発散されるはずだった光が砲塔内部で爆ぜた。
『ギィィイィイィィイィイ!』
「ぎゃっ」
ディソーダーが叫び声を上げ、頭部にあたる部分が爆散する。爆風でファナも吹き飛ばされるが、今度はうまく着地する。辺りが砂埃に包まれ視界から色が消える。
ただ、気分の悪い空気を、脳が拒絶するような音波が揺らしている。
ファナは、急に独りになった気がした。停滞した空気が、彼女の肺の中にまで入り込んで、その思考を停止させてしまった。
恐怖が五感を支配して、何も聞こえなくなった。
助けを求めなきゃ。
いつものように名前を呼ぼうとした。
アディくん。
「あ、ね、あれ」
しかしそれしか出てこなかった。呼ぶべき人の名前が分からなくなって、頭では分かっているのに、なぜか、呼ぶべき名前はそんなものではないような気がしたのだ。
真っ暗な孤独を貫いたのは――
「ファナっ!」
その瞬間、世界が音を取り戻した。
反射的に声の方を見ると、砂埃の中からトバルカインがとんできた。アッドが投げたのだ。
ファナはトバルカインを掴んだ。リニアーワルツとしての本能的な反応だった。
ファナはもう一度、目に鋭い光を宿し、災禍を睨んだ。
砂埃が晴れる。
ディソーダーの砲塔は完全に吹き飛んで、外皮は溶け、内組織の毒性のある体液と反応してぐずぐずと気泡を発している。生命力を失った赤い光が、時々思い出したように強まって、すぐに消え入るを繰り返していた。
それが対峙する小さなリニアーワルツの両手には、ナアマとトバルカインではなく、対物ライフル並みの巨大な火器型の合体形態のジェミニ。
それを片腕で、涼しい顔をして構える。そして引き金を引く。
直後、冷酷な白い光が、ディソーダーの動力部を完全に破壊した。
すぐに起き上がって周りを見渡すと、ナアマが自分の左の方……ディソーダーの脚のすぐ下にあるのを見た。時折アッドの攻撃を受けてよろけたディソーダーの脚が掠めて位置が移動した。
「おい大丈夫かっ」
「へ、へーきよ! 構わないで早く動き止めてよ!」
ファナは強がって叫んだ。アッドが舌打ちで返したのは気付いていないことにした。
ファナはナアマに駆け寄る。視界がふさがれたディソーダーは明後日の方向に熱線を放ち、脚はでたらめなステップを踏む。アッドは片方しかない腕でトバルカインを握り、敵の脚を1本ずつ、確実に突き刺し、切り落としていく。切り口からはディソーダーの体液が噴き出て、周囲は既にどす黒い水たまりができている。時折粘性の高い液体に足を取られてよろける。しかも全身にディソーダーの毒性のある体液を浴び、身体は重く体力もかなり削られている。
――正直、今の満身創痍の状態のアッドにとどめを刺すのを任せることはできない。自分がナアマを取りに行って、トバルカインを受け取り、とどめを刺さなければ。
ファナは考えた。
ファナは意を決し、ナアマを手にした。
「キモいの! こっちよ!」
ファナはディソーダーの後頭部……アッドがいるのと反対側に回って、ナアマで切りつけた。アッドから注意をそらすためなのであまりダメージにはなっていない。
しかしディソーダーはアッドから攻撃の対象をファナに変えた。ファナは強張った表情で空笑いをする。
「アディくん!」
ファナは名前を呼んで、アッドに目配せした。彼もそれで目的が分かった。相方の無茶に目を丸くしたのもつかの間、すぐにディソーダーの近くから離れて、その視界の外から都合のいい地点に移動する。
ディソーダーの砲塔部の内部が赤く発光する。可聴域ギリギリの音波が脳を貫く。それを無理やり無視するためにファナは目をかっと見開いて、大きく跳びあがりナアマを振り被った。焼けただれたような熱い空気を薙ぎ払い、ナアマが砲塔部の付け根に直撃した。