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Tell us terrible Terrors:あけて その⑱

“八尺様”が足元の泥土を掴み取りながら、ふらりと立ち上がる。それとほぼ同時、徒歩で道祖神破壊から戻ってきた王蕗が、戦場に合流してきた。
「ごめん遅く……状況は!」
「! 先輩能力貸してください!」
「え、あ、え、良いけど!?」
“八尺様”の投げた泥は、突如出現した直径約150㎝のフキの葉に阻まれた。同時にそれは吉継の姿を覆い隠し、標的の姿が視界から途切れた“八尺様”は怒りで奇声をあげながら四つん這いで突進する。そこに物陰から飛び出した4体のコロポックルが植物繊維製のロープを投げ、“八尺様”を絡め取った。
「永江くん、コピー能力なんてあったんだ?」
「略霊限定ですけど……おかげで助かりました」
“八尺様”は自らを縛めるロープを容易に引きちぎり立ち上がる。
「流石にパワーがあるな……急ごしらえじゃ時間稼ぎにもならない」
「……先輩、何とかして時間稼いでください。何か掴めそうなんです」
「……ほう? まあ構わないよ」
自然物から作られた武器を握った様々なサイズのコロポックルたちが草陰から現れ、王蕗の足元に集合する。
「さぁみんな、あいつをやっつけよう」
“コロポックル”たちが石槍や棍棒を掲げて鬨を上げ、突撃を開始した。小さな身体は長腕で容易に薙ぎ払われ、投擲された武器も有効打を与えることは無く皮膚に弾かれるが、それでも“八尺様”を苛立たせるには十分だったようで、注意を奪われ吉継への攻撃が緩む。
その間、吉継は戦線から一歩引き、静かに自身の能力と向き合っていた。
(……俺の能力【八尺様】は、俺の攻撃を最大で2m先にまで飛ばす能力。“八尺様”のあの長い腕を借りたような力。……本物の“八尺様”は今、道祖神を壊されて封印から解き放たれた。俺の【八尺様】だって、『手の届く範囲』なんて小さな世界に閉じこもっている必要、無いんじゃないか……?)
頭にノイズが走るような感覚――自身に宿る『能力』が新たな一面に目覚める感覚が、吉継の脳裏に閃く。
最後に残ったコロポックルの一団が、大きな掌で無慈悲に叩き潰される。
「準備済みの軍隊は全滅した。行けそうかい、永江くん?」
“八尺様”が腕を振り上げる姿を眼前に、王蕗が問いかける。
「……多分、行けます」
“八尺様”が限界まで指どうしを広げた長く大きな掌を、2人に向けて振り下ろした。

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Tell us terrible Terrors:あけて その⑰

“八尺様”が掴みかかる。吉継が異聞能力で払い退ける。その応酬の中、均衡は不意に崩れた。“八尺様”が長い腕を用いて足元の泥土を掴み、吉継の顔に向けて投げつけたのだ。
「っ……!」
目潰しに態勢が崩れ、その隙に長い腕が迫る。残り数㎝で捉えられるというその時だった。
「さぁぁぁせぇぇえるうううかああああっ!」
トレビュシェットから射出された潮が、“霊凛”を“八尺様”の側頭部に叩き付けた。速度と硬度、怪力の乗った一撃で、“八尺様”の巨体が大きく崩れる。
「飛んできた!?」
「王蕗先輩の“コロポックル”くんが優秀でね!」
“八尺様”が頭を振りながら長い腕で薙ぎ払うが、潮はその攻撃を竹刀で受け止める。
「はんっ、その程度の肉体で“ダイダラボッチ”を押し退けられると思うなよ!」
しかし、もう片方の腕が素早く伸び、潮の身体を掴んで持ち上げた。
「っ……」
「秋津先輩!?」
潮は囚われた瞬間、強烈な睡魔に襲われた。
(何これ……たぶん、“八尺様”の特性……耐える、無理、なら、後輩くん、まもら、なきゃ……)
血が出るほど強く舌を噛み、辛うじて意識を繋ぎ止める。
「後輩くん……! 掴まれちゃ、だめ……ねむくなる……!」
「えっ……」
「この、2.4mぽっちが……そんな、ちいさ、てで……巨人が……捕らえ、られ……か……」
潮の意識はそこで途切れた。しかし、同時に彼女を掴んだ“八尺様”の手が、地面に叩き付けられる。
【ダイダラボッチ】の異聞能力は、語部の肉体に巨人の如き『剛力』と『重量』を与える。“八尺様”が常人にあり得べからざる巨体と並外れた妖力を具えているとはいえ、山を超える巨神の質量を持ち上げるほどの怪力まで兼ね備えているわけも無い。意識を喪失して完全に能力が解除されるまでの僅かな時間、潮の小さな肉体は、敵の行動を制限する『錘』の役を果たしたのである。
(隙……!)
吉継は腰のホルスターから“霊火”を引き抜くと、ワンマガジン分連射した。BB弾が身動きの取れない“八尺様”の全身に突き刺さり、『ギャア』という悲鳴をあげて畑に転げ落ちる。身体を起こした“八尺様”の頭に載っていた鍔広帽は地面に落ち、殺意を剥き出しにした目で吉継を睨みつけている。

