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Modern ARTists:威霊遣彩能媛 その⑦

カミラとヒトエの脇に、骨を思わせる甲冑を纏った鎧武者〈髑髏〉が現れ、2人を見下ろしていた。
「……ヒトエ? これ、ヒトエの?」
「た、多分……?」
カミラが髑髏の足首に手を伸ばす。
(っ、マズい! 避けて!)
カミラの手が触れる直前、髑髏は大きく飛び退いてその手を逃れた。
「? よけたの?」
ヒトエも転がるようにカミラから離れ、髑髏と共にカミラを挟む位置に陣取る。
(私の魔法で生み出したものだから、何となく分かる……。〈髑髏〉はまだ、私の鎧みたいに完全に固まってるわけじゃない。多分、カミラに掴まったら吸収される)
ヒトエは双剣を再び生成し、片方をカミラに向けて投擲した。カミラが身体を逸らして回避した剣を、髑髏がキャッチする。
(これで、直接触れずに攻撃できる!)
「〈髑髏〉!」
ヒトエの号令で、髑髏が剣を構えて突撃する。ヒトエも同時にカミラに斬り付けるが、カミラはヒトエに向かって飛行し、背後に回り込んで髑髏をやり過ごそうとする。
「っ……そぉー……れっ!」
髑髏が深く前傾し、その背中の上を転がるようにして、ヒトエと髑髏はすれ違う。そのまま態勢を直し、髑髏がカミラに斬りかかった。
「〈髑髏〉!」
カミラが斬撃を回避した瞬間、髑髏はヒトエが投擲したもう1本の剣を後ろ手で受け止め、立て続けに二撃目を放った。カミラは後方に飛び上がって回避したが、刃先が翼を浅く切り裂き、黒い血液が噴き出す。
「んっ……! ヒ、トエぇ……! またとどいたぁ……!」
痛みに顔を歪めながらも、カミラは幸せそうに笑う。
翼を羽ばたかせ、身を翻して髑髏を躱し、ヒトエに飛び掛かる。その時、カミラを横合いから“清姫”の巨体が轢き飛ばした。

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Modern ARTists:威霊遣彩能媛 その⑥ Side:玉桜楼

ヒトエがカミラと交戦している間、エイリは少し離れた場所で瞑目し、意識を集中させていた。
「ふぅー……よし」
深呼吸し、目を開く。
「奥義、〈新形三十六怪撰〉。第十一怪、“清姫”」
エイリの魔法【玉桜楼】は本来、九字を切ることにより『5体』の使役存在を召喚するものであり、使役存在の強度は九字切りの完成度に比例する。
対して奥義〈新形三十六怪撰〉は、従来の数のアドバンテージを捨てることと引き換えに、36種の強力な使役存在のうち任意の1体を選択し、召喚できる。
当然ながら九字切りの完成度は術の行使に影響し、一つは使役存在の強度。そしてもう一つは、『実際に召喚される使役存在の種別』。印の完成度が下がるほど、実際に召喚しようとしたものからかけ離れた使役存在が出現する性質を有しているのだ。
「臨」 独鈷印。
「兵」 大金剛輪印。
「闘」 外獅子印。
「者」 内獅子印。
「皆」 外縛印。
「陣」 内縛印。
「列」 智拳印。
「在」 日輪印。
「前」 宝瓶印。
その後、詠唱と同時に、一字毎に右手の刀印で横に、縦に、軌跡を織り重ねるように重ね、最後に右手を左手の中に収める。
これまでの戦いの中で何十、何百と重ねてきた動作であり、それ故にエイリは、その完成度を直感的に掴むことができるようになっていた。
(この感じ…………来た、“クリティカル”!)
戦闘の中での動作を要求される以上、完全な九字切りを成功させることはほぼ不可能に近い。ただ、今この瞬間、敵の注意は完全に前衛のヒトエ一人に集中しており、それ故に叩き出すことのできた『100点満点』。
彼女自身、仲間の庇護を受けた上で、数度しか実現できたことの無い最大威力で、使役存在が召喚される。
下半身を巨大な蛇のそれに置き換えた、和装の鬼女のような怪異“清姫”。エイリを囲うようにとぐろを巻き、鋭い牙の並ぶ口からは、深い淀を思わせる濃い水の香りと、香木が焼ける煙の香りが混ざったような息吹を吐き出している。

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Modern ARTists:威霊遣彩能媛 その⑥ Side:閑々子

双剣を手に、ヒトエはカミラと交戦する。
(カミラも私と一緒に結構な高さから落ちたんだし、ダメージはあるはず……!)
しかし、その予想に反してカミラの動作は極めて軽やかで、爪が頬や首筋の僅かな露出を掠めながら、魔力を奪っていく。
「うぅ……」
「あはは! ヒトエぇ、もっとヒトエたべる!」
(……そういえば、さっきのエイリさんの使い魔、鎧みたいな姿だったよね……)
一度距離を取る。しかし、足首をカミラの尾に絡め取られ、その場に転倒してしまう。
「ヒトエ? かんがえごと?」
「うぅ、痛たた……」
「だめだよ? ヒトエはわたしとたたかってるんだから! わたしだけみて?」
「か、カミラ……」
(……私の魔法、【閑々子】。鎧を生み出す能力……鎧が現れるのは、本当に『私の身体の上だけ』?)
「あー、ヒトエまたわたしいがいのことかんがえてる! だめなんだよ?」
ヒトエの爪がチェストプレートに触れ、魔力を分解し吸収しながら、少しずつ沈み込んでいく。
(……仮に、鎧を生み出せたとして……『空っぽの鎧』に何か意味がある?)
「あ、とどいたぁ」
カミラがにんまりと笑い。ヒトエの胸元を爪の先端でなぞる。その微かな感触に、ヒトエは身震いした。
「ヒトエぇ、わたしのかちなの?」
カミラが首を傾げたその時、ヒトエの頭にケリがべちゃりと落下してきた。
『やぁ、君にアドバイスだ』
「え……ケリ、さん……?」
『私が君達に授けた力は、極めて不安定だ。それ故に、些細なきっかけで“爆発”する』
「爆発……?」
『君の場合、【玉桜楼】のあの子の魔法がその“きっかけ”なんだね。爆発とは、出力或いは特異性の異常な発露。それがどのような形で出力されるかは、君次第だ』
ケリは言い残すと、再びどこかへ消えてしまった。
「……スライムきえた?」
カミラが首を傾げてヒトエの顔を覗き込む。
「……奥義」
半ば無意識に、口と魔力が動く。
「〈自賛・髑髏〉」

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Modern ARTists:威霊遣彩能媛 その⑤

「いたたたた……」
カミラに覆い被さっていたヒトエは、落下の衝撃で痛む身体を起こした。
(たしかに痛いけど……3階から落ちた割に、怪我はしてない。魔法少女だから?)
自分の下に倒れているカミラに目を向けようとした時、彼女の腕が素早くヒトエの首に巻き付いた。
「っ⁉」
「ヒトエぇ、たべていーい?」
耳元で甘く響くカミラの囁きに、ヒトエは全身に鳥肌が立つ。
「だ、駄目……!」
「でも、ヒトエにげられないよ?」
カミラはヒトエに頬を寄せ、舌なめずりする。現に、ヒトエは接触によって魔力を吸収され、身体の動きが重くなり始めていた。
(た、助けて……エイリさん……!)
「いただきまーす」
カミラがヒトエの首筋に唇を寄せ、甘噛みする。
「や、やめてー……」
じたばたと藻掻いていると、ようやくエイリが屋外に出てきた。
「ごめん後輩ちゃん! 怪人め……後輩ちゃんから、離れろ!」
甲冑たちが襲い掛かり、体当たりでカミラは弾き飛ばされる。
「いたい! なにするの!」
「そっちこそ後輩ちゃんに何すんの!」
「ヒトエたべるの!」
「させるかぁ!」
2人が言い合っている隙に、ヒトエはカミラの腕から抜け出し、エイリの背中に隠れた。
「助かりました……」
「うん、大丈夫? まったく……ちょっと怒っちゃった。本気出す。30秒くらい耐えてくれる?」
「了解です」

