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Tell us terrible Terrors:のろい、まじない、きりはらい その⑤

「世の中知らないことだらけですねぇ……えっと、略霊能力の効果は……あぁー!」
「ん、どうした?」
「だからあの写真の顔、全然印象に残らないんだぁ! 目ぇ外した瞬間に何か記憶が朧ろげになると思ってたんですよねぇ~」
燿子の言葉に、清嘉も出力された記述を確認する。
「……はー、なるほどなぁ……むしろよく写真残せたよなぁ。っつーか写真でも効果発揮すんのかすげぇ能力だな……」
「わー、異聞能力もシンプルに攻撃力高いですねー。ま、情報はゲットできたんで。作戦立てていきましょっか」
燿子はタイプライターから手を離し、自身の略霊能力を終了させた。
「それで、どうしますかセンパイ? 現状唯一の手掛かりなこの写真、目を離した瞬間証拠能力失いますよ。私の能力で何とかします? あのタイプライター、キーすっごい重いからあんま使いたくないんですけど……センパイが言うなら無理しますよ?」
(なら別の道具使えば良いのに……)
清嘉はその指摘を飲み込んで答えた。
「いや、写真1枚あれば、位置掴むだけなら俺ができるよ」
「へぇ~、そういやセンパイの能力知らないですねぇ。何なんです?」
「あぁ、【メリーさん】だよ。おいで、“メリーさん”」
清嘉が虚空に呼びかけると、何も無かったはずの空間に突如、背丈60㎝程度の赤と黒を基調としたロリータ衣装の少女が現れた。
「わぁ可愛い~。ほっぺたモチモチしてる~」
燿子はその召喚体を抱き上げ、両頬をもちもちと弄り始めた。
「やめたげて……“メリーさん”、この写真の子のところに行ってくれるか?」
召喚体は清嘉を見上げて頷くと、燿子の腕の中から一瞬で姿を消した。
「あー……もっと愛でたかったです……」
「後でね? あと、もう見つけたよ」
「はっや。足立センパイってもしかして天才?」
「“メリーさん”がすごいんだよ……あ」
「どしたの」
「いや……ターゲットが移動してるっぽい……とりあえず追いかけようか」
「りょーかぃ」
二人は空き教室の状態を入室前と同等に片付けてから、学校を後にした。

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Tell us terrible Terrors:のろい、まじない、きりはらい その④

タイプライターのキーボードに両手の十指を置き、燿子は一度瞑目して息を吐き出し、再び目を開く。
「それじゃ、始めるんで……」
「うん」
「…………」
「…………」
「何してるんですか先輩。早く手ぇ出してください。10円玉には参加者全員が指を置かなきゃならないんですよ? 今回はタイプライターですけど……ほら、早く私の手に」
「え、お、おう」
清嘉は燿子の背後に回り、彼女の両手に自身のものを重ねた。
「離さないでくださいね? 危ないんで」
「りょ、了解」
「それじゃぁ……『コックリさんコックリさん、今回のターゲットである娘のプロフィールを教えてください』」
数秒の沈黙の後、蝋燭の火が小さく揺れ、燿子の十指がゆっくりと打鍵を始めた。
その運指は少しずつ速度を増していき、流れるように数行の文章を打ち出してから唐突に停止した。
「……出力完了っぽいですね」
「これ何語だ……? n,a,m,a,e……あ、これローマ字だ読みにくっ!」
「しょうがないですよぅ、ブツが英語のやつなんですから」
「うえー……これ素直に10円玉使ってた方が楽だったんじゃ……」
「文字として残ってくれた方がじっくり読めますからねぇ。どれどれ……名前はキヨセ・マナミちゃん。高校1年生の女の子。……ふーん、センパイ、この『よくいる場所』のこの地名ってどこでしょ? 私田舎者なんで、こっちの土地勘とか無いですよ」
「んー、電車で15分くらいかな」
「はぇー。んじゃ、センパイも何か質問してくださいよ」
「え、なんで?」
「当然でしょう。私はもう1回質問しちゃったんですから、次はセンパイの番ですよ。何か適当に質問してください。『コックリさん、コックリさん』って頭につけるんですよ」
「おう、えっと、じゃあ……あー……こ、『コックリさんコックリさん、キヨセさんの能力について教えてください』」
再び燿子の指がキーボード上を動く。
「どれどれ……じゃっく、ざ……」
「じょせ…………『ジャック・ザ・リッパー女性説』……? なんで『切り裂きジャック』じゃなく『女性説』……?」

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Tell us terrible Terrors:のろい、まじない、きりはらい その③

2人が校長室を出て最初に向かったのは、空き教室の一つだった。
「あーだちセンパーイ、あの写真もっかい見せてくださいよー」
「ん」
道中、清嘉に強請った燿子は差し出された写真を奪うように受け取ると、まじまじと眺めながら口を開く。
「……性格キツそうな面してますねー」
「そうかぁ?」
写真を返してもらい、清嘉も写真を再確認する。角度と被写体の様子からして隠し撮りされたものであろうそれに写る少女は、確かに敵対心を剥き出しにしたような鋭い目つきをしていた。
「……そうかも……?」
「もっかい写真見せてくださーい」
「また?」
「良いじゃないですかぁ」
「はいはい……」
やり取りをしながら、2人は校舎端の空き教室に入った。燿子がそのまま奥に進んで窓の鍵とカーテンを閉め切り、清嘉は入り口扉を施錠する。
「これで良いのか?」
「はいはいありがとございますセンパイ。んじゃ、こっち来てください」
「おう。で、何すんの?」
「決まってるじゃないですかー、情報収集ですよぅ」
そう言って燿子がリュックサックから取り出したのは、一台の手動式タイプライターだった。
「……パソコンですら無く?」
「やだなぁ、ググって出るものじゃないんですから……私の『能力』を使うんですよ」
「……タイプライターを使う怪異なんていたっけ……」
「元ネタだとちょっぴり違いますけどねー。ま、うちの子は結構融通利かせてくれるんで……」
燿子は使われていない机にタイプライターを起き、その奥に蝋燭を1本立てて火をつけた。
「さ、始めますよセンパイ。協力者いないとできないんですから」
「な、何を?」
「決まってるでしょ? “コックリさん”ですよ」