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Tell us terrible Terrors:死にゆくお前に中指を! 敵設定

名称:コードネーム・ハグレイ
説明:かつて“妖記廊”のエージェントを務めていた男性。任務中に剰霊能力を発動し、自滅して怪異へと変じた。
普段は人型に擬態しているが、損傷を受けるとその部位が樹木のものに近い組織で埋められるように再生する。極めて高い再生能力と強力な異聞・剰霊能力によって、討伐は困難となっている。
能力:【Who put Bella in the Wych Elm?】
・略霊:土の中に任意の『植物の種』を生成する。生成された種子は通常の速度で成長するが、異聞能力を利用すれば高速成長が可能。
・異聞:周囲に自生している植物を操作する。操作可能な範囲は、自身が接地している大地から土壌で繋がった領域のうち、自身に視認可能な範囲(実質的な最大射程は1㎞程度)。また、副次的能力として植物の存在を感知する効果もある。土壌に直接接していなければ発動できない。
・剰霊:地中から木の根が絡み合って構成された大顎を展開する。大顎に囚われた物体は、通常の腐敗の数万倍の速度で分解される。この能力は地面に接地していれば発動可能で、アスファルトや建物の基礎などで隔たれていようと、大顎はそれらを噛み砕いて出現する。

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Tell us terrible Terrors:死にゆくお前に中指を! キャラクター②

名前:慈雲寺陸斗(じうんじ・りくと)
性別:男  年齢:25歳  身長:173㎝
説明:“妖記廊”のエージェント。コードネームは“二重身”。新米時代から能力を活用して悲劇を未然に防いだ成果が多く、期待の新人として見られていた。
一人前になって初めて組む相手がふざけた地雷女で軽くキレている。能力自体はちゃんとある奴なので猶の事真面目にやってほしいと思っている。

能力:【ドッペルゲンガー】
略霊:『死相』が見える。対象の肉体の生命枯渇や、近い未来に『死亡のリスク』に遭遇する可能性を知覚できる能力。対象に付き纏う『死』の内容までは分からないものの、体内で進行する傷病に気付いたり、『命に拘る事象』に限れば疑似的・限定的な未来予知ともなり得る。
異聞;対象となる人間に接触することで発動権を得る。この権利は獲得後1時間まで持続する。発動権を得た状態で発動することで、対象と同じ姿の人型実体を召喚する。実体は発話することができず、対象の年齢相当の知能によって自律行動を行う。行動を指示することは可能だが、飽くまで行動内容は召喚体自身の意思に依存する。
召喚体が自身の元となった人間と直接対面した場合、表面に無数の小さなブロックノイズが発生する。このノイズに触れた物質は、接触した分の体積が『消滅』する。

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Tell us terrible Terrors:死にゆくお前に中指を! キャラクター①