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Modern ARTists:威霊遣彩能媛 その④

「うわぁ……すごいのが召喚された……」
ヒトエの感嘆に、エイリはどや顔を決める。
「どうだ、すごいだろう。これが私の【玉桜楼】の力だよ。使い魔召喚の術。これでもっとしっかりサポートできるよ」
甲冑たちはぞろぞろと前進し、2人を守るように立つ。
「んー……? このこたちはぁ……」
カミラが甲冑の1体の胸元に手を当てるが、甲冑は吸収される事無くその手を振り払った。
「むー…………すえない」
「お前が後輩ちゃんと戯れている隙に、じっくり余裕をもって印を組めたからね。お前の弱点は聞いてる。私と後輩ちゃんの敵じゃないよ!」
エイリの指揮で、甲冑たちがカミラに襲い掛かる。カミラは鬱陶しそうに宙を泳ぎ、甲冑たちの攻撃を回避しながら、ヒトエに突進した。
「ヒトエぇー、やろ?」
ヒトエの目の前で停止し、顔を突き合わせてニタリと笑う。
「は、離れて!」
ヒトエの振るった双剣を回避し、カミラは空中で腹を抱えてけらけらと笑った。再び宙を泳ぎ、ヒトエの背中に隠れて甲冑たちをやり過ごそうとする。
「そうはさせないよ!」
エイリは叫びながらカミラに飛び掛かり、回し蹴りを放った。その足を手で受け止めようとしたカミラの前に、ヒトエが手を伸ばして手甲で掌を受け止める。
「エイリさん、触られないように気を付けなきゃ駄目ですよ!」
「うへぇ、怒られちった」
「……けど、やっぱり狭い……!」
ヒトエが窓の外に目を向ける。それに気付いたエイリは、甲冑の1体を操り、窓の一つを勢い良く開いた。
「助かります!」
ヒトエがカミラの腕を取り、勢い良く窓の外へ投げる。空中で態勢を整えようとしたカミラに、更に飛び掛かり、空中で馬乗りになりながら二人は約6m下方の地面に向けて落下していった。

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Modern ARTists:威霊遣彩能媛 その③

再びカミラが突進してくる。ヒトエは双剣を床に突き刺し、素手による格闘戦で応戦した。爪による刺突を、相手の手首を払って回避し、そのまま飛びついてくるのを、脇をくぐるように躱し、そのまま後ろから髪を掴んで壁に向けて投げつける。
カミラは空中で姿勢を整え、足から壁に着地し、密かに掠め取っていたヒトエの双剣の片割れを掲げてみせた。
「みてみてー。ヒトエの」
にんまりと笑ってみせるカミラに、ヒトエは思わず自分が剣を突き立てた場所を振り向く。剣の片方が無くなっているのを確認してからカミラに視線を戻すと、奪った剣をヒトエに向けて振り下ろしていた。咄嗟に腕を盾にしたヒトエに刃が直撃する瞬間、マスコットたちが間に割って入り、柔らかい身体で刃を受け止める。
「えっ柔らかっ」
「うさちゃんすごーい!」
カミラは剣を放り捨て、2体を素早く捕まえる。残ったマスコットたちも一瞬で吸収されてしまった。
「ぜんぶたべちゃったぁ」
(やっぱり、カミラのこの力、怖いなぁ……私の鎧は吸えないみたいだけど)
ヒトエはちらりと背後を見やり、エイリの様子を確認する。彼女は臍の前で左手を緩く握り、右手で包み込むような手印を結んでいた。
「……60点ってところかな。おいで」
エイリが呟くと、彼女の周囲に5体の使役存在が現れた。おおよそ彼女と同程度の背丈をした人型のそれらは、体表を日本風甲冑のような装甲に覆われている。

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Modern ARTists:威霊遣彩能媛 その②

2人が教室中央に意識を向けていると、空気中の微細な塵が渦を形成し、中央から突発的なエネルギーの奔流が溢れ出した。咄嗟に、エイリはヒトエの背中に隠れる。
「あぁー、いたー!」
渦の中央から、明るい声が投げかけられる。ヒトエが目を開くと、カミラがふよふよと浮いていた。
「こんにちはぁ、ヒトエぇ」
「こ、こんにちは、カミラ」
「そのひとだぁれ? おともだち?」
「えっと……先輩です」
「はぇ。まぁいいや。やるよ、ヒトエ」
カミラが爪を伸ばす。
「は、はいっ!」
双剣を構えたヒトエに向けて、カミラが突進する。それを迎え撃とうとヒトエが構えたその時、彼女の背後からウサギを模したマスコットのような生命体が5体飛び出し、カミラに飛び掛かった。
「にぃっ!?」
カミラはその生命体のうち2体を爪で引き裂き、1体を鷲掴みにしてそのまま吸収する。
「びっくりした……なにこれ? おともだちの?」
ヒトエの背中に隠れたまま、エイリがピースサインを示した。
「むぅ、一番弱い形態とはいえ、あっさり吸われるなぁ……。チヒロ先輩が言ってた通りだ」
残ったマスコットたちは弾むようにエイリのもとへ引き返してくる。
「後輩ちゃん。こんな狭い教室の中で大丈夫?」
「あっはい。どうにか」
「じゃ、こっちも折を見てサポートするから、頑張ってね」
「えっあっはい」

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Modern ARTists:威霊遣彩能媛 その①

カミラの襲撃から一週間後の放課後、ヒトエは教室に居残ってそわそわと待ち構えていた。
(あのハイジャックって女の人は、1週間後にカミラを寄越すって言ってた。つまり今日だ。まだ来ないみたいだけど……一体いつ来るんだろう……)
落ち着きなく教室内を歩き回っていると、教室の扉が静かに開いた。
「っ、カミラ!?」
咄嗟に振り返ったが、そこに立っていたのは制服姿の少女だった。
「ざんねん、カミラではない。あなたが、エリカ先輩たちが言ってた新入りの子?」
「えっと……あ、もしかして、2年生の?」
「そうだよー。私は望月エイリ。好きに呼んで良いよ」
「はい、よろしくお願いします、エイリさん。私は亀戸ヒトエです」
ヒトエが頭を下げると、エイリも軽く会釈して応えた。
「それで、たしか後輩ちゃんの魔法って……カカシ?」
『【閑々子】、だよ』
突然二人の中間に出現した黒い流体のような生物、ケリが訂正した。
「ふーん? 私の魔法は【玉桜楼】っていってね、すっごい強いんだよ。後輩ちゃんが今日、怪人と戦うらしいからね。私が手伝ってあげる」
「やったぁ、ありがとうございます」
2人が握手を交わす。時刻はちょうど16時を過ぎたところだった。
『……二人とも、変身した方が良い』
不意に、ケリが口を開いた。
『魔力が膨らんでいる感覚……間も無く、この部屋の中央に出現するよ』
「分かった、ケリちゃん!」
エイリの周囲に旋風が巻き起こり、彼女の衣装は制服の上から羽織とマフラーを纏ったようなものに変わっていた。一瞬遅れて、ヒトエも急いで赤備えのアーマーに変身する。

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終末を巡る_13

琥珀はそのまま落下した。…が、途中で落下が止まり、尻あたりに痛みが走る。
「きゃんっ!!」
_林檎、林檎をあのまま落とすわけには…!
振り向くと、蜘蛛がその脚で尻尾を掴んでいた。蜘蛛の背中の上で背中合わせになって脱力している人間を見て琥珀はぞわぞわした感覚に陥る。
「ガルルルルッ!!」
琥珀が思い切り威嚇をすると、人間は意識を取り戻したように飛び起きた。その反動で蜘蛛の顔が上へ上がり、尻尾を掴んでいた脚が離れる。


できるだけ風の抵抗を受けようと努力する林檎の首根っこを、琥珀はぎりぎり甘噛みすることに成功した。琥珀はそのままかなり無茶な体勢で林檎を庇いながら地面に墜落する。
『こはく』
『……すまん…しばらくは、動けそうにない…』
『んーん、あやまることない。こちらこそごめん、ありがとう』
たどたどしくも林檎はそれだけ言って、琥珀の顔や身体を舐めてやった。
『…更に下に来ちまったな…』
『あんぜんならいい、やすもう』
『…ああ』
林檎の温かみを感じながら琥珀はゆっくり尻尾を振りつつ目を閉じる。
林檎も目を閉じて琥珀のお腹に頭を乗せた。

