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瀬戸内海の潮風

『特急しおかぜ』の魔女は線路に仰向けで転がっていた。電車がたまに上を通るが、彼女が気にする様子はなく…それどころかひどく眠そうに夕焼け色の瞳を潤ませてあくびをしていた。
「ふあ…」
平和である。特急しおかぜは今も現役で活動を続けている列車なので、幻影化する可能性が割と低い。更に幻影と遭遇したことも多くはなかった。が故に、彼女の危機管理能力は低い。

「おねぇちゃん、線路で寝ると危ないよ」
頭上から高い声が飛んできた。魔女は寝ぼけ眼をこすりながらもそもそと尋ねる。
「…うちが見えるの?」
「?変なこと聞くのね。見えるよ」
こちらを覗き込んできた声の主は少女だった。
「関東弁じゃなあ、どこからきたの?」
「東京!おねぇちゃんは訛ってるね」
「岡山弁じゃ」
「ふぅん」
少女はしばらく魔女のふわふわの髪をいじっていたが、興味をなくしたのかじゃあねと声をかけてとことこと去ってしまった。
「…変なの」
再び一人になった魔女は、そっと目を閉じた。

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鉄路の魔女:夢破れてなんちゃら その①

電信柱の上で蹲るように眠っていた鈴蘭は、朝の眩しさに目を覚ました。
凝り固まった手足を解すために大きく伸ばし、そのままバランスを崩し地面に落下する。
「ぶげっ…………いたい……」
強かに打ち付けた後頭部をさすりながら立ち上がり、鈴蘭は歩き出した。ガードレールをひょいと跳び越え、未だ始発も動かない早朝のBRT専用道路の上を進む。
目的地は、とある踏切跡。最近は毎朝通う、ある種『お気に入り』となったそのスポット。その遮断機の上に腰を下ろし、右手首を見る。
普段はポンチョ風の衣装の下に隠れている機械の右腕。その装甲の下は、部分的な廃線によって不完全に幻影化している。BRTへの移行が無ければ、影響はこの程度では済まなかっただろう。
そう考えながら右腕をしばらく眺め、鈴蘭は再びその腕を衣装の下にしまった。これまで生きてきて、人間を観察して得た知識によると、彼らは時間を知りたい時に手首を見るらしい。それが『腕時計』という外部装置を必要とするところまでは気付けないまま、小首を傾げてただ時が過ぎるのを待つ。
数十分後、始発バスが真横を通り過ぎた。
「や」
短く呼びかけつつ右手を挙げる。当然答えが返ってくるはずは無く、鈴蘭は周囲を眺め始めた。
時間の経過とともに、少しずつ、本当に少しずつではあるが、人通りも増えてくる。
そして、1つの軽いエンジン音が近付いて来るのに気付き、鈴蘭は表情を輝かせてそちらに目を向けた。
そちらからは1台の原動機付自転車が近付いて来て、1度減速してから踏切跡を通過する。
「やぁ、少年!」
その運転手に、先ほどよりも明るく呼びかけ、右手をひらひらと振る。気付かず去っていく後ろ姿を見送り、一瞬の思案の後、鈴蘭は遮断機から飛び降りた。

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今や強し

もう折れねぇ。
もう倒れねぇ。
もう「弱い」とは言わせねぇ。
言わせねぇっつってんだろ。
おい。
こら!
いつまでもか弱いちみっ子扱いしてんじゃねぇ! 私の戦力に影響するだろ!

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鉄路の魔女:夢破れてなんちゃら その②

“鉄路の魔女”は基本的に、子どもにしか感知できない。鈴蘭が腕を失う原因にもなった大災害の頃、少年期にあった人間でも、十数年を超えた現在、社会人になった者も少なくない。ただ不老不死の魔女である鈴蘭には、時間経過による変化が理解しきれず、かつて交流し共に遊んだその人間が自分を無視している理由が理解できなかった。
専用道路の上をぽてぽてと歩き、2駅分ほど歩き続けたところでふと足を止める。
「………………や」
目の前の黒い影に、右手を挙げながら声を掛ける。人間の赤子の頭部程度の大きさだったそれは、鈴蘭の声に反応して全高数mほどにまで膨れ上がった。
「駄目だよ。こんな風に道を塞いじゃ。迷惑になるんだよ」
幻影は首を傾げるように変形し、目の前の魔女に突進を仕掛けた。
鈴蘭は右手だけでそれを受け取める。幻影の質量と速度が生み出すエネルギーは破壊力として機械腕を軋ませ、装甲の随所からは損傷によって火花が飛び散る。
「む…………」
空いた左手を大きく後ろに引き、軽く握った形に固定する。その手の中に、六連装グレネードランチャーが生成される。
「そー……りゃっ」
射撃では無く、銃器そのものの質量を利用し、幻影を殴りつける。
幻影を引き剥がし、煙の上がる右手を開閉する。
「まだ……動くかな。よし」
その手を強く握りしめ、それと同時に機械腕が爆発し、装甲が弾け飛んだ。

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良き師匠

君はとても優秀な子だ。

強く、賢く、逞しい。きっと一人でも生きていけよう。

だが『子供』には『保護者』が必要だ。

私は『親』でも『先生』でもないから、消去法で『良き師匠』ということで。



……何、「良き」は余計?
何を言う、私ほどこの形容詞が似合う猫はいないだろう?

