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Tell us terrible Terrors:のろい、まじない、きりはらい その⑭

燿子が愛弥との戦闘を開始したその頃、清嘉は両脚片腕を失った“メリーさん”を抱えて、ビル街を離れて住宅街を走っていた。
(デートっつったって……何しろってんだよ……?)
『うぅ~……私メリーさん……もうダメかも……』
「ごめんって、一回仕切り直そう」
『やだ~』
「なんでぇ?」
清嘉は道中に倉庫を見つけ、裏手に回りブロック塀との隙間に潜り込んだ。その場に腰を下ろして息を整え、膝の上に召喚体を乗せる。その姿は、『略霊』形態の最も小さなものに変化していた。
『私メリーさん……いっぱいがんばったから、所有者ぁからごほうびほしいの』
「ご褒美?」
『ぎゅーってしてほしいの……メリーさん今、片手がないから、その分ぎゅーってつよく……おねがい?』
「はいはい……」
“メリーさん”の姿勢を調整して、抱きしめる。“メリーさん”はくるくると喉を鳴らして、頬擦りをした。
『メリーさん、頭もなでてほしいの……わしゃわしゃー、ってしてほしいの……』
「なんでそんなに甘えんぼさんなの……」
苦言を呈しながらも、言われた通りに頭を撫でる清嘉。
『んゃ~……メリーさん、今よわってるからあまえたさんなの……』
「そっかぁ……」
『あとあとぉ……えらいねーってほめてほしいの』
「あぁうん、よく頑張ってくれたな、“メリーさん”。ありがとう、マジで助かった」
(庇ってもらわなきゃ俺らが真っ二つになってたし)
しかし、“メリーさん”は清嘉の腕の中でいやいやと首を横に振る。
『そっちの名前じゃなくて、所有者ぁのつけてくれた名前でよんで?』
「……俺のつけた名前?」
『私メリーさん……“メリーさん”じゃなくて、所有者ぁが私のためだけにつけてくれた、あっちの名前でよんでほしいの……おねがい?』
「どっちのことだよ……?」
(俺、“メリーさん”のこと『メリーさん』としか読んだこと無いよな……?)
『……むぅ……所有者ぁがにぶちん……』
「えぇ……?」

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第一部【FANATICALとADDICTED】p.19

「……ファナ、自分に価値ないとか言ってるけど、それこそ俺だって、ファナには必要ない存在ですよ。ファナにはチヤホヤしてくれる奴がたくさんいる。俺なんかよりいい相手がいくらでもいる」
「ファナはアッドから離れたくて出てってるわけじゃない。むしろ逆だって分かってるでしょ?」

 アッドは頭をこくっと前に倒すが、すぐに震えた声で続ける。

「今は冗談めかしてますけど、いつか本当に俺に愛想つかすんじゃねえかって、いつも不安で、余計頭ぐちゃぐちゃになって、冷静になれなくて、で、結局暴力振るって……」

 職員はその独白を聞き、軽く溜息を吐く。

「言うまでもないことだけど、暴力も暴言も絶対に駄目よ。あなた、ちょっと前にファナのことディソーダーのサンプル保管用の冷凍庫にファナを監禁して殺しかけたことあったでしょ」
「……」
「2人の間だけで完結するならいいけど、あなたたちには戦うって役目があるのよ。しかもカナンの主戦力なの。それが1週間2週間と使い物にならないのは本当に困るの。ファナはそういうのに思い至らないかもしれないけど、アッドは賢いんだから、分かるでしょ?」
「……はい」
「あなたの加害癖は治るようなものじゃない。ファナの依存もなくならない。でも離れることもできないの」
「……そう、すよね」
「あなたは賢くて優しい子だから、ファナにとって一番いい選択ができるはずよ」
「優しい奴は女殴りませんけどね」
「性格と性質は別だから。さ、全部終わったから、服を着て、あっちに戻りましょう。あんまりのんびりしてると、あの子が拗ねちゃうから」

