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対怪談逃避行4

「………どういうことですか?」
「君ねぇ、あんな化け物が、結末も分からぬまま野放しにされて、安心して生きていけるか?無理だろう?怪異に出会った際に注意すべき点の一つ、『怪異を存在させるのは恐怖と認識』だよ。びくびくしているばかりでは、奴はますます力をつけ、いずれは恐ろしい化け物……もうそうか。まあ、もっとヤバくなるかもなんだ」
「じゃあ、どうすれば!」
男が双眼鏡を指差しながら言う。
「それで見るんだ。君の家、ここから見える?多分、奴は今そこで、君を怖がらせようとしているはずだ」
私の住むアパートは、高台にある。ここから見ることは不可能じゃない。恐る恐る双眼鏡を覗いてみると、確かに居た。あの不気味な少年姿の何かが。部屋の戸を狂ったように手で叩いている。目が離せないでいると、急にキョロキョロし始めた。そして、私と目が合い、口角が吊り上がった。この双眼鏡の倍率の高さが憎らしくなる。『奴』が走り出した。明らかにこっちを目指している。
「あ……き、来て……」
「よし、じゃあ走るよ」
男が私の腕を掴み、立ち上がった。
「ほ、本当に行くんですか!?」
「勿論。多分あれは、道なりにしか進まない。だから、どんなに足が速くても少しは時間がかかる」
階段を降りながら男は私に説明してくる。
「あっちから来るんだよね?じゃあ、逃げるなら向こうだ」
男は団地の奥に向けて走っていった。私も後を追いかける。

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対怪談逃避行3

「……はあ?」
「ネットだとね、主人公は恐怖で部屋の中でガタガタ震えるしかできなかったのだよ。そいつが家まで来るが、扉をバンバン叩いて喚きまくって、それで主人公は気絶。朝になったら居なくなってた。そういうお話」
見た目通り頼りにならない男だ。話に付き合って損をした。今こうしているうちにも、奴はすぐ近くまで来ているかもしれないというのに。
拗ねたように外を見る私に、男が続けて話しかけてきた。
「まあまあ、でも、対処法の予測はついてるからさ」
「……それなら早く言ってくださいよ!どうやって倒すんですか!」
「倒す?そりゃ無理だ」
キョトンとした態度がまた腹立たしい。
「けど対処法はあるって……!」
「うん。けどこれは、飽くまで『やり過ごす』ための方法だからね」
「……じゃあ、どうするんですか?」
「簡単だ。夜通し逃げ続けるだけ」
今度という今度は、流石にブチ切れた。そんな私でも簡単に思い付くようなことが聞きたかったんじゃない。驚くほど自然に、男の胸ぐらを掴んで締め上げる。
「まあまあ。良いかい、怪異に出会った際に注意すべき点がいくつかある。一つ、『怪異に近付き過ぎてはいけない』、二つ、『怪異から遠ざかり過ぎてはいけない』、三つ、『物語は終わらせなければいけない』。まあ他にもあるんだけど、とにかく大事なのは、人の手で物語を終わらせることなんだよ」
話が全く見えてこない。とりあえず手は放す。
「これは飽くまで僕の考察なんだが、今回の怪異に関して、鍵となるのは『双眼鏡で見る』という行為だ。多分、これが奴の行動の鍵になってるんだ。生物学でいうところの『鍵刺激』。だから、『見る』。これが答えだ」