誰も入りたがらないような真っ暗な穴の中、世界の真相に触れかけた狼と兎は、寄り添って寝ていた。

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Modern ARTists:魔法少女彩能媛 キャラクター②

・ケリ
魔法少女を生み出す力を持った異界の存在。手のひらサイズの黒いスライム球みたいな外見。名前の由来は「テケリ・リ」。
ケリさんが生み出した魔法少女たちは《慈雲》というユニットを結成して協力し合っている。
この世界では魔法少女たちは何らかの共通点とか(基本的には自分たちを魔法少女にしてくれた異界の存在が同じ者どうし)でユニットを組んでおり、協力して怪人から世界を守っているのです。

・カミラ
怪人結社【ロスト・ファンタジア】に所属する上位怪人。身長1.6m程度の夢魔型の怪人で、紫色の皮膚と黒いロングヘア、腰から生えた蝙蝠の翼が特徴。細長い尻尾も生えている。瞳は金色で、白目の部分が黒い。
触れた魔力エネルギーを吸収してしまう能力がある。その魔力の形態が「エネルギー体」に近いほど吸収効率は高く、安定して物質化したものに対しては上手く吸収できない。魔法少女に直に触れると直接ドレイン可能。一気に吸い尽くせる。ヒトエはアーマーのおかげで助かった。
その他、エネルギーを放出したり、翼でふよふよと飛んだり(最高時速30㎞程度)、両手両足の爪を長く鋭く伸ばして攻撃に利用することが可能。
生後数週間なためか、情緒が幼い。

・“戦妃”ハイ・ジャック
外見性別:女  外見年齢:20歳  身長:170㎝
【ロスト・ファンタジア】の上級幹部の1人。武闘家風の衣装を身に付けた女性。異空間に武器をストックし、自由に収納・展開が可能。シンプルに高い身体能力を有しており、圧倒的な『強さ』によって怪人たちを制御し、戦闘技能訓練を担当している。

※怪人結社【ロスト・ファンタジア】
6年前から突如出現し始めた怪人集団。力こそ弱いが数が多く連携能力に秀でた「下位怪人」、大柄で身体能力の高い「上位怪人」、特異な能力を有する人型の怪人(怪人なのか人間なのかは不明。便宜上、「怪人」と呼ぶ)である「上級幹部」から構成されている。その全てを統べる「魔王」の存在が噂されているが、真偽は定かでは無い。活動目的は『怪人たちに相応の”最期”を与え、物語を閉じること』らしい。早い話が彼らは敗北を求めている。

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Modern ARTists:魔法少女彩能媛 キャラクター①

・亀戸ヒトエ
年齢:12  身長:148㎝
魔法名:【閑々子】
甲羅あるモノを模したアーマーを装備する。
奥義名:〈自賛・髑髏〉
自律稼働する、骸骨を模した鎧を召喚し、同時に行動する。
説明:カミラに気に入られてしまった中1の少女。まだ誕生日が来ていない。何故気に入られてしまったのかは不明。変なフェロモンでも出てるんじゃないだろうか。衣装はアーマーの下に着ている黒いアンダーウェア部分のみで、鎧は魔法で生成しているもの。アーマーはいせえび、かにさん、かめさんの3種類。

・那珂川チヒロ
年齢:14  身長:157㎝
魔法名:【雪城】
白銀色の流体を操る。
奥義名:〈菱湖流・静嘉〉
雪の降る結界に対象を閉じ込める。自身及び対象は、雪中で他の者に認識されない。
説明:中3の魔法少女。エリカとは同級生。エリカが魔法少女にされそうになった時、ケリさんに無理を言って自分も魔法少女になった。多分マブなんだと思う。衣装は真っ白な和装風。髪も白くなる。書道パフォーマンスで使われるようなあの両手持ちの特大筆で雪のような粒子状の流体をズァッて描く。

・小金井エリカ
年齢:15  身長:150㎝
魔法名:【恋川春町】
幻影を描く。
奥義名:〈栄花夢〉
幻影が与える影響を現出させる。
説明:中3の魔法少女。チヒロとは同級生。異界の存在ケリさんから力を授かった魔法少女たちで構成された魔法少女ユニット《慈雲》のリーダー役を担っている。衣装は桜色と水色の和装風。髪も桜色になる。桜の髪飾りも附属する。薙刀も持ってる。

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Modern ARTists:魔法少女彩能媛 その⑧

「……⁉ 何が起きて……⁉」
ヒトエが周囲を見回すと、5mほど離れた場所に、長身の女性がカミラを小脇に抱えて立っていた。
「お嬢さん、うちのカミラがごめんなさいね」
「だ、誰⁉」
女性はヒトエの問いかけを気にも留めず、慈愛に満ちた眼差しをカミラに向ける。
「カミラ、楽しかった?」
「たのしかった!」
「満足した?」
「んーん、もっとヒトエとあそぶの!」
「そう……それなら、今日はもう帰りましょう?」
「やーだー!」
「こーら、我儘言わないの」
「むくぅ……」
「ほら、お友達にご挨拶なさい?」
むくれ顔のカミラは、ヒトエの方に振り向き、手を振った。
「ばいばい、ヒトエ。またあそぼ?」
「え……って、いや待って!」
「また一週間後くらいにカミラを寄越すから、その時はまた遊んであげてね?」
女性がヒトエの双剣を、彼女の足下に放り投げる。
「それでは、さようならー」
「いや待っ……!」
追い縋ろうとしたヒトエを、エリカが背後から取り押さえる。
「っ⁉ え、エリカさん⁉」
「駄目。あれは、下手に追っちゃ駄目」
「え……あの人は一体……?」
ヒトエがカミラ達の方に目を向けると、2人の姿は既に跡形も無く消えていた。

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Modern ARTists:魔法少女彩能媛 その⑦

「た、助けてくださいぃ……」
ヒトエはチヒロとエリカに目を向ける。
「分かった、ちょっと待っててね」
エリカが頷き、手にしていた薙刀を構えて駆け寄る。しかし。
「だめぇ」
カミラが尻尾を操り、ヒトエのバランスを崩す。ヒトエはよろめき、カミラの盾になるような位置取りを強いられた。
「だ、駄目だぁ……ヒトエちゃん、ごめん、頑張って!」
「そんなぁ……」
カミラは剣が身体を傷つけるのにも構わず身を捩り、ヒトエと向かい合う。
「ヒトエぇ、ヒトエぇ」
カミラの細い手足がヒトエを絡め取り抱き締める。ヒトエは抵抗しようと藻掻くが、存外強い膂力から抜け出すことができない。
「ヒトエぇ、きるといいんだよ?」
「え、うぇ……?」
「ずばぁーって、きるの。わたしを。わかる?」
「いや、それは……」
「でねぇ、きらないとねぇ……」
カミラが右手を上げ、長く鋭い爪をかしゃかしゃと擦り合わせる。
「わたしがヒトエをきるの」
「っ……!」
ヒトエは一度、瞑目して長く深く息を吐き、再び目を開いた。
「ヒトエ、できる?」
「……や、やる」
「うん、おいで?」
ヒトエが剣を握る手に力を込めたその時、突風が吹き抜け、ヒトエの手から突き刺されたカミラごと、双剣が奪い取られた。

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Modern ARTists:魔法少女彩能媛 その⑥

「ヒトエぇっ!」
ヒトエに向けて、カミラが爪を突き刺す。しかし、その姿は直撃と同時に掻き消える。
「ヒトエ……じゃない……?」
カミラの動きが硬直したその瞬間、姿を消していたヒトエが、背後から心臓を貫いた。
「あうっ……⁉」
カミラは刃から抜け出そうと藻掻くが、ヒトエはもう1本の剣を角度を付けてさらに突き刺す。
「にゃああああっ、ヒトエぇ、ヒトエぇ……!」
悲鳴のような声をあげるカミラは、その声色に反して喜色満面の表情で振り向こうとしていた。
不意に、周囲を覆っていた吹雪の結界が消滅する。
「チヒロちゃん!」
地面に座り込んでいたチヒロに、桜色の和装の魔法少女が駆け寄る。
(あっ知らない人)
ヒトエの意識が一瞬そちらに向かう。
「あっ新入りの子? チヒロちゃんのこと助けてくれてありがとうね?」
「えっあっはい。さっきは幻影での囮、ありがとうございます」
「どういたしましてー。私はエリカ。小金井エリカだよ」
「亀戸ヒトエですどうも」
「とにかく、そいつに早くとどめを!」
「は、はい!」
ヒトエがカミラに視線を戻す。
「あ、ヒトエぇ。やっとこっちむいたぁ」
カミラは身体を反らして、ヒトエの顔を覗き込んでいた。ヒトエは咄嗟に身じろぎしようとして、違和感に気付いた。彼女の手首と双剣に、何か細長いものが巻き付いており、離れなくなっているのだ。
「わたしのしっぽだよぉ?」
「な、なんで……?」

