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回復魔法のご利用は適切に_6

平和なシオンの生活。それが少し変わったのは6月に入った最初の頃の話である。
「_ねぇ、知ってる?隣のクラスの…」
「ああ…いなくなったって話?」
そんな囁きが学校中で聞こえるようになった。
「シオンさんは、鏡の中の世界って信じてらっしゃる?」
「なんかすごい魔法使いだったらできそうだと思う!だから信じてるよ」
「そうですか…生徒が消えてく噂はご存知?」
「消える?」
「少し前のこと、三年生が二人であそこの踊り場を通りかかったそうですの。一人が一瞬目を逸らしたすきに、鏡の前にいたもう一人が消えた…と」
「ええ!?それほんと…?あっ、だからあそこ通れないんだ…」
「ただ…怖いものみたさで足を踏み入れる人が多く、行方不明が増えてますの」
「…リサちゃん…怖い?」
「……」
「大丈夫、私が守るよ」

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ロジカル・シンキング その⑥

「何かこう、『動けー』って念じたら動いてくれるんだけど……」
「それで動くなら全人類超能力者になってるでしょ」
「それもそっかー。……えっとねー、何と言ったら良いのか…………『魔力』? みたいなものをこう、浮かせたいものに込めてぇ……ほい、って」
ヘイローがテーブルの端に転がっていたシャープペンシルを指差すと、それは20㎝ほど空中に持ち上がり、数度回転してから再び机上に落ちた。
「えっと、上手く説明できなくてごめんね?」
「……………………」
ヒオは答えず、代わりに俯いて何かを考え込んでいた。
「ヒオちゃん? どうし」
ヒオの肩を揺すろうとした時、2人の間にヌイグルミが出現した。
『やァ、ヘイロー。どうしたんだい変身して』
「あれ、ヌイグルミ」
『そんな事より、また怪物が現れたンだ。君たちの出番だヨ、“魔法少女”』
「えぇっ⁉ わ、分かった」
『オペレートはしてあげよう』
「うんありがとう」
立ち上がろうとするヘイローの手を、ヒオが掴んで引き留める。
「ヒオちゃん?」
「私も連れて行って」
「え、分かった!」
ヒオを抱きかかえ、ヘイローは窓から飛び出した。

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ロジカル・シンキング その⑤

およそ30分後、フウリが持ってきた昼食を平らげてから、2人はインスタントのカフェオレを飲みながら食休みをした。
「……それで、ヒオちゃん」
「ん?」
「頭の中は整理できた?」
「……だいぶ」
「それは良かった。じゃあ聞かせてくれる?」
ヒオは頷き、姿勢を正してフウリをまっすぐ見つめ返した。
「フウリ。私の問題を解決するためには、フウリの協力が必要なの」
「ほうほう。何でもするよ」
「えっと……質問に答えてほしいの。『フウリがどうやって魔法を使っているのか』。光輪を操ったり、空を飛んだり、ものを浮かせたり、フウリはあれをどうやってるの?」
ヒオの質問に、フウリは困ったように頬を掻く。
「…………どう……とは?」
「言葉通りなんだけど……普段、魔法を使ってる時、どんな感じなのか。それを聞かせてほしいんだけど……」
「えぇー……困ったなー…………え、どう言えば良いんだろう……」
考え込みながら、フウリは徐ろに【ヘイロー】に変身した。
「どう……って言われてもなぁ……」
呟きながら、魔法によってマグカップの中のスプーンを浮遊させ、中身をかき混ぜる。
「えっと……『これ』を言葉にすれば良いんだよね?」
「そう」
「そうは言ってもなぁ……」