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対怪談逃避行2

『君の手にあるその双眼鏡。なかなかゴツくて倍率も高そうじゃないか。たぶん、真夜中くらいかな。君は部屋の窓かどこかから、その双眼鏡で街を見ていた。合ってる?』
その通りだ。そして……。
「そして、遠くを見ると、何か虫のようなものが見えた。何かと思ってよく見ると、明らかに人じゃない男の子が手を振りながらすごいスピードで走ってきてた。合ってる?」
「うわ、喋った」
「うん、面倒になってきてね」
「さいですか……。まあ、当たってます」
「やった。で、こっちに来てる。目もバッチリ合っちゃってる。奴の狙いは明らかに自分。それで家を飛び出して逃げてきたってわけか」
「……はい。なんで分かるんですか?」
「なに、ネットに似たホラーの小話があった、ただそれだけさ。まあ、あれを読んだことのある僕からすれば、夜中に双眼鏡で外を覗くなんて、絶対やりたくないけどね」
「………夜景を見ていた。ただそれだけだったんです」
「ふーん。やっぱりソレ使うと違うんだ。まあ問題はそこじゃない。『あれ』をどうやってやり過ごすかだ」
それを聞きたかった。思わず前のめりになって訊く。声はどうにか小さくできた。
「ど、どうすれば良いんですか?」
男は腕を組み目を瞑り、カッ、と目を開いて言った。
「まったく分からん」

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対怪談逃避行

時刻はおよそ午前2時。点滅する街灯が不気味に照らす仄暗い交差点を、安全確認もせず全力疾走で突っ切る。どうせ車など通らないのだから問題無い。
しばらく走ると、ある団地の一棟が目に入る。ちょうど良い。その階段を駆け上り、一階と二階の中間に座り込む。呼吸を整えながら外の様子を確認する。どうやら今のところ、追ってくる気配は無いようだ。
「……上手く撒けたかな。もうこれ以上追いかけてこなきゃ良いけど。しかし、こんな時間に来るとか、常識外れも良いところだよな」
「はい、そうですね……ッ!?」
叫び声を上げそうになるが、声の主が咄嗟に口を塞いでくれたので、どうにか堪えられた。
声の主は、私より少し歳上の、痩せた頼りない男だった。髪も髭もろくに手入れしておらず、季節と合わない、薄い古ぼけたロングコートを羽織った男。あまり一緒に居たくないタイプの奴だ。
一体誰なんだ、と目で問うと、男は懐からスマートフォンを取り出し、何やら打ち込んでから見せてきた。
『ただのオカルトマニアだ。よろしく』
口から手を離してくれたので、とりあえず会釈する。
『君が何に追われているのか当ててやろうか』
「わ……分かるんですか?」
小声で言い直す。
『分かる。いや、分からない。正体を問われると、憶測と出鱈目ばかりになりそうだ。けど、どの物語かは分かる』
どういうことだろう。

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つき (1)

ーねぇ、克紀。
うち、深調よ。
そのひとことが変に彼を狂わせた。
彼は"カツキ"でも、"ミツキ"でもない。
名前は…
「…龍樹…だよな」
彼…もとい龍樹は俯きながら何度も己の名を繰り返した。
確かめる様に。
そして、たかが夢と記憶から削ぎ落とした。
「はよ起きぃな、真月」
知らない声が呼ぶ知らない人の名に、龍樹は反応していた。
半ば本能的なものだった。
「あぁ…」
「もう、デート中に寝るとか最低〜笑
早く次、水族館!」
ああ、俺は真月か。
そして龍樹…もとい真月は面識のない彼女の手を取り歩き出した。
それからは覚えていない。
覚束ぬ足のせいで酷い事故に遭い、意識を失った。


「…あ」
それから12日経ち、龍樹は目覚めた。
そこは見たところ病院の様だ。
彼はだんだんに記憶を手繰り寄せる様に取り戻し、その矛盾に気付いた。

『ま つ き』

誰だ。
龍樹は己に入り込んだ何者かを認識した。
記憶をもう一度しっかり噛み締める。
真月は何回確かめても消えなかった。

「あ、目覚めましたか。」
男が入ってくる。
服装からして看護師だろうか。
「看護師の羽山です。貴方は事故に遭…」
「な、名前は」
声に嫌な既視感を覚えて名を尋ねる。