名前:茂木加奈(もてぎ・かな)
性別:女  年齢:26歳  身長:158㎝
説明:地雷系ファッションに身を包んだ、“妖記廊”のエージェント。コードネームは“騒霊”。強力な語部であり、新米時代から数多の事案に臨んでは解決してきた。
しかし自分についてこれないバディを業務中に亡くした経験が多く、トラウマからか少し荒んだ性格をしている。能力のせいで『人が死んだ瞬間』を感知できてしまうため、『他人が死ぬこと』を何よりも嫌悪している。

能力:【ポルターガイスト】
略霊:無生物を対象として、対象物に接触することで発動する。対象に“家鳴り”や“ラップ音”のような音を鳴らさせる。音のパターンは自由に設定可能で、設定したパターンをループさせることも可能。一度能力を発動すれば、その場から離れてもラップ音は継続するし、遠隔解除も可能。また、副次的な効果として『その物体が生物か無生物か』を知覚できる。生きた生物が死亡することで“無生物”となる瞬間も感知可能。
異聞:周囲に存在する“無生物”を浮遊させて操作する。理論上、同時発動数や操作速度に上限は無いが、操作感としてはマニュアル操作に近いため、語部自身に認識・制御可能な発動数・速度が実質的な上限となる。操作可能範囲は自身から半径50m。

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Tell us terrible Terrors:あけて その⑯

作戦地点である農道脇で、吉継はスマートフォンの時計を見ながらその時を待っていた。
『ぼ、ぼぼ、ぼ、ぼぼぼ、ぼぼ、ぼ』
彼の背後からは、打楽器とも管楽器とも付かない低い音が切迫した様子で鳴り響いている。
「……思い返すとさ、“お姉さん”……いや、“八尺様”か。あれと近づいた時、いつもこの音が俺を引き戻してくれてたんだよな」
『ぼぼ、ぼ、ぼ、ぼ』
「……助けてくれてたんだな、ずっと」
『ぼ、ぼぼ、ぼ』
「…………ずっと勘違いしてたんだけどさ。お前なんだろ? 俺の『イマジナリー・フレンド』」
『ぼ、ぼ』
「…………ありがとな。もう、大丈夫だから」
背後の夜闇に振り返る。やはりそこには誰もいない。
「大丈夫だよ。覚悟の上だから。今夜、決着をつけるよ」
『……ぼ』
「応援してて」
もう、その音は聞こえなかった。代わりに農道の奥から、しわがれた女声が近付いてくる。
『け、けきゃ、けた、あけた、た、あいた、ひらいた、れた、はいれた、はいれた、あいた、あいた』
“八尺様”が上半身を揺らしながら、ふらふらとした足取りで近づいてくる。前髪の隙間から覗く黒い瞳は、間違いなく吉継を捉えていた。
「……ずっと騙されてたぜ、この村はよっぽど上手くお前を封印してたんだな。随分長生きしたようだけど、今日が年貢の納め時ってやつだぜ」
構えを取る吉継に対して、“八尺様”は約2mの距離で立ち止まった。異様に長い腕を伸ばせば、容易に吉継を捕らえられる距離だ。
「来いよ。捕まってやらねえぞ」
“八尺様”が左手を伸ばす。その手首を払い退けるように、吉継は裏拳の衝撃を転送した。強化された遠隔打撃が手首の内側を弾き、掴みを妨げる。
“八尺様”は弾かれた手を見つめて首を傾げ、右手を伸ばした。吉継は再び異聞能力で拳の打撃を飛ばし、払い退ける。
二度も防御されたことで、“八尺様”は原理こそ分からないながらも、目の前の標的が抵抗していることを確信した。その一連の攻防は、怪異の機嫌を損ねるには十分だった。
『……ろ、れろ、いれろ、つらまえろ!』
両手で挟撃するように掴みかかろうとする“八尺様”。その顎を遠隔の突き上げが捉え、仰け反らされたことでまたも攻撃は失敗に終わった。

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Tell us terrible Terrors:死にゆくお前に中指を! その⑨

