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黑翆造物邂逅 Act 15

「きみは」
かすみは思わず言いかけるが、そのコドモは短剣をその場に投げ捨てるとかすみの方に向けて駆け出す。
そして右手に蝶が象られた黒鉄色の大鎌を出すと、まだ消えていない煙に飛びかかった。
しかし煙の中から先ほどの魚のようななにかが飛び出し、上空へ向かって逃げようとする。
「チッ」
コドモは思わず舌を打つと、背中に黒い蝙蝠のような翼を生やして地面を蹴り、飛び上がった。
そして翼を羽ばたかせて“なにか”に追いつくと、大鎌を思い切り振り上げてなにかを地面に叩きつけるように振り下ろした。
「…」
なにかはコドモの鎌の一撃を喰らって地上に叩きつけられると、静かに霧散し始める。
コドモはばさりと翼を動かして、かすみの目の前に舞い降りた。
かすみは目を丸くして、恐る恐る立ち上がる。
なぜなら、喫茶店から飛び出していったナツィと、同じ気配をしていたからだ。

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百舌鳥と愉快な仲間たち_2

「とりあえず、紹介するぜ!俺はストルティオ・カルメスだ!
このちっこいのはアエギタロス・カウダトゥス。
こっちの微妙にキョドってんのがヴルトゥル・グリュフスだぜ」
髪のつんつんした少年_カルメスが楽しげに紹介し、荷物を下ろす。近づいてきてようやく気づいたが、グリュフスよりもカルメスの方が大きかった。言いしれぬ威圧感を覚えながら、ブケファルスも自分の名前を言った。
「ああ…えっと、知ってるだろうけど…俺はラニウス・ブケファルス。よろしく」
「名前長いし、僕たちはあだ名で呼び合ってるんだ」
カウダトゥスはブケファルスに微笑みを返しながら言った。
「カルメスはそのままね、僕はカウダ。グリュフスはフスだ。うーん…君はー…ファルとか?」
ブケファルスが助けを求めてグリュフス_フスを見やると、彼は困ったように微笑んだ。
「…ごめん…2人とも結構ゴーイングマイウェイだから…」

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夏休み 1 「あたり」

昔から運はいい方だった。
「おお、またあたりかぁ!良かったな!」
そんな話をしたのも一度や二度ではない。
ところがここ最近は別な方向に「あたり」が出ている気がする。
例えば、嫌な仕事にあたる、夕飯の刺身にあたる…何でなんだと思いながら過ごしていた。
おかしい。運は良かったはずなのに。
今までの皺寄せがきているとでもいうのだろうか。
何だかもやもやしつつも、誰に相談もできずにいたが、今日の一件で友人に相談することを決めた。
今朝出かけようとしたところ、バン!と音がして、頭頂部に軽く痛みを感じた。
振り返ると、足元にノートが落ちていた。どうやら上の階で落とした奴がいるらしい。
証拠に、数秒後には小学生くらいの子供が慌てて出てきて、頭を下げながら謝罪された。
これだけなのだが、この一件はかなり危機感を覚えた。
もし、これがノートじゃなかったら。…例えば植木鉢とかだったら。
自分は、間違いなく死んでいただろう。
そう感じて、その場で友人に電話した。
友人は黙って話を聞いていたが、途中から様子がおかしくなった。
「それって、親に相談したりしてないよな?」
「え、してないけど?」
「わかった。今から迎えに行くから、何があっても親には言うな。絶対!」
そこまで言って電話は切れた。
その後、車で迎えに来た友人は顔面蒼白だった。
「お前さ、『アタリ様』って覚えてるか?」
「え、あの祠?確か子供の頃に取り壊されてなかった?」
「そうそれ。アレの解体やったの、お前の父ちゃんなんだよ。地元のお坊さんとかの反対押し切って取り壊してさ。でもお前の両親はピンピンしてるし。もしかしてとは思ったけどまさか…」
友人曰く、アタリ様の祟り?らしい。
初めこそいいことがあるが、どんどん悪い方向へ進んでいくという。そして親はその呪いを子供、つまり自分に押し付けたのだと。その日はそのまま友人とお祓いを受けた。今は何事も無く過ごしている。
しかし、両親は違ったようだ。お祓いの日、ちょうど事故の電車にあたって大怪我をした。
留守電には「何で、お前があたっていれば」と恨み言が届いたが、今はどうしているだろうか。

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暗い過去とはさようなら〜幸せな今〜

とある年の10月初旬のある日、1組の高校生カップルはとあるテーマパークにいた。
彼女の方は満面の笑みを浮かべる一方で彼は、感情が顔に出ない様に気をつけつつも不快感を胸に秘めていた。
それもそのはずで、小学生時代にいじめを経験して一時期自ら命を断とうとするまで追い詰められた彼にとって、その当時のいじめっ子集団がいつも休日に遊んでいてつらい過去を思い出させるため、このテーマパークには行きたくないのだ。
その上で、彼を立ち直らせてくれたプロ野球チームがこの日の試の結果次第でその先のポストシーズンに出場できなくなる、という運命の分岐点とも言える重要な試合と彼女の誕生日が重なってしまって彼女を優先したのだ。
もちろん、彼女に喜んでもらいたくて彼が全額自腹で楽しもうとするのだが、午後8時を回った頃にとある事件が起きた。
2人がプロポーズの舞台として知られるお城の前を通りかかった頃、その野球チームが試合に敗れて順位が確定してベスト3に入ることなく公式戦敗退が確定したという、最悪の情報がスマホに飛び込んできてしまったのだ。
そして、彼は膝から崩れて慟哭し、球団こそ違うが野球ファン仲間で偶然居合わせた先輩2人に「ここは北国じゃねえぞ。でも、気持ちはわかる」と言われて2人の肩を借りて担がれる様にして退場した。
残された彼女は何が起きたのか分からず呆然とする中、彼は先輩2人から「今後のためにも彼女さんと別れたほうがいい。お前が潰れる」という助言を聞いて「これで確信に変わりました。でも、やっぱり悔しいです」と返すのが精一杯だった。
それからおよそ1時間、近くの街でその遊園地の前を通る路線の終点でもあるターミナル駅に着くまで泣き止むことはなく、一本後の電車に乗ってきた彼女に追いつかれた頃にようやく泣き止んだ。
そして、彼女に別れを切り出した。

月日は流れて2年後の9月28日、彼が応援する球団は4年ぶりの優勝を果たした。
彼は涙を流して飛び跳ねて球団に感謝を伝え、その後にチームは準決勝敗退をするも新シーズン開幕後は彼も気持ちを切り替えた。
そして、彼は5年ぶりとなるチームの2連覇に向けて愛する球団のために今日も笑顔で声援を送り続ける。