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他人様の企画を勝手に紹介していく

先月から始まりましたテトモンよ永遠に!さんの企画『テーマポエムを作ろうの会』。

ルールは簡単。しかし二陣営が必要です。
まず設定原案側。投稿作品の登場人物でも、外部で書いてるキャラクターでも、今回即興で作った子でも良いのでキャラクターの設定を書いて投稿します。
この時タグに『テーマポエムを作ろうの会』『〇〇の設定』の2つを入れる。「〇〇」の部分はそのキャラクターの名前ですね。
次にテーマポエム制作側。好きな設定を選んで、その子のテーマとなるポエムを書いて投稿します。この時タグに『テーマポエムを作ろうの会』『〇〇のテーマ』を入れる。「〇〇」はお察しの通りキャラクターの名前です。

期間は6月いっぱい。ナニガシさんは先月までの時点でかなりの量設定を投下しているので、誰かテーマ書いてくれないかなー……。チラッチラッ

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深夜の迷子 宵_3

ゆずの身体が曲線を描いて飛ぶ。…こんな感覚は人生初のバンジージャンプ以来だ。喉が痛むほどの叫び声をあげたのはちょっと前のお化け屋敷以来だ。
「痛っ」
混乱状態のゆずを正気に戻したのは、ゆずの身体をせんちゃんが受け止めたときの痛みだった。
「雑に扱ってすまんな。"あれ"は光が苦手だから、ゆずが月の光を受けてれば追ってこないだろうと思ってつい」
「ついって…」
せんちゃんが見下ろす先には、こちらを見失ったのか『神隠し』が忙しなく動いていた。
「木の上を移動するのは疲れるから、やっぱり普通に逃げた方が良いな」
「それ大丈夫なの?」
「正気、あれ以外にも面倒なのはたくさんいるから…運だな」
「ええ…」
「夜明けまでには山を出よう」
「うん」
ゆずがせんちゃんの手を握ると、向こうも握り返してきた。

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「崩壊世界見聞録」より エミィの設定

名前/エミィ
誕生日/6月21日
体重/6キロ
身長/50センチ(尻尾は含まない)
好物/新鮮な魚
嫌いな物/眩しいもの、魚卵
座右の銘/何とかなる
性格/無口。普段から飄々としており、カナの良き(?)師匠。たまに小難しいことを言うが、ただただ思ったことを口にしているだけのことが多い。

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鉄路の魔女 「眠り」 1

「おねぇちゃんはさ、どうしてさいきんへんになっちゃったの?」
「そう?変、かな?」
「うん、なんか、つかれたおとーさんみたいになっちゃってるよ。」
「そうなの?」
「うん!だから、きっと、びーるのんだらなおるね!」
「そっか。」
「うん!じゃあ、おねぇちゃん、またね〜!」

山吹は小さな男の子に軽く手を振って見送り、溜め息を一つ吐いた。
そのまま振り返り、黙って線路へ飛び降りる。
ふわり、とスカートのリボンが揺れる。
山吹の身につけているものは、どれもこれも少し古いものだ。が、不思議と不潔感や古臭さを感じない。
早朝のほぼ無人の駅。
唯一人のいるホームへ目をやる。
白髪混じりの頭の、和服の女性。
今度は、そちらのホームへと歩き始める。

(...どうせ見えていないのだろうな。)

山吹たち「鉄路の魔女」は、子供にしか認識・接触できない。
稀にできる大人も居るそうだが、片田舎のこの駅では会えないだろう。

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トリックスターの慟哭

リリアーナは、輝かしい。
太陽のように明るくて。誰よりも飄々として。死地にだって平気で乗り込んで。
皆の、憧れ。

_私だって、リリアーナが好き。

だからやめられない。
皆を騙していることが嫌だけど、『リリアーナ』という人格を捨てられない。
『リリィ』と『リリアーナ』の差に、吐いてしまうくらい悩むのに、それでも捨てられない。
きっと、『リリアーナ』が好きだからというだけじゃないんだろうけど。

でも、『リリアーナ』だけじゃなくて『リリィ』のことも見てほしい。
「本当の自分でいて良い」だなんて、知ったような口を聞かないでほしい。
_私はとても、面倒くさい。

