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魔法少女学園都市レピドプテラ:天蟲の弔い合戦 その⑯

(私がこいつに見せていない『刀』は0。……全ての手札が割れている……いや、一振りだけ、『能力は』見せていない刀があったな。となると……決めるなら“破城”しか無いな)
ササキアの手刀が手首に直撃し、ロノミアは“血籠”を取り落とした。
「ぐッ……!」
続いて放たれた拳を、ロノミアは無事な片手で受け流した。カウンターで肘鉄を打つが、ササキアはそれをわけも無く受け流し、隙だらけの背中に膝蹴りを叩き込む。
「ぐあっ……!」
更に続くササキアの攻撃を、ロノミアは転がるように回避し、距離を取った。
「クソっ、痛ってぇ……」
(……粘るな。何が目的だ? とにかく、こいつを倒すか、やり過ごさねば、元凶であるあの双子を倒せない。……恐らく、こいつは私の盾を破壊したことで、『追加武装』がもう無いと考えている。決めるなら、『あの盾』だな)
ササキアは連続で蹴りを放ちながら、ロノミアを追い詰めていく。
2人の戦闘は徒手による格闘に変わり、ササキアの優勢で激しく動き回りながら打ち合う。その間にも糸の帯は数を増していき、領域内は複雑な地形を成していく。
「っ……」
ダメージの蓄積により、ロノミアが膝を屈した。その隙を逃さず、ササキアが蹴りの姿勢に入る。
その時、ボンビクスの糸束が、ササキアの軸足に固く絡みついた。即座に、ロノミアがやや前のめりに重心をずらす。
((……今!))
ササキアは持ち上げていた足を素早くその場に振り下ろし、右腕に『追加武装』を出現させた。十字架を膨らませたような形状の、全長2m程度の金属製の大盾。その側面は、刃のように加工されている。正しく『大剣』の様相である。
対するロノミアは、膝をついた姿勢のまま、巨大な斬馬刀“破城”を手の中に生成した。
2人がほぼ同時に武器を振り、直撃する寸前。
「モリ子ぉっ!」
ロノミアの掛け声で、別の糸束が彼女を捕え、ボンビクスの方向へと引き戻した。それにより、ササキアの攻撃は空を切る。
糸束から解放されたロノミアは、慣性によって領域内壁に着地し、即座に跳躍した。ロノミアは更にササキアの後方に張られた糸帯に着地し、慣性に任せて深く膝を折る。
(来る!)
ササキアが大盾を構える。しかし、攻撃が来ない。ササキアが盾を僅かにずらすと、ロノミアは糸帯に垂直に着地した態勢のまま、“破城”を構えていた。

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魔法少女学園都市レピドプテラ:天蟲の弔い合戦 その⑮

ボンビクスが『繭』を生成する前から、ロノミアは既に、結界術を解除していた。しかし、彼女に絡みつく細糸が、操り人形のように彼女の『時間』を動かしていた。
(ん、繭? モリ子の魔法か。)
「……嬉しいねぇ、自分の弟子が成長してくれるってのは」
ササキアの拳を“血籠”の刃で受け止め、ロノミアは呟いた。
「……この程度の魔法、ニファンダ・フスカにかかれば軽く捻り潰せる」
「どうだか」
迫り合う二人に割って入るように、繭の内壁から白糸の帯が放たれた。
「おっ、面白いことやってくれんじゃん!」
ロノミアが跳躍し、糸の帯を蹴ってササキアの背後に回る。ササキアは即座に反応し、身を翻して手刀を打ち込んだ。ロノミアは沈み込むように回避し、反動で跳躍して膝蹴りを打ち込む。ササキアはそれを片手で受け止め、投げで地面に叩きつけようとした。その直前、新たに現れた白糸の帯が、クッションのように受け止める。
「助かったぁ!」
足をばたつかせることでロノミアはササキアの手を逃れ、態勢を立て直す。
(さぁて……困ったことに、私は手を出し尽くした。どうやって押し切ったものか……っつーか、疲れてきたなぁ……)
ロノミアは既に大量に展開されていた白糸の帯を蹴り、空中に逃げる。新たに展開された帯に掴まり、息をつく。
「やーい、ここまで来てみろ生徒会長」
挑発するロノミアを見上げながらも、ササキアはその場を動かない。
(この『繭』が形成されてから、明らかに動きが重くなっている。『絡みつく魔力』に、補正がかかっているのか?)
「……まあ良い」
ササキアが、双子に目を向ける。その瞬間、ロノミアが糸帯の足場から手を放し、落下の勢いを乗せて斬りつけた。ササキアはそれを、籠手を身に着けた片腕で受け止める。
「可愛い弟子の大仕事、邪魔させるわけ無いだろ!」
「問題無い。貴様を倒してから、あの双子も捕える。それで片付く」
2人は再び、至近距離での激しい白兵戦を開始した。

