気にする事なく続けた。
「まぁ、良いからさ…行ってくる!」
そう言っておれは缶片手に歩き出す。
「ちょ、ちょっとどこ行くんだよ耀平!」
仲間の1人はそう言っておれを引き留めようとしたが、おれは気にせずパーカーのフードを被る。
そして両目を黄金色に光らせた。

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五行怪異世巡『肝試し』 その②

集団の最後尾を歩いていた青葉は、背後から肩を叩かれ、立ち止まって持っていた杖を強く握りしめながら振り返った。
「…………あれ」
「や。青葉ちゃん、だっけ?」
「どうも、こんばんはです、犬神さん」
彼女の背後には、犬神が笑顔で立っていた。
「花火大会に来たら偶然見かけちゃったもんだから、ついて来ちゃった」
「そうですか」
「どしたの?」
「……クラスの馬鹿な連中が肝試しするって話してたんで。ここがガチのスポットってことは知ってたので、〈五行会〉として護衛につこうと同行している次第です。……あ」
青葉は不意に思い出したように声を上げ、同じくほぼ最後尾を歩いていた少女を呼んだ。
「犬神さん、ちょうど良い機会なので紹介します。彼女は最近〈五行会〉に入った……」
「特別幹部《陰相》。“霊障遣”の榛名千ユリ。あんたは?」
自ら名乗った千ユリに、犬神は握手を求めるように右手を差し出しながら答えた。
「や、私は《土行》の犬神だよ。キノコちゃんが言ってたのはあなただったんだね」
「キノコ?」
「あれ、会ってないの?」
「……千ユリ。多分種枚さんのことだと思う」
青葉に言われ、千ユリはしばし考え込んでから手を打った。
「あぁ、アイツか」
「ところで2人とも、ここで話してて良いの? 他の子たち、かなり上まで行っちゃったけど」
「あっしまった」
すぐに振り返り、急ぎ足で上り出す青葉を、千ユリと犬神は焦ることも無く悠々と追った。

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皇帝の目_11

病院内のカフェテリアへ移動し、一休みしてスタッフの彼が話始めた。
「そこのチトニアはな、適合できる人間がなかなかいなくてこっちで管理してたんだ」
「ふぅん」
人付き合いの苦手な梓からすると親近感の沸く話であったが、チトニアはあんまり突っ込んでほしい話ではなかったらしく渋い顔でスタッフを見つめていた。
「手に負えない奴だったんだがよく手懐けたな」
「手に負えないって…別に私なにもしてないよぉ」
「…まあそれは良い。でまあ、わざわざ場所を変えてまで言いたかったのはビーストを倒すのにこれからも協力してくれないかと思って」
「えやだ」
梓は面倒ごとが嫌いだった。なんの意味もなく戦いたくはないのだ。
「あー…それならそれでも良い。お手数かけたな」
扱いづらい生き物二人と話をして疲れたのか彼はそれじゃと言って去っていった。
「んま、平和に生きてこうぜ」
梓が声をかけるとチトニアはにこっとして頷いた。