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二人の囚人がいた。 その②

二人は糊口を凌ぎながら、遂に山麓へと辿り着いた。
星を見た囚人は、整備された山道に気付き、早く登ろうと言った。その言葉で、二人はこの山の安全性を理解することができた。
泥を見た囚人は、もう足が棒だから休もうと言った。その言葉で、二人は久方ぶりに足を止めて疲れを癒やすことができた。

二人が山道を進むと、中腹に小さな村があった。
星を見た囚人は、人形を売って得た金を見せた。村人たちは彼らの価値を理解した。
泥を見た囚人は、下げ慣れた頭を垂れてみせた。村人たちは彼らの礼節を理解した。

二人は一夜の宿を取り、明くる朝山頂を目指して歩き出した。
星を見た囚人は、先陣を切り前を向いて歩いた。その姿で、相方に希望と意志を分け与えた。
泥を見た囚人は、後続して下を向いて歩いた。その目で、相方に安全と道標を指し示した。

小さな二人の手は、山頂に至っても尚星々には遠く及ばなかった。
星を見た囚人は、そういうこともあると慰めた。
泥を見た囚人は、もっと高い山を探そうかと戯けてみせた。

二人の囚人がいた。
一人は泥を見た。星空を夢見る相方が隣にいたから。
一人は星を見た。足元を検める相方が隣にいたから。

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二人の囚人がいた。 その①

二人の囚人がいた。一人は泥を見た。一人は星を見た。
星を見た囚人は、いつかあの星を掴みに行こうと言った。その言葉は、二人の希望になった。
泥を見た囚人は、我々のいる場所はこんなにも汚く醜いと言った。その言葉で、二人は現実を見つめ続けることができた。

ある日、牢の錠が外れていた。
星を見た囚人は、今こそあの星を掴みに行こうと言った。その言葉で、二人は自由へ踏み出すことができた。
泥を見た囚人は、我々の行く道はこんなにも泥濘んでいると言った。その言葉で、二人は転ぶこと無く歩き続けられた。

二人は並んで荒野を歩き続けた。
星を見た囚人は、あの山に登れば星に手が届くやもと言った。その言葉で、二人は疲れた足を動かし続けることができた。
泥を見た囚人は、我々の行く道はこんなにも湿っていると言った。二人は泥水を漉して、少しだけ喉の渇きを癒やすことができた。

二人は泥濘の中に粘土を見つけた。
星を見た囚人は、素朴な素焼き人形を作り上げた。温かなその作品は、旅人の胸を打ち小金と交換された。
泥を見た囚人は、無骨な壺を焼き上げた。頑丈なその作品には、旅の荷物を収めることができた。

二人の行く道は、次第に固く乾いた土を纏いだした。
星を見た囚人は、空を暗雲が埋め尽くすのに気付いた。その発見は、二人の喉を潤す清潔な雨水の到来を示した。
泥を見た囚人は、しぶとく根を張る雑草の虫食いに気付いた。その発見は、昆虫と野草という僅かで明確な食料の存在を示した。

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フリー世界観:チェンジリング総伐令②

・魔術師(メイガス)
”バックファイア”のうち、魔術を得意とする者。対幻想戦闘においては重要戦力であると同時に、超科学的現象である魔術の研究のためにも協力している。

・幻想人(ファントム)
”バックファイア”のうち、『変身魔術』を得意とし、幻想生物の機能や戦術を組み込んで戦う者。対幻想戦闘においては秘密兵器ともいえる。
『姿を変える魔術』は、肉体への負荷やアイデンティティの崩壊のリスクがあり、相応の資質や経験が無ければ使いこなせない。里親である幻想存在たちも、愛する継子である人間に無理をさせたがらない傾向にある。だからこそ、”幻想人”として人類社会に帰還できたバックファイアは『変身』を完璧に操れる猛者のみであり、彼らの使う『変身』に”リスク”というものは存在しない。

・破妖軍(アンチ・スピリット・フォース)
通称『ASF』。対幻想存在戦闘を専任する軍隊。実戦部隊は通常兵器によって戦う『科学軍』と”バックファイア”を中心に構成された『精霊軍』で構成される。
基本的には科学軍が銃火器類や戦車などの圧倒的殲滅力をフル活用して戦い、強力な魔術を使う個体に対してのみ精霊軍が出動する。
幻想存在たちもまた、生命と肉体を持つ『生物』である。人類が『殺傷』のために発明改良を重ねてきた”武器・兵器”という存在は、幻想にさえ手が届き得る領域に達していたのである。

