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どしゃぶりのバス停で 18(最終回)

「あの…」
「相葉さん…!?」
言おうと思うと口から言葉が出てこなかった。
でも、そんな私じゃない。
今の私は、そんなのじゃない。
「私は…何回も救われてきました!
一人で落ち込んでいる時、いつも助けてくれるのはあなたでした!
誰も気づいてくれなかったのに声をかけてくれたり、
あなたの小説を読むことによって、私は元気になりました。
あなたのおかげで、私は一人でくよくよ悩んで、夜遅くまで泣かなくなりました!
でも…また、くよくよと泣いている私に戻ってしまうところでした。
何も伝えずに、何も気づかないままあなたとさよならするところでした。」
言わなきゃ。
「ずーっと、ずーっと前から、好きでした!」
君は、ずっとこっちをみていた。
いつも笑顔を浮かべている顔も、今日は表情を吸い取られたみたいだった。
「あのさ」
「はい…」
「俺が別のところに行っても、ずっと俺の小説読んでくれる?」
「もちろん」
そして、笑顔を作って、言う。
わざとらしいのなんて、わかってるよ。
「永遠にファンだよ。西田そうたの正体を知ってるのは、私だけだしね。」
そう言うと、君は笑った。
「俺、大人になって、世界中で読まれるような小説を書く。世界中で存在が知られるでっかい作家になる。
そうなったら…俺、顔公開するから。でも、その前に…また、相葉さんのための小説を書いて、
必ず迎えに行くよ。」
この言葉が聞きたかった。
いや、こんな言葉、聞けるなんて思ったこともなかった。
うれしいけど、かなしい。
当分会えないのだろう。
でも、約束した。
また会える。
ちょっと待つだけだ。
私の初めてで、忘れられない恋は
まだ始まったばかりだ。

バスが来た。
あなたは少し笑って、
「待っててね」
と言った。

そうして、あなたは去って行った。
予定より15分遅いバスに乗って。

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どしゃぶりのバス停で 16

雨が降っている。
今日は、伊藤君が発つ日。
あの時もらった、『君への物語』。
そのあとがきを、気分を紛らわすために読む。
あっ。
「この短編集は、あるひとりの女の人への作品なんです」
「そろそろお別れしちゃうんです、でも、僕はその人が好きなんです」
「きっとその人は気づいていないんです。僕が西田そうただっていうことを」
「こういう時だけ、顔を非公開にしているのを後悔しますよね」…

西田そうたも、こんな気持ちになるのか
私と同じじゃないか。
自然に涙がでて来た。
もう会えないのか…お別れなのか…何も言えないまま。
何気無く見た目次のページ。
…あれ?
愛の証
命のトリック
馬車で追いかけて
三日月にさよなら
本当

あいのあかし
いのちのとりっく
ばしゃでおいかけて
みかづきにさよなら
ほんとう

そして

『君への物語』というタイトル。

…!

まさか…いや…
そういえば最初に伊藤君と西田そうたについて喋った時…
「あれ…?」
「ん?」
「…西田そうた、好きなの?」
「え、うん!!」
あのとき、何か様子がおかしかった。

そして、こないだまで、伊藤君の様子がおかしかったのは…それは…ただ単純に引越しが悲しかったからだけじゃない。
気づいてあげられなかったからだ。

そして西田そうたの作品から孤独が伝わってくるのは、友達ができてもすぐに引越しで分かれてしまう寂しさからじゃないか?

これが偶然だなんて思えない。

雨なんか、どうだっていい。今なら間に合う。走れ!!