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魔法少女学園都市レピドプテラ:天蟲の弔い合戦 その⑭

ササキアと交戦するロノミアの背中を見ながら、ボンビクスは瞑目して意識を集中させる。
(必要なものはくぁちゃんが教えてくれた……うぅん、ずっと昔から、くぁちゃんは私に言ってくれてたのに)
長く息を吐き出し、目を開く。
(私の魔法、不安定過ぎて、テンちゃんの結界が無いとまともに使えない。私はずっと、『使いこなせる』ようになろうと思ってた。それが間違いだった)
右手を前方に向けて掲げると、その手の中に新たな細糸が生成された。それらは、アンテレアの結界の中にあって尚、安定性の不足によってかき消える。
(大丈夫。私に足りない『安定感』は、テンちゃんが補ってくれる。私は何も心配しなくて良い)
再び細糸を生成する。糸が千切れ飛ぶ。
(むしろ、もっと滅茶苦茶に。安定性の全部、私は投げ捨てる。余力の全部、『出力』に回す!)
再び細糸を生成する。千切れた破片を、新たな細糸が絡め取る。
(もっと強く、あいつの『時空支配』よりもっと上から、『あいつの魔法ごと』!)
細糸が次々と生成される。それらは千切れ、崩れながら、新たな糸が残骸を更に巻き込み、少しずつ形を成していく。
「この『世界』の全部……縛める!」
突然、複雑に織り固められた細糸の集合体が、噴き出すように飛び出し、5人の周囲を取り囲むように形成されていく。

(これは……繭?)
周囲を取り囲んでいく白糸の塊を見ながら、ニファンダは冷静に魔法を行使し、繭を破壊しようと試みた。しかし、その感触に違和感を覚える。
「……あれ?」
再び魔法を行使する。
「…………なんで?」
再び魔法を行使する。
「……おかしい。違う。なんで、いや、そんな……っ!」
「ニファンダ、どうした!」
「っ! ……だ、大丈夫、会長はそっちに集中して!」
「……了解」
ササキアは再びロノミアに向けて突撃した。
(おかしい……私の魔法が、『繭の外に追い出されてる』。この繭の中は、完全にあの子の領域……! でも、外からなら攻められる。必ず押し潰して……あの子に勝つ!)

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魔法少女学園都市レピドプテラ:天蟲の弔い合戦 その⑬

鋭い一撃はロノミアの首を捉えたはずだった。しかし、そこに彼女の姿は無い。
「何っ……!」
ロノミアはササキアの予測より数㎝ほど右方にずれた位置に着地していた。
「らぁっ!」
回転運動の乗った斬撃を、ササキアは仰け反るように回避した。ロノミアの攻撃は空を切り、重量に引かれてその身体は空中へと引っ張られる。“癖馬”は独特の刀身の形状から、それまでの回転と軸の異なる不規則な軌道で、回転を『上書き』した。ロノミア自身の肉体もまた、それに巻き込まれるようにして、ササキアの周囲を滅茶苦茶に飛び回る。
(こいつ……急に動きが読めなくなった……⁉)
「言わせてもらうぜぃ、生徒会長さんよ。『力』は『あるべき形』でありたがる。それを無理やり押し込めるなんざ、それは『技術』じゃなく『臆病』だ」
“癖馬”に振り回され、不規則に動きながら、ロノミアは続ける。
「『制御できない』んじゃない。『制御なんかしない』んだよ。『あるべき姿』の出力に、身体だけ貸してやるのさ。“強さ”ってのは、そういうものなんだよ!」
背後に回ったタイミングを狙い、ロノミアの一撃が放たれる。
「くぁちゃん!」
命中の直前、ボンビクスが叫んだ。同時に、ロノミアの動きが一瞬停止する。ロノミアの腹部を狙ってササキアが拳を打ち込もうとしたその時、その身体は空中で引かれ、双子の前に引き戻される。ボンビクスの固有魔法によるものだ。
「ごめんねくぁちゃん、ちょっと押し負けた!」
「ったく…………で? 掴めたな?」
「うん。もう大丈夫! くぁちゃん、私のこと、信じてくれる?」
「最初から信じ切ってたよ。……それじゃ、やってやれモリ子」
ロノミアは再び立ち上がり、手放した“癖馬”の代わりに生成した“血籠”を握った。

