清々しく張り詰め切った、悪意に満ちた棘々が。
優しい温度に包まれて、グズグズと黒く腐れ落ちていく。
「私たちは本来“主人”の手の中でしか生きられない存在だから、人工精霊だけで遠出するのって結構難しいのよ」
だから仲がよくても一緒に遊びに行けないことが多いの、とピスケスは続ける。
「まぁ、比較的まだ“幼い”きーちゃんやお前ならその辺りが分からないのは仕方ないのだけど」
ピスケスがそう言うと、露夏は幼いって…と嫌そうな顔をする。
「おれはきーちゃんほどコドモじゃないんだけど」
「まだ10年も生きてないのに?」
「あ、あんまり言うなよ」
露夏とピスケスがそう言い合う様子を、周りの仲間たちは静かに見守る。
キヲンもその様子を2人の方を見ながら歩いていたが、前をよく見ていなかったために目の前を横切っていた人物にぶつかった。
「あうっ」
キヲンはぶつかった拍子に尻もちをついてしまった。
「きーちゃん!」
人工精霊たちと共に歩いていた寧依は思わず声を上げてキヲンに駆け寄る。
キヲンはう〜と唸る。
やさしいきみが
これ以上傷つかないように
そばにいたかったのに
今日も月の向こうを眺めてる
「きゅうう…」
疲れたらしい林檎が琥珀を引っ張るのをやめ、座り込んだ。
『…大丈夫か?』
『つかれた』
琥珀が自力で懸命に進もうとするも、林檎がまた琥珀の耳や足を引っ張って助けてくれる。
_ガツン!突然、琥珀の背後で音が鳴った。
『!?えっ!?なんだ!?』
振り返ろうとするも頭をダクトの側面にぶつける。
『…狭い…』
『なんかきてる?』
琥珀よりも耳の良い林檎が慌てだし、琥珀を懸命に引っ張った。
『…いい、先行け』
琥珀は林檎の腹を鼻で押す。
『う、でも、もう、きてる』
琥珀の耳にもダクトを鋭利なものが刺す音が聞こえてきた。