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鉄路の魔女:夢破れてなんちゃら その③

「あっ」
体表に僅かに残っていた機械装甲も地面に落ち、黒色の醜い全体像が露わになる。
肩から4本に枝分かれした中央の腕は人骨のそれのような構造、その周囲を囲むように昆虫の肢のようなもの、皮膜の無い蝙蝠の前足のようなもの、更に枝分かれする頭足類の触腕のようなものが生えている。
「うぅんこれは……良くない。人に見られたら怖がられちゃうな。さっさと終わらせなくちゃ」
再び突進してくる幻影を、蝙蝠型の腕で受け止める。先端の4本の鉤爪が幻影自身の勢いもあって深々と突き刺さり、幻影は痛みに苦しむように大きく身体を反らせ震えた。
「そいっ」
射撃を合わせ、爆発で更に態勢を崩し、ひっくり返す。
「……ほらほら、駄目だよ、君。『公共の場』で暴れるのはいけないことなんだから」
鈴蘭の言葉に、幻影は水まんじゅうのような身体を小刻みに震わせる。
「だから駄目なんだって。こら、だーめ。そんなに暴れたいなら、まずは人のいない所に行かなくちゃなんだよ」
グレネードランチャーの銃口で幻影をつつきながら、鈴蘭が説教を続けていると、彼女らのいる場所をバスが通過していった。
「………………ほら。ここはバスが通るんだから、びっくりされちゃうよ」
触腕を絡め、昆虫腕と蝙蝠腕を突き刺し、骨腕で表面を掴んで幻影を引きずり歩き始める。
「まずはここからいなくなろうね。マナーってものがあるんだから」

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鉄路の魔女:夢破れてなんちゃら その④

鈴蘭が幻影を引きずっていった先は、専用道路近くを流れる川が海に出る河口付近だった。
幻影を掴んだまま水中に踏み入り、足のつかないほどの深さまで進んでからは触腕の一部を川底に付けながら移動する。
「このまま……広い所に出ようねぇ…………君はおっきいから、喧嘩するならこんな風に誰の邪魔にもならないところでやらなくちゃ。ね?」
海水域まで進出し、ようやく幻影を解放すると、その巨大な水まんじゅうはクラゲのように身体を伸縮させながら水面に浮き上がった。
「よしよし。じゃあこれで……」
左手の中にグレネードランチャーを生成する。射撃しようとしたところで、幻影が突然接近してきて、銃口に吸い付いた。
「ありゃっ。離れろぉーぅ」
幻影化した右腕で押し退けようとするが、幻影の身体は銃と鈴蘭の身体に柔らかく貼り付いていき、彼女の身体を完全に取り込んだ。
「ぐぁぁ……ええい、面倒だ」
引き金を引く。銃口を塞がれていた擲弾銃は暴発し、装填された炸裂弾どうしが誘爆し、大規模な爆発が幻影を引き剥がした。
「うぅ、痛い…………」
破損した銃の破片が処々に突き刺さった顔を拭い、幻影に向き直る。幻影はその体組織の4割程度を吹き飛ばされ、黒々とした核が露出している。
「…………どう? 参った?」
鈴蘭が尋ねると、幻影は核から原油のような黒い液体を垂れ流しながらぶるぶると震えた。
「そっか。それじゃあ、今日はもう帰ろうね? 他の人たちに迷惑かけちゃ駄目だよ? 暴れたくなったら、私が遊んであげるから。今度はちゃんと人のいない場所で会おうね」
幻影は静かに水面を泳いで川を上っていく。それを見送ってから、鈴蘭も地上に向けて触腕を動かし始めた。

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鉄路の魔女:夢破れてなんちゃら キャラクター

・“大船渡線の魔女”黄金鈴蘭
大船渡線から生まれた鉄路の魔女。ポンチョ風の衣装を身に付けている。ちなみに名前は大船渡線の愛称『ドラゴンレール』のアナグラムでもある。
一部廃線・BRT移行により、右腕が幻影化しているが、自身の力で生成した機械装甲で抑えているため、外見上の変化は特に無い。衣装の下に隠れているせいで機械腕すら目立たない。
部分的な幻影化のせいか、幻影に対する忌避感・嫌悪感は大した事無い。むしろ親近感さえ覚えている。
人間を観察することが趣味で、観察によって人間がどういった時にどのような行動を取るのかということを学習し真似るようになったが、積極的に接触してはこなかったので、再現性が不完全なことも多い。
普段はBRT区間に居座り、踏切跡やガードレールに腰掛けていたり、専用道路上をふらふら歩いていたりする。

・幻影
巨大な水まんじゅうみたいな見た目の幻影。直径は約6m。半透明の体組織の中に、全体の80%程度の直径の黒い核が入っている。かなり柔軟に変形し、そこそこの速度で動き、水を吸うと粘性が増し、多少の損傷なら気にせず動く。