「どういうことって…多分、異能力が発現しそうなんだろ」
だからああいう事を言ってるんだろうな、と耀平は小声で答えた。
琳くんはその様子を不思議そうに見ていたが、ここで師郎が彼の気を引くように話しかけた。
「…お前さん、”色んな感情がなだれ込んでくる”から逃げるように走ってたのか?」
急な質問に、琳くんはふぇっと少し驚く。
「あー、あー…まぁ、そうなの、かな?」
曖昧な返事に師郎は怪訝そうな顔をした。
「本当にそれだけか?」
「えっ」
琳くんはつい顔を上げる。
「何かそれだけじゃないような気がするな~」
師郎がそう琳くんの目を見ると、彼はうぅぅぅ…とおびえたような顔をした。
「ま、話してご覧よ琳」
変な話でも俺達は受け入れるからさ、師郎は腕を組んで笑いかけた。
琳くんは暫くうつむいていたが、やがて、…みんなと彼は呟いた。
「イベントスペースにいる人達みんな、姉ちゃんの事ばかり考えているんだ」
その様子を見るわたし達5人は思わずポカンとする。
ボンビクスが『繭』を生成する前から、ロノミアは既に、結界術を解除していた。しかし、彼女に絡みつく細糸が、操り人形のように彼女の『時間』を動かしていた。
(ん、繭? モリ子の魔法か。)
「……嬉しいねぇ、自分の弟子が成長してくれるってのは」
ササキアの拳を“血籠”の刃で受け止め、ロノミアは呟いた。
「……この程度の魔法、ニファンダ・フスカにかかれば軽く捻り潰せる」
「どうだか」
迫り合う二人に割って入るように、繭の内壁から白糸の帯が放たれた。
「おっ、面白いことやってくれんじゃん!」
ロノミアが跳躍し、糸の帯を蹴ってササキアの背後に回る。ササキアは即座に反応し、身を翻して手刀を打ち込んだ。ロノミアは沈み込むように回避し、反動で跳躍して膝蹴りを打ち込む。ササキアはそれを片手で受け止め、投げで地面に叩きつけようとした。その直前、新たに現れた白糸の帯が、クッションのように受け止める。
「助かったぁ!」
足をばたつかせることでロノミアはササキアの手を逃れ、態勢を立て直す。
(さぁて……困ったことに、私は手を出し尽くした。どうやって押し切ったものか……っつーか、疲れてきたなぁ……)
ロノミアは既に大量に展開されていた白糸の帯を蹴り、空中に逃げる。新たに展開された帯に掴まり、息をつく。
「やーい、ここまで来てみろ生徒会長」
挑発するロノミアを見上げながらも、ササキアはその場を動かない。
(この『繭』が形成されてから、明らかに動きが重くなっている。『絡みつく魔力』に、補正がかかっているのか?)
