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ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 番外編 スプリングミーティング ⑯

「…なぁ耀平、この後どうする?」
かくれんぼ終わったし、と仲間の1人は言う。
「えー、じゃあ」
駄菓子屋行こうかと耀平は仲間たちに提案する。
「あそこかー」
「駄菓子屋良いね」
「んじゃ行こう!」
皆は口々にそう言う。
「じゃあ行くかね」
そう言って耀平は歩き出すが、すぐにあ、と立ち止まってこちらを見た。
「ネロも行こうぜ」
そう言って耀平は笑いかける。
「…うん!」
ボクは大きくうなずいて、耀平の後に続いた。

〈番外編 スプリングミーティング おわり〉

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五行怪異世巡『肝試し』 その⑪

どす黒い液体をまき散らしながら、悪霊の頭部は地面を転がる。そこに悠然と歩み寄って来た千ユリを悪霊は睨み、口を僅かに開いて舌を伸ばしてきた。
しかしそれは、千ユリが指鉄砲の要領で立てた右手の人差し指に触れると同時に硬直する。
「ふぅーー……だいぶ暴れられたけど、よぉーやくとッ捕まえられる程度に弱ってくれたな? これからアタシの下僕になるわけだけど、どんな名前が欲しい? ぁいやお前の希望なんて聞く気無いんだけどさ。そうだなぁ…………あぁ思いついた。ゴキゴキ伸びてる時の様子やその気持ち悪いツラのヘビっぽさ。今日からお前の名前は」
悪霊の頭部と立ち尽くしたままの胴体が少しずつ煙のように分解され、加速しつつ千ユリの指に吸い込まれていく。
「……“朽縄”だ」
悪霊“朽縄”の身体が完全に消えると同時に、周囲の不浄な雰囲気は消え、代わりに自然な木々のざわめきが静かに響き始めた。
「……終わったぁ…………」
気が抜けたようにその場に座り込んだ千ユリに、青葉が近付いてくる。
「千ユリ、お疲れ」
差し出された右手を取ろうとして、チユリの手が止まる。
「そっちの手ぇ出さないでよ」
「え?」
「なぁーんで好き好んで皮膚ズル剥けた手ぇ取らなきゃなんねーのよ」
「……あー…………あ、マズい……ちょっと身体が痛みを思い出してきた」
「……クソっ。ちょっと悪霊使うけど、抵抗しないでよ?」
“野武士”の刀が、青葉の右手首を通過する。
「…………? 待って何か右手の感覚が無くなったんだけど?」
「アタシの“野武士”は魂のダメージを肉体に誤認させる。あんたの魂は今、右手首より先を切断されてるの。そりゃぁそこより先をどれだけひどく怪我してようが気にならないでしょ。まぁ、しばらく休んで魂の消耗が癒えれば元通りだから、さっさと手当てしてよ?」

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我流造物創作:無我と痩せ雀 その⑥

「まぁ……それについちゃどうでも良いんだ。問題はテメエだクソガキ」
アルベドが右手を前方に掲げると、おネコに刻まれていたものに似た形状の立体術式が出現した。
「そっちが先に手ぇ出してきたんだ。やり返されても文句は無ェよな?」
「えっ、い、いや待っ、お、おい! 助け」
「遅せェ」
術式から、細い光線が放たれる。青年が咄嗟に展開した魔法障壁にそれは弾かれるが、アルベドは既に2撃目の射撃準備を整えていた。
「はーいドーン」
先程より太い光線が、再び青年を襲う。先ほどより広く展開した魔法障壁によって防御しようとした青年だったが、その障壁は光線が直撃したのとほぼ同時に粉砕され、そのまま青年に命中した。
「…………死んだか?」
「虚仮威しだったのでは?」
「ここまで細めりゃ威力持たすくらいは出来ンだよ」
ワカバが青年の傍に屈み込み、様子を確認する。
「……あ、呼吸してる。生きてますね」
「そりゃ良かった。ああそうだ」
「はい?」
顔を上げたワカバに、アルベドは紫水晶球を放り投げた。慌てて受け止めたワカバの横をすり抜け、アルベドは自身の研究室に引き返し始めた。
「え、ま、待ってくださいよ! 何なんですかこれ!」
後を追いながらワカバが尋ねる。
「おスズの魔力源」
「えっと、おス……?」
「あの鳥脚」
「! 名前、付けてあげたんですね!」
「違っげーよ。個体識別用の勝手な呼称だ。名前はそっちで勝手に決めろ」

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終末を巡る_3

『…いっ…てぇ』
『だいじょぶ?』
林檎が心配して琥珀から降りて辺りをしきりに歩きまわった。
『こら、俺は大丈夫だからあんまり離れるな』
琥珀は跳ね回る林檎を無事回収、そっと自分の腹の下に匿った。下を見ると花が咲きほこっている。背中が痛いは痛いが怪我しなかったのはこの花のお陰だったらしい。
『林檎は怪我ないか?』
『うん』
上を見上げると空が広がるのみ。横をくるくる見回すと、ここは廊下らしいことが分かった。
『だれもいない』
『そうだな…自分で歩くか?』
『はこんで』
『はいはい…』
林檎の首根っこを甘噛みして廊下を進む。非常に広い廊下で、とても暗く、静かだった。
「……そこに誰かいるの?」
通り過ぎた一室から人間の言葉が聞こえてきた。琥珀、林檎の二匹とも毛を逆立てて警戒する。