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Tell us terrible Terrors:死にゆくお前に中指を! その③

通信で聞いた座標を頼りに二人が辿り着いたのは、某駅付近のスクランブル交差点だった。休日午前中ともあり、多くの歩行者が行き交っている。
「後輩」
「見えてる。吐き気がするほどにな……」
「ってこたァ、ホシはこの辺にいるわけだ……」
陸斗の目には、歩行者一人一人に色濃く貼り付いた『死相』が、鮮明に映っていた。目を逸らしたくなる悍ましい光景に顔を顰めながらも、陸斗は一人一人の顔を検める。探すのは、この渦中にあって唯一『死相が浮かんでいない者』――つまり、『死の元凶となる者』の姿。
「…………ッ! いた。11時の方向、こっちに背を向けてる禿頭背広姿の中年」
「……アイツか。怪異ならどうせ周りから見えねェんだ、手荒に扱うぞ」
「この場で戦うわけにもいかないからな」
加奈は髪留めにしていた黒いリボンを解くと、ふわりと投げ上げた。彼女の能力【ポルターガイスト】、その異聞能力が支配するリボンは空中で1本の繊維へとほどけ、歩行者の隙間を縫って男に向けて射出された。そして一瞬にして全身を絡め取ると、空中へと持ち上げる。一連の展開に周囲が気付くことは無い。既に怪異へと変貌していたその男は、霊感の無い一般人には認識不可能だったためだ。
二人は信号の点滅し始めた交差点を渡り切り、空中に拘束した男を連れて人通りの多いその場を後にする。
「さて……こいつどこで殺そっかな。その辺の川原?」
「少なくとも人のいる場所はマズいよな」
「まぁ、しばらく適当に連れ歩いて、良い感じに物が多くて人の少ないところが見つかったらそこで始末ってことで。あたしに『死相』が出ないか見てろよ?」
「さっきからずと浮かびっぱなしだわ。めちゃくちゃ睨まれてんぞ」
「そりゃいきなりとっ捕まったら恨むだろ。ほらさっさか歩く」

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Tell us terrible Terrors:あけて その⑤

太陽が天頂に達する頃、ワゴンは山道を越えて小さな農村の入り口に停車した。スライドドアが開き、最初に潮が転げ出るように降車する。
「うげぇ……悪路過ぎぃ……」
「秋津さん、乗り物弱いのかい?」
後から降りてきた王蕗がその背中をさする。
「むしろ私以外の三半規管屈強過ぎない……?」
「まぁ……昔取った杵柄といいますか……慣れた道なんで……」
最後に降りた吉継が言う。
「僕は酔い止め飲んでたからねぇ」
王蕗も酔い止め薬の箱をポケットから出して答える。
「あっズルい! 帰りは私にも分けて!」
「了解」
助手席側の窓が開き、運転手の男が三人に声をかける。
「それじゃ、俺は少し下りた所で待機してるから、事が済むか手に負えないレベルで悪化したら、連絡してくれ。すぐ迎えに行くからよ」
「えー、おじさん一緒に戦ってくれないのー?」
潮が窓枠に掴まって口を尖らせる。
「俺は“語部”じゃねえの。怪異相手にゃ無力の一般人でしかないんだ、荒事は本職に任せるぜ」
「私らもアマなのに……」
「金貰って働く以上、お前らもプロさ。さあ頑張ってこい」
3人を置いて、ハイエース・ワゴンは元来た道を下りて木立の奥へと消えていった。
「……さて、やるかぁ」
王蕗が封印装備のオリコンを抱えて言う。
「っても何からする? “八尺様”ってこんな真昼間から出てくるの?」
潮が“霊火”のホルスターベルトを巻きながら問う。
「まずは探索拠点からかなぁ。いざって時の集合場所を決めておかないと。山の中だからスマホの電波が届くとも限らないし」
「あっ、それなら……」
吉継が手を挙げる。
「どうした永江くん」
「俺の祖母ちゃん家に行きませんか。祖母ちゃん今一人暮らしだから部屋余ってるし、場所的にも結構目立つ位置なんで」
「おー後輩の実家ぁ。見てみたーい」
「それじゃ永江くん、案内頼んだ」
「了解っす」
吉継の先導で、3人は村に足を踏み入れた。道中、道端に古びた人型の石像が目に留まる。
「おっ道祖神。お祈りでもしていく?」
「道祖神ってそういうものでしたっけ……」
「まぁ見守っていてくださいってことで」
3人は軽い会釈をしながら、道祖神の前を通り過ぎた。