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Modern ARTists:魔法少女彩能媛 その⑤

「ねーぇー、どーこー? ヒトエぇー」
ヒトエを呼びながら、カミラはふよふよと吹雪の中を飛び回る。
「ヒトエぇー? ……ん」
不意に首筋に悪寒が走り、宙返りするように身を翻す。直後、カミラの首があった場所を、不可視の刃が通り抜けた。
「ヒトエぇ! ……いない? なんでぇ…………ヒトエぇー、ヒトエぇー」
カミラの背後で息を潜めながら、ヒトエは攻撃を回避されたことに驚愕していた。
(な、なんで……? 見えないはずじゃ……? と、取り敢えずもう1回!)
再び接近し、2本の剣で立て続けに斬りつける。しかし、それらもカミラは宙を泳ぐように回避する。
「やっぱりいる! ヒトエぇー、ヒトエぇー」
カミラは右手の爪を伸ばし、いつでも振れるように構えながら、ヒトエを探して雪の中を飛び回る。しかしヒトエはチヒロの力によって気配を消しているため、姿を認識されることは無い。
「ヒトエぇ……? いない……なんでぇ……?」
カミラの声が震え、弱々しくなっていく。
(どうしよ……何か、小さい子をいじめてるみたいな気分になる……でも、向こうも結構本気みたいだし……)
カミラの右手の先に揺れる長く鋭い爪を遠巻きに眺めながら、ヒトエは生唾を飲み込む。
「ヒトエぇ…………出てきてぇ……?」
カミラは少しずつ高度を落とし、そのまま雪上に落下して蹲った。
(………………心が痛むけど……やるなら、今!)
ヒトエが駆け出す。
「っ! ヒトエ!」
気配に気付いたカミラが振り返ると、姿を現わしたヒトエが双剣を振り下ろす姿があった。

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Modern ARTists:魔法少女彩能媛 その④

目の前で突然姿を消したヒトエを探し、カミラは周囲をきょろきょろと見回す。
その様子を、雪の中に倒れ込んだまま、ヒトエは眺めていた。目の前に無防備に転がっているはずの自分を、カミラは何故か認識できていない。
「……私の力。奴は今、私とあなたを知覚できない」
彼女を引き倒し、今はその下敷きになっているチヒロが、耳元で囁く。
「みゃっ……⁉ え、あ、その、ケリに言われて助けに来ました! 初めまして亀戸ヒトエです!」
「うんありがとう私は那珂川チヒロ初めましてよろしく。……ケリさん、また新しい仲間増やしたんだ」
「他にもいるんですか?」
「あと2人ね。まぁ……今の状況で助けになってはくれなさそうだけど……」
「え、どうしてです?」
「とりあえず退いて」
「あっはいごめんなさい」
2人は起き上がり、カミラから距離を取りつつ向かい合った。
「あのカミラって怪人、こっちの魔法が吸われる。多分、直に触れられたら1発アウト。そのまま動けなくなるまで吸い尽くされる、と思う」
「えぇ……あんなに可愛いのに、こっわぁ……」
「かわ……いい……? まぁ良いや。……あんたの力なら、通用しそう」
チヒロがヒトエの手の中の双剣を指差す。
「なんで? 私、これしか武器がないなら近付くしか無くて危険だと思うんだけど……」
ヒトエが持ち上げた剣の刃の側面を、チヒロは指で軽く叩く。
「このくらい『固まってる』と、吸いにくいだろうから」
「あんまり分かんないです……」
「あなたなら勝てる。それだけ分かれば大丈夫。今のあなたはあいつからは見えないから、行っておいで」

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Modern ARTists:魔法少女彩能媛 その③

吹雪の結界の中、【雪城】を操る魔法少女、チヒロは雪の中に息を潜めていた。
(……あの“カミラ”って怪人……『上位怪人』だ。しかも、マズいな……魔法が『喰われる』)
彼女のすぐ横を、カミラが通り抜ける。カミラが彼女に気付くことは無かったが、チヒロは慌てて距離を取る。
(あいつに触れると、魔法が吸収される。私は殴り合いは下手だし……となると、背後から奇襲とか?)
ふと、チヒロの感覚が結界への何者かの侵入を感知した。
(……誰だ?)
カミラもまた、その気配に気付いたようで、気配のする方に向けて飛んでいく。
気配の正体が目視可能なほどに接近したところで、カミラはニタリと微笑み、その相手に声を掛けた。
「あぁー、ひさしぶりぃ」
「あっ、怪人! いた!」
「カミラだよぉ」
「えっ、あっ、私はヒトエっていいます」
「よろしくねぇ」
「あっはい……」
ヒトエが答えるより早く、カミラは接敵し、右手の爪を振るう。ヒトエは積雪に足を取られながらも、転がるようにして回避した。
「危ないでしょぉ!?」
カミラは悲鳴をあげるヒトエを見て、腹を抱えてきゃっきゃと笑う。
「すごぉ……よけるじゃん」
「そりゃ避けるでしょ……」
再びカミラが襲い掛かる。防御しようと双剣を構えたヒトエを、魔法によって気配を消していたチヒロが背後から抱きかかえ、そのまま倒れ込むように姿を消した。

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Modern ARTists:魔法少女彩能媛 その②

カミラが立ち去った後も呆然としていた、襲撃を受けた女子生徒の頭に、墨汁の塊のような黒い流体が飛び乗った。
「!?」
『ふむ……怪人がわざわざ狙ったのだから何かあるのではと思ったけど……極めて一般的な人間だな?』
脳内に直接響いてきたその声を、少女は流体のものだと直感した。
『おっと、挨拶が遅れたね。こんにちは、初めまして、ヒトエちゃん。ワタシのことは“ケリ”とでも呼んでくれ』
「なんで名前を!? と、とにかく、そのケリが一体、何の用……?」
『何があったか知らないが、どうも君には素質があるようだ。君には“怪人”を引き寄せる才能がある』
「え、さ、才能? でも、私、怪人なんて実物は今日初めて見たくらいだし、そんなの……」
『間違いなく、その才は「ある」。そんな君に、ワタシからプレゼントだ』
「ぷ、プレ……?」
『この“力”を受け入れれば、君は怪人たちから身を守れる。便利だろう?』
「それはたしかに…………?」
『君はただ、頷くだけで良い。恐れず受け入れろ。大丈夫、使い方は君の身体が覚えているから』
ケリの言葉に、少女ヒトエは恐る恐る頷いた。その瞬間、ケリの身体が弾け、流体が彼女の全身を包み込む。流体が彼女から離れ、元の塊に戻ると、ヒトエは元の体勢のまま、紅色のアーマーを纏っていた。
「な、何これ、鎧!?」
『そう出力されたのか。その力の名は【閑々子】。さぁ、行っておいで。まずは初陣に、君の仲間を救うんだ』
「え、わ、分かっぬまぁっ!?」
立ち上がり、駆け出そうとして、ヒトエは大きく姿勢を崩した。後方へと倒れる途中で不自然に動きが止まる。
「え、な、何なに」
ヒトエがどうにか目だけを動かして探ると、彼女のツインテールを覆うアーマーの先端が床に突き刺さっている。
「髪が刺さってる⁉ ちょ、学校壊しちゃったんだけど⁉」
『焦らないで。使い方は君自身がよく知っているはずだ。落ち着いて、力に身を任せて』
「うぅー……ていっ!」
ツインテールの装甲に手をかけ、姿勢を直す。その部分のアーマーが変形・パージし、彼女の手の中には1組の双剣が残った。
「お、おぉ……」
『もう使いこなせるね? それじゃ、行ってらっしゃい』