駅前のゲームセンターからほくほく顔で出てきた女性が一人。所謂“地雷系”と呼ばれる出で立ちで、クレーンゲームで勝ち取ったのであろうクマのぬいぐるみのキーホルダーを右手に吊り下げた姿は可愛らしいとさえ評されよう。そんな彼女の前に立ち塞がるのは、彼女の相棒の青年。
「よう、何してんだ?」
「見りゃ分かるでしょ、『ててまるくん』ストラップ取りに来たのよ。200円で3個も取れたんだから。あたし天才」
「……そうか」
「ァによ、別に非番なんだからどこで何しようが勝手でしょ」
「別に悪いとは言ってねえだろよ。ただの世間話だ」
「あっそ」
加奈はキーホルダーの一つを陸斗に投げ渡した。
「1個あげる」
「そりゃどうも」
キーホルダーをポケットにしまう様子を、加奈は無表情で凝視していた。
「……何だよじろじろ見て」
「いや……生きてんなぁ……と」
「そりゃ生きてるだろ」
「…………6回」
「何が?」
「組んだ奴が初仕事で死ななかったの。6回ぶり。まぁあたしのおかげだけど」
「……まあ……そうだな」
「ふん、分かってんならもっと感謝して崇め奉りなさい」
「感謝も尊敬もしてんだからそれ相応の勤務態度を見せてくれよ」
「っせぇなァあたしにゃあたしのやり方があんのよ。ねぇ、あんた何か趣味とかある?」
「何だよいきなり」
「ただの世間話よ。あんたの好みに合わせてやるからちょっと一日付き合いなさい」
「ただの世間話じゃ済まねえじゃねえか。……他人付き合わせられる趣味か……」
「何、他人に言えない趣味とかあんの? この変態」
「無ぇしあったとて言うかバーカ」
二人はつつき合いながら、休日の街へと消えていった。

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Tell us terrible Terrors:死にゆくお前に中指を! その⑧

数十万や数百万では足りないほど大量の粒子を、樹木組織を削り飛ばせるほどの高速で回転させ続ける。その暴挙は、人間一人のキャパシティには余りある情報量だった。
「ッ……ぐ、ッァ……、……!」
脳の酷使と精神への重圧に苦悶する加奈の鼻から、赤い液体が垂れ落ちる。
(駄目だ、まだ止まるな、まだ残ってんだろ身体がァ……! 今止めたらそこから再生する! 削りきれ、殺しきれ、最期の一片まで!)
呼吸は乱れ、心拍数は張り裂けんばかりに上昇し、目の前に火花が散る。
「づ……ッ……?」
一瞬、意識が途切れる。無数の砂粒が制御を逃れ、重力に引かれて降り注ぐ。
(駄目だ、駄目だ、回れ脳味噌、あたしが殺らなきゃまず後輩が死ぬ! ここが崩れりゃもっと死ぬ! 動かせ、早く、再開し、ろ……)
「もう終わりだ、相棒」
「……ぁぇ?」
恐らく気を失っていたのは数瞬であったのだろうが、気が付くと陸斗が後ろから身体を支えていた。ぼやける視界の中、敵の姿を探すと、数m先で“ハグレイ”に抱き着く“ドッペルゲンガー”の姿があった。分身もまた砂嵐に削り飛ばされ、衣装は破れ全身を血に染めており、片脚も千切れ落ちている。
「あとは“ドッペルゲンガー”が、消し飛ばす!」
分身の体表に発生する無数のブロックノイズが、“ハグレイ”を一口ずつ飲み込み、消失させていく。“ハグレイ”は両腕を再生させて抵抗しようと藻掻くが、その動作の一つ一つが削り飛ばされていく。やがて体幹部は完全に消滅し、残った両腕も投げ上げられた後、振るわれた掌に走るノイズに一片残さず削ぎ消された。
「……おわった?」
「ああ、終わりだ」
「…………そ」
加奈は消え入るように呟くと、陸斗の腕に完全に体重を預けた。
「重い」
「…………」
「……おい? “騒霊”?」
「だっこ」
「幼児退行してんじゃねえか」
「うっさぃ。めんどぃ。あたまきかない。はこんで」
「……車呼ぶから」
「やだ。『ててまるくん』とりいく」
「……俺が行くからお前はさっさと帰れ。コインロッカーの鍵寄越せ」
「ん」
ポーチから取り出した鍵を陸斗に押し付けると、加奈はそのまま意識を手放した。