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魔法少女学園都市レピドプテラ -small cabbage white- 解説編 3

企画参加作品「魔法少女学園都市レピドプテラ -small cabbage white-」の解説編その3です。

・マイセリア サイアニリス Myscelia cyaniris
所属:リーリアメティヘンシューラ
学年:高等部2年
固有魔法:周囲の空間に溶け込む
メディウムの魔法:変身、武器(銃器)の生成、身体能力強化
一人称:私
ラパエを狙って襲来したリーリアメティヘンシューラの諜報員。
性格は生真面目で堅苦しく、上からの命令に従順。
サルペとは諜報員仲間だった。
魔法少女姿は青紫色の軍服のような服装。
髪はボブカットである。
通称はサイア。
名前の由来だが、和名がまだついていないような蝶のようだ(一応英語名は『blue wave』とか『blue-banded purplewing 』とのこと)。
ちなみに本編では「サイアニス」と表記していたが、正しくは「サイアニリス」である。

〈学園〉
・櫻女学院 Sakura Jogakuin
レピドプテラに所在する学園の1つ。
いわゆる無名の学園の1つではあるが、それ故に他の学園とのトラブルは少ない。
制服は桜色のセーラーワンピース。

・リーリアメティヘンシューラ Lilie Madchenschle
レピドプテラの有力な学園の1つ。
レピドプテラ内での勢力維持のため、生徒会直属の諜報員が存在し、レピドプテラ内で暗躍している。
制服は黒い軍服のようなもの。

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魔法少女学園都市レピドプテラ -small cabbage white- 解説編 2

企画参加作品「魔法少女学園都市レピドプテラ -small cabbage white-」の解説編その2です。

・ポリゴニア シーアウレウム Polygonia c-aureum
所属:櫻女学院
学年:高等部1年
固有魔法:周囲の空間に溶け込む
メディウムの魔法:変身、武器(鉄扇)の生成
一人称:あたい
騒がしくてざっくばらんな魔法少女。
グッタータ、ピレタとともに都市伝説同好会に所属している。
レピドプテラに来たばかりのグッタータに優しくするなど親切な一面もある。
魔法少女姿は山吹色のキャミソールにバルーンパンツ。
髪をサイドテールにしている。
通称はシーア。
名前の由来はキタテハ。

・パルナラ グッタータ Parnara guttata
所属:櫻女学院
学年:中等部1年
固有魔法:高速移動
メディウムの魔法:変身
一人称:わたし
気弱で不器用な魔法少女。
シーア、ピレタとともに都市伝説同好会に所属している。
櫻女学院に来たばかりのころにシーアと出会い、以降慕っている。
魔法少女姿は緑と黄土色の和服のような衣装。
髪は黄土色である。
通称はぐっちゃん。
名前の由来はイチモンジセセリ。

・チタリアス ピレタ Citaerias pireta
所属:櫻女学院
学年:高等部2年
固有魔法:透明化
メディウムの魔法:変身、身体能力強化
一人称:私
真面目で現実主義者の魔法少女。
シーア、グッタータとともに都市伝説同好会に所属しているが、櫻女学院の生徒会長でもある。
魔法少女姿は赤いロリィタ服。
髪を三つ編みお下げにしている。
名前の由来はベニスカシジャノメ。