「……まあ良い」
ササキアが、双子に目を向ける。その瞬間、ロノミアが糸帯の足場から手を放し、落下の勢いを乗せて斬りつけた。ササキアはそれを、籠手を身に着けた片腕で受け止める。
「可愛い弟子の大仕事、邪魔させるわけ無いだろ!」
「問題無い。貴様を倒してから、あの双子も捕える。それで片付く」
2人は再び、至近距離での激しい白兵戦を開始した。
ハルク帝国の「ハルク」ってのは、「コルク」をもじってます。何故「コルク」だったのかと言いますと、地図的に近くの島(ウラフォカ島)に栓をする様になっていたためです。実際、過去には島国の侵攻を防ぐ防波堤的な役割を果たす集落も存在していた様です。
ハルク帝国以前には、ウラフォカ島を出た人々の作った国も存在していました。国名は「エスパチオーネ」。
しかしウラフォカ島との交易記録なども残されていることから、常に険悪だった訳ではないようです。
「其れはまるで熱異常であった。
真夏の蜃気楼に、頭から呑まれた様な衝撃であった、と記憶している。
或れ程鮮烈に焼き付ける閃光に、私は、未だかつて出逢った事がない。
其れは熱を持ち乍ら、冷たく人の頬を撫でて散る。
その可笑しな寒暖差で、人は風邪を引かされるのかも知れない。
全く、迷惑な話である。
其の閃光を目にすると、誰も彼も妙に感傷的になっていけない。
仕事も捗らぬと言うものである。
しかし、其の閃光の熱故か、はたまた冷たさ故か、この季節の眠りは覚め難い。」
ササキアと交戦するロノミアの背中を見ながら、ボンビクスは瞑目して意識を集中させる。
(必要なものはくぁちゃんが教えてくれた……うぅん、ずっと昔から、くぁちゃんは私に言ってくれてたのに)
長く息を吐き出し、目を開く。
(私の魔法、不安定過ぎて、テンちゃんの結界が無いとまともに使えない。私はずっと、『使いこなせる』ようになろうと思ってた。それが間違いだった)
右手を前方に向けて掲げると、その手の中に新たな細糸が生成された。それらは、アンテレアの結界の中にあって尚、安定性の不足によってかき消える。
(大丈夫。私に足りない『安定感』は、テンちゃんが補ってくれる。私は何も心配しなくて良い)
再び細糸を生成する。糸が千切れ飛ぶ。
(むしろ、もっと滅茶苦茶に。安定性の全部、私は投げ捨てる。余力の全部、『出力』に回す!)
再び細糸を生成する。千切れた破片を、新たな細糸が絡め取る。
(もっと強く、あいつの『時空支配』よりもっと上から、『あいつの魔法ごと』!)
細糸が次々と生成される。それらは千切れ、崩れながら、新たな糸が残骸を更に巻き込み、少しずつ形を成していく。
「この『世界』の全部……縛める!」
突然、複雑に織り固められた細糸の集合体が、噴き出すように飛び出し、5人の周囲を取り囲むように形成されていく。
(これは……繭?)
周囲を取り囲んでいく白糸の塊を見ながら、ニファンダは冷静に魔法を行使し、繭を破壊しようと試みた。しかし、その感触に違和感を覚える。
「……あれ?」
再び魔法を行使する。
「…………なんで?」
再び魔法を行使する。
「……おかしい。違う。なんで、いや、そんな……っ!」
「ニファンダ、どうした!」
「っ! ……だ、大丈夫、会長はそっちに集中して!」
「……了解」
ササキアは再びロノミアに向けて突撃した。
(おかしい……私の魔法が、『繭の外に追い出されてる』。この繭の中は、完全にあの子の領域……! でも、外からなら攻められる。必ず押し潰して……あの子に勝つ!)
私が歩んだ日々は、全て今を形作っている。
上手くいかない日もあった。泣きたい日もあった。
だが、暖かな、確かな光が私を導いてくれた。
今後また困難が立ち憚るかもしれない。
しかし、私はその壁を乗り越えてみせる。
乗り越えたその壁は後に私を守る盾となると信じて。
鋭い一撃はロノミアの首を捉えたはずだった。しかし、そこに彼女の姿は無い。
「何っ……!」
ロノミアはササキアの予測より数㎝ほど右方にずれた位置に着地していた。
「らぁっ!」
回転運動の乗った斬撃を、ササキアは仰け反るように回避した。ロノミアの攻撃は空を切り、重量に引かれてその身体は空中へと引っ張られる。“癖馬”は独特の刀身の形状から、それまでの回転と軸の異なる不規則な軌道で、回転を『上書き』した。ロノミア自身の肉体もまた、それに巻き込まれるようにして、ササキアの周囲を滅茶苦茶に飛び回る。