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Tell us terrible Terrors:のろい、まじない、きりはらい その②

「彼女は“八王子昆明学園”中等部から来てくださった……せっかくだから自己紹介してもらえるかな?」
「はーい」
校長の言葉に、少女は気の抜けた声で答えて立ち上がった。
「んぇー、初めましてー。“ダイサン”の中学2年生、野火止燿子でーすよろしくお願いしゃっす」
「あ、ども。俺は足立清嘉」
「足立センパイね、りょーかぃ」
燿子は軽く会釈を返し、清嘉の隣まで移動してきて校長のデスクに向き直った。
「さて……メンバーが揃ったところで、今回の事案について説明させてもらおう」
校長がデスクの上に滑らせるように置いた1枚のポラロイド写真を、2人は並んで覗き込む。そこに写っていたのは、清嘉と同年代程度であろう少女だった。
「その子が、今回のターゲットだ」
「……普通に人間っすね?」
「何、“語部”退治?」
「『退治』、という言い方は少し語弊があるな。強いていえば……『監視』といったところだろうか。彼女を発見し、動向を観察してほしい。そして、能力による危険行動を取っているようであれば、捕獲してほしい」
「捕獲て、そんな野生動物みたいな……」
「えーなんでですかー。このお姉さんどこの学校の人? “ダイニ”? 埼玉? そこに任せちゃえば良いのに……」
燿子の言葉に、校長はこめかみを押さえて溜め息を吐いた。
「彼女は養成校への入学を固辞したのだよ。そのせいで、野放しのような状態になっていてね……能力も厄介だから、できれば目の届く範囲に置いておきたいのだが……」
(養成校に編入するのって断れたんだ……)
清嘉はその言葉を飲み込んで、再び写真を確認する。
「まぁとにかく、この人見つけて勧誘しちゃえばいい感じですか?」
「それができれば一番いいが、具体的な方針は君たちに一任するよ。大人が出向くのが一番良いのだろうが……不用意に近づいて怪しまれても困るからな。初めての任務で不慣れだろうが、頑張ってほしい」
「「了解」」
燿子は一度ソファの方へ戻り、足元に置いていたリュックサックを拾って戻ってくる。
「んじゃ、行きましょセンパイ」
「ああ、うん」

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Tell us terrible Terrors:のろい、まじない、きりはらい

『生徒の呼び出しです。1年4組、足立清嘉さん。至急、校長室までお越しください』
放送スピーカーから流れた指示を、清嘉は忠実に実行した。放課後、未だ往来の激しい時間帯の廊下をやや急ぎ足で進み、校長室の扉をノックする。
「失礼しまーす、1年4組足立でーす」
『どうぞ』
引き戸を開けると、高等部校長は自席に着いて入室してきた清嘉を射貫くような眼で見返していた。
「それで、呼ばれたんで来たんすけど……」
「ああ、すまないね。この後部活や用事は無かったかな?」
「それは大丈夫ですけど……俺何かしちゃいましたっけ」
「いやいや、お説教の類じゃないんだよ。ただ、頼みごとがあってね」
「頼み?」
「ああ。“実習”に出てくれる気は無いかい?」
依頼実践演習――通称“実習”。高等部以上の生徒が受注可能な、人外存在や“語部”への対処依頼だ。『基本的には』、提示された依頼の中から希望者が選択して受注する段取りとなっている。
「やりますけど、実践演習って指名制あったんですね」
清嘉の言葉に、校長は渋い顔をしてみせた。
「基本的には生徒の自主性を尊重したいところなのだがねぇ……本事案に関してだけは、君たちが適任だと判断したのだよ」
「はぁ……え、“たち”? 俺以外に誰かいるんです?」
校長が応接スペースを指差す。清嘉が釣られてそちらに目をやると、3人掛けのソファの左隅に、セーラー服姿の小柄な少女が掛けていた。
(セーラー服……ってことは“ダイサン”の子か)
清嘉の通う能力者養成校は、東京都23区某所に建っている。東京に存在する3か所の能力者養成校のうち最古のものであり、学生間では俗に“ダイイチ”と呼ばれているものだ。それに対して少女の制服は、八王子市某所に位置する通称“ダイサン”のものだった。

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小説企画:Tell us terrible Terrors 設定⑦ サポート武具設定

・対怪異汎用武装
”語部”の戦闘を補助するための汎用装備。常に精神消耗と制御失敗による暴走のリスクがついて回る怪異の力を使わないため低リスクで、合法的に所持できる物品を模しているために携帯していても怪しまれにくいという強みがある。近接武装”霊凛”と、射程武装”霊火”の2種類がある。
本来は未成熟な10代以下の”語部”の戦闘時リスクを最小化するというコンセプトで開発されたものであり、能力者養成校で特別講習を受講し単位を取得した、中等部以上の生徒のみが必要に応じて貸与される。講習の受講は申請による希望制で、座学と実技の両方で構成される。
効果の発揮には装備者の生命エネルギーを消費するため、使い続けていると疲労感や倦怠感、空腹感を覚えることがある。単発ごとの消費量は軽微であり、即座に命に拘るような消耗にはならない。
これは”語部”のための汎用武装を作成するという初期コンセプトに対して、『各”語部”の扱う力は、異なる怪異存在に由来する別性質の霊的エネルギーであるため、共通機構で霊的攻撃を可能にすることが困難である』という問題に直面したためである。制作陣はこの問題を、『「すべての”語部”が共通して保有するエネルギー=人間の生物としての生命力」を原動力にする』というアプローチで解決した。