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Modern ARTists:魔法少女彩能媛 その①

教室の窓ガラスが、内側から爆ぜ砕ける。
終業式後のホームルームの時間、教室の1つが『爆発』した。その原因は、教室の中央で悠然と周囲を見回していた。
背丈は決して高くは無く、およそ1.6m程度。概ね少女のように見える『それ』は、しかし明らかに人外の存在であった。体表は暗紫色に染まり、両の側頭部からは黒く長い捻じれた角が生えている。腰から伸びる蝙蝠のそれのような皮膜の翼のためか、足下は僅かに床を離れ、ふよふよと上下している。鋼線のように細い尾をふわふわと振り回しながら、『それ』は楽しそうに周囲で怯えている生徒たちを品定めするように眺めていた。
「どーれーにーしーよーおーかーなー……」
『それ』が周りの生徒を1人1人指差しながら、歌うように呟く。
「……きーめた」
少女は宙を泳ぐように、1人の女子生徒に近付いた。右手の爪が長く鋭く変形し、女子生徒の喉元に触れる。
爪の先端が皮膚を突き破る直前、『それ』の鼻先に雪の結晶が舞い落ちた。
「にゃっ……?」
『それ』が周囲を見回すと、教室の入口に一人の少女が立っていた。
“白銀”という語を擬人化したかのようなその少女は、『それ』に向かって手を振ってみせた。
「はろー、怪人」
「……? はろぉー?」
『それ』も手を振り返す。
「あんた、名前は?」
「“カミラ”」
「へぇ。それじゃ、さよならカミラ」
少女が背中に隠していた特大筆を振るうと、白い流体が斬撃となってカミラに向かって行った。カミラはそれを回避し、一瞬で距離を詰める。
「……なまえは?」
「怪人に名乗る名前は持ち合わせてなくてね。あんたを殺す“力”の名だけ覚えて逝け」
少女が特大筆を振るうと、周囲に吹雪が舞い、カミラの視界を封じた。
「この力の名は……【雪城】」

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五行怪異世巡『覚』 その⑦

「む……鬱陶……しい!」
白神さんの振るった爪を、覚妖怪は飛び退いて回避した。
「うぅー……!」
白神さんが苛立たし気に唸っている。彼女の手元をよく見てみると、奇妙な形で固定されていた。五指を大きく広げ、人差し指と薬指だけを根元から垂直に近い角度で折り曲げている。
「もー怒った!」
そう言って、白神さんは自分を素早く捕まえ、所謂『お姫様抱っこ』の形で抱きかかえた。
「痺り死ね!」
白神さんの足下から電光が迸り、地面を伝って周囲全方向に駆け抜けていく。なるほど、これなら覚妖怪でも回避しようが無い。
『「これで仕留められる」、そう思ったな?』
覚妖怪が口を開いた。その意味を量りかねていると、妖怪は猿のような肉体を活かして手近な木を物凄い速度で登り始めた。電撃は妖怪を追うが、多くの枝葉が避雷針のように機能することで、覚妖怪まで電撃が届かない。更に悪いことに、頭上を隙間なく覆う樹の中に妖怪が姿を隠してしまい、どこにいるのか分からなくなってしまった。
「し、白神さん。これじゃあ」
「大丈夫、もう1回……!」
白神さんが片脚を持ち上げたところで、頭上を強風が吹き抜けた。直後、少し離れた地面に覚妖怪が着地する。
『…………ふむ。“風”の思考を読んだのは、初めてだな』
「あれっ、そいつは驚いたな。どうせ何百年も生きてんだろーに、初めてか? “鎌鼬”と喧嘩すんのは」
自分と白神さんを庇うように立ち塞がったのは、種枚さんの弟子、鎌鼬少年だった。

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五行怪異世巡『覚』 その⑥

白神さんはまだ、下で靴探しをしている。それなら、今自分の隣に現れたものは何だ?
恐る恐る、気配の方に目を向ける。そこには、人間ほどの大きさのサルがいた。
……いや、サルとも少し違う。大きすぎるというのはともかく、口元が不自然にニタニタと吊り上がっている。もしかして……。
『……お前は』
謎の動物が口を開いた。年寄りのようにしわがれた声で、『人間の言葉』がそこから漏れる。
『「もしかして、これが例の覚妖怪か」と考えているな?』
この文言。間違いない。昔話に出てきた妖怪と同じ言い回し。そして覚は。
『お前は今、「この妖怪に食われるかもしれない」と考えているな? ……正解だ』
覚が動き出そうとしたその時、白い影が自分と覚の間に割って入った。
「し、白神さん⁉」
「ごめん千葉さん、助けるのが遅れて! 大丈夫⁉」
「大じょ、うおわぁっ!?」
白神さんに抱きかかえられて、地面に下りる。覚もすぐに追ってきた。
『……ふむ、そちらの娘、どうやら人間ではないようだぞ、そこの人間。たしか、チバといったか?』
いやまあ、それは最初から知っているけども……。揺さぶりのつもりだろうか。
『む……つまらん。して、そちらの雷獣の娘よ。お前は次に、こう言おうとしているな?』
「『千葉さんを傷つけようとするなんて許せない。ぶっ殺してやる』!」
覚は白神さんの言葉にぴったり合わせた。白神さんはそれを気にする事無く、覚に突進する。
『ふむ、心を読まれてここまで動揺しないとは』
「それ、お前を、殺すのに、関係、ある、のっ!」
言い返しながら、白神さんは電光を纏った貫手を連続して放つ。しかし相手も流石は覚妖怪。悉く回避されてしまう。

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五行怪異世巡『覚』 その⑤

捜索を始めてから約30分。先ほどのイノシシの他にもタヌキ2匹、サル1匹、シカの足跡を発見したものの、肝心の覚妖怪の姿は未だ見つからない。
「見つかりませんね……」
「だねぇ。もっと山奥に入った方が良いのかな?」
「そうですねぇ……っとと」
白神さんに答えるのに意識を割かれ、足下が疎かになったのと同時に、土に足を滑らせて転びそうになった。手をつくより早く白神さんが抱き留めてくれたので、幸いにも無傷だ。
「千葉さん大丈夫? 疲れた?」
「いやまあ、はい……」
「じゃあちょっと休もうか。ほら、千葉さん」
白神さんが、自分に背中を向けてしゃがみ込む。
「おんぶしたげる」
「えっあっはい」
彼女の背中に掴まると、彼女はするすると手近な木に登り、ひときわ太く頑丈な枝に自分を座らせてくれた。
随分歩いたせいか、スニーカーの中にかいた汗が気持ち悪い。靴から踵を引き抜いて足をぶらぶらさせていると、うっかりその靴を下に落としてしまった。それは木の下に生えた雑草の中に入って見えなくなってしまう。
「ん、待ってて千葉さん。わたしが取ってくるよ」
「あ、ありがとうございます。すみません……」
白神さんはまたするすると木を降りて、靴探しを始めた。その背中を眺めていると、座っている大枝が、がさりと揺れた。

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特別なクリスマスのために

「今からクリスマスデートしよう、愛しい人!」
「……クリスマスは2週間後ですよ愛しい人」
「いや違うんだよ、来たるクリスマスを最っ高に特別なものにするために、私は完璧なプランを考え付いたんだよ」
「ほう。聞こうか」
「クリスマス当日、クリスマスっぽいことは何もしないで、浮ついた世間をけらけら笑いながら、2人でこの部屋でぐっだぐだにトロけてやるの。こんなん逆に特別でしょ」
「……なるほど? そのために今年のクリスマスっぽいことは今日のうちに済ませちまおうと」
「そゆこと」
「……俺、いつも思ってたことがあるんだよ」
「なになに?」
「駅前とかのクリスマス向けのイルミネーションあるじゃん。ひと月くらい前にはもう付き始めてるやつ。あれ、毎年毎年気が早えぇなぁーって思ってたんだけどさ……今回ばっかりは、あれって早くて正解だったんだなって」
「そう来なくっちゃ! どこ行く? あ、プレゼント何欲しい?」
「あー…………有線ヘッドセット」
「くっ……w、ふふっ…………w クリスマスっぽくない……www」
「るっせぇなぁ、今使ってるのが駄目になってきてんだよ。で、そっちは何か欲しい物あんのか?」
「フライヤー!」
「そっちも大概だな!」
「あはは! 電器屋行こう電器屋! じゃ、着替えるから外出てて。女の子の着替えを覗くもんじゃないよー」
「へいへい」

