雨中家路、歩くことしかできない
アスファルト、靴、金格子の下轟く濁流
柔らかそうな雑草も、吹き去る車道の音も
今は雨でしかない
ゆえに全く自然に、私は自由であった
世界を遮られるほど、断絶の中を歩くほど
傘は頭蓋骨のように、雨を硬く断絶する
歩くことしかできない頭蓋の下
自由で手足が冷えてゆく
いつからついた癖なんだろう
最初はただただ嬉しかったのに
どうしようもないほど手が届かなくて
どうしようもないから全部あきらめた
そしたらなんだか全部正常になって
そのはずなのに、その文字を見るのが
君を描くことが何年も癖になっていて
手を伸ばしていたあの頃のまま
心が止まってしまっているように
また勝手に目を逸らして勝手に悲しくなる
寿々谷市中心部のショッピングモールには”イベントスペース”がある。
建物1階の真ん中、いわゆる吹き抜けの真下に、広々としたスペースがあるのだ。
ここでは年末にお歳暮、夏にお中元と色々な催事が行われることが多い。
常に何がしかのイベントが行われているのがイベントスペースだが、基本的にわたしたちのよなコドモにとって興味のあるイベントが行われることは中々なかった。
しかし、今日ばかりは違ったのである。
「”ZIRCONフリーライブ”か」
ショッピングモールのイベントスペース近くの柱に貼られたポスターを見ながら師郎は呟く。
「今日の3時からここのイベントスペースで開催だってさ」
赤いウィンドブレーカーを着た耀平はそう言って頭の後ろに手を回す。
紺色のパーカーを着てフードを目深に被った黎は静かにうなずいた。
しかしネロは何の話かよく分からないように目をぱちくりさせる。
「ねぇ、”じるこん”って何?」
ボクよく分かんないんだけど、とネロは耀平の上着の裾を引っ張る。
耀平はえ、知らない?と驚く。
「最近話題のご当地アイドルって奴だぞ」
寿々谷を拠点に活動してるっていうさ、と耀平は言う。
しかしネロはよく分からないのかポカンとしている。
大地が揺らぎ
街は跡形もなく
先代の知恵をお借りして
なんとか食い止める候
いいや、自然相手に立ち向かおうとするのは
無謀
逃げて、逃げて、逃げて
鳴呼、ヤオヨロズ救いたまえ
(気が合わないなぁ)
虹汰たち1年生は初めて会った日からそう思った
"あの先生"はとても厳しかった
いつもピリピリしている
人を褒めることなどほとんどない
たまに作る笑顔は口しか笑ってない
努力しているのに簡単に認めてくれない
冷酷無慈悲の魔物そう思っていた
あの時までは…
ある日、"あの先生"がお手本を見せた
"あの先生"が放った1球は
ネットの向こう側に迷いなく吸い込まれていく
虹汰たち1年生は
少しでもあの姿に近づきたい
気付けばそう思っていた
次の日の練習
虹汰はラケットを素早く引いて打ってみる
パコン!
"あの先生"ほどではないがボールは
"あの先生"のいるネットの向こう側に
ヒューッと吸い込まれていく
なかなかいいところにストンと落ちたなぁ
虹汰はそう思った
おめ、うまぐなったな
ずっといってほしかった言葉が聞こえた
見た目に合わない小さい声で
虹汰がその声のほうをみると
少しだけ笑う"あの先生"がいた
終
不定期投稿① ずっといってほしかった言葉
・虹汰 中学1年 テニス部所属
・"あの"先生 テニス部顧問 59歳
はじめまして!スノーパウダーです。
僕はドラマと同じように3ヶ月ごとに物語を変えて投稿していきたいと考えています。また、10〜15話程度の物語を書いていきたいと思います。
そして不定期で短い詩も投稿する予定です。
また、生徒の皆さんからの面白かったことなどもレスしていただければ物語の参考にさせていただきたいと思っています。
自分や周りの毎日のちょっとしたことや面白かったこと、悲しかったことをもとに書いていこうと思っています!スタンプやレス待っています。これからよろしくお願いします。