”霊凛”:競技用竹刀を模した武器。生命エネルギーによって竹刀の刀身部の強化が可能で、高い打撃力と耐久力を発揮する。
”霊火”:ビビッドカラーにペイントされた拳銃型BB弾用トイガンを模した武器。最大装弾数は12発。最大射程は20m程度。発射されたBB弾には怪異存在に対する特攻性が付与される。

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小説企画:Tell us terrible Terrors 設定③ ”語部”が能力を獲得するプロセス

あらゆる人間は、誰しもが”語部”になる可能性を秘めている。ここに特別な素養や適性は基本的には存在しない。
”語部”となるためには、巷説として虚空を漂っている怪異存在と接続し、彼らの力を留め取り込む必要がある。そのための”核”となるのが、『イマジナリーフレンド』と称されるような仮想人格である。幼少期の子供が産み出した”空想上の友人”に、”怪異の物語”が融け込むことで、能力の『種』のようなものとして定着する。イマジナリーフレンドへの介入判断及び対象選択権は完全に『怪異存在側』に依存しており、人間側から見れば完全な運の要素である。
そして怪異を取り込んだイマジナリーフレンドとの対話や交流を重ねることで、『種』もまた成長し、特殊能力として”語部”の心身に完全に帰属する。この時、”略霊”及び”異聞”の能力の効果と使い方は自然と頭と身体に刻み込まれる。この時点をもって『”語部”の誕生』となる。
本来人間を害するはずの怪異だが、『空想上の友人』という友好的存在を核とすることで辛うじて制御可能なものになり、交流を重ねて同期することでその者の武器として成長していくのである。
このようなプロセスを踏む必要があるため、『十分に明瞭なイマジナリーフレンドを生成する』『生み出したイマジナリーフレンドに運良く(あるいは運悪く)怪異が入り込む』『能力が覚醒するまでイマジナリーフレンドと決別しない』といった条件が積み重なって初めて”語部”となることができるのである。
ちなみに、能力として完全に定着した怪異存在は”核”となったイマジナリーフレンドとは別存在として独立するため、能力覚醒後にイマジナリーフレンドが消失した場合も、能力を失ったりはしない。

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小説企画:Tell us terrible Terrors 設定② 能力補足設定

能力使用難易度の目安
・”略霊”:ラジコンカーを手押しでコロコロ動かすようなもの。あまりにも安全で、容易で、そして加害のために使うにはあまりにも無力。
・”異聞”:乗用車を最高速度で走らせるようなもの。攻撃目的に使うには十分すぎるほど危険な能力。
・”剰霊”:チューンナップを盛りに盛ったF1レーシングカーを、『人類にギリギリ制御不可能な』速度で無理やりぶん回すようなもの。常人は疎か達人にすら満足には扱えず、よほどの異能か狂気が必要。
・”浄霊”:自動車の構造やコンセプト、構成原子一つ一つの挙動までも完全に理解し、身体の延長レベルで自然に、自在に操るようなもの。もはや単純な技量でどうこうできるような領域ではなく、『能力を操る』という精神で臨んでいるようでは決して到達できない。

能力段階と怪異の感覚
・”略霊”:怪異の力をほんの一部だけ借りる。
・”異聞”:怪異の力を完全に引き出す。
・”剰霊”:怪異が最もありたがる形で自由に暴れさせる。
・”浄霊”:怪異自身ですら気付いていなかった、『怪異自身が真にありたかった姿』を共に叶える。

能力段階の到達難易度
・”略霊”、”異聞”:”語部”なら誰でも使える。
・”剰霊”:理論上誰でも使えるが、暴走状態を乗りこなせなければ死ぬだけなので、実質的にほとんどの能力者には到達できない上位領域。使えるのはせいぜいが全体の1割程度。ちなみに使用後に自滅することを気にしなければ、実は誰でも使える。
・”浄霊”:ほとんどの能力者には到達できない領域。怪異のことを深く知るほど怪異に呑まれかねないので、結構リスキー。何なら知っただけでアウトな怪異とかもいるので、運の要素は非常に大きい。使えるのはせいぜいが全体の5%程度。
・”剰霊”、”浄霊”両方の習得:とても難しい。2つとも到達条件がまったく異なるため、片方ができてももう片方を(気分的に)怪異が許してくれないことが多い。両方使える”語部”は全体の1%にも満たない。

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小説企画:Tell us terrible Terrors  設定① 能力設定

・”語部”(テラー)
都市伝説の怪異の力を借りて戦う特殊能力者。能力名は『都市伝説及び怪異の名称』を冠し、該当怪異に由来する力を扱う。
同じ怪異の力を引き出す能力者が複数現れることもあり、同じ能力名でも、怪異のどの側面を強く現すかによって、能力内容も変化する。
能力の使用に具体的なコストは無いが、扱うものが本来極めて危険な”怪異”の力であるため、使用には集中力と精神力を消耗する。暴れ馬から振り落とされないように耐え続けるようなものである。強いていえば、『能力を扱えるほどの精神状態でなくなった時』がコスト切れに等しい。
能力には4つの段階がある。

・能力の四段階
①”略霊”:都市伝説の怪異の力を小規模に発言する簡易能力。簡単な現象を起こす程度のもので、殺傷力も低く戦闘面ではほぼ役に立たないものがほとんどだが、その分消耗も極めて少ない。
②”異聞”:基本能力。都市伝説の怪異の力を扱う。基本的に高い攻撃力を有する。
③”剰霊”:都市伝説の怪異の力を増幅させた強化能力。出力は極めて高いが、『怪異の力を意図的に暴走させる』というプロセスで実現するため、制御難易度が極めて高い。生半な実力では怪異の暴走に巻き込まれて自滅してしまうため、よほどの才覚が無ければ到達できない。
④”浄霊”:都市伝説の怪異を浄化することで、別次元に昇華させた強化能力。”剰霊”より出力では劣るものの、制御性に秀でる。『怪異の邪悪性の本質を理解することで、邪悪で凶暴な本質と機能を一切損なわず”善良なる存在”に昇華させる』という異常なメカニズムでようやく実現される能力段階であり、『善なる邪悪』という矛盾を成立させなければならないことから到達難度は”剰霊”以上に高い。また、怪異の中には『深く知ること』自体が危険なものも珍しくないため、それもまた到達難度に拍車をかけている。

