「俺は優しくされるのが嫌いなんだよ」
ナツィはそっぽを向いたまま続ける。
「…それに、お前が人工精霊なのに俺のことをなにも知らないとかありえないと思ったし」
ナツィがそう言うと、え、そう?とかすみは首を傾げる。
ナツィはあぁそうだ、と言う。
「人工精霊の癖に俺が同族って気付かないとかアホかよ」
“気配”がしただろうに、とナツィはかすみにジト目を向ける。
「まぁ確かに、“気配”はしたけど…」
「それが魔力の“気配”って奴だ」
俺たちみたいな魔術で造られた存在ぐらいしかそれを感じ取ることができない、とナツィは椅子に座り直す。
「お前、そういうことも知らないのか」
ナツィが呆れた様子で聞くと、かすみはうんと頷く。
それを見てナツィはため息をついた。
「…ま、お前のマスターは魔術師を引退してるからな」
お前を面倒ごとに巻き込みたくなくて、魔術について色々伏せてるんだろ、とナツィは腕を組んだ。
「とにかく、俺はお前のことが気に食わなかった」
ナツィはそう言ってかすみに目を向けた。
かすみは暫く沈黙していたが、ふとあることに気付いた。
明くる早朝、午前5時前。既に明るくなっていた空の下、村に住む少女が一人のんびりとした足取りで散歩していた。
集落の総面積のうち半分ほどを占める畑では、何人かの老人が農作業に従事している。彼らに軽く会釈しながら、少女は慣れ切った経路を迷いなく突き進む。
少女は集落範囲を外れ、獣道を抜け、ごつごつとした礫の転がる河原に下りた。
水際まで歩み寄り、瞑目して一つ深呼吸する。朝のまだ涼しい空気と流水の清浄な匂いで肺を満たし、再び目を開く。
「おはよーございまーすっ!」
口元に手でメガホンの形を作り、水面に向けて呼びかける。それに応えるように浮き上がる波紋や泡沫に、少女の顔は綻んだ。
次の呼びかけをどうしようかと考えていたその時、少女の背後でガサリ、と枝葉を折るような音が立った。
「うえっ⁉」
咄嗟に振り返り、ガサガサと動いている茂みを恐る恐る覗き込むと、ひと際大きな音と共に、その中から一人の少女が立ち上がった。
「うげ……屋根だけじゃなく落下対策も用意しとくべきだったな……寝相は良い方だったんだけど……」
「だ、誰?」
木の上から落下してきたと思しき冬用制服の少女はそう尋ねられ、ようやく顔を上げた。
「うおっ、第一村人。ども、豊原です」
「豊原サン……私は水潜です」
「ミクグリ=サン? あぁうんよろしく」
「……ねぇ豊原さん」
「何?」
「肩にイモムシ乗ってる」
「えっ嘘⁉」
水潜と名乗った少女、水潜冰華が指差した左肩を、豊原と名乗った少女、豊原蒼依は慌てて払った。
アヴェス:ガッルス・ガッルス
モチーフ:セキショクヤケイ(Gallus gallus)
年齢:16歳 身長:170㎝
所属カテルヴァ:以津真天
説明:対大型敵対存在特攻先遣部隊“以津真天”のメンバー。トウゾクカモメ先輩より誕生日が4か月ほど遅い。仲間がいないと何もできないクソザコ。逆に言うと仲間がいるととても怖い。今回は残念ながら登場しませんでした。
レヴェリテルム:フェロクス・プエル(Ferox puer) 語義:野生児
説明:変形コンパウンドボウと蓋付矢筒。矢のストックは24本。一度に6本まで同時に矢を番えることが可能で、射出した矢は極細の導線で右手と繋がり、導線伝いに自由に操れる。複数本を同時に装填する際は、弦に専用装填補助具を取り付け、そこに矢を並べる必要があるので、連射は無理。一度射出してしまえば、いくらでも好き放題できるんだけどねぇ。
アヴェス:エクトピステス・ミグラトリウス
モチーフ:リョコウバト(Ectopistes migratorius)
年齢:7歳 身長:120㎝
所属カテルヴァ:迦陵頻伽(非公式)
説明:とある研究者の手によって密かに生み出された、本来禁じられているはずの『女性のアヴェス』。感情の不安定さを爆発力として発揮してくれることを期待されているようだが、教育不足のせいで随分と好き放題しているようで。ちなみに“迦陵頻伽”は彼女を生んだ研究者が便宜的に彼女に与えた所属先であり、彼女以外の構成員は存在しない。
レヴェリテルム:プリンセプス(Princeps) 語義:支配者
説明:大量のナノマシン。アリエヌスの体内に侵入し、操り人形のように支配する。最終的には侵入したナノマシンはアリエヌスを体内から破壊する。ちなみにナノマシンの総量は大体、大型アリエヌス10万体を同時に支配してもまだ余る程度。普段は周囲のありとあらゆる『隙間』に潜ませ、自らに追随させている。