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魔法少女学園都市レピドプテラ -small cabbage white- 解説編 1

企画参加作品「魔法少女学園都市レピドプテラ -small cabbage white-」の解説編その1です。

・ピエリス ラパエ Pieris rapae
所属:櫻女学院
学年:中等部2年
固有魔法:分身
メディウムの魔法:なし(持っていない)
一人称:あたし
当エピソードの主人公。
明るくて夢見がちな、櫻女学院の転入生。
元々は外の世界の“テロ組織”のようなところで魔法を利用されていたが、組織が国際警察によって壊滅させられた際に保護され、レピドプテラにやってきた。
過酷な環境に身を置いていたが“いつか魔法少女学園都市に行ける“と信じてレピドプテラに憧れを抱き続けてきた。
しかしその強力な固有魔法を持つが故にレピドプテラの勢力均衡を乱しかねないと判断され、レピドプテラの有力な学園”リーリアメティヘンシューラ“の諜報員・マイセリア サイアニスに襲撃されることになる。
髪を二つ結びにしている。
名前の由来はモンシロチョウ。

・グラフィウム サルペドン Graphium sarpedon
所属:櫻女学院
学年:高等部2年
固有魔法:見えないものを見る
メディウムの魔法:変身、飛行、身体能力強化、武器(刀)の生成
一人称:ボク
スポーティな印象を受ける落ち着いた魔法少女。
ラパエと同じ日に櫻女学院へ転入してきた。
以前はレピドプテラの有力な学園・リーリアメティヘンシューラの諜報員としてレピドプテラ内で暗躍していたが、リーリアのやり方に不満を持って学園を離れた。
マイセリア サイアニスはリーリアメティヘンシューラ時代の仲間。
魔法少女姿は黒と水色のサイバーパンク風ファッション。
普段は制服の上に黒いパーカーを羽織っており、髪をポニーテールにしている。
通称はサルペ。
名前の由来はアオスジアゲハ。

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魔法少女学園都市レピドプテラ:天蟲の弔い合戦 その⑫

ロノミアはふらつきながらも“癖馬”を持ち上げた。
「何を下らないことを……」
ササキアはロノミアの提案には載らず、突進を仕掛けた。
「うおっ! 危ねーだろー!」
ロノミアは刀を振った勢いで意図的に姿勢を崩すことで、攻撃を回避した。更に慣性のままに刀を振り回し、ササキアに向けて振るう。緩慢なその動作を、ササキアは容易に回避し、反撃に盾の側面を叩きつけようとした。ロノミアはそこに回転運動で戻ってきた刀身を合わせ、ぶつかり合ったその点を軸に、『自身の肉体』を遠心力によって大きく移動させる。空中に投げ出されたロノミアの身体は、回転運動しながら着地し、回転の『軸』を再び彼女の体幹へと移動させ、更に回転運動を加速させる。
「それで、生徒会長さんよぉ? 『暴走する力』は強さだと思うかい?」
「何?」
遠心力の乗った“癖馬”が、再び盾に衝突する。
(重い……が、この程度なら問題ない)
ロノミアは再び回転軸をずらしながら、空中に跳び上がる。
(よし、まだ『回転』は生きてる! このまま……!)
落下の勢いを乗せて、“癖馬”を叩きつける。それを受け止めたササキアの盾に、亀裂が入る。
(割れた……⁉)
「もう一度問うぜぃ、生徒会長! お前を今追い詰めているこの『制御できない力』は、強さか?」
「……制御し、扱うことのできないそれを、『強さ』とは呼ばない」
飛び退くように回避しながら、ササキアは答えた。
「へぇ……?」
ロノミアは地面を“癖馬”で打った反動で再び跳び上がり、追撃を仕掛ける。ササキアはその様子を注意深く観察し、ロノミアが自身の背後に着地した瞬間を狙って後ろ回し蹴りを放った。

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魔法少女学園都市レピドプテラ -small cabbage white- 16