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小説企画:Tell us terrible Terrors イントロダクション

時は現代、所は日本。怪異蔓延る世の中に、密かに生きる異能者たちの物語。
人々の囁き伝える恐怖の噂話が形を成した存在、それが『怪異』である。怪異たちは本能のままにその力を振るい、人々を恐怖に陥れていた。それらと戦う才をもつ唯一の存在が、“語部(テラー)”と呼ばれる特殊能力者たちである。
“語部”たちは、巷説の具現たる『都市伝説の怪異』の力をその身に下ろし、己の能力として操ることで怪異存在や既死存在たちを打ち祓う。
日常の裏側で繰り広げられる彼らの尽力によって、世間は今日も平和なひと時を享受しているのである。


といった感じの企画を用意したので、時間とやる気のある方は参加していただけると嬉しいです。詳細な設定はこの後どんどんぶん投げていくので、今回は企画要綱のみとなります。
この後出てくる設定を使って、好き勝手小説やポエムを書きましょう。大切なのは既存の世界に土足で踏み込む勇気。
開催期間は今年の9月末までです。何故なら大学生の夏休みは9月に差し掛かるから。
参加してくださる方は、タグに『Tell us terrible Terrors』または『TTT』と入れて投稿してください。略称の方だとスペルミスしなくて良いから楽だぞ。
皆さま奮ってご参加ください。また、設定に疑問などあればコメント欄にお願いします。

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世界の終わりと山姥少女 サンプルキャラクター①

名前:メルリーサン
身長:140㎝  外見年齢:11歳
保護人数:24人(中の下程度の規模)
鶏小屋:藁葺き屋根、円筒状の板壁
服装:砂色の粗末なローブ
説明:自分のことを『メル』と称するバーバ・ヤーガ。
頻繁に『箱庭』内部を訪れ、避難民の人々と交流している。保護している人数こそ少ないが、その分避難民全員と交流し、親交を深めている。
人間から『メル』『メルリー』『メルちゃん』『メルさん』などと愛称で呼ばれることが好きで、そうするように普段から呼びかけている。ただし『メルリーさん』呼びはフルネームで呼び捨てされているように聞こえて緊張してしまうので苦手。

外向きの魔法:【翼蛇】
皮膜翼の生えた漆黒の毒蛇を召喚・使役する。翼蛇の全長は40㎝~800㎝まで1㎝単位で調整可能。
翼蛇は飛行能力を有し、体当たり、締め付け、噛み付きなどの方法で攻撃できる。また、牙には強力な毒を持ち、毒液を塊状に吐き出すこともできる。
一度に召喚使役できる翼蛇の数は9体まで。
内向きの魔法:【麗羊】
ヒツジに似た生物を召喚する。麗羊は体長100㎝程度の若い成体の姿で現れ、最大で体長200㎝程度まで成長する。
麗羊からは良質な羊毛が採れ、肉と乳は美味で栄養に富む。
一度に召喚されるのは、固定で雌雄一頭ずつ。好き嫌いなく植物を食べて育ち、繁殖もする。また、人間に対して従順な態度を示す。
一度召喚された麗羊は術者の支配を完全に脱し、己の意思で生存・繁殖を行う。

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フリー世界観『世界の終わりと山姥少女』③

・”命負祭(めいおいさい)”
バーバ・ヤーガの魔法の威力は、『背負っている生命の数』と『作り出した幸福の数』に比例する。つまり、より多くの人間を自分の”鶏小屋”に保護し、彼らに幸福を齎すほど、バーバ・ヤーガは強力な魔女へと成長していくのだ。
そこで、普段は不規則に徘徊している”鶏小屋”が偶然にも別のバーバ・ヤーガのものと遭遇すると、この”命負祭”が始まる。
これは”鶏小屋”どうしの物理的な衝突から始まり、最終的には互いの魔法の撃ち合いにまで発展する1対1の戦闘行為からなる大掛かりな生態行動である。なお、その間どちらの”鶏小屋”内部にも、衝撃や振動、魔法ダメージなどの悪影響が降りかかることは無い。
勝敗は両者の合意によって決し、負けた側の住人のうちいくらか(相場は1~3割程度。協議次第では多くなったり少なくなったりも)は勝った側の”鶏小屋”に移住することになる。
また、この”命負祭”は住人にとっても不定期に訪れる興行・祭事のような扱いがされており、勝てば自分たちのバーバ・ヤーガが強くなる、負けてもより良いところに移住できる可能性があることから”命負祭”の度に住人たちは大いに盛り上がるため、勝敗に拘わらず”命負祭”直後はバーバ・ヤーガの力が一時的に大きく強化される。
元の由来は、自分より強いバーバ・ヤーガに住民を引き渡すことで、内部の人間を確実に保護しようとした、とあるバーバ・ヤーガのエピソードにある。由来となったバーバ・ヤーガは自分の”鶏小屋”の住人をすべて差し出そうとしていたようだが、住人の数がバーバ・ヤーガの力に直結すると判明してからは、住人を渡し過ぎないよう暗黙の了解が広まった。

・”保護避難民の規模”
避難民の人数によって、その”鶏小屋”の規模はおおよそ以下のように分かれる。
飽くまで『人数』を基準としたものであり、基礎出力や幸福度によってバーバ・ヤーガの強さは変動し得ることに注意が必要。
ちなみに保護避難民が100人を超えるバーバ・ヤーガはそこまで多くない。3桁到達者はかなり頑張っている。
上の上:80人~
上の中:70~79人
上の下:60~69人
中の上:50~59人
中の中:36~49人
中の下:22~35人
下の上:15~21人
下の中:8~14人
下の下:~7人

