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落涙

  始

かなしいね

涙がこぼれていたはずなのに
それがどうしてなのかを忘れてしまうのは

やっぱり、かなしいね

そんな
  ”かなしい”
は空っぽで
なみだやあめが落ちないのも
やっぱりかなしいんだ

  中

いつまでも
いついつまでも
同じことで泣いていたいというのは
この願いは、神さま
どうして許されないのでしょうか

上を向かないと涙がこぼれてしまうのは
下を、後ろを向いてはいけないことの証左
そう、涙は
こぼしてはならないのです
ひとつひとつが足もとを濡らして
滑ってしまいますから
やがて
溺れてしまいますから
花がしおで枯れてしまいますでしょう

 終

かなしい”かなしみ”を
わたしは、神さま
忘れとうございません

かなしいならかなしいままで
いいじゃないか

痛みと、傷みと、わずかな過去さえあれば
わたし達は生きていけるのです
パンなどはいりません
一汁三菜もいりません
わずかな糧でくちびるを濡らせば
いまはそれで満足
わたしは痩せ衰えますが
それをして肥えているというのではありませんか

 留

涙が流れていれば
わたしの中で鮮血のように飛び散った悲劇を
その美しいさまを
そして僅かなあなたの愛憎を
こころに留めておくことができる
涙を犠牲にして

それでも人間は脆いことに
ニンゲンの”さが”で
きれいに洗い流してしまうから
それをかなしいと呼ぶのです
それを虚しいと呼ぶのです



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アナウンスメント

一応レス書き終わった……。
漏らしてるのあるかもしれないのであったらご連絡ください。全速力で駆けつけます。
今回レスを返したのはタグ付けされた作品とレスに書き込まれた作品ということになっています。「おや、これは……?」と思ったやつもありましたが、そういうことになるのでご了承ください。実はこの企画と全く関係なかった、とか言うこともあるかもしれないのでね……。僕は酷く臆病なのです。

ゲリラお題。
今までの他の人の企画と比べると極端に募集期間が短かったのですが(約一日!)、その点も含めてお楽しみいただけたでしょうか。
なぜゲリラなのかと申しますと、実は当初時間制限をかけるつもりはなくゆるい感じにしようと思っていました。しかし人集まらなかったらどうしようと思って一考した結果、時間制限をつけることで解決しようと……。ほら、あれです。タイムセールみたいなものです。テレビショッピングとか。
皆さんを時間で釣りました。汚い手使ってすみません。
実際にそれで参加人数増えたのかどうかは疑問符がつくところではありますが。
何はともあれ事前予告もないのに付き合っていただきありがとうございました。今後ともfLactorおよび月影:つきかげをよろしくお願いします。

またいろんな方が企画を画策中とのことで、そちらからも目が離せませんね!
(露骨な宣伝)

4

雨の中

「…」
日本の夏は結構雨が多い。地域によっては違うけど、最近は地域に限らず本当によく降る。俗にいう、『ゲリラ豪雨』ってやつである。
あいにく、今自分はゲリラ豪雨に遭っていた。残念ながら折りたたみの傘すらない。
家まではそれなりに距離がある。別に誰かの傘に入れてもらうことは最初から考えていない。―そもそも、そんな友達などいない。
だから濡れても構わない、と豪雨の中を歩いていた。
でもさすがに雨のせいで風邪をひくのは嫌だから、普段通らない公園を突っ切る近道ルートを歩いていた。
あたりはもう暗いけど、公園の街灯でわりと明るかったし、―これぐらい暗くても、十分あたりは見えるから、困らない。
こういう時ばかりは、こんな自分でよかったなとちょっとだけ笑えた。もちろん心の中で。
ただ夜目がきくんじゃない―暗くてもほぼ平気なのだ。でもこんなことができるのはこういう”人がいない”ところだけ。
そういうことを考えながらぼんやりと歩いていると、後方から人が走ってくる音が聞こえた。自分と同じように、傘を持っていないから濡れたくなくて走っているのだろう。
近付く足音を聞きながら、パーカーのフードを深くかぶりなおした。
足音が近づき自分を追い越す、そう思ったその時―
「―ほい」
不意に、後ろから呼び留められた。ちょっと振り向くと、そこには小柄な少女がいた。
「…」
少女は真顔で折りたたみの傘を突き出している。
「…使いな」
「…」
「遠慮はいらない。この通りこっちには傘あるし…明日回収するからさ」
少女はちょっと笑って自分が持つ傘を傾けた。
こういう時は受け取るべきなのか―困惑していると向こうからもう1つの足音が。
「おい、急に走り出すなよ… 誰こいつ」
少女の友達らしき、走ってきた少年がチラッとこちらを見た。
「誰だか知らない…でもかわいそうでしょ? 傘ないし」
少女はなぜか面白そうに笑った。
「まぁそうだな… てかお前、早く帰らないと親にまた怒られるぞ?」
「はいはい分かってます~ それじゃあね、ちゃんとそれ回収するから」
少女はこっちに傘をやや強引に押し付けると、向こうへと歩き出した。
「あ、おめ…じゃ、気を付けて…」
少年はこちらにちょっと会釈してから少女を追いかけた。
あの2人にも、自分と同じような匂いがした。

2

 引っ越しの荷ほどきを終え、近所を散策していると小さなジャズバーがあった。ジャズがそれほど好きというわけでもなかったが、ドアを開けた。動画配信サービスで見たラ・ラ・ランドの影響を無意識に受けていたのかもしれない。
 客の年齢層は高かった。だいたいみんな六〇がらみ。七〇年代、八〇年代に青春を過ごした世代。狭い店内に加齢臭が立ち込めている。テーブルに案内された。もちろん相席だ。総白髪の巨漢。こちらに頓着することなく、一眼レフをステージに向けている。隣のテーブルでは、夫婦らしきがジャズそっちのけで言い合いをしている。夫らしきが妻のよくない点を述べ、妻らしきがすかさず言い返す。妻らしきは脊髄反射的に言い返しているだけだから説得力がまったくないのだが、妻らしきのほうが優位だ。一対一の関係では、話の通じないほうが勝ちなのだ。
 こうした夫婦は鳩同様、平和で豊かな世のなかの象徴だ。貧しくて豊かになる展望のない世のなかでは、夫婦は協力し合うしかないからパートナーに対する不満を口にしたりはしない。不満を口にするということは少なくとも食べることには困らない世のなかに生きている証拠。協力なんてものは負の産物でしかない。
 二曲聴いてから会計し、店を出ると、高校時代につき合っていたCにそっくりな女の子が少し離れた所に立っていた。Cは日本育ちのベトナム人。大人になったら日本国籍になると言っていた。
 Cの娘、ということはない。ここは千葉県。わたしが育ったのは神奈川県だ。
 Cそっくりな女の子がわたしに向かって微笑んだ。突然、雨が降り出した。
 わたしはCそっくりな女の子に駆け寄り手をとった。すると、ふわり、宙に浮かんだ。わたしたちは雨に濡れながら抱き合い、くるくる回った。
 いつの間にか、空高く昇っていた。わたしとCそっくりな女の子は雲の上に腰かけ、歌った。もう雨に濡れる気づかいはない。