「羽山…まつき。
真実の真に月…ムーンの月ですが」

こいつだ。


こいつが、

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中年と犬#2

「……助けてもらってどうも」
 野良犬が頭を下げながらもごもごと言った。
「ほんとに感謝してる?」
「はい」
「いや、そんな感じしないなあ」
「してますよ」
「そうかあ?」
「してますって」
「またまた」
「してますしてます」
「嘘だあ」
「嘘じゃないって」
「そーお?」
「はい」
「じゃあ、証明してみせてよ」
 なるほど、そういうことか。野良犬は腹をくくった。 
「わかりました。おともしましょう。鬼退治に」
「そうこなくっちゃ。わたしの名前は太郎だ。よろしく」
 俺の名は、と野良犬は言いかけたが、どんな名前だったのか思い出せなかった。名前があったのかどうかもわからなかった。なのでかわりに、「きび団子は?」とたずねた。
「そこの茶店で、茶を飲みながら一緒に食おう」
 中年男、太郎はそうこたえて、あごをしゃくった。

    *

 図書館で本を数冊借りてはろくに読まずに返し、また数冊借りてはろくに読まずに返しを繰り返している。
 映画もそうだ。たまに無料動画配信サイトのおすすめなどを面白そうだと見始めるも、すぐに飽きてしまう。
 本にしても、映画にしても、有料であれば最後までつき合うのだろうが、そもそも金を払う気がない。
 なぜこのようなクールダウンを起こしてしまうのかというと、言うまでもない。ネットの弊害、情報に希少性がなくなった、に加え、年をとったからである。
 ネットの弊害というのはよくわからないけど、やっぱり年とるとそうなるんですね。嫌だなぁ。つまらない。なんて若者は言うかもしれない。そしてどこかに行ってしまおうとするかもしれない。が、待ちたまえ。そこが若者が若者たる所以。生きることはつまらないことなのだ。つまらないことを面白くしようとあがくみっともなさを自覚し、つまらなさを受け入れる強さを持たなければ未来は暗黒である。
 と、かようなことを考えながら近所のバーのカウンターで太郎は酒を飲んでいた。
 三十日ぶりのアルコール。ビールの中瓶を一本空けたが、気分の高揚はない。二本目を注文。三十日前の太郎だったら常連客の会話に割り込み、杯を重ね、ふらつきながら二軒目に行っていただろう。だがしかし、太郎は決心したのだ。日々を淡々と生きることを。

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リクエスト企画をやりたい!

世の中には、百や千の長文にも勝るたった一つの名言があるんじゃないかな、などと思うナニガシさんです。しかし、そんな名言を百や千集めても敵わないほどの名作だって、あっておかしくないかな、などとも思うのです。
単刀直入に言うと、他人様の書いた長編が読みたい!某人外がわちゃわちゃする長編シリーズも、某異能力者がわちゃわちゃする長編シリーズも、いつの間にか自然消滅。何となく物足りなさを感じていた頃に、テトモンよ永遠に!さんが主催した魔法譚。つい先日(つってももう去年の話な気がする)、遂に最後の魔法譚が無事完結し、僕は思ったわけですよ。「また長編書けるような企画を誰かやらないかなー」と。そんなら自分でやってしまおうかと、そういう結論に至ったわけで。
前置きはこのくらいにして、本題に入ります。
今回リクエストするお題は、「長編小説」。最低でも完結に2話以上かかる作品をください。この時、条件として、非現実の要素を作中に入れてほしいです。
ファンタジーでも都市伝説でも、「こんなん現実であり得ないでしょ」な恋愛でも、無駄にトリッキーな手口の殺人事件でも、非現実的なら何でも良いです。
参加してくださる親切で意欲的な方には、この書き込みに対するレスに一言書いてもらった上で作るか、タグに「長編小説」と書いて投稿してください。両方でも構いません。
何か質問があったらどうぞ。
ご協力いただけると、とても嬉しいです。どうぞ皆様、奮ってご参加ください。