「これ、露夏ちゃん宛のものなんだけど」
「なんだこりゃ」
露夏はかすみから差し出された封筒を不思議そうに受け取る。
「なんか家のポストに入ってた」
「へ〜」
かすみの言葉に頷きながら、露夏は“ロカさま”と書かれた封筒を開け、中身を見た。
「…」
露夏は暫しの間無言で手紙を読んでいたが、やがてその口が真一文字に結ばれる。
その様子を見たかすみは、どうしたの?となんの気なしに尋ねた。
「なにかあっ…」
「ごめんかすみ」
かすみが言い終える前に、露夏はそう呟く。
「おれ、ちょっと行くわ」
「えっ…」
そう言ってかすみに背を向ける露夏を見て、かすみはちょ、ちょっと⁈と呼び止めようとした。
しかし露夏はそのまま路地裏へと軽快に走り去っていく。
かすみだけが、その場に取り残された。
帰りのハイエース・ワゴンの車内。吉継は窓枠に頬杖を突きながら、遠ざかっていく山々を見つめていた。
「まさか本当に、“八尺様”を倒しちまうとはなぁ。よくやったよ、3人とも」
「いや、頑張ったのは永江くんと秋津さんですよ」
「でも探索の方で活躍したの王蕗先輩じゃないですかぁ」
「……それで? さっきから静かな吉継はどうだったんだ?」
運転手の男に声を掛けられて、吉継は顔を上げる。
「……気付いてすらいなかった因縁に、決着がついたなぁ……と」
「よく分からんが、まぁお疲れ」
「ありがとうございます」
軽く会釈をして、吉継は車窓に目を戻した。
「……そういや、“八尺様”って本当に倒して良いヤツだったの?」
ふと、思い出したように潮が口にした。
「後輩くんのおばあちゃんから聞いた話だと、たしかナントカ権を優先する代わりに村に封印してたんじゃなかったっけ?」
その言葉に答えたのは、運転手の男だった。
「技術の発展した現代じゃ、水利権争いなんて形骸化しちまってるのさ。農家だって減ってきてるしな、わざわざ交換条件を出さなくたって、全員で等分しても十分余るくらいになってんだよ。あの“八尺様”はただの邪魔者になっちまってたワケだ」
「ほーん、それならなおさら罪悪感無いねー。ねー、後輩くん?」
潮に呼びかけられてから、一拍遅れて吉継は振り返る。
「え、なんで俺?」
「後輩くんの故郷の話じゃない」
「いや何とも……俺は農家継ぐ予定無いし……」
「現代っ子だなぁ……」
呟く潮の肩を、王蕗の長い腕が叩いた。
「およ? 王蕗先輩」
「“八尺様”は敵、なんてドライに言ってはいたけどさ……彼も思うところはあったと思うんだ。今は思う存分物思いさせてやろうじゃないの」
「ふーむ、了解です。それじゃ運転手さん、潮とおしゃべりしましょー!」
「運転に集中させてくれよなぁ?」
車内は賑やかなままに、ワゴンは帰路を走り続けた。
誰かと話して
誰かと傷つけ合い
誰かと愛し合って
誰かと生きる
素晴らしいのか
くだらないのか
私にはさっぱり
分からないけど
この世界に
この姿に
生まれてこれて
良かったな
本当にひどいよね あなたも私と
全く同じ 人間なのに
なのに勝手に 私の色を決めないで
でもそんなことで 私は諦めない
私は強く繊細な人間よ 気にしない 気にしない
強く生きてくわ 迷惑だったらごめんね