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フリー世界観『世界の終わりと山姥少女』②

・”バーバ・ヤーガの使う魔法”
バーバ・ヤーガが使う魔法は、大きく2つに分かれる。
一つは外敵を排するための『外向きの魔法』。
もう一つは、内部の住人を饗すための『内向きの魔法』。
基本的に前者は対象に危害を加えたり防御する戦闘のための能力であり、後者は対象に利益を与えたり『箱庭』や人間にとって有利に働きかける能力である。それぞれがどのような魔法になるのかは、個体ごとに異なる。
また、バーバ・ヤーガが魔法を使うためには、肉体の一部が自分の”鶏小屋”に接触している必要がある。バーバ・ヤーガとは『家を守ること』を至上命題とした生物であり、その力は「招かれざるものを排し、招き入れたものを饗す」ためのものなので、家との繋がりが切れれば魔法を使う意味も無くなるためだ。
1㎜でも離れれば魔法が使えなくなるし、布1枚隔てた状態でも駄目なので、バーバ・ヤーガには素足で活動している者が多い(足裏を着けていれば魔法発動条件を満たせるため)。

・”ルイニ”
”鶏小屋”内部は、広大な箱庭空間になっている。バーバ・ヤーガに保護された避難民が入るのは、この『箱庭』側である。しかし、バーバ・ヤーガだけは外見通りのあばら家の屋内空間に入ることができる。このあばら家の内部空間を”ルイニ”と呼ぶ。バーバ・ヤーガ専用の生活の場であり、”ルイニ”に入れるのはバーバ・ヤーガと、その”鶏小屋”を所有するバーバ・ヤーガに許可された者だけである。ちなみに、別の”鶏小屋”のバーバ・ヤーガも自由に他所の”ルイニ”に入れる。基本的にはバーバ・ヤーガ専用の空間なのである。

・”ストゥープカ”
細長い臼のような形状の乗り物。所有者であるバーバ・ヤーガが上に乗ることで浮上し、所有者の意思で自在に操作できる。普段は”ルイニ”の隅に置いてあり、外出の必要がある際はこれに乗って移動することが多い。”ストゥープカ”に乗っているバーバ・ヤーガは、それに接している間『外向きの魔法』のみ使うことができる。

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フリー世界観『世界の終わりと山姥少女』①

勝手に使って良い世界観を用意したので、使えそうな人は使ってどうぞ。

・世界観概要
約1000年前。ジーザス・クライストに続く新たな”救世主”の誕生によって、『西暦』で数えられる時代は終わりを告げた。
しかし、そんなのは些末な話。重要なのはそこから先のこと。
彼の者の奇蹟により、世界は”科学”の時代から”魔法”の時代へと移行を遂げた。愚かにも数千年積み重ねてきた科学を捨てきれなかった人類と異なり、新たな真理である魔法の力を最初に使いこなしたのは、本能と自然に忠実に生きる『動物』たちだった。
後に『魔獣』と呼ばれることになる、魔法の力を自在に操る彼らを前に、人類の抵抗はあまりにも無力だった。科学では理解の及ばぬ超常の力に、人類は滅亡するほか無かった――かに思われた。
だが実際はそうでは無い。
四つ足の”鶏小屋”を駆り、魔法の力を操る少女たち”バーバ・ヤーガ”。彼女たちの出現によって、人類は辛うじて生き延びることができたのだ。
人類は彼女らの操る”鶏小屋”に逃げ延び、魔獣の脅威から守られて日々を過ごしている。

・”バーバ・ヤーガ”
魔法の力を操る才能に長けた、人類から進化した新生物。どのように繁殖するのか、どこから現れるのかは不明。
少女の姿をしており、時間経過によって外見は変化せず、寿命も理論上は無限である。成長も老化も起きないため、外見と知能や精神年齢にギャップがあることも多い。
外見年齢は最低5歳相当、最高17歳相当の個体が現状確認されている最大範囲である。

・”鶏小屋”
バーバ・ヤーガたちが駆る建造物。細部に違いはあれど、基本的には木製の粗末な小屋に、4本の異常に長いニワトリの脚が生えている。それらの脚を作動して自由に歩行移動が可能。全高は脚部含め20~30m程度が平均。
また、外見に反して屋内空間は異常に広大であり、『屋内』というよりは『箱庭』のような様相である。内部には泉や森林、農地なども確認され、避難民が自給自足の生活を送ることも可能。上空は昼夜の移行や太陽・星も確認される。
内部空間のディテールも所有者のバーバ・ヤーガによって異なり、そのバーバ・ヤーガの心象風景を写しているのではないかとする説もある。

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二人の囚人がいた。 その②

二人は糊口を凌ぎながら、遂に山麓へと辿り着いた。
星を見た囚人は、整備された山道に気付き、早く登ろうと言った。その言葉で、二人はこの山の安全性を理解することができた。
泥を見た囚人は、もう足が棒だから休もうと言った。その言葉で、二人は久方ぶりに足を止めて疲れを癒やすことができた。

二人が山道を進むと、中腹に小さな村があった。
星を見た囚人は、人形を売って得た金を見せた。村人たちは彼らの価値を理解した。
泥を見た囚人は、下げ慣れた頭を垂れてみせた。村人たちは彼らの礼節を理解した。

二人は一夜の宿を取り、明くる朝山頂を目指して歩き出した。
星を見た囚人は、先陣を切り前を向いて歩いた。その姿で、相方に希望と意志を分け与えた。
泥を見た囚人は、後続して下を向いて歩いた。その目で、相方に安全と道標を指し示した。

小さな二人の手は、山頂に至っても尚星々には遠く及ばなかった。
星を見た囚人は、そういうこともあると慰めた。
泥を見た囚人は、もっと高い山を探そうかと戯けてみせた。