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フリー世界観:チェンジリング総伐令①

勝手に使って良い世界観を用意したので勝手に使ってどうぞ。

・極めて簡単なあらすじ
物語の舞台は現代。
人類は『チェンジリング(取り換え子)』の脅威に対抗するため、「チェンジリング総伐令」を発令し、叡智の結晶である武力と、チェンジリングから生還した子供たち”バックファイア”の力を集結した『破妖軍』を結成し、世界全勢力を挙げて幻想存在の討伐を開始した。

・チェンジリング総伐令
人間の子供を妖精と入れ替える”チェンジリング”に対抗するための法令。
人民が一体となってチェンジリング及び幻想生物の討伐に尽力する指針を示したもの。

・”チェンジリング”
「取り換え子」とも呼ばれる、世界各地で確認される現象。人間の赤子が妖精の子供に取り換えられる。
取り換えられた人間の子供は幻想存在たちの集会へ連れ去られ、その子を気に入った幻想存在が引き取って育てる。

・”バックファイア”
”チェンジリング”によって取り換えられた人間の子供のうち、人類社会に帰還した者を指す。多くの子供は里親となった幻想存在から「魔術」を教わり、幻想の力を得ている。その力を利用して『チェンジリング総伐令』に協力する。

・魔術
主に幻想存在が『魔力』と呼ばれる未知のエネルギーを使って行う魔法的技術。
幻想存在はこれを人間の子供に説明するに当たり、以下のように語る。
『たとえば、人魚が水中で呼吸をする。たとえば、クモが糸を張る。それは”身体機能”であって君たち人間には到底再現不可能な領域だ。しかし”魔術”は飽くまで「技術」。生命と知性ある我々にできて、君にできない道理は無い。』

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Specter children:人形遣いと水潜り その㉕

「私の腕?」
蒼依は天邪鬼が逃げ出してから気を失うまでの経緯を、冰華に説明した。
「えっ頭大丈夫⁉」
「言い方ぁ」
「良いから! ぶつけたところ見せて!」
「別に……この程度よくあることだし……」
言いながら、蒼依は濡れた前髪を掻き上げる。彼女の前頭部、やや左寄りの場所には、浅く抉れたような傷が残っていた。
「結構ひどい怪我じゃん!」
「だからこの程度平気だって……」
「平気ではないよ⁉ きちんと手当てしよう⁉」
「分かったよ……取り敢えず、冰華ちゃん家に戻らせてもらっても良い?」
「もちろん! 手当もちゃんとしなきゃだね」
冰華は川の方を向き、大声で呼びかける。
「それじゃあみんなー、鬼の死骸の処理、お願いできるー?」
その問いには、多くの泡沫や飛沫が応えた。
「よし、これで後始末もオッケー!」
「ありがとう。あっそうだ、私も人形回収しなきゃ」
蒼依が川に向けて手招きすると、水中から大きく広がった網状の物体が持ち上がった。
「わぁっ、それも人形が変形したやつなの?」
「そうそう」
気絶する寸前、蒼依が“奇混人形”に授けた命令は、『下流方向100mまで移動した後、網状に再変形して川を塞ぐこと』。水流に巻き込まれるように逃亡していた天邪鬼は、その網目に絡まったために不運にも水上に顔を出すことができず、呼吸不能の状態で川に潜む河童たちの襲撃を受けて絶命したのだった。更に、“奇混人形”の網は蒼依の手を離れた『冰華の腕』もまた、網目に絡め取られ、河童が回収することを可能としていたのである。
「……いやぁ……しかしまぁ」
歩き出しながら、蒼依は大きく伸びをし、小さな欠伸をした。
「どしたの蒼依ちゃん」
「……疲れた」
「お疲れ様。帰ったらお風呂入って、ご飯食べて、しっかり寝ようね」

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Specter children:人形遣いと水潜り その㉔