こうして、リーリアメティヘンシューラのマイセリア サイアニス率いる魔法少女たちによる、櫻女学院襲撃は失敗に終わった。
生徒会長のピレタがレピドプテラ総務局に連絡したことで現場には総務局の局員が駆けつけ、サイアたちは連行されていったのである。
そうやって、櫻女学院に平穏が戻った。
「……あのサイアって人、このあとどうなるんでしょ?」
去り行く総務局の関係者を校舎の玄関から見送りつつ、ラパエはふと呟く。それに対し制服姿に戻ったピレタは「ま、良くも悪くも大事にはならないでしょうね」と返す。
「レピドプテラではかなり有力な学園の魔法少女だから、学園側が総務局に圧力をかけて、あの子たちもすぐに普段通りの生活を送れるようになると思うわ」
ピレタが呟くと、ラパエはなんか複雑ですねとこぼす。それに対し制服姿のサルペは仕方ないよと苦笑する。
「このレピドプテラにおいて総務局はそんなに強い存在じゃないから」
正直総務局よりも強い学園なんていくつもあるしね、とサルペは伸びをする。ラパエはへーと答えた。
「まぁまぁ、そんなことは置いといて……もうそろ帰ろうぜ」
日も暮れちゃうし、と制服姿に戻ったシーアはラパエの顔を覗き込む。制服姿のグッタータもそうですねと頷く。
「じゃー、もう帰ろっか」
みんな、とサルペはラパエたちを見やって笑う。ピレタはそうねと返し、シーアはおうよ、グッタータははい、と言う。そしてラパエは「帰りましょ、サルペ先輩」と微笑んだ。
そして5人は櫻女学院の校舎をあとにした。

〈おわり〉

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魔法少女学園都市レピドプテラ -small cabbage white- 15

「⁈」
サイアが困惑したように自らの腕を見ると、透明な手が自身の腕を掴んでいることに気付いた。
「お前は‼︎」
サイアが声を上げると、その透明な手の持ち主がはっきり見えるようになった。赤いロリィタ服を身に纏った三つ編みお下げのその少女……ピレタは、サイアの腕を無理やり玄関の床に押さえつける。
「私たちの学園で騒動を起こすなんて、リーリアメティヘンシューラの魔法少女も酷いものね」
ピレタがそう呟くと、サイアは彼女を睨みつける。
「……櫻女学院の生徒会長、チタリアス ピレタか」
そう言うと、サイアはピレタの手を振り解こうとする。だがピレタは逃がさないわとサイアの腕を掴む力を強める。
「あなたは私たちの学園生に危害を加えようとしたのだから、総務局に来てもらうわよ」
堪忍なさいとピレタは言う。その言葉にサイアはそうかいと答えて、抵抗をやめた。

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魔法少女学園都市レピドプテラ -small cabbage white- 14

「こんな子ども騙し、私には通じない!」
そう声を上げながらサイアは“ラパエ”たちが消失したことでがら空きになった場所を走り抜ける。それを見たサルペは「させない!」とサイアに飛びかかろうとするが、サルペの目の前でサイアの姿は見えなくなった。
「まさか、固有魔法‼︎」
サルペはそう叫ぶ。“周囲の空間に溶け込む”魔法を固有魔法とするサイアは姿を見せないまま校舎内に突入し、玄関を見回す。すると、柱の陰に座り込む二つ結びの少女が見えた。
サイアはそのままその少女……ラパエに近付こうとするが、不意に「シーア!」とサルペの声が後方から飛んでくる。その次の瞬間、サイアは誰かに横から体当たりされ、地面に倒される。
「⁈」
驚きの余り魔法を解除してしまったサイアの目の前には、山吹色のキャミソールとバルーンパンツを身に纏った、サイドテールの魔法少女が姿を現した。武器である鉄扇を突きつけているその少女……シーアに気付いた時、サイアは自身が罠にはめられたことに気付いた。
「そんな、無名の学園生ごときに!」
サイアはそう言ってマシンガンを構えようとするが、手に持っているマシンガンが突然飛んできた何者かに奪われる。混乱するサイアが飛んできた人物が着地した方を見やると、マシンガンを持った黄土色の髪で黄土色と緑の和服のような衣装を身に纏った少女……グッタータがサイアの方を振り向いていた。
「……これでキミたちの負けだね」
不意にそんな言葉をかけられて、サイアは玄関の扉の方を見る。ちょうど校舎の外からサルペが入ってきている所だった。
「キミが連れてきた魔法少女たちはみんなラパエの分身が無力化したし、キミもその状況じゃ動けない」
「もう、諦めた方が……」とサルペは言いかけるが、サイアはそうかと呟く。サルペは言葉を止める。
「これで私を無力化できたと思っているのか」
サイアの言葉に、サルペはまさかと目を見開く。その次の瞬間サイアは右手にマシンガンを生成し、サルペに突きつけようとした。
しかし彼女の腕は突然誰かに押さえつけられたように上がらなくなる。
「⁈」
サイアが困惑したように自らの腕を見ると、透明な手が自身の腕を掴んでいることに気付いた。