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五行怪異世巡『覚』 その④

山中の道なき道を進む千葉・白神の2人を、杉の木の樹冠近くで1つの人影が眺めていた。
「……何だ、この辺りじゃ見ない顔だと思ったら」
そこに、背後から声がかかる。
「うおっ……何だ、青葉ちゃんに負けて手下になった天狗じゃねッスか」
子どもの姿の天狗に軽口で答えたのは、種枚の弟子、鎌鼬であった。
「おまっ、仮にも大妖怪に向けて無礼だな!? お前こそあの鬼子と古い仲なのに〈木行〉の座を余所の妖怪に奪われた未熟者のくせに!」
「まーまー、細かいことは良いでしょ」
「むぐ……ところで貴様、こんなところで何をしている?」
「いやぁ……ほら、俺って師匠から白神さんの見張り命じられてるわけじゃないッスか。だからこうして出張って来てるわけで。そういう天狗ちゃんこそ、こんなところで何してンスか?」
「ボクはここいらの山間部の妖怪の中じゃ、一応最高位の格だからね。〈金行〉に言われて雑魚共があまり『お痛』をやらかさないように見てやってるのさ」
「へぇ……ま、今日は師匠がいるわけだし、師匠の手の届く範囲なら、俺らの出る幕も無いでしょうね」
「だと良いけどね。それじゃ、ボクは行くよ」
「うーいお互い頑張ろうぜー」
天狗は“隠れ蓑”によって姿を消し、その場から飛び去った。それを見送って、鎌鼬は白神と千葉の姿を探す。枝葉の隙間に、やや離れた2人の姿を発見した鎌鼬少年は、自身の異能によって風に姿を変え、上空からの追跡を再開した。

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五行怪異世巡『覚』 その③

白神さんの方を見上げると、彼女は手足の爪を直径数mはありそうな大樹に突き立てて、その木の幹にくっついていた。と思うと、すぐに地面に飛び降りてしまった。
「千葉さん、大丈夫? 怪我とか無い?」
白神さんが尋ねてくる。その手足は既に人間のそれに戻っていた。
「はい。白神さんが上手く走っていたので。さっきのは種枚さんに受け止めてもらったし」
「そっか、良かったぁ……」
突然、種枚さんが間に入ってきた。
「そんじゃ、ここを中心に手分けして探していくぞ。私はあっちに行くから、お前ら二人で反対側から攻めていけ」
「りょ、了解です」
「分かったー。それじゃ、行こっか千葉さん」
「分かりました」
白神さんと連れ立って、大して整備もされていない山中の細い獣道を進む。頭上の密集した枝葉のおかげか、天気予報で見た気温ほど暑くはない。
「白神さん、大丈夫ですか?」
自分の前方3mほどのところを、生えている草や灌木をかき分けて道を広げながら進む白神さんに声をかけてみる。
「んー? 大丈夫だよ、千葉さん。心配してくれてありがとうね」
「いやまあ、はい……ん?」
白神さんを追っていると、ちょうど左後方から植物をがさがさとかき分けるような物音が聞こえてきた。反射的にそちらを振り向き、うごうごしている藪の動きに注意を向ける。
数秒ほどじっと眺めていると、1頭のイノシシが顔を覗かせた。直後、自分のすぐ脇を放電が通り抜けて、イノシシの足下に直撃する。
「……なーんだ、ただの野生動物だったのかぁ」
白神さんが自分の下に駆け寄ってきた。
「もし悪い妖怪だったらと思って、つい電気使っちゃった。感電してない?」
「あ、それは大丈夫です」
「良かった。ほら、行こう?」
「あっはい」

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五行怪異世巡『覚』 その②

覚。サトリ。名前くらいは聞いたことがある。人の考えが読めるという、有名な妖怪だ。たしか、あれは人食いの類だったような気がするが……。
「ちょっとしたツテでさ、この山ン中にいるって情報を掴んだワケよ。割と面倒な種だからなァ……ここらでちょいと囲っとくかブチ転がすかした方が安全の観点からしてもマシな気がしてさ」
「な、なるほど……」
「ヤツのいそうなエリアまでは分かってんで、取り敢えずそこまで直行するぜィ。おいシラカミメイ、遅れンなよ?」
「はいはーい。じゃあ千葉さん」
「何でしょう白神さん」
自分の目の前で、白神さんが四つん這いの姿勢になる。
「…………? 白神さん、これは……?」
「どしたの千葉さん? 早く乗ってよ」
「ちょっと意味が分からないんですが……」
「んー? だって千葉さん、山の中であんまり速く走れないでしょ? 『雷獣』の足ならそれなりに素早くなるからさ」
彼女が『妖怪』としての姿をさらすのに思ったより積極的なことを意外に思いながらも、恐る恐る背中に跨る。長身の割にスレンダーな彼女の身体はなかなか座り心地が悪かったが、どうにかバランスを取る。
「よしよし。それじゃ、振り落とされないようにしっかり掴まっててねー」
「え、はい了解です」
身を伏せたのとほぼ同時に、種枚さんと白神さんは駆け出した。一瞬で最高速度に到達し、自動車並みの速度で木々の隙間を器用にすり抜けていく。少しでも頭を上げたら枝葉にぶつかってしまいそうだ。というより風圧で落ちてしまいそうでじっとしているしか無い。
10分ほど走り続けていただろうか。跳躍した白神さんが『垂直に』着地し、急停止した。
「っ⁉」
突然の事態に対応できずに落下したが、種枚さんに受け止めてもらうことができた。

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御狐神様 キャラクター

・御狐神様(オコミ=サマ)
年齢:外見年齢20歳(実年齢は20歳)  性別:外見上は女  身長:165㎝
とある地方の村落で信仰されていた神様。正確には信仰によって生み出された存在。外見は狐の耳と尻尾が生えた和装の女性。艶やかな色素の薄い茶色の長髪をしている。
信仰心から生まれたために神様という自覚があるので、人間と遭遇した際は努めて尊大な態度で接する。実際の性格はかなり素朴でビビリの小心者。御友神殿(後述)とネズミの天ぷらや果物を食べている時が一番幸せを感じる。果物の好みは甘くて柔らかい果肉のものだが、食肉の好みは小骨の割合が高いネズミの尻尾や小鳥の脚など。
ちなみに料理は結構出来る方。サバイバルも結構出来る方。一緒にキャンプとかしたら滅茶苦茶楽しそう。
神徳は特に無いが、一応神様なので霊感はあるし、大抵の生物や怪異存在は神威でビビらせて動きを止めることができる。何なら弱個体の霊体は神威で祓える。

・御友神殿(ゴユウジン=ドノ)
年齢:50歳  性別:メス  体長:50㎝くらい
オコミ様の友達。お社の中に繋がれているキタキツネ。その正体は御狐神様の本体というか正体。この『ただのキツネ』が祀り上げられて溜まりに溜まった信仰心や畏敬の念が形になったのがオコミ様。オコミ様はお社に一緒に祀られているだけの無関係の別個体だと思っているが、何なら実質的な親まである。
割と年食っているうえ幽閉のストレスも溜まっているので元気が無くて、普段はお社の隅っこで丸くなっている。オコミ様のとってきたネズミや小鳥や果物を食べるのが好き。骨と肉のバランスが良い小動物と、少し酸味のある瑞々しく柔らかい果物が好み。愚かな人間どもは仕留めるのが面倒な生きた鶏とか食べにくい人間の生贄とかばっかり押し付けてくるので嫌い。
元々、かつて豪雨で村の近くの山が土砂崩れを起こした際に、運よく村を避けてくれたのを見に行った村人が、土砂や倒木の隙間に上手い事収まっていて生き残っていた子ギツネを拾って来てそのまま神様に仕立て上げたという出自。
年齢からも分かるように、大量の信仰心を浴びたことで神格化しており、既にただのキツネではない。ただのご長寿キツネである。