(こいつ……急に動きが読めなくなった……⁉)
「言わせてもらうぜぃ、生徒会長さんよ。『力』は『あるべき形』でありたがる。それを無理やり押し込めるなんざ、それは『技術』じゃなく『臆病』だ」
“癖馬”に振り回され、不規則に動きながら、ロノミアは続ける。
「『制御できない』んじゃない。『制御なんかしない』んだよ。『あるべき姿』の出力に、身体だけ貸してやるのさ。“強さ”ってのは、そういうものなんだよ!」
背後に回ったタイミングを狙い、ロノミアの一撃が放たれる。
「くぁちゃん!」
命中の直前、ボンビクスが叫んだ。同時に、ロノミアの動きが一瞬停止する。ロノミアの腹部を狙ってササキアが拳を打ち込もうとしたその時、その身体は空中で引かれ、双子の前に引き戻される。ボンビクスの固有魔法によるものだ。
「ごめんねくぁちゃん、ちょっと押し負けた!」
「ったく…………で? 掴めたな?」
「うん。もう大丈夫! くぁちゃん、私のこと、信じてくれる?」
「最初から信じ切ってたよ。……それじゃ、やってやれモリ子」
ロノミアは再び立ち上がり、手放した“癖馬”の代わりに生成した“血籠”を握った。
企画参加作品「魔法少女学園都市レピドプテラ -small cabbage white-」の解説編その3です。
・マイセリア サイアニリス Myscelia cyaniris
所属:リーリアメティヘンシューラ
学年:高等部2年
固有魔法:周囲の空間に溶け込む
メディウムの魔法:変身、武器(銃器)の生成、身体能力強化
一人称:私
ラパエを狙って襲来したリーリアメティヘンシューラの諜報員。
性格は生真面目で堅苦しく、上からの命令に従順。
サルペとは諜報員仲間だった。
魔法少女姿は青紫色の軍服のような服装。
髪はボブカットである。
通称はサイア。
名前の由来だが、和名がまだついていないような蝶のようだ(一応英語名は『blue wave』とか『blue-banded purplewing 』とのこと)。
ちなみに本編では「サイアニス」と表記していたが、正しくは「サイアニリス」である。
〈学園〉
・櫻女学院 Sakura Jogakuin
レピドプテラに所在する学園の1つ。
いわゆる無名の学園の1つではあるが、それ故に他の学園とのトラブルは少ない。
制服は桜色のセーラーワンピース。
・リーリアメティヘンシューラ Lilie Madchenschle
レピドプテラの有力な学園の1つ。
レピドプテラ内での勢力維持のため、生徒会直属の諜報員が存在し、レピドプテラ内で暗躍している。
制服は黒い軍服のようなもの。
企画参加作品「魔法少女学園都市レピドプテラ -small cabbage white-」の解説編その2です。
・ポリゴニア シーアウレウム Polygonia c-aureum
所属:櫻女学院
学年:高等部1年
固有魔法:周囲の空間に溶け込む
メディウムの魔法:変身、武器(鉄扇)の生成
一人称:あたい
騒がしくてざっくばらんな魔法少女。
グッタータ、ピレタとともに都市伝説同好会に所属している。
レピドプテラに来たばかりのグッタータに優しくするなど親切な一面もある。
魔法少女姿は山吹色のキャミソールにバルーンパンツ。
髪をサイドテールにしている。
通称はシーア。
名前の由来はキタテハ。
・パルナラ グッタータ Parnara guttata
所属:櫻女学院
学年:中等部1年
固有魔法:高速移動
メディウムの魔法:変身
一人称:わたし
気弱で不器用な魔法少女。
シーア、ピレタとともに都市伝説同好会に所属している。
櫻女学院に来たばかりのころにシーアと出会い、以降慕っている。
魔法少女姿は緑と黄土色の和服のような衣装。
髪は黄土色である。
通称はぐっちゃん。
名前の由来はイチモンジセセリ。
・チタリアス ピレタ Citaerias pireta
所属:櫻女学院
学年:高等部2年
固有魔法:透明化
メディウムの魔法:変身、身体能力強化
一人称:私
真面目で現実主義者の魔法少女。
シーア、グッタータとともに都市伝説同好会に所属しているが、櫻女学院の生徒会長でもある。
魔法少女姿は赤いロリィタ服。
髪を三つ編みお下げにしている。
名前の由来はベニスカシジャノメ。