二人の囚人がいた。
一人は泥を見た。星空を夢見る相方が隣にいたから。
一人は星を見た。足元を検める相方が隣にいたから。

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二人の囚人がいた。 その①

二人の囚人がいた。一人は泥を見た。一人は星を見た。
星を見た囚人は、いつかあの星を掴みに行こうと言った。その言葉は、二人の希望になった。
泥を見た囚人は、我々のいる場所はこんなにも汚く醜いと言った。その言葉で、二人は現実を見つめ続けることができた。

ある日、牢の錠が外れていた。
星を見た囚人は、今こそあの星を掴みに行こうと言った。その言葉で、二人は自由へ踏み出すことができた。
泥を見た囚人は、我々の行く道はこんなにも泥濘んでいると言った。その言葉で、二人は転ぶこと無く歩き続けられた。

二人は並んで荒野を歩き続けた。
星を見た囚人は、あの山に登れば星に手が届くやもと言った。その言葉で、二人は疲れた足を動かし続けることができた。
泥を見た囚人は、我々の行く道はこんなにも湿っていると言った。二人は泥水を漉して、少しだけ喉の渇きを癒やすことができた。

二人は泥濘の中に粘土を見つけた。
星を見た囚人は、素朴な素焼き人形を作り上げた。温かなその作品は、旅人の胸を打ち小金と交換された。
泥を見た囚人は、無骨な壺を焼き上げた。頑丈なその作品には、旅の荷物を収めることができた。

二人の行く道は、次第に固く乾いた土を纏いだした。
星を見た囚人は、空を暗雲が埋め尽くすのに気付いた。その発見は、二人の喉を潤す清潔な雨水の到来を示した。
泥を見た囚人は、しぶとく根を張る雑草の虫食いに気付いた。その発見は、昆虫と野草という僅かで明確な食料の存在を示した。

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フリー世界観:チェンジリング総伐令②

・魔術師(メイガス)
”バックファイア”のうち、魔術を得意とする者。対幻想戦闘においては重要戦力であると同時に、超科学的現象である魔術の研究のためにも協力している。

・幻想人(ファントム)
”バックファイア”のうち、『変身魔術』を得意とし、幻想生物の機能や戦術を組み込んで戦う者。対幻想戦闘においては秘密兵器ともいえる。
『姿を変える魔術』は、肉体への負荷やアイデンティティの崩壊のリスクがあり、相応の資質や経験が無ければ使いこなせない。里親である幻想存在たちも、愛する継子である人間に無理をさせたがらない傾向にある。だからこそ、”幻想人”として人類社会に帰還できたバックファイアは『変身』を完璧に操れる猛者のみであり、彼らの使う『変身』に”リスク”というものは存在しない。

・破妖軍(アンチ・スピリット・フォース)
通称『ASF』。対幻想存在戦闘を専任する軍隊。実戦部隊は通常兵器によって戦う『科学軍』と”バックファイア”を中心に構成された『精霊軍』で構成される。
基本的には科学軍が銃火器類や戦車などの圧倒的殲滅力をフル活用して戦い、強力な魔術を使う個体に対してのみ精霊軍が出動する。
幻想存在たちもまた、生命と肉体を持つ『生物』である。人類が『殺傷』のために発明改良を重ねてきた”武器・兵器”という存在は、幻想にさえ手が届き得る領域に達していたのである。

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フリー世界観:チェンジリング総伐令①

勝手に使って良い世界観を用意したので勝手に使ってどうぞ。

・極めて簡単なあらすじ
物語の舞台は現代。
人類は『チェンジリング(取り換え子)』の脅威に対抗するため、「チェンジリング総伐令」を発令し、叡智の結晶である武力と、チェンジリングから生還した子供たち”バックファイア”の力を集結した『破妖軍』を結成し、世界全勢力を挙げて幻想存在の討伐を開始した。

・チェンジリング総伐令
人間の子供を妖精と入れ替える”チェンジリング”に対抗するための法令。
人民が一体となってチェンジリング及び幻想生物の討伐に尽力する指針を示したもの。

・”チェンジリング”
「取り換え子」とも呼ばれる、世界各地で確認される現象。人間の赤子が妖精の子供に取り換えられる。
取り換えられた人間の子供は幻想存在たちの集会へ連れ去られ、その子を気に入った幻想存在が引き取って育てる。

・”バックファイア”
”チェンジリング”によって取り換えられた人間の子供のうち、人類社会に帰還した者を指す。多くの子供は里親となった幻想存在から「魔術」を教わり、幻想の力を得ている。その力を利用して『チェンジリング総伐令』に協力する。

・魔術
主に幻想存在が『魔力』と呼ばれる未知のエネルギーを使って行う魔法的技術。
幻想存在はこれを人間の子供に説明するに当たり、以下のように語る。
『たとえば、人魚が水中で呼吸をする。たとえば、クモが糸を張る。それは”身体機能”であって君たち人間には到底再現不可能な領域だ。しかし”魔術”は飽くまで「技術」。生命と知性ある我々にできて、君にできない道理は無い。』

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Specter children:人形遣いと水潜り その㉕