瞼の向こうに光を感じて、蒼依は意識を取り戻した。
「…………? 腹が、重い……?」
蒼依の視界に最初に入ったのは、彼女の腹部を膝で押している冰華の姿だった。彼女の両腕は、未だその肩から抜けたままである。
「……冰華ちゃん、何やってんの?」
「あ、蒼依ちゃん起きた。いやぁ、追いかけてきたら蒼依ちゃんが川に下半身突っ込んで動かなくなってたから、溺れたのかと思って水吐き出させてたの」
「もう平気だから退いて?」
「うん」
冰華が身体の上から退いたことで、蒼依も身体を起こす。周囲を見回すと、空は既に白み始めていた。
「もう朝か……」
「うん。……あ、あの鬼は⁉」
忙しなく身体を揺らしながら尋ねる冰華に、蒼依は立ち上がりながら答える。
「見に行こうか」

下流に向けて並んで歩いていると、川の途中に不自然に木片や木の葉などの浮遊物が滞留している地点があった。
「なるほど……あの辺か」
二人がその場所に近づくと、水面に小さなあぶくが浮かび、1体の河童が姿を現した。その手には、流されたはずの『冰華の腕』を掲げている。
「あっ、私の腕! ありがとー」
冰華が腕を肩に嵌め直している横で、蒼依は腰ほどまで川に踏み入り、水中を手探りし始めた。
「蒼依ちゃーん? 何してるのー?」
「んー……あ、いた」
蒼依が再び川から上がる。その手には、ぐったりと動かない天邪鬼を引きずっていた。
「死んでる?」
「脈は無かったよ。溺死かな。あるいは冰華ちゃんの腕が偶然掠ったか」

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Specter children:人形遣いと水潜り その㉓

天邪鬼を追って木立を抜けた先は、河原だった。
(この河原……冰華ちゃんが河童たちと会ってたあの川か! 気付かなかった……)
「……そんなことより!」
蒼依が下流方向に目をやると、天邪鬼の長い腕が浮き沈みしながら流されていくのが確認された。
(野郎……流れを使って逃げる気か!)
蒼依は四足獣化した“奇混人形”から降り、天邪鬼の流される方向に向けて駆け出した。更に手の中で“奇混人形”を短槍の形状に変化させ、投擲できるように構える。
「……いや。どうせなら」
蒼依は大きく跳躍し、そのまま川に飛び込んだ。同時に“奇混人形”をスイムフィンのような形状に変形させて自らの両脚に装着し、水を蹴って水中から追跡を再開した。
ただ藻掻き続けるだけの天邪鬼と、明確な意思を持って泳ぐ蒼依の距離は少しずつ縮んでいく。両者の距離が5mを切ったその時だった。
「ぐっ……ぁっ……⁉」
天邪鬼が水中で振り回していた右腕が、川辺に転がっていた倒木にぶつかった。更にその衝撃が倒木を動かし、水中へと転げ入ったうえ、タイミングよく蒼依に直撃したのだ。
そのダメージで蒼依は肺の中に残っていた空気をすべて吐き出してしまい、同時に緩んだ掌から『冰華の腕』がすり抜け、水流に浚われてしまった。
(クソッ、しくじった……武器が……冰華ちゃんの腕が……)
衝突の勢いで回転しながら、蒼依は天邪鬼と『腕』が流されていった方向を見やる。
(クソ……頭痛い……変に打ったか……? ……これ、私は追えないな)
蒼依は最後の力を振り絞って水面に浮かび上がり、どうにか息を吸い込む。そして――
「っ……冰華ちゃんの腕が持ってかれたァッ!」
掠れた声で叫び、態勢を崩して再び水底に沈んだ。
(もう駄目だ……『私には』追えない…………だから)
蒼依は薄れゆく意識の中、“奇混人形”を変形させ、魚のような形状で下流方向に送り出す。
(『友達』、なんでしょ……? 何とかしてよ、“河童”ども)
“奇混人形”の行動プログラムを設定し終えた蒼依は、酸欠によって完全に意識を喪失した。

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Specter children:人形遣いと水潜り その㉒