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Tell us terrible Terrors:死にゆくお前に中指を! その②

人気の無い地下道に入ったところで、青年が口を開く。
「……今回のホシは」
「“アッチ側”に行っちゃったあたしらの先輩。残念だよなァ~」
「把握してんならさっさと動けよ……」
「やる気無いのに動くわけ無えだろ常識でもの言えよ。モチベ0で命なんか張れるかってんだ」
「俺らが動かなきゃ大勢死ぬんだぞ?」
「うるせえうるせえこんな声響く場所で言うことじゃねえだろTPO弁えろカス!」
「所構わず説教しなきゃならないこっちの身にもなれってんだ!」
「無能の世話しなきゃなんねえこっちの身にはなったのかよあァ!?」
男が足を止める。その気配に気づき、女性も立ち止まり正面から向き合った。
「……誰が『無能』だって?」
「あたしと組んだ奴で1人だって“有能”な奴なんざいなかった。だから全員死んだんだろうが」
「てめッ……! 失礼だとは思わねえのかよ……!」
「あいつらに口無しだバーカ。外ならぬバディのあたしの評価に外野から口出される覚え無ェんだよ」
「このッ……!」
その時、通信インカムに着信が入った。二人は同時に通信態勢に入る。
『“騒霊”、“二重身”、ターゲットを発見した。ヤツの現在地は――』
「……喧嘩は後だ後輩。さっさと行ってさっさと終わらせんぞ」
「分かってる」
“騒霊”と呼ばれた女性・茂木加奈と、“二重身”と呼ばれた青年・慈雲寺陸斗は、先ほどまでの口論が嘘であったかのように目つきを変え、歩き出した。
「おい後輩、“略霊”回し続けろ。『死相』が突然増え出したら敵前だ」
「言われるまでも無え」
今回二人が臨んでいる任務は、暴走した“語部”の討伐だ。陸斗の【ドッペルゲンガー】、その略霊能力は、対象の“死相”――『死に近づいている運命』を相貌として感知する。『暴走した“語部”』などという殺傷と破壊の権化が傍にいれば、死のリスクに近づいた事実が彼の目に掛かるのは明白だった。

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Tell us terrible Terrors:あけて その④

オリエンテーションから数日後の日曜日午前7時50分。養成校高等部校舎前に、3人は集合していた。
「おはようございます、秋津先輩、菅原先輩」
「よっす後輩くん~」
「おはよう永江くん。10分前行動とはしっかりしているねぇ」
「はい……で、ここで合ってますよね?」
「そだね~、8時出発って話だけど……車移動?」
「らしいね。“妖記廊”の人が車出してくれるってさ……と、噂をすれば」
エンジン音に3人が顔を上げると、1台の紺色のハイエース・ワゴンが最徐行で近づいてくるのが見えた。
「あのナンバー……うん、あれだね」
「おー、でっかい車だ~」
潮が先んじてワゴンに向けて駆け出し、後の二人も続く。停車したワゴンの運転席側の窓が開き、30代ほどの男性が顔を出した。
「お、全員揃ってるな。5分前集合とは感心感心。それじゃ、みんな後ろに乗りな」
3人が乗車してシートベルトを締めると、ワゴンはゆっくりと発進して校門を抜けた。
「さて、依頼内容については理解できてるかな?」
運転手の男が尋ねてくる。
「はーい、“八尺様”を倒す!」
「または封印する」
潮と王蕗の答えに、男は頷いた。
「そう。封印用装備については一番後ろのシートにオリコン(折り畳みコンテナ)があるだろ? そこに入ってるから。それから、全員分の“霊凛”と“霊火”もあるぞ。みんな講習は受けてるか?」
「もちろん!」「はい」
潮はサムズアップを示し、王蕗も首肯する。
「自分も行く前に受けとけって言われて受けました」
吉継も答えると、男は目を細めて頷いた。
「真面目な学生たちで何よりだ。目的地までは3時間くらいかかるから、好きに過ごしていてくれ」
車が赤信号で停止したタイミングで、王蕗は席から手を伸ばし、後部座席に載っていたオリコンを引き寄せた。
「おっ、流石王蕗先輩腕長~い」
「こういうところは背が高い強みだよねぇ」
王蕗はオリコンを膝に乗せると、封印装備を確認し始めた。潮はスマートフォンをいじりながら時間を潰し、吉継は再発進したワゴンの車窓から、流れる景色を眺めていた。