「私の腕?」
蒼依は天邪鬼が逃げ出してから気を失うまでの経緯を、冰華に説明した。
「えっ頭大丈夫⁉」
「言い方ぁ」
「良いから! ぶつけたところ見せて!」
「別に……この程度よくあることだし……」
言いながら、蒼依は濡れた前髪を掻き上げる。彼女の前頭部、やや左寄りの場所には、浅く抉れたような傷が残っていた。
「結構ひどい怪我じゃん!」
「だからこの程度平気だって……」
「平気ではないよ⁉ きちんと手当てしよう⁉」
「分かったよ……取り敢えず、冰華ちゃん家に戻らせてもらっても良い?」
「もちろん! 手当もちゃんとしなきゃだね」
冰華は川の方を向き、大声で呼びかける。
「それじゃあみんなー、鬼の死骸の処理、お願いできるー?」
その問いには、多くの泡沫や飛沫が応えた。
「よし、これで後始末もオッケー!」
「ありがとう。あっそうだ、私も人形回収しなきゃ」
蒼依が川に向けて手招きすると、水中から大きく広がった網状の物体が持ち上がった。
「わぁっ、それも人形が変形したやつなの?」
「そうそう」
気絶する寸前、蒼依が“奇混人形”に授けた命令は、『下流方向100mまで移動した後、網状に再変形して川を塞ぐこと』。水流に巻き込まれるように逃亡していた天邪鬼は、その網目に絡まったために不運にも水上に顔を出すことができず、呼吸不能の状態で川に潜む河童たちの襲撃を受けて絶命したのだった。更に、“奇混人形”の網は蒼依の手を離れた『冰華の腕』もまた、網目に絡め取られ、河童が回収することを可能としていたのである。
「……いやぁ……しかしまぁ」
歩き出しながら、蒼依は大きく伸びをし、小さな欠伸をした。
「どしたの蒼依ちゃん」
「……疲れた」
「お疲れ様。帰ったらお風呂入って、ご飯食べて、しっかり寝ようね」

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Specter children:人形遣いと水潜り その㉔

瞼の向こうに光を感じて、蒼依は意識を取り戻した。
「…………? 腹が、重い……?」
蒼依の視界に最初に入ったのは、彼女の腹部を膝で押している冰華の姿だった。彼女の両腕は、未だその肩から抜けたままである。
「……冰華ちゃん、何やってんの?」
「あ、蒼依ちゃん起きた。いやぁ、追いかけてきたら蒼依ちゃんが川に下半身突っ込んで動かなくなってたから、溺れたのかと思って水吐き出させてたの」
「もう平気だから退いて?」
「うん」
冰華が身体の上から退いたことで、蒼依も身体を起こす。周囲を見回すと、空は既に白み始めていた。
「もう朝か……」
「うん。……あ、あの鬼は⁉」
忙しなく身体を揺らしながら尋ねる冰華に、蒼依は立ち上がりながら答える。
「見に行こうか」

下流に向けて並んで歩いていると、川の途中に不自然に木片や木の葉などの浮遊物が滞留している地点があった。
「なるほど……あの辺か」
二人がその場所に近づくと、水面に小さなあぶくが浮かび、1体の河童が姿を現した。その手には、流されたはずの『冰華の腕』を掲げている。
「あっ、私の腕! ありがとー」
冰華が腕を肩に嵌め直している横で、蒼依は腰ほどまで川に踏み入り、水中を手探りし始めた。
「蒼依ちゃーん? 何してるのー?」
「んー……あ、いた」
蒼依が再び川から上がる。その手には、ぐったりと動かない天邪鬼を引きずっていた。
「死んでる?」
「脈は無かったよ。溺死かな。あるいは冰華ちゃんの腕が偶然掠ったか」

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Specter children:人形遣いと水潜り その㉓

天邪鬼を追って木立を抜けた先は、河原だった。
(この河原……冰華ちゃんが河童たちと会ってたあの川か! 気付かなかった……)
「……そんなことより!」
蒼依が下流方向に目をやると、天邪鬼の長い腕が浮き沈みしながら流されていくのが確認された。
(野郎……流れを使って逃げる気か!)
蒼依は四足獣化した“奇混人形”から降り、天邪鬼の流される方向に向けて駆け出した。更に手の中で“奇混人形”を短槍の形状に変化させ、投擲できるように構える。
「……いや。どうせなら」
蒼依は大きく跳躍し、そのまま川に飛び込んだ。同時に“奇混人形”をスイムフィンのような形状に変形させて自らの両脚に装着し、水を蹴って水中から追跡を再開した。
ただ藻掻き続けるだけの天邪鬼と、明確な意思を持って泳ぐ蒼依の距離は少しずつ縮んでいく。両者の距離が5mを切ったその時だった。
「ぐっ……ぁっ……⁉」
天邪鬼が水中で振り回していた右腕が、川辺に転がっていた倒木にぶつかった。更にその衝撃が倒木を動かし、水中へと転げ入ったうえ、タイミングよく蒼依に直撃したのだ。
そのダメージで蒼依は肺の中に残っていた空気をすべて吐き出してしまい、同時に緩んだ掌から『冰華の腕』がすり抜け、水流に浚われてしまった。
(クソッ、しくじった……武器が……冰華ちゃんの腕が……)
衝突の勢いで回転しながら、蒼依は天邪鬼と『腕』が流されていった方向を見やる。
(クソ……頭痛い……変に打ったか……? ……これ、私は追えないな)
蒼依は最後の力を振り絞って水面に浮かび上がり、どうにか息を吸い込む。そして――
「っ……冰華ちゃんの腕が持ってかれたァッ!」
掠れた声で叫び、態勢を崩して再び水底に沈んだ。
(もう駄目だ……『私には』追えない…………だから)
蒼依は薄れゆく意識の中、“奇混人形”を変形させ、魚のような形状で下流方向に送り出す。
(『友達』、なんでしょ……? 何とかしてよ、“河童”ども)
“奇混人形”の行動プログラムを設定し終えた蒼依は、酸欠によって完全に意識を喪失した。

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Specter children:人形遣いと水潜り その㉒