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魔法少女学園都市レピドプテラ -small cabbage white- 13

一方、サルペを櫻女学院の校舎内まで吹っ飛ばしたサイアや彼女に従う魔法少女たちは、校舎の目の前で武器を構えてサルペたちを待っていた。学園の入り口付近で違う学園同士の魔法少女が戦うことはまだしも、武力をもって櫻女学院の校舎に入ればそれこそ学園間の大問題になるため、サイアたちは下手に動けず暫く様子を見ていたのだ。しかし校舎内でサルペたちは話し込んでいる様子であるため、そろそろ校舎内に立ち入ることもサイアは考えていた。
「そろそろ、頃合いか」
早くしないと我が学園の生徒会長に怒られかねないからな、とサイアは校舎外壁に掲げられた時計を見やる。
「それに、あの魔法少女は早く捕縛せねばなるまい」
なにせあのまま放置すれば有力な学園同士での勢力均衡に影響が出かねん、とサイアは校舎の玄関口に目を向けた。
いつの間にか、サルペたちは玄関の柱の陰に隠れている。それを確認したサイアは周囲に従えた少女たちに対し声を上げた。
「総員に告ぐ!」
「これより……」とサイアが言いかけた時、不意に「サイア‼︎」という声が校舎の玄関から聞こえた。サイアが声のする方を見ると、そこにはサルペとラパエが玄関口から外に出てきていた。
それを見てサイアは驚く。
「どうした、気でも変わったか」
それに対しサルペは「まぁ、そんな所だよ」と返す。
「キミたちに、ピエリス ラパエを引き渡そう」
「……ただし」とサルペは続ける。
「“本物”を見分けられたらだけどね‼︎」
サルペがそう言った途端、周囲の地面に突き刺さった状態で水色の刀が何本も現れる。その直後、玄関の中から大勢の“ラパエ”が現れ、地面に刺さった刀を手に取ってサイアたちの方へ駆け出していった。
「まさか‼︎」
サイアは思わずそう叫ぶ。サイアに従う少女たちは一斉に銃器を構えるが、どの“ラパエ”が本物か分からず引き金を引くことができない。その隙に“ラパエ”たちはサルペの生成した刀で少女たちの銃器を弾き飛ばしていき、あっという間にサイアが従える少女たちの陣形は崩れていった。
しかしサイアはすぐに冷静さを取り戻し、マシンガンで“ラパエ”たちを撃ち抜いていく。“ラパエ”たちは魔力弾を喰らうとすぐに消えていった。

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魔法少女学園都市レピドプテラ -small cabbage white- 12