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Tell us terrible Terrors:死にゆくお前に中指を! その⑦

“ドッペルゲンガー”の体表に、無数のブロックノイズが発生する。『同一人物』との対面によって発動する副次的効果だ。
(これこれェ、こいつが欲しかったんだよ……この『触れたものを全て消し去るノイズ』が!)
「前衛は任せるぞ、“あたし”!」
“ドッペルゲンガー”が頷き立ち上がる。振り返り相対するは“コードネーム・ハグレイ”。躊躇なく駆け出した人型が土の地面に触れたと同時、“ハグレイ”は『大顎』でそれを捕食した。しかし次の瞬間、大顎は内側からノイズに削り飛ばされて崩壊し、中から無傷の“ドッペルゲンガー”が現れる。その後も木の枝や蔦草の迎撃が差し向けられるが、その全てがノイズに呑まれて削ぎ消える。
彼女の全身に走るノイズは、決して『常に全体を覆っている』わけでは無い。しかし、全体に不規則に発生しては消えるノイズを回避して直接攻撃を命中させることはほぼ困難であり、結果として彼女に向けられた攻撃の悉くが防がれるのである。
遂に“ドッペルゲンガー”は“ハグレイ”の眼前にまで接近した。“ハグレイ”は徒手格闘による抵抗を試みたが、その手足も消し飛ばされ、対応を回避に限定される。
(っし、捉えた……!)
「仕上げだコラァッ!」
“ハグレイ”の足元から砂塵が巻き上がり、“ドッペルゲンガー”諸共包囲する『結界』となる。範囲内では無数の砂粒が高速で循環し、領域内の物体全てを鑢にかけるように削り取っていく。
(0.1秒かからず再生するってんなら、それより早く間断なく! 塵も残さず削ぎ続ければ良い! あたしはこの『砂粒全て』を、ヤツが死ぬまで回し続ける!)
当然ながら“ドッペルゲンガー”も砂嵐に巻き込まれているのだが、ノイズが盾となり“ハグレイ”の受ける損壊よりも被害を軽微に留めている。更に彼女の放つ格闘攻撃が“ハグレイ”の肉体をノイズによって並行して破壊することで、敵の肉体は急速に崩壊していった。

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Tell us terrible Terrors:あけて その⑮

「……へい後輩くん、本当に良いの? 昔馴染みなんでしょ? 割り切れないものとか無いの?」
「えぇ、まぁ……結局小さい頃から俺を狙ってたってのが分かったんで。それなら『敵』なわけで、別に気に掛けること無いなぁ……と」
「ドライだなぁ……まあ、そんなら私ら先輩組が全力で支えたるから、頑張って“八尺様”倒そうぜぃ」
「はい、よろしくお願いします」

方針決定後に吉継と交わした会話を思い返しながら、潮は深夜の山中を歩いていた。彼女の足元では小さな松明を掲げた30㎝程度の“コロポックル”が先導しており、その周囲にも大小様々なサイズの個体が護衛のように控えている。
「お仕事の一環とはいえ、器物損壊は罪悪感あるよなぁ……しかも道祖神。罰当たりだよねぇ?」
コロポックルたちに問いかけるが、彼らは首を傾げて歩き続けるだけだ。
三人の作戦は、次のようなものだった。
まず、王蕗を中心としたコロポックル部隊と潮を中心とした別働コロポックル部隊が、道祖神のうち『2か所』を破壊することで、結界に穴を開ける。その穴から侵入した“八尺様”は幼少からの『標的』である吉継が囮となって引き付け、二人と合流の後、討伐に取り掛かる。
「ねぇ“コロポックル”くんたち、移動の仕込みは済ませてあるんだっけ?」
隣を歩いていた160㎝程度の“コロポックル”が頷く。王蕗の略霊能力が産み出すフキの傘の下から現れた個体だ。
「へぇ、器用だねぇ……」
先導する“コロポックル”が立ち止まると、苔むした崩れかけの古い道祖神が松明に照らされた。
「おぅ……それじゃ、時間が来たら叩き割れば良いんだよね」
対怪異汎用近接武装“霊凛”を竹刀袋から取り出し、スマートフォンで時間を確認する。破壊タイミングは、0時ジャスト。
「残り1分…………30……」
残りが20秒を切ったところで、竹刀を振り上げた態勢で停止する。
「…………ぜろっ!」
【ダイダラボッチ】異聞能力による怪力と“霊凛”の機能である刀身強化が重なり、石塊を粉砕した。
「よしっ、こっちは破壊完了! 移動だよ!」
“コロポックル”達は力強く頷くと、木々の間に隠していたトレビュシェットのような装置の下に潮を導いた。
「ははっ、なるほど人間投石器! 良いよ、思いっきりお願い!」
潮が飛び乗ると、根元に待機していた個体が留め縄を叩き切った。