天邪鬼の爪に切り裂かれるより早く、冰華は腕を片側に伸ばして手近の木の幹を掴み、身体を引き寄せるように回避した。更にその慣性を利用して腕を完全に肩から引き抜き、素早く距離を取る。
「蒼依ちゃん、残しといたから!」
「助かる!」
蒼依は“奇混人形”を走らせ木の枝に掴まっていた『冰華の腕』を掴んだ。そのまま掌を天邪鬼に向けるように『腕』を突き出し、魂の奪取を狙う。天邪鬼は大きく身体を反らせて回避し、バランスを崩して倒れかけたところを尻尾で身体を支えることで持ち堪えた。
天邪鬼が身体を起こした次の瞬間、蒼依が突撃を仕掛けた。跳躍し、天邪鬼の角を掴み膝蹴りを喰らわせようとする。しかし、天邪鬼は上体を伏せるようにして躱し、尖った角の先端が蒼依の左上腕を掠める。
「っ……」
蒼依は左腕を背中に庇うように体を捩じりながら、天邪鬼の左肩を蹴って距離を取った。折れた腕に衝撃を受けたことで、天邪鬼は奇声をあげて右手を地面に付き、両脚と右手の合計三足で獣のように木々の間に逃げ込んだ。その退路を塞ごうと“奇混人形”が『冰華の腕』を叩きつけるが、天邪鬼は地面すれすれにまで身体を這わせ、その指先を回避する。
「逃げんなクソ鬼がぁっ!」
そう叫び、蒼依は即座に追跡を開始した。“奇混人形”が隣を並走しながら冰華の腕を蒼依に投げ渡し、自らは大型四足獣のような形状に変形する。蒼依はその背に飛び乗り、身を伏せながら後を追った。変形した人形の四肢の先端に生えた鉤爪が地面を掴み、みるみるうちに天邪鬼との距離を詰めていく。
(届く……ッ!)
至近距離まで追い縋り、蒼依は『冰華の腕』を振り抜いた。しかし、直撃の寸前で天邪鬼はバランスを崩し、地面を転げることで蒼依の攻撃は外れてしまった。
天邪鬼は慣性に従い、地面を転げながら前方へ前方へと進み続ける。
張り出した木の根に乗り上げたことで跳ね上げられた天邪鬼の身体は宙を舞い、木々の向こうで『水音』を立てながら落下した。

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Specter children:人形遣いと水潜り その㉑

全身を泥と出血に汚した鬼が、芋虫のように五体を蠢かせ、ふらふらと立ち上がる。
『おおおォォォ……グッ、うウゥゥゥ……! 逃げ……なくては……! 体力を……回復サセなくては……!』
呻き声をあげる鬼の両腕は力なく垂れ下がり、全身の傷からは止め処なく血液が噴き出している。
(……右腕は、ピクピク動いてる。多分まだ動かせるな。左腕は完全にイってる……それなら……)
刀剣を握り締め、蒼依は鬼に向けて駆け出した。刃の間合いに入る直前、鬼の右腕側――蒼依から見て左側に大きく踏み込み、鬼の顔が彼女に向いたのを確認したのと同時に次の一歩で大きく鬼の左手側――蒼依から見て右側に飛び込んだ。フェイントである。
(いける……!)
しかし刃が脇腹を捉える寸前、鬼は上体を前屈させ、『折れている左腕で』殴りつけたのだ。
「ぐッ……!」
蒼依は刀剣型だった“奇混人形”を人型に再変形させて、身体を支えさせる。
「……折れてたろ」
『ハアアァァァ? 一向に動かせるンダガァ?』
不自然な方向に曲がり青紫色に鬱血した左腕を、胴体を揺らす慣性によって振り回しながら、鬼は主張する。
「天邪鬼がよぉ……」
蒼依の呟きに、鬼の動きが止まった。
「……? ……おい、まさか」
『違ェぞ! 誰が天邪鬼なモンカ!』
「お前……鬼は鬼でも“天邪鬼”かよォ!」
“天邪鬼”は不意に蒼依に背中を向け、森の奥へと逃げ込もうと試みた。しかし、交戦中に背後に回っていた冰華が道を塞いでおり、退路が潰されている。
『退ケェ!』
「退かない!」
『なら退クナ!』
「退かない!」
『コノ餓鬼ガァ!』
天邪鬼は右腕を振り上げ、長く鋭い爪を冰華に向けて振り下ろした。

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Specter children:人形遣いと水潜り その⑳

樹上の枝葉に身を隠していた鬼が、飛び降りるようにして二人に飛び掛かった。蒼依は咄嗟に冰華の背中を蹴飛ばしながら飛び退き、結果として鬼は二人の間を通過して地面に転がった。
「わあっ……とっ、とぉ。助かったよ、蒼依ちゃん」
冰華はバランスを崩しかけたもののどうにか転倒を堪えて振り返る。
二人の間には、奇襲を失敗した鬼が俯せに転がっており、起き上がろうと藻掻いていた。
「よく見えたね蒼依ちゃん⁉」
「人形がちらっと見てたからね……!」
手元に“感情人形”を再生成して攻撃に移ろうとした蒼依のすぐ横を、背後から白い影がすり抜けた。
「…………?」
蒼依が反応するより早く、それは一直線に地面に伏せる鬼に飛び掛かった。
「あ、蒼依ちゃん……あれって……!」
「……まさか、この辺まで縄張りだったなんて……冰華ちゃん、よくさっき転ばなかったね」
影の正体は、体長2mを超える巨大なイヌのような姿の妖獣だった。それは鬼を組み伏せ、爪を突き立て、容赦なく噛み付き牙を立てている。
「こいつ……“送り狼”だ……!」
送り狼に襲われながら、鬼は金切り声をあげて抵抗する。しかし、送り狼の膂力に負け、肉を裂かれ骨を砕かれ、全身あらゆる部位を牙で穿たれていく。
『おいコラ! ヤメロ! 犬野郎が! 俺は転んでネェ! 寝ッ転がったダケだゼ! オイ退きヤガレ!』
そう喚きながら鬼が暴れると、送り狼は急に攻撃を止め、鬼の背中から降りて闇の奥へと消えてしまった。
「あ、蒼依ちゃん⁉ 狼さん攻撃止めちゃったけど⁉」
「そりゃ、『転んだ奴』を獲物にするんだから、『そうじゃない』と言い張られれば……」
蒼依は《奇混人形》を発動し、刀剣の形状に変化させて鬼に斬りつける。
(あれだけのダメージ、手足も胴体もズタズタだ。勝てる……!)
しかし、振り下ろされた刃は鬼の肉体には届かず、地面に突き刺さった。鬼は全身を使って転がるようにして移動していたのだ。