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五行怪異世巡『百鬼夜行』 その⑥

「……案、というべきか…………こういった状況に強い奴には、心当たりがある」
平坂は苦虫を噛み潰したような表情で答えた。
「へぇ、誰?」
「…………俺の身内に、少しな。だが……あいつをこんな場に出すのも…………」
平坂が考え込んでいると、突然彼のスマートフォンが着信音を鳴らした。平坂、白神、怪異存在達、その全員がびくりと反応する。
「…………?」
平坂が通話ボタンを押すと、電話口から彼の妹の声が聞こえてきた。
『兄さん。右端と右から3番目、真ん中、左から2番目』
それだけ言ってすぐに通話は切られたが、その頃には既に平坂は動き出していた。伝えられた個体『以外』に札を素早く叩きつけ、そのまま踵を返し、元の位置に戻ろうとする平坂の背中に、札を貼られなかった4体の“おばけ”が飛びかかる。
「ヒラサカさん!」
「問題無い」
平坂が指を鳴らした瞬間、周囲を覆っていた結界が消滅した。それに伴い、怪異たちの動きを妨げる力も無くなり、“おばけ”達の手が彼の背中に届く。
しかし、その手は強烈な反発力に弾かれ、反動で平坂の身体は前方に向けて吹き飛ばされた。
「ふむ、流石に動きの制御は効かんか」
地面に転がる平坂を、白神が助け起こす。
「だいじょーぶ? リーダー」
「ああ。そして」
杭のうち最後の1本を地面に突き立てる。同時に、“おばけ”達の動きがぴたりと止まった。
「準備は成った。失せろ、クズ共が」
5本の杭で囲われた範囲を中心として、強い閃光が広がる。その光は周囲の怪異存在全てを飲み込み、およそ1秒後。光が止んだ後には、紙札を貼られていなかった“おばけ”達だけが消滅していた。

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五行怪異世巡『百鬼夜行』 その⑤

「おい付喪神共。そっちの新入りもだ。手が空いているならついて来い」
平坂は札を貼った怪異たちを呼び、自分の後につかせて歩き出す。数m進んだところで、杭の1本を琵琶の付喪神に手渡した。
「それを持ってそこにいろ」
付喪神は弦を震わせながら杭を受け取った。角度を変えて再び歩き出し、次は琴の付喪神に杭を渡す。更に方向を変え、棒人間に杭を渡す。また進行方向を変え、鳴子の付喪神に杭を渡す。
最後に元の位置に戻ってくると、白神は大量の怪異存在に群がられていた。
「…………」
「あ、ヒラサカさん。準備終わったの?」
「ああ。そっちはどうだ」
「あと9人ってところまでは絞り込めたんだけどね?」
白神が指差した先には、全く同じ姿をした9体の“おばけ”が浮いていた。
白く半透明な身体、濁った瞳、足の無い雫型を上下逆にしたような体型。『如何にも』な外見のそれらは、全く同じ姿勢で等間隔でその場に浮遊している。
「…………これはまた、面倒なことになったな」
白神の周囲の怪異たちに札を貼りながら、平坂が呟く。
「そっくり過ぎて困るよねぇ?」
「……まとめて消し飛ばすか」
「それだけは駄目ぇー」
平坂は舌打ちし、神社の方に目を向けた。
「……どうしたものか……」
「ん? 何か良い案でもあるの?」

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我流造物創作:ロール・アンド・ロール! キャラクター紹介③

・ツファルスツァウル Zufallszahl
身長:145~220㎝  武器:ダイス
ある遊び心に溢れた魔術師の生み出した使い魔。刻まれた術式の効果は『ロールの実行』と『乱数による能力の増減』。ダイスによって『ロール(役割)』を決定し、『ロールプレイ(RP)』によって戦う。「A~C」の3システムそれぞれにスタイルの異なる6つ、計18のスタイルが付随している。実際はダイスを振る必要無くロールセレクトや行動が可能ではあるが、ダイスの出目に従うことで最大出力が更に向上する(下振れもある)。ちなみにRP中に死亡した場合は「システム」の終了として処理され、本体は死なない。同じシステムで『卓』を開くためには、多少のクールタイムが必要。
RP中はロールごとに人格が変わったかのように振舞うが、全てツファルスツァウルが自我それ自体はそのままに『演じて』いるだけであって実際の人格は1つだけなので、はい。
非RP時の外見は銀髪ショートヘアに青目の身長150㎝弱の子ども。服装は白いオーバーサイズのパーカーとショートパンツ。非RP時は引きこもりなので足元は素足。人格はやや希薄だが女性寄り。現マスターが赤ん坊の頃から一緒にいた。
ちなみにマスターの事は「にぃ」と呼ぶ。兄ではない。

・ツファルスツァウルのマスター
年齢:24歳  性別:男  身長:170㎝
ツファルスツァウルを創り出した魔術師の息子であり、現マスター。術式や魔法の使い方も父親から教わった。
生まれた時からツファルスツァウルが傍にいたため、ツファルスツァウルのことを昔は姉だと思っていた。今もその感覚は抜けきっていない。人間ですら無いと知ったのは中学生のころ。流石に姿が変わらなさすぎることに疑問を持ち、本人に尋ねたら教えてもらえた。大層驚いたそうな。
RP中のツファルスツァウルのことは道具として見ている。

・ナツィさん
今回、勝手に射程攻撃を覚えた。【神槍】は「刺突」なので、本来大鎌による行使はとても難しいが、ナハツェーラーさんなので。

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我流造物創作:ロール・アンド・ロール! キャラクター紹介②

・河上桐華(カガミ・キリカ)
年齢:17歳  性別:女  身長:169㎝
ツファルスツァウルのロールの1つ。システムBロール2。肩甲骨辺りまでの長さの黒髪をポニーテールにまとめた長身の眼鏡少女。基本的に長袖のセーラー服姿でいる。足元は黒いタイツとスニーカー。全長約1.2mの日本刀〈雨四光〉を用いた剣術で戦うが、最も威力を発揮するのは間合いを取った射程戦。練音ちゃんをフロントに置いて後ろから【神槍】し続ければ多分最強のコンビになれるけど、ツファルスツァウルの身体は一つなので実現はまず不可能。〈雨四光〉の銘の由来は「1足りずとも確かな輝きを放つべし」。ダイスゲー的にとても縁起が悪い。
ナツィさんに対するリスペクトはいまいち足りてない。好戦的な気質なのでまあしゃーない。
ちなみにマスターの事は「ボス」と呼ぶ。
※メタ的には『忍術バトルRPG シノビガミ』より流派:鞍馬神流のPC。【接近戦攻撃】の指定特技は《刀術》。習得忍法は【陽炎】【狭霧】【神槍】【先の先】。奥義の【鏡刃・乱影断】の効果は「範囲攻撃」。指定特技は《瞳術》。逆凪上等で先手を取り、-3ペナルティ入り(※1)の回避困難な高火力(※2)の突きを叩き込む。基本的に先手を取るためプロット5~6に貼り付いている人。
※1:【狭霧】は相手の回避に-1ペナルティが入るパッシブスキルみたいなもん。【陽炎】は使うと次の攻撃に対する相手の回避に-2ペナルティが入るアクティブスキルみたいなもん。
※2:【神槍】は『遠距離にしか撃てない』射程技。2点ダメージ。【先の先】は相手より先手を取ると1点追加ダメが入る技。理論上、敵を2手で殺せる。

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我流造物創作:ロール・アンド・ロール! キャラクター紹介①

・木下練音(キノシタ・ネリネ)
年齢:13歳  性別:女  身長:145㎝
ツファルスツァウルの『ロール』の1つ。システムBロール6。黒髪ロングヘアの華奢な少女。黒い和装には金糸で蜘蛛の巣柄の刺繍が施されており、背中の部分は蜘蛛脚展開のために大きく開いている。
背中から大蜘蛛の脚を展開し、攻撃に利用する。だが、真に得意とする領域は、近接武器でさえ邪魔になるほどの『超』接近戦。自身の周囲極めて狭い範囲にのみ展開される蜘蛛糸の防御結界と攻性結界を駆使して相手の動きを阻害し、相手の動きを封じてからチクチク攻める。実は奥の手として射程攻撃もある。
ちなみにマスターの事は「主殿」と呼ぶ。
※メタ的には『忍術バトルRPG シノビガミ』より流派:土蜘蛛のPC。【接近戦攻撃】の指定特技は《異形化》。習得忍法は【鬼影】【雪蟲】【鎌鼬】【糸砦】。奥義の【外法・御霊縛り】の効果は「判定妨害」。基本的には相手の命中判定に-3ペナルティぶち込んだうえで(※1)判定妨害で強制的に失敗にまで引きずり込む(※2)。練音ちゃんは基本的にずっとプロット値3~4に貼り付いている(ファンブル値が3か4)ので、コンボが決まれば相手は勝手に逆凪(※3)に引きずり込まれる。実は別に攻撃役がいた方が活躍できる。
※1:【鬼影】の効果により、相手は自身に対する命中判定に-2のペナルティが入る。また、【雪蟲】の効果によって、同じプロットにいる他のキャラクターは命中判定と回避判定に-1のペナルティが入る。
※2-A:『シノビガミ』の判定は2d6振って5以上なら成功。「判定妨害」は相手のダイス1つの出目を強制的に「1」にする=最大でも相手の2d6の結果は「7」になる。あとは分かるな?
※2-B:『シノビガミ』のルール上、同じプロットにいる奴らの行動は「同時に」行われている扱いなので、逆凪になってももう1人が行動し終わるまでは逆凪の影響は受けないんですが、そこはまあ、ノリ重視で。はい。
※3:『シノビガミ』では戦闘中ファンブルすると、そのラウンドの間あらゆる判定で自動失敗するようになります。これが「逆凪」。先手を取った奴がうっかり逆凪になると、後手の皆さんにボコボコに狙われても回避できなくなる。怖いね。