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Tell us terrible Terrors:あけて その③

教員はスクリーンを下ろし、プロジェクターを起動した。そこには依頼内容をまとめたスライドが映し出される。
「今回の事案は、県外某村への派遣依頼です。この中だと、おそらく君は知っていますね? 永江くん」
突然指名され、吉継は背筋を伸ばす。
「は、はいっ。俺の故郷っす」
「そうですね。土地勘のある君が参加してくれて、我々としても嬉しいですよ。さて本題ですが、皆さんにお願いしたいのは、準擬神格級怪異“八尺様”の討伐あるいは封印です」
“準擬神格級”――怪異存在の脅威度を測る指標段階の一つである。怪異存在の中でも強力で、一般人から畏怖と信仰を集める類の段階だ。これより上には、ほぼ神格存在と同列視されて伝えられる“擬神格級”がある。畢竟、“準擬神格級”は『上から二番目の強さ』なのである。
「“八尺様”はこの村で約470年前から存在が確認されている怪異存在であり、強力な妖力の持ち主です。しかし特殊な封印措置がされているようで、行動能力が大きく制限されています。そのため、皆さんでも十分に対処可能だと判断しました。幸いにも地元民の永江くんに経験豊富な秋津さん、専門的に学んでいる菅原くんが集まってくれたのですから、きっと解決できるでしょう。皆さんにはこの怪異の討伐または、より高度な封印措置を行ってほしいのです」
そこまで聞いて、王蕗が手を挙げた。
「はい菅原くん」
「“討伐”の方は良いとして……封印用の装備は?」
「それはこちらで用意しています。あとで菅原くんに預けておきますね。多分一番うまく使えるでしょうから」
「ってことは“道満式”か……? まぁ分かりました」
「ねー王蕗先輩、その“どーまん式”ってどういうやつなの?」
「えっと、雑に言うと『結界に閉じ込める』タイプの封印だね」
「はぇー。丁寧に言うと?」
潮と王蕗の会話が盛り上がりかけたところで、教員が手を叩いて制止する。
「話は後にしていただけると助かりまーす。続いて日程についてですが……」
その後、日程や持ち物、任務中の休校処理などについての説明が為され、オリエンテーションは30分ほどで終了した。

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Tell us terrible Terrors:あけて その②

吉継が会議室に入ると、並べられた長テーブルには既に一人、小柄な少女が着いていた。
「おっ生徒~。ってことは今回の“演習”の参加者?」
「あ、うん」
「よろしく~。私は秋津潮、高2だよ。気軽に潮先輩と呼んでくれぃ」
「えっ」
潮の自己紹介に、吉継は硬直する。男女で体格差があるとはいえ、ともすれば小学生にも見えるほど小柄な目の前の少女が、自分より年上とは考えつきもしなかったのだ。
「す、すいませんタメ口聞いて……永江吉継、1年です」
「気にすんなよぅ。ほれ座りな?」
「あっはい」
吉継がパイプ椅子の一つに腰掛けて間もなく、再び会議室の扉が開き、女性教員が入室してきた。
「あ、高校生組はもう来てますね」
「“高校生組”? ってことは中学生も誰かいるんです?」
潮の言葉に、教員は首を横に振った。
「もう一人は大学生の人ですよー。時間的にまだ講義があるのかな……」
その時、入り口扉がノックされた。
「あ、来ましたね。どうぞー」
扉が半分ほど開き、青年が顔を覗かせた。しかしその位置が異様に高い。扉の上枠に頭頂を擦るほどの高さに頭が浮いている。
「あの……? 入って良いですよ……?」
教員に勧められて、青年は半開きになった扉の隙間に身体を滑り込ませるようにして入室してきた。改めて現れた彼は、想定より遥かに長身であった。先ほどは身を屈めていたようで、背筋を伸ばすと身の丈は2mを越している。なるほど屈まなければ部屋に入るのもままならないわけだ。
青年を見た吉継と潮の感想は、まったく同じだった。
「「……長ぇ!」」
「……君ら仲良いね」
「あ、いや初対面っす……」「うんうん」
「そう……仲良くなれそうだね君ら。僕は菅原王蕗。よろしく」
二人と握手をして、王蕗もまたパイプ椅子の一つに腰掛け、窮屈そうに身体を丸める。
「それでは、本事案の参加者が全員集まったので、説明を始めますね」