「……それが、ボクの信条だから」
そして彼女は再度刀を構えた。
ラパエは暫く黙っていたが、やがて「……先輩」と呟く。その言葉にサルペが振り向くと、ラパエはお願いがありますとサルペの目を見た。
「あたしも、先輩と一緒に戦いたいです」
ラパエがそう言うと、サルペは「えっ」と驚く。
「でもキミはここに来たばかりでまだメディウムを持ってないじゃないか」
「どうするっていうんだい?」とサルペは尋ねる。するとラパエは「先輩って、刀を作る魔法を使えるんですよね?」と続ける。それに「まぁ、メディウムの効果で使えるんだけど」とサルペが答えると、ラパエは「じゃあそれをいっぱい作ってください!」と言った。
「あとはあたしがなんとかするんで!」
ラパエがそう明るく言うと、少しの沈黙ののちサルペは分かったと頷いた。
「あと、シーア先輩とぐっちゃんも、一緒に戦って欲しいです!」
さらにラパエがシーアとグッタータに目を向けて言うと、グッタータこそ驚いたもののシーアは「お、おうよ!」とサムズアップをしてみせた。
「とにかく皆さん、行きましょう!」
あたしたちの平穏を守るために!とラパエがいうと、サルペはうんと大きく頷いた。

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魔法少女学園都市レピドプテラ -small cabbage white- 11

「キミたちはボクが守るんだ」
「でもあたしに原因があるみたいですから!」
「だから先輩はもういいんです!」とラパエはサルペの手を握る。
「あたしが、あの人たちの元へ行けばいいんです」
「それはダメだ!」
ラパエの言葉に、サルペは語気を強める。ラパエ、シーア、グッタータは驚いて目を見開く。
「サイアたち……リーリアメティヘンシューラっていう学園は、このレピドプテラで他の有力な学園と覇権争いをしているような学園だ」
サルペは自らの左手を握るラパエの手に右手を重ねる。
「あの学園は、自分たちの邪魔をしかねない存在は徹底して叩き潰そうとするから、きっとなんらかの理由でキミが自分たちの邪魔になると思って襲撃してきたんだと思う」
でも、とサルペは続ける。
「ボクはそんなリーリアが許せない」
自分たちの邪魔になると思ったら、平気で相手を叩き潰しにかかるような学園だからねとサルペは呟く。
「そういう所があるから、ボクはあの学園で諜報員だったけどそれを抜けて、レピドプテラの闇と関わりの薄いような櫻女学院にやって来たんだ」
でも、とサルペは続ける。
「ボクやその周りの人の平穏を壊そうとする人がいるのなら、例え相手が魔法少女であってもボクは立ち向かう!」
そう言ってサルペはよろよろと立ち上がる。

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魔法少女学園都市レピドプテラ -small cabbage white- 10

「有力な学園同士だと小競り合いがあるってことは聞いたことあるけど、うちみたいに大した力もない無名の学園が急に襲われるなんて聞いたことないよ……」
グッタータは不安げに身を震わせた。
一方ラパエは困惑しているような顔をしている。それに気付いたシーアは、大丈夫かラパエと声をかけた。
「あ、ごめんなさい」
多分あたしのせいでこんなことになっちゃったんですよね……とラパエは俯く。シーアは「アンタは悪くないよ」と肩に手を置くが、ラパエは違うんですと首を横に振る。
「あたし、実はここに来る前は外の世界のテロ組織みたいな所で、大人たちのいいように使われてたんです」
あたしの魔法は人を傷つけるのに向いているから、それで目をつけられてずっと……とラパエは続ける。シーアとグッタータは何も言えないまま話を聞いていた。
「だけど、魔法が使える女の子はみんな“魔法少女学園都市”っていう魔法少女の街に行けるって聞いてたから、いつかそこに行けると信じて生きてきたんです」
それでひと月前、組織が国際警察に壊滅させられた時にあたしは保護されて、それでここへやって来たんですよ、とラパエは言う。
「あたし、レピドプテラに憧れてたから、とっても素敵な楽園みたいな所だと思ってたけど、ここでもあたしのせいで人が傷ついて……」
どうしてこんなことに……とラパエは声を震わせる。その様子を見てシーアとグッタータはかける言葉を見つけられなかった。
「ぐっ!」
ラパエたちが黙り込んでいると、不意に玄関口にサルペが転がり込んでくる。それを見てラパエは、サルペ先輩!と思わず駆け寄る。シーアとグッタータも駆け寄ってきた。
サルペはみんな……と呟きながら立ち上がろうとするが、魔力弾でつけられた脚の傷が痛んで思うように立ち上がれない。ラパエは「先輩無理しないで!」と声をかけるが、サルペはいいやと拒否する。