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我流造物創作:ロール・アンド・ロール! その⑮

「練音ちゃんから見て、どうだった?」
「私の守りの強さが露呈したと思います!」
「うん、自分でカスタムしてて思ったけど、君と戦うの絶対つまらないよね……全然当たらないんだもん」
「ナハツェーラーさん、すごい使い魔だって聞いてたのに……私の防御を抜けないなんて不思議でしたねぇ」
「そりゃそうさ。理論上、君の防御は『絶対』成功するんだもの」
「あ、あといっぱい逆凪させられました!」
「出目が味方したねぇ……。桐華さんとは正反対だ。とにかく、よく戦ってくれたね。……ところで質問なんだけど」
「はい」
「次、ナハツェーラーさんと戦ったとき、勝てると思う?」
「…………感覚としてはなんとも……ってところですかねぇ……」
「ふむ。理由を聞いても?」
「はい。まず、私の得意な間合いがバレました。近距離戦にはもう入ってもらえないでしょう」
「けど、ナハツェーラーさんには射程能力は無かったはずだよ」
「【神槍】です。キリカさんが技を盗まれました。私の術は全部、『蜘蛛』と『呪術』に由来してるので良いんですけど、キリカさんは体術メインですから……。こちらも【鎌鼬】はまだ見せていなかったので、恐らく1回は射程戦に食らいつけるでしょうけど…………あちらの方が間合いでは勝っているので。私が死ぬ前にあちらの『逆凪』を誘発して、あちらが慎重になってくれれば、あるいは」
「……うん。とにかく今日はお疲れ様」
「ごめんなさい、勝てなくて……」
「いや良い。別に本気で勝てるとも思ってなかったし。むしろ予想以上に届いたなって感じだよ。今日はゆっくり休みな、“ツファルスツァウル”。桐華さんと合わせて結構消耗したでしょ」
「はい。それではおやすみなさい、主殿」

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我流造物創作:ロール・アンド・ロール! その⑭

「さて」
帰宅後、男は自分の目の前に桐華を正座させた。
「感想戦を、始めます」
「はーい。お説教じゃないんですね」
「お説教じゃなーい。別に叱られるようなことしてないでしょ? まず、実際にやり合ってみてどうだったよ、ナハツェーラーさんは」
「あー……そうだな…………ネリネの方が長く戦ってたし、そっちに訊いた方が良いんじゃ?」
「桐華さんも戦ったでしょうが」
桐華は顎に手を当て、思案する。
「えっとなぁ……これはネリネ側の記憶も混じってるんだけど……そうだな、強いって触れ込みだったにしちゃ、弱かった」
「失礼な。まあ、『最高傑作』であって『最強』とかじゃないからねぇ」
「できることがシンプル過ぎてなー……体術と鎌ブンブンだけじゃん?」
「それに負けかけてたのは桐華さん、どう言い訳するおつもりで?」
「出目が腐った」
「さいで」
「あー、でも【神槍】パクられたのは痛かったなー」
「はい?」
「あいつ、私の【神槍】を見ただけで習得しやがりました。戦いの中で成長するニュータイプだよありゃあ」
「何それ怖い……」
「あとタフすぎる! 私の攻撃だけで1回以上死ねたはずだぞ。何度殺してもあれが死ぬビジョンが見えない!」
「まぁ……それはしゃーない。ナハツェーラーさんだし」
「ナハツェーラーさんだからかぁ……」
「それじゃ……練音ちゃん」
ツファルスツァウルが、『木下練音』に姿を変じる。

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我流造物創作:ロール・アンド・ロール! その⑬

桐華が攻撃に入ろうとしたその時だった。
「ふぅ、ようやく追いついた……っと」
「ナツィいたー!」
「げっ……ピスケス、キヲン」
空気を読まないかの如きタイミングで乱入してきた二人に、一瞬場の空気が凍り付く。
「え、お前何やってるの?」
「あれ、ナツィ怪我してる。なんで?」
「……別に何でも良いだろ」
「…………あー、ボス? やっても良い?」
攻撃の態勢を保ったまま、桐華は隣の男に問いかけた。
「えー……じゃあ奇数が出たらね。……3。ゴー」
「了解ぃっ!」
桐華が咥えた眼鏡を宙に放り上げ、回転運動が発生したそれのレンズが数m先のナツィの姿を映したのと同時に、そのレンズに斬り付ける。
「ひっさぁあつ!」
衝撃によってレンズに亀裂が入り、同時にピスケスとキヲンが鏡像に加わる。
「【鏡刃・乱影断】!」
そのまま刀を振り抜き、レンズが粉砕される。鏡像が破壊されたのと同時に、現実の3人にも刀傷が発生した。
「っ⁉」
「なっ……!」
「わぁっ」
「おっ、入った入った! やっぱ死なないかー!」
「桐華さん、満足した?」
「したした!」
「それじゃ、さらばナハツェーラーさん! 対ありでした!」
男は桐華を小脇に抱え、その場を離脱した。
「痛たたた…………ねぇ、あいつら何だったの?」
ピスケスがナツィに尋ねる。
「知らん。……けど」
「けど?」
「何か、疲れた…………」
「あっそう」

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五行怪異世巡『百鬼夜行』 その③

「……とにかくだ」
平坂は空中に4枚の紙片を投げ上げた。それらは不自然な軌道で四方に飛び散る。
「この中に、白神。貴様の許しを得ていない怪異が紛れ込んでいる。何が狙いか知らんが……“潜龍”の膝元で無法を働こうというなら、容赦はせん」
「う、うおぉ……何これ、力が抜け……」
白神は結界の効力によって膝をついた。
「……む、そうか、貴様も妖怪の類だったな。少し待て」
平坂が懐から1枚の紙製の札を取り出し、白神の額に貼り付ける。
「あだっ」
「本来は人間用だが……霊的現象を遮断する守護の札だ。痛むだろうが動けるようにはなっただろう」
「うん……さてと」
ゆっくりと立ち上がり、白神は膝についた汚れを払った。
「おぉーい、みぃーんなー」
白神が目の前の怪異存在の群れに呼びかける。結界の効力によって地面に這い蹲っていた怪異たちは、各々顔に相当する部位を彼女に向けた。
「今日集まってくれたの、わたしはすっごく嬉しいんだけどね? この中にまだ挨拶が済んでない子がいるみたいなの。怒らないから出ておいでー?」
白神の呼びかけに、怪異たちは蠢いて反応を示す。そのうちの1体、黒い棒人間の頭に1対の白く丸い目がついたような子供程度の背丈の妖怪が這いながら近付いてきた。
「ん? 君、どうしたのかな?」
屈み込んで目線の高さを近付けた白神に、棒人間は蚊の鳴くような声で返答した。
『ゴメ……ァィ……ゥアァ……』
「んー……あ、もしかして君、挨拶がまだ済んでなかった子かな?」
『ゥン……タノシソダタ……』
「そっか。じゃ、今お友達になろ? これでもうわたし達の仲間だね。ヒラサカさん、それで良いよね?」
白神に顔を向けられた平坂は答えを返さず、代わりにその棒人間の頭部に雑に紙の札を貼り付けた。
『アキャァ』