天邪鬼の爪に切り裂かれるより早く、冰華は腕を片側に伸ばして手近の木の幹を掴み、身体を引き寄せるように回避した。更にその慣性を利用して腕を完全に肩から引き抜き、素早く距離を取る。
「蒼依ちゃん、残しといたから!」
「助かる!」
蒼依は“奇混人形”を走らせ木の枝に掴まっていた『冰華の腕』を掴んだ。そのまま掌を天邪鬼に向けるように『腕』を突き出し、魂の奪取を狙う。天邪鬼は大きく身体を反らせて回避し、バランスを崩して倒れかけたところを尻尾で身体を支えることで持ち堪えた。
天邪鬼が身体を起こした次の瞬間、蒼依が突撃を仕掛けた。跳躍し、天邪鬼の角を掴み膝蹴りを喰らわせようとする。しかし、天邪鬼は上体を伏せるようにして躱し、尖った角の先端が蒼依の左上腕を掠める。
「っ……」
蒼依は左腕を背中に庇うように体を捩じりながら、天邪鬼の左肩を蹴って距離を取った。折れた腕に衝撃を受けたことで、天邪鬼は奇声をあげて右手を地面に付き、両脚と右手の合計三足で獣のように木々の間に逃げ込んだ。その退路を塞ごうと“奇混人形”が『冰華の腕』を叩きつけるが、天邪鬼は地面すれすれにまで身体を這わせ、その指先を回避する。
「逃げんなクソ鬼がぁっ!」
そう叫び、蒼依は即座に追跡を開始した。“奇混人形”が隣を並走しながら冰華の腕を蒼依に投げ渡し、自らは大型四足獣のような形状に変形する。蒼依はその背に飛び乗り、身を伏せながら後を追った。変形した人形の四肢の先端に生えた鉤爪が地面を掴み、みるみるうちに天邪鬼との距離を詰めていく。
(届く……ッ!)
至近距離まで追い縋り、蒼依は『冰華の腕』を振り抜いた。しかし、直撃の寸前で天邪鬼はバランスを崩し、地面を転げることで蒼依の攻撃は外れてしまった。
天邪鬼は慣性に従い、地面を転げながら前方へ前方へと進み続ける。
張り出した木の根に乗り上げたことで跳ね上げられた天邪鬼の身体は宙を舞い、木々の向こうで『水音』を立てながら落下した。

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Specter children:人形遣いと水潜り その㉑

全身を泥と出血に汚した鬼が、芋虫のように五体を蠢かせ、ふらふらと立ち上がる。
『おおおォォォ……グッ、うウゥゥゥ……! 逃げ……なくては……! 体力を……回復サセなくては……!』
呻き声をあげる鬼の両腕は力なく垂れ下がり、全身の傷からは止め処なく血液が噴き出している。
(……右腕は、ピクピク動いてる。多分まだ動かせるな。左腕は完全にイってる……それなら……)
刀剣を握り締め、蒼依は鬼に向けて駆け出した。刃の間合いに入る直前、鬼の右腕側――蒼依から見て左側に大きく踏み込み、鬼の顔が彼女に向いたのを確認したのと同時に次の一歩で大きく鬼の左手側――蒼依から見て右側に飛び込んだ。フェイントである。
(いける……!)
しかし刃が脇腹を捉える寸前、鬼は上体を前屈させ、『折れている左腕で』殴りつけたのだ。
「ぐッ……!」
蒼依は刀剣型だった“奇混人形”を人型に再変形させて、身体を支えさせる。
「……折れてたろ」
『ハアアァァァ? 一向に動かせるンダガァ?』
不自然な方向に曲がり青紫色に鬱血した左腕を、胴体を揺らす慣性によって振り回しながら、鬼は主張する。
「天邪鬼がよぉ……」
蒼依の呟きに、鬼の動きが止まった。
「……? ……おい、まさか」
『違ェぞ! 誰が天邪鬼なモンカ!』
「お前……鬼は鬼でも“天邪鬼”かよォ!」
“天邪鬼”は不意に蒼依に背中を向け、森の奥へと逃げ込もうと試みた。しかし、交戦中に背後に回っていた冰華が道を塞いでおり、退路が潰されている。
『退ケェ!』
「退かない!」
『なら退クナ!』
「退かない!」
『コノ餓鬼ガァ!』
天邪鬼は右腕を振り上げ、長く鋭い爪を冰華に向けて振り下ろした。