8時15分、あなたが銃を突きつけてきたから 3時45分、今度は私が突きつける番ね
あの日、うみに浸したぼくの心は、もう真っ赤に染まってしまったよ。 あの日、みずに映したぼくの瞳は、もう真っ黒に濁ってしまったよ。 いつだって睡らないままで誤魔化していたのに、きみに。 かたちのない泪を噛み締めて、まぶた。
もし旅に出るとしたら、どんなものを持っていこうか。 財布、携帯、充電器、着替えの服、数日分の食べ物と飲み物、毛布。 それから、小さい頃からずっと一緒のぬいぐるみ。 全部リュックにつめて、持っていこう。 だけど、何も持っていかなくてもいいかもしれない。 ぬいぐるみには家で留守番をしててもらって、 行く先々でいろんなものを調達して。 荷物なんか持たないで、 自分の身ひとつだけで。 旅に出たい。
歴史はいつだって偶然の所産だときみが云う「なにかの弾み」でぼくはきのうライオンに食べられていたっておかしくはなかった。 (石鹸のにおい) 煙った町の西に暮れてしまった陽のかたちさえもう忘れたのは夜だから。はき出した水蒸気の(まだみえない)行方を目でなぞる。
おやすみを云ったら、きみともうことばを交わしてはいけないのかどうか 阪神高速で道に迷ったあの日からサヨナラについてずっと考えている。泣きながら電話をきった…きみの片目しか、ぼくは知らなかった。所詮はバカですよ?耳朶(みみたぶ)に口をつける方法をいつも探していた。身体がカタい癖に床を手のひらで触りたかった。おれうそつかない。
熱いシャワーの詩を描こうとして不意に戸惑う。ぼくの髪から滴ったしずくは、果たしてぼくのものなのかどうか… 瞼と云うものの脆弱さについてふと考える。どれだけ固く眼を瞑ったって、眩しいものは眩しいし痛いものはいたいのだ。きみには二度とわかるまい。おおきく息を吸って、お風呂にどぼんと漬かったぼくの体積がステンレスの浴槽に印される。明日の朝、目覚めるそのときまで何マイル?
ストーヴに火のはいっていない部屋にぽつり。朝のせたままのやかんがそっぽを向いたまま、ぼくのただいまのこだまだけを寄越すから、おかえりと云うきみはもういない。つめたい蛍光灯の灯りが瞬いて、なにかを映した一瞬の 影 のこと。
たとえばやかんを火にかけて、湯が沸くのをじっと待っている。 ひと粒ノコーヒーマメヲ粉粉に挽き潰して、きみは神様にだってなれたんだろう。「きっと云える」意味のないことばだけを並べたその場限りのインスタント・ラブをぼくだけにおしえて
何も写そうとしないその瞳。 染まることを知らなそうなその頰。 クールな君は、今さっき取り出したキレイな四角の氷。 そんな君の溶かし方を見つけたい。 まず、融点は何度? どんな熱を加えたら状態変化しだすの? それから、沸点は何度? 蒸発したら何が残るの? 再結晶したら君はどうなっちゃうの? 知りたいことがたくさんあるの! だから、今から実験させて?
オリオンのしたで襟を立てて 向こう岸に夜鳴きの通る町で ぼくは、ひとり。 海の、ほとり。 ただ、おやすみ。