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Tell us terrible Terrors:死にゆくお前に中指を! その⑥

「おい後輩……コンクリからは絶対出るなよ。さっきは油断したが、もう破らせねえから」
加奈は血の滴る左腕を押さえながら、絞り出すように静かに言う。
“ハグレイ”は既にコンクリートに覆われた橋の下から出て、土壌が露出した地点に立って二人を睨んでいる。
「おい、その傷処置した方が良いだろ」
「お前『腐敗傷』なんてものの手当の仕方知ってんの?」
「知らねえけど、出血止まらない抉れ方してんだろ」
「圧迫止血はしてるわバーカ。どうせ離脱のしようも無いんだし、さっさとあいつ倒して帰んぞ。取り敢えず『殺し方』は思い付いた」
話している間にも、全方位から生えだした草木が二人を襲うが、加奈は【ポルターガイスト】で川の水や周囲の土、コンクリートの破片などで迎撃し続ける。
(どうやら、あの“大顎”は直接足元に出さなきゃならないっぽいな……でなきゃこのラッシュに混ざってるはずだ。けど……流石にこの怪我抱えた状態で、コンクリ割られないようにするのと攻撃全部迎撃し続けんのはキツいな……)
加奈はその場に膝をつき、思考と精神のリソースを可能な限り能力行使に回す。
「おい、『殺し方』って何だよ」
「ま、面子が足りないから今は使えないんだけど」
「はぁ!? じゃあどの道無理じゃねえか!」
「るっさいわねェ……『全方向から削がれ続けても問題ない前衛』なんてものがいなけりゃどうしようも無ェってのよ。あたしの【ポルターガイスト】は『全手動』なんだから」
「……!」
(あんたの能力は聞いてる、“二重身”……あんたの【ドッペルゲンガー】なら、このクソみたいな作戦が成立する!)
陸斗が加奈の背中に手を置いた。
「勝手に触んな変態」
「能力のために必要なんだよボケ。分かってんだろ」
「……ったくしょーがねェなァ~~~! やんぞコラ」
「おう」
【ドッペルゲンガー】異聞能力が発動した。陸斗の背後に現れたのは、加奈と同じ姿の実体が1つ。無言・無表情のソレは加奈の目の前にしゃがみ込み目を合わせた。
「よォ、“あたし”……一緒にあの先輩、弔ってやろうぜ?」
牙を剥くように笑う加奈に、“ドッペルゲンガー”は無表情のまま小さく頷いた。

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Tell us terrible Terrors:あけて その⑭

