そして彼女の口角があがるのを僕は見た。
「なんで僕と付き合ってくれたの?」
そう聞くと彼女は一瞥もくれずに、すんか、と言った。付き合って一年と半年になる日曜の昼下がりだ。
「すんか?」僕は聞き返す。すんか……寸暇? それとも何かと間違えてるのかな。す、す、す……すし……あーお寿司食べたい……じゃなくって!
「どういう意味?」
「メールで。変換ミスして」
聞くところによると、彼女を初めてデートに誘った時の僕のメールが、「もし良かったら今度一緒にご飯行きますんか」だったらしい。あんまり記憶にないけれど恥ずかしい。当時気付いていたら二度と顔も合わせられなかったくらいの恥ずかしさだ。ちなみに交際の申し込みを切り出せたのは、それから3ヶ月は経っていた気がする。
「じゃあそこで変換ミスしてなかったら付き合ってなかったの?」とこれは冗談だったのだけど、「うん」と真顔で彼女。
「ええぇ! そんな! 僕ってそこだけなの?!」
「でもそんなもんでしょ」
「そんなもん?」
「そんなもん」
強引にまるめこまれたような。釈然としないままごろんと体を床に投げ出す。この会話の流れなら今度は彼女があの質問をしてくるべきではないか。そう思ったけれど一向に彼女が口を開く気配がない。畜生、聞かなくたってお見通しだって? そりゃ確かに僕の方はベタ惚れだけどさ。悔しいから向こうが聞いてくるまでは黙ってやろう。そんな、報復になるのか分からない報復を試みる。
と、その時彼女がこちらを向いた。やっぱり? 参った? 僕は少し鼻高々に待ち構えた。
「好きよ」
勝者、彼女。