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ロジカル・シンキング その④

「……んー、ヒオちゃんは今でも、できることを頑張ってるじゃない。街の人たちの避難誘導とかさ」
「そりゃ、私だけ何もしないわけにはいかないでしょ。せっかく4人揃って、あの……何だっけ、『魔法少女』? とやらになれって言われてさ」
「あー、あのヌイグルミね」
「いや多分何かしらの動物だと思うけど……3人は魔法少女としてちゃんと変身してちゃんと戦ってるわけじゃん。それなのに私だけ、その……何もしないってのは…………」
「なに、仲間外れっぽくて寂しい?」
「いやそうじゃなくて……」
徐ろにフウリが立ち上がる。
「お昼にしよっか。お腹がいっぱいになれば考えもまとまるよ。用意してくるから、ここで待ってて。考えの整理でもしててよ」
「……うん」
フウリが退室した後、テーブルの上を片付けていたヒオがふとテーブルの上に目を戻すと、中央辺りに全高30㎝程度のぬいぐるみのような生き物が鎮座していた。ヒオはほぼ反射的にそれの頭部を掴み、床に叩きつける。
『…………アハハ、お転婆だなァ。痛いじゃないか』
「いきなり出てきて何の用? ヌイグルミ」
『おかしいなァ。名前は最初に教えてあげたはずなのに……まあそこはどうでも良くって。どうやら君1人変身できないのを気にしているようだから、何かアド痛い痛いイタイイタイイタイ』
ヌイグルミの頭部を掴むヒオの力が強まり、ヌイグルミは言葉を中断させられた。
『……まァ、どうやらこちらから言う事は何も無いみたいだけど』
「……は? どういう意味?」
『ヘイローが言っていただろう? 君には頼れる仲間がいる。まだ保護者の出る幕じゃァないってことサね』
いつの間にか拘束を抜け出していたヌイグルミは、再びテーブルの中央に戻ってからその姿を薄れさせ始めた。
『じゃァね。次会ったときには、君の悩みが解決していることを期待しているヨ』
ヒオがヌイグルミの頭部に向けて消しゴムを投げるのと、ヌイグルミが完全に消滅するのは、ほぼ同時だった。

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回復魔法のご利用は適切に_5

シオン、固有魔法が発覚してから二週間。
まるで当然のように、いつの間にか保健委員になっていた。
「せっかく昼休みですのに、一緒に遊べないなんてつまりませんわ」
「うーん…私も、勉強とかより外でいっぱい遊びたいタイプなんだけど…しょうがないよね」
エリザベスはシオンと話したいがために保健室に入り浸るようになった。あっという間にもう5月後半で、雨も増えてきた。
「シオンさんは、頭痛とかも治せますの?」
「原因にもよるけど…なんで?」
「私、雨の日は頭が痛くなりますの。今日は特に酷いものだから、できたら治していただければ…なんて」
エリザベスは途中から気まずそうに目を逸らした。小声で図々しいかしら、と呟いたのがシオンには聞こえた。
「気にしないで、治るかはわからないけど…やってみるよ」
…翌日、偏頭痛を治してもらったとエリザベスが話しまくったせいでシオンのあだ名がなぜか『看護師』となってしまった。

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ただの魔女 その②

3度、4度、5度目の撃破。すぐさま再生。粉微塵程度でどうにかできるような代物じゃあないよ。
「…………けど、いい加減見飽きたなぁ」
ゴーレムに斬りかかろうとする魔法少女を『指差す』。
魔女の指差しは呪術的攻撃力を持つ。魔力と呪詛はあの忌々しい“魔法少女”に真っ直ぐ飛んでいき、ヒット。
殴りかかるゴーレムに反撃しようとした瞬間、私の呪いが届いた。あの子の身体から急激に力が抜け、その場に膝をつく。こうなれば、私のゴーレムは確実に当てられる。
巨大で重厚な拳が見事に命中し、あの子は壁を数枚ほど破壊しながら吹っ飛んでいった。
「さあ行けゴーレムあいつを追って。死体の様子を確かめようか」
魔法少女でぶち破った穴から腕を突っ込ませて、民家の中を探らせる。変形させてできるだけ腕を伸ばさせているけど、どこに入り込んでしまったのかなかなか手応えが無い。
「…………いや」
違う。『見つからない』んじゃない。『既に移動している』んだ。
あのダメージで逃げ出したとは思えない。最低でも動けなくなるくらいの衝撃は与えたはずだから。となると…………。
『もう1人仲間がいて、その子に逃がしてもらった』
背後からの声。咄嗟に振り返ると、何かヌイグルミのような生き物が数m離れたところにちょこんと座っていた。
「誰?」
『君が戦っている魔法少女の上司みたいなものだヨ』
「へぇ」
『しかしまァ……驚いたなァ。君、こちらと無関係に魔法を使うなんて……君、その力を世界のために活か』
指差して呪詛でヌイグルミを撃ち抜く。
『……ひどい、なァ。いきなり……』
「失せろ悪魔が。『その枠』はもう埋まってるんだよ」
護衛用に手近に残していた小型のゴーレムを棘状に変化させ、ヌイグルミの頭部を撃ち貫く。確実に殺したと思ったけど、その姿はすぐに薄れて消えてしまった。どうやら仕留め損ねたみたいだ。