「ただい……君たち何してるの?」
16時半頃。冷房の効いた吉継の部屋で毛布を被っている二人を見下ろして、王蕗が尋ねる。
「あっ菅原先輩」
あっさりと毛布を捨てて立ち上がった吉継に対して、潮は包まった姿のまま王蕗の足元にすり寄る。
「先輩ぃ~、やっと帰ってきたぁ~」
「菅原先輩、“八尺様”に遭遇しました。あと、昨夜窓辺にやって来たのも“八尺様”です」
「……なるほど。詳しく聞こうか」
3人はテーブルに各々が道祖神の位置を記録したマップを広げ、情報共有をすることにした。
「にしても王蕗先輩のマップ、マークの数多くありません? というかこの村道祖神多すぎません?」
「“コロポックル”達に探させたんだ。君たちの見つけた分も合わせると……こうなるね」
王蕗が描き足したマップには、赤いポイントが100以上、村内はもちろんのこと周囲の山中にまで刻まれていた。
「……多すぎない?」
「多いね。そして、永江くんの証言や遭遇した際の状況、それから僕の推測も合わせると……」
王蕗は定規を手に取ると、赤ペンを走らせてマップ上のポイントを一つ一つ結び始めた。
「……多分、『結界』はこういう形をしている」
「……かなり滅茶苦茶な形してますね? この辺とか異常に細いし……」
吉継の疑問に、王蕗が頷く。
「おそらく、村内に“八尺様”を留めつつも人間が行動圏を避けて生活できるように、建物や道、農地を上手く躱すようにしたんだろうね」
「じゃぁ……『あけて』ってのは……」
「……結界に“穴”を、開けてほしかったんだろうね。『獲物』である君を追うために」
「ぴゃぁ恐ろしい~」
「……秋津さんいつまで毛布被ってるの?」
「……いやほら、めっちゃ強いらしいオバケ相手だし、一人くらいはビビり役がいた方が良いかなって」
潮もあっさりと毛布を解き、畳んで膝の上に乗せる。
「あ、秋津先輩それ演技だったんですね……」
「そりゃそうだよ。いくら準擬神格級っても、私は【ダイダラボッチ】だよ?」
「自信家ぁ……」
「ははは、頼もしいことだ。ところで結構分かってきたところで二人に訊きたいことがあるんだけど」
王蕗に視線が集中する。
「この“八尺様”を、倒すか封じるか。どっちにする?」

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Tell us terrible Terrors:あけて その⑬

畑脇に無造作に立てられた道祖神の位置を地図にマークすること10体目。吉継は頭上に影が差していることに気付いた。
『て……けて、あけ、あ、て……あけて……あけ、て』
「あ、“お姉さん”」
長身の王蕗より更に頭一つ分程度背の高い、白いワンピースと帽子に身を包んだ女性が、吉継に覆い被さるように覗き込んでいた。
「『開けて』ってもなぁ……昔っから気になってたけど、何を開ければ良いんだよ……具体的に言ってよ」
『……あけて』
女性が緩慢な動きで手を伸ばしてくる。その時、奇妙な音が吉継の背後から飛んできた。打楽器と管楽器の中間のような『ぼ、ぼ、ぼ』という低い音が、どこか忙しない雰囲気を伴って鳴り、吉継は誘われるように数歩後ずさる。結果として女性の手は空を切り、女性はその場から動かず吉継と足元を交互に見やった。
『あけて、あけて』
「だから何を……」
女性の目の動きに釣られて、吉継も視線を下げる。女性の足元には、先ほどマークしたばかりの風化した道祖神が佇んでいた。
「……いや、でもなぁ……」
奇妙な悪寒を覚えながら、女性を見上げる。彼女の顔は長い髪に覆われている上に陰になっており、容貌や表情は伺えない。
(……そういやイマジナリー・フレンドって影できるのか? いや想像上の産物なら想像で補完はされるのか……?)
女性が再び手を伸ばそうとしたその時だった。
「どぉぉぉぉおおおおりゃああああああっ!」
更に後方から『飛んで』きた潮が、女性の後頭部に跳び蹴りを命中させた。女性の長身が吹き飛び、農道を転げ落ち畑の泥に叩き付けられる。
「えっなっ秋津先輩っ!?」
「入口の方の道祖神メモり終わったから様子見に来たら!」
「いや待っ、なんであれ蹴れたんですか⁉」
「そりゃ蹴るよ後輩が襲われそうになってたんだし!」
「ちが、あれイマジナリー・フレンドじゃなかったんですか⁉」
「私にも見えてたから違うね、あいつが“八尺様”だよ!」
潮