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Tell us terrible Terrors:死にゆくお前に中指を! その①

駅前のゲームセンターからほくほく顔で出てきた女性が一人。所謂“地雷系”と呼ばれる出で立ちで、クレーンゲームで勝ち取ったのであろう巨大なクマのぬいぐるみを抱える姿は可愛らしいとさえ評されよう。そんな彼女の前に立ち塞がるのは、黒服姿の青年。
「……こんな所で何をしている?」
「あ? 見りゃ分かんでしょ、今日発売の『ててまるくん』巨大ぬいぐるみ取ってたのよ。500円で取れたんだかんね。あたし天才」
「……問い直そうか。『業務時間中に』『ゲームセンターで』何をしている?」
「……サボり?」
男は溜め息を吐き、口調に苛立ちを隠すことなく続けた。
「ふざけてんの?」
「うるっせェなァ~~~! 別に良いだろうがよどうせ時間は腐るほどあんだからァ~!」
「腐るほどは無ぇわ! 猶予がどれだけあるかも分かんねえんだぞ!」
「お前こそ業務絡みの内容不用意にくっちゃべてんじゃねェよクソガキがよォ~!」
「この程度で規定に引っかかるかよバーカ! テメェの勤務態度の方が万倍引っかかるわボケが!」
女性は答えず、手にしていた『ててまるくん』を青年に叩き付けた。
「あーやめやめ! お前と話すと喧嘩しか起きねェ!」
「そっちが真面目にやってりゃ起きるはずの無い喧嘩なんだよなぁ!」
「るっせ、先輩サマに説教なんざ1年早いんだよォ」
女性は肩にかけていたポシェットから通信インカムを取り出し、耳に装着した。
「あたしはあたしのペースでやっから良いんだよ別に。どーせお上は全部現場に任せるっきゃ無ぇんだからァ……」
二人は駅前のコインロッカーにぬいぐるみを押し込むと、その場を後にした。

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Tell us terrible Terrors:あけて その①

「これは、俺が生まれ故郷にいた頃の話なんだけどさぁ」
放課後の教室に、一人の男子生徒の囁くような声が響く。彼の周囲には、クラスメイトの男子生徒が数名。
「俺、県外出身で、山の中のド田舎の村で生まれたんだよね。小学校まではそこで育ってさ。中学上がるタイミングで親の転勤でこっち引っ越してきたのよ。で、村での話なんだけど、村に『めっちゃ背の高いお姉さん』がいたの」
「へぇー、どんくらい? 175? 180?」
クラスメイトの野次に、少年はニタリと笑う。
「推定2m以上」
「マジで!?」「やっば!」「それもう半分妖怪だろ!」「いやそれは2m級の女性に失礼やろ」
口々に盛り上がるクラスメイトたちを制止し、少年は話を続ける。
「で、そのお姉さん、俺が出かけるといつもいつの間にか付き纏ってたんだよね。身体がデカい分、とんでもない大股でさ、俺がどんだけ走っても引き離せねえの。で、そのお姉さん、『あけて、あけて』って言いながら俺のこと追いかけてきてたんだよね」
「何を開けるんだよ……」
「それが俺にも謎でさぁ。いろいろ試したよ? 目、口、ペットボトル、ノート、虫かご、ジッパー……でも、お姉さんが反応することは無かったんだよなぁ……」
「普通扉とかじゃねえの?」
「……その手があったか」
「え嘘本気で気付いてなかったん?」
「それでな。そのお姉さんの不思議なところが、お姉さんいつも、途中で追いかけるの止めちゃうんだよな。突然ぴたっと止まって、そこからじっと俺のこと見送ってくれんの」
「……ってのが、お前の『イマジナリー・フレンド』かー」
先ほどまでの怪談大会のような空気から一転、空気が一気に和らぐ。
「へぇ~、でも人型なの良いなー。俺のIF(イマジナリー・フレンド)なんかパンタグラフだぜパンタグラフ」
「電車の上に付いてるアレとお友達やってたお前の神経が信じられねえよ俺ァ」
「俺は黒猫だったからまだ普通だな」
能力者養成校の教室の一室で繰り広げられていたそれは、どうやら『自分のイマジナリー・フレンドについて語る会』だったようだ。
「やっべ、俺この後用事あるんだった。じゃあなみんな、楽しかったよ」
最後に語り役になった少年、永江吉継は鞄を手に取ると、急ぎ足で教室を後にした。