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ロジカル・シンキング その③

とある土曜日の朝、フウリの家のインターホンが鳴らされた。
「はいはーい、待ってたよー」
言いながら扉を開き、フウリは玄関前に立っていたヒオを迎え入れた。
「ありがとねぇ、勉強会に協力してくれて。理社でちょっと分からないところあってさぁ」
「良いよ。代わりに国語教えて」
「ヒオちゃん、別に教わるところ無さそうだけどねぇ?」
話しながら2人はフウリの自室に入り、そのまま3時間ほど、休憩を何度か挟みながら受験勉強を進めた。
「……もうこんな時間かぁ」
不意に、フウリが壁掛け時計を見て呟いた。
「こんなって……もう正午過ぎたのか」
「小休止にしようか」
「了解」
ノートや参考書を片付け、フウリはヒオの隣に座り直した。
「…………え、何?」
「んー? お悩み相談の続き?」
「………………もしかして、分かってた?」
「何が?」
「私がそれ目的だったこと」
「そりゃまあ、3ね……まだ2年ちょっとか、それだけ友達やってればねぇ。それで? ヒオちゃんの悩みってどんなことなの?」
「………………私だけ、『変身』出来ないことについて」

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ただの魔女 その①

粘土・土塊・石ころ・木の根・砕けた舗装のアスファルト。
混ぜてくっつけ捻くれさせて、出来上がりますは自慢のゴーレム。
“emeth”なんて弱点つけて自動化せずに、都度都度指揮るマニュアル操作。
跳んで走って暴れ回って、殴って壊して傷つけて。
こうして“悪事”を働いていれば……。
「…………そら来た」
この猛然たる風切り音。“悪者”を打ち倒さんとする正義の味方。華美な衣装に身を包み、派手な魔法で平和を守る、みんなの憧れ。
「“魔法少女”……!」
街の危機に颯爽と駆け付けた魔法少女は、私の創ったゴーレムを、光を纏った剣で一閃。
たった一撃でやっつけてしまった。周囲の一般市民からも歓声が上がり、彼女も笑顔で手を振って応える。
まさにスター。ヒーロー……ヒロイン? 街のアイドル。みんなが彼女に憧れて、みんながあの子を好いている。
「…………気に食わないなぁ」
ゴーレムに魔力を送り込む。崩れた身体は再び歪に引っ付いて立ち上がる。
ほらほら頑張れ正義の味方。街の脅威がまた立ち上がった。
彼女の剣がまた閃いて、今度は綺麗に3等分。
「その程度?」
再び修復されるゴーレム。どうせ私がいる限り、何回だって再生されるんだから。そろそろ気付かないものかね?

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日々鍛錬守護者倶楽部 その⑤

炎の鞭を伝って、サホも地上に降りてくる。
「良い追撃だったよ、サホ」
「うん。さて、怪物は……」
2人はぐったりとしていた怪物に目をやった。それはすぐに頭を上げ、周囲を見回した後に素早く立ち上がる。
「……結構タフじゃん?」
「結構ドカドカやってたのにねぇ……?」
突如、怪物が咆哮をあげた。2人が身構えていると、怪物は身を震わせ、背中から4対8本の追加腕と無数の棘を生やし、2人に相対した。
「……ねえサホ。何かアイツ、強くなってない?」
やや沈んだ声色で、タツタが言う。
「手負いの獣、ってやつかな?」
やや震えた声で、サホが答える。
「……ってことは」
タツタの口角が、邪悪に吊り上がる。
「アイツは今、絶体絶命ってことだ」
「あ、なるほどーポジティブ思考」
「それじゃ、『必殺技』と行こうじゃないの」
「りょーかーい」

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回復魔法のご利用は適切に_4

「そこの二人できたー?」
「あっ…レオン先生」
シオンの背後からレオンが覗き込んできた。レオンは魔法科の教師なのだが、いわゆるチャラ男っぽい様相である。シオンと名前が一文字違いだということで、この前ちょっと仲良くなった。
「私はコンロができましたわ」
「コンロかぁ〜リサちゃんコントロールはうまいけど全然魔力量ないね〜ほんと貧弱だ」
「んまっ!もっとオブラートに包めませんの?失礼ですわ」
エリザベスは怒って、何故かシオンの腕を引っ張った。
「痛いよリサちゃん…先生、私はお花なんだけど…ほら」
「あーうんうん…うん?なんかこれ、変化っていうか…普通に花咲いたね。あ、種出た」
「えっ」
「テストとしては普通に不合格だけど面白いじゃん?君の固有魔法は、『回復』だね」