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バケーション

 就活、婚活、終活、部活などなど、人間というものは何かしら活動せずにはいられない生きもののようだ。
 生命体である以上、活動するのが宿命なんだけどね。
 まあ生命体じゃなくても粒子レベルでは活動してるんだけどね。
 そして宇宙は始まってやがて終わるんだね。
 さて、大型連休だというのに金がないためどこにも行けないわたくしはもっぱらアパートの一室で活動している。
 テレビを見る。
 文庫本を読む。
 ぶつぶつひとりごとを言う。
 ひとり、部屋に閉じこもっているとおのずと自分自身に意識を焦点化してしまう。疲れているときも同様のことが起こる。前頭葉の活動が低下してしまうからだ。
 今日はあまり焦点化しないなあ。
 ゆうべいいことあったからな。
 爪切ったら昼寝でもするか。
 
 就活、婚活、終活、部活などなど、人間というものは何かしら活動せずにはいられない生きもののようだ。
 生命体である以上、活動するのが宿命なんだけどね。
 まあ生命体じゃなくても粒子レベルでは活動してるんだけどね。
 そして宇宙は始まってやがて終わるんだね。
 さて、大型連休だというのに金がないためどこにも行けないわたくしはもっぱらアパートの一室で活動している。
 テレビを見る。
 文庫本を読む。
 ぶつぶつひとりごとを言う。
 ひとり、部屋に閉じこもっているとおのずと自分自身に意識を焦点化してしまう。疲れているときも同様のことが起こる。前頭葉の活動が低下してしまうからだ。
 今日はあまり焦点化しないなあ。
 おとといいいことあったからな。
 昼寝でもするか。
 
 
 
 

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 大型連休に入った。千本ノックのようなきつい労働からしばしの解放。頭がおかしくなりそうだった。ずっとネガティブな考えしか浮かんでこなかった。上を向くと、ポジティブになれると何かで読んだので、上を向いてみた。ちっともポジティブになれなかった。ポジティブになれる奴は、上を向くとすぐ脳への血流量が減るタイプなのだろうと思った。血流量の低下による痴呆状態をポジティブと錯覚しているだけなのだろうと。いまになって、額面通り受け取っていただけだったとわかる。上を向くというのは自己が上昇するイメージングをすることだったのだ。思考能力が完全に低下していた。ぼくは頭がおかしくなりそうだったのではなく、おかしくなっていたのだ。
 イメージングは、上手くいかなかった。嫌なことがずっと忘れられなかったからだ。ぼくは嫌なことが忘れられるというので有名な、神社に行くことにした。


「ちょっとあんた」
 露天の占い師の老女に声をかけられた。無視しようと思ったが立ち止まるしかなかった。なぜならバス停のすぐそばだったから。
「はい」
「嫌なことを忘れようとしてるだろ」
 ぼくは老女から目をそらした。べつに驚かなかった。例の神社行きのバスが停まる停留所なのだ。
「あんなとこお詣りしたって無駄だよ。だいたいね。嫌なことってのは忘れようとすればするほど忘れられなくなるものなんだ」
「……そんなことはわかってますよ。ご利益がなかったとしても、山の緑を見て、新鮮な空気を味わうだけでだいぶ気持ちが変わるでしょう」
 ぼくは目をそらしたまま、時刻表を指でなぞりながら言った。
「わたしが言いたいのはね。忘れようとするのは、明るく生きていこうとする気持ちがあるからだろ? だがそれはちがう。明るく生きてくためには嫌なことを忘れようとしちゃ駄目なんだ。明るく生きてくためには嫌なことと向き合わなきゃいけないんだよ」
 なんだか腑に落ちるようなところがあり、ぼくは顔を上げた。
 老女は、いなかった。露天も消えていた。けろけろと、蛙の鳴き声がどこかからきこえた。
 ぼくは来た道を戻り、駅前のビジネスホテルにチェックインした。部屋に入るとすぐベッドに横になり、目を閉じた。
 
 夕方、目覚めると、ぼくは蛙になっていた。