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妄言

違います。違うんです。拒んでいるように思われるでしょう?それは事実そうなのですが・・・。僕があなたを拒むのは、あなたを受け入れたいと望んでいるから。分かります。あなたが分からないということが、僕にはよく分かります。それもこれも僕が、傷つくのを恐れるから。あなたは僕を傷つけます。いいえ、あなたが悪いと責める意味でなく、誰もが人を傷つけます。その意味で。僕はあまりに過敏なので、近づきたいと思うことに、これだけ苦しめられているのです。あなたに変に思われることを十分わかってそれでも、僕が打ち明けたのはもちろん、そうしなくては僕が身動きができないからです。こうしてあなたに距離を置かれなくては。拒みつつ与えるなんてこと、愛と呼べないでしょうから。けれどいまは、あなたに何となく敬遠され、距離をおかれていたほうが何倍も良かったかもしれないと、後悔もしているのです。ええ、幾分、悲劇の演者の歪んだカタルシスがあるかもしれません。そういってみせることに打算がないとも言えません。そう、そのことだって僕は言ってしまいます。そのことが僕の弱さの何よりの裏付けになるでしょう。本当は愛されなくても構わないのかもしれません。むしろ拒まれることを、僕の歪んだ内面性は望んでいるのかも。ああ、すみません。どんどん僕の一人芝居になって・・・。どうしたら・・・、どうしたら、よいのでしょうか?愛はほとんど病です。世界と関わる技術を持たぬ僕にとって。誰かを求めずにいられないということは。 

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雨だれ石を穿つ

サーッと音を立てて 窓の外は雨が降り始めた
しばらくするとポツリポツリ 雨だれが落ちるようになる
とがった屋根の先っぽで 膨らんだかと思うと そのまま落っこちて
石の上 すぐにはじけてしまう
水滴はそうやって 生まれては消えていく
何度も 何度も

水滴はとがった屋根の先端から 硬い石の表面まで
短い時間の間 何を考えているだろう
彼らはただ生まれては 何にも触れられることなく 
一直線に落ちて ただそれだけして消えていく
落ちる場所すら 最初から決まっている
ただ 同じ軌道の上を 同じ速さで 
何度も 何度も

一度くらい曲がってみたいと思うだろうか
それともこのまま何もなく 下まですうっと 落ちていきたいと思うだろうか
その短い間は 充実しているのだろうか
僕がいろいろな人やものに思うみたいに ちらりと僕のほうを見て
生まれ変わったらああなりたいとか なりたくないとか 思うだろうか

いろいろと考えて 感じて
水滴は水滴なりに 生きて 消えていくだろう
僕が最初 彼らに一種の憐れみを持ったことなど 実は大間違いで
彼らにとってその一生はとても意味深いものかもしれない

生きている価値なんて
自分で決めるもんさと うそぶいて
たくましく生きて
ああ良く生きた、生きてよかったと
そう言って死んでいくのかもしれない

雨が上がった

数日後 晴れ

石の表面には 深く 穴が刻まれていた