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第一部【FANATICALとADDICTED】p.18

「聞こえてたでしょ」

 アッドは無言で力なく首を縦に振った。主な外傷を視診し、腕の具合を診る。

 傷口は内側だけ体液にコールタールのような粘性の高い液体が混ざって蠢いている。その粘液はディソーダーの体液に酷似している。大きな傷の出血を止め、組織の再生を速めているものこそがこの粘液である。
 一方ケロイド部は溶け固まってしまってなかなか再生が始まらないようだった。赤茶色の断面から黄色っぽい半透明の液体が滲み出ているだけであった。なお、四肢の欠損となると、完全な再生を待つより、すでに再生が始まってしまった部分やそれを阻害している部分を取り除いて、元の腕の接着を待つ方が早い。

 傷の様子をカルテに書き込んでいると、アッドが独り言のようにぼそぼそと話し出した。

「……なんでファナは、あんなに俺のこと好いてくれるんですかね」
「そんなのあなたが一番分かってるんじゃないの」
「分かんねっすよ。俺はすぐファナに怒鳴るし、手ェ上げるし」
「ファナがそれを狙っていろいろやってるんでしょ」
「でも俺は、ファナに怖い思いさせたくない。ファナ、俺が殴ると、すごい嬉しそうな顔するんすよね。でも、同じくらい怯えた顔する。その、嫌がってんのに無理やり俺のこと受け入れようとしてるんだって、なんか無性に腹立って、余計に止まらなくなる」

 アッドは拳を強く握りしめた。

 ――ファナに腹が立つのではない。ファナが受け入れてくれることにあぐらを掻いて、彼女が深層心理で最も恐れていることを繰り返し、洗脳してしまっているのを理解しているのにやめられない自分に腹が立って仕方ないのだ。自分に対する怒りを外部に向けてしまうことに腹が立って仕方ないのだ。

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Tell us terrible Terrors:のろい、まじない、きりはらい その⑬

(……“野火止さんの身体は”、か……。お主、なかなか悪くない男と組んだものじゃのぅ。のう、燿子や?)
(ちょっと頼りない人ですけどねー)
精神下で燿子の魂と話しながら、彼女の身体を奪った“コックリさん”は愛弥と相対する。愛弥は雰囲気の変わった燿子に怪訝な目を向けた。
「何だお前、そのケモ耳……それがアンタの力?」
「えぇまぁ、そんなところで……あれ」
(コックリさん、身体返してくれたんですか?)
(動物霊は気紛れなのじゃよ。ほれ、敵前でぼさっとするでない)
(はいはいありがとうございます)
「さて……マナミちゃん」
「誰がマナミちゃんだコラ。気安く呼ぶな」
「まぁまぁ。あなたに勝てる人が戻ってくるまで、私に足止めされといてくださいよ。あなたの力じゃ今の私は殺せないので」
「あー?」
愛弥が1本の斬撃を飛ばす。燿子は膝の力を抜き地面にへばりつくようにして、その攻撃を回避した。
(ククッ、素人め。殺意が丸見えじゃ。これでは力を使うまでも無く狙いが見えるぞ)
(コックリさんの知覚能力とスピードが無かったら普通に私食らってたと思いますけど……)
(ええい煩い! 今はそれらが揃っておるのじゃから良いのじゃ! ぐちぐち言う童には仕置きじゃ!)
(あっ)
燿子の目が一瞬据わり、直後怪しげな金色の輝きを湛えて見開かれる。
「クカカッ! では始めようかの……“コックリさん”をなァ!」
燿子の『異聞』能力が発動する。両者を取り巻くように黒煙の渦が現れ、やがてそれは半球状の結界へと変化した。
「……何よこれ。こんなもので閉じ込めたつもり?」
「『つもり』も何も、もう貴様には抜け出せんよ」
燿子は滑るような動きで距離を詰め、愛弥の頬に裏拳を当てながら駆け抜けた。
「ぐッ……クソガキがァッ!」
愛弥の放った斬撃の軌道を、燿子は軽く身を捩るだけで回避する。
「クカカッ、鈍い鈍い!」
「クソッ、ならもう一発……!」
愛弥は再び能力を使おうとした。しかし、斬撃は発生しない。
「は? なんで……」
「決まっておろうが」
再び燿子が詰め寄り、跳び回し蹴りを放ちながら反動でそのまま飛び退いた。
「“コックリさん”は『順繰り回し』じゃぞ?」