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ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 番外編 サマーエンカウンター ⑩

「いくらボクに近しい感じがするからってそこまで言わないの~」
「え~だって言いたくなったんだしー」
仕方ないだろネロ~と耀平はネロを右肘でつつき返す。
自分はいつの間にか自分の側に来ていたロヴィンを撫でつつその様子を眺めていた。
暫く2人のじゃれ合いは続いていたが、やがてぼーっとしている自分の視線に気付いたネロと耀平はパッとこちらに向き直った。
「…それでさ、ボクの折り畳み傘、どこにあるの?」
返してもらうつもりで来たんだし、とネロはこの部屋を見回す。
「あ、それなら…」
自分は慌てて立ち上がって勉強机の脇に向かう。
そして机に立てかけておいた折り畳み傘を手に取り、はい、とネロに渡した。
「ちゃんと使った後に干したから濡れてないはず」
自分がそう言って渡した傘をネロは受け取ると、ひとしきり眺めてからうん、ありがとうと呟いた。

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手を伸ばす。~光を求めて~

手を伸ばす。
光を求めて手を伸ばす。
突然、闇の穴に落ちて独りぼっちになって膝を抱え、生きている意味がないと思っても助けてくれるかなぁってダメ元で手を伸ばす。光がさして手を差しのべてくればいいのに…僕はこのまま闇にのまれてこの暗い暗い闇の空間で生きてゆくのか。希望の光を求めて僕は闇の空間に彷徨っている。だけどやはり光は差してくれない…もう希望はないのか。
だけど、だけど、だけど!光を求めて手を伸ばす。誰か手を差しのめてくれるのを願って、助けを求めて、

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Specter children:人形遣いと水潜り その⑱

地面に俯せに倒れ、ぴくぴくと痙攣する鬼を見下ろしながら、冰華は再接続された両腕の挙動を確かめる。
「“河童の尻子玉”の話ってあるじゃない?」
「どしたのいきなり」
冰華の不意の発言に、蒼依は網状に変形させた“奇混人形”で鬼を拘束しながら答える。
「河童が溺れた子供から“尻子玉”を抜いて殺しちゃうの」
「あるねぇ」
「尻子玉っていうのは架空の内臓らしいんだけどね。……もし、『本当に何かを奪っているとしたら』?」
「…………何を?」
「“魂”」
冰華の淡々とした答えに、蒼依の眉が僅かに上がる。
「河童の手は、“尻子玉”……つまり、“魂”を標的の肉体から掠め取るの。しかも、『末端部からほどより多く』。多分、尻尾にでも掠ったんじゃないかな?余計なパーツが多いと大変だねぇ」
「物騒な能力だなぁ……」
「…………あれ?」
冰華のあげた素っ頓狂な声に、蒼依は捕縛しようとしていた鬼を見下ろした。そこに、鬼の姿は無かった。
「……冰華ちゃん? 魂を奪って動けなくさせたはずじゃ?」
「流石に1発で全部は無理だよ。感触的に、多分奪えたのは半分くらい。タフなやつなら十分動くもの」
「半分なら結構な痛手かな」
「うん」
「じゃ、この勢いで押し切っちゃおう」
蒼依は“奇混人形”を3体の“感情人形”に解体すると、森に向けて解き放った。

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百舌鳥と愉快な仲間たち_4

カメルスが小脇にカウダを抱えて戻ってきた。
「やべぇ!やべぇのがいたぜ!!やべぇ!!」
興奮するカメルスにカウダは呆れた顔をした。
「はぁ…襲撃だよ。天蓋が閉じかけてたけど間に合わなくて一匹入ってきたみたいだ」
先程の轟音はアリエヌスが地面に激突したときの音だったらしい。
「…追ってきてたりする?」
フスの疑問に、カメルスとカウダはあっさりと首を縦に振った。唖然として置いていかれるブケファルスだったが、カメルスたちの背後に目をやって我に返る。
「!?は、入ってきたのってでかいのが一匹だけなんだろ!?ちっこいのがめちゃめちゃこっち来てるぞ!?」
三人はばっと振り返り、その光景を見た。仰々しく立ち上がった大きなアリエヌスが、背中から小さいアリエヌスを射出している。
「はぁー!?捌ききれねぇが!?」
「うーんキモい。あ、この辺『先輩』住んでるよね?ほら、最近チーム解散した人。助けてもらう?」
「そうだな…フス、ドムスに連絡、あとここで食い止めてもらえるか?」
フスはこくりと頷き、大きな盾のレヴェリテルム_Andean condorを展開した。
「まあ、耐久戦なら…任せて」

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プロ野球物語特別版〜裏方と選手が支えた90年〜

舞台は兵庫県西宮、この地に建てられた高校野球専門の野球場。
球場関西から11年後、この球場の建設に貢献して球場の前に駅を設置した鉄道会社に職業野球、のちにプロ野球と呼ばれるリーグに加盟することになる野球チームができた。
その名は、タイガース。

この国を襲った悲惨な戦争による中断を経て、プロ野球のフランチャイズ制導入。
この結果、都道府県単位でのチームの本拠地登録と届け出が義務付けられ、自社路線の駅前スタジアムでプレーすることが多くなったこの虎さんたち。

伝統的に用いられる独特な黒土に含まれる砂や土の割合を園芸さんとして親しまれるグラウンド整備士が日々の湿度や気温に合わせて調整し、プロや学生を問わず、ここに集まるすべての野球選手のプレーを支えてきた。
チームをはじめての日本一に導いた背番号31の選手も、まさか自分1人のためだけに手作業でグラウンドを均してくれていたとは知らず、軽視していたが現場を見たことで心を入れ替え、尊敬してやまなかった伝説の整備士さん。
他の屋外球場では中止になりそうな雨でも、灼熱の炎天下でも昼夜問わず試合の前後でグラウンドを整えてプレーができるようにしてくれている整備士さん。

彼らが整えてくれたスタジアムで、西の猛虎、タイガースは2年ぶり7度目の優勝を果たした。
移籍選手ではなく生え抜きの選手で、純血打線と伝統と誇りを胸に活動する園芸さんが光と影で支え合って掴み取ったリーグ優勝、それもチームの創設90周年の節目となる年、新監督の就任初年度にリーグ最速記録を更新する圧勝だった。

優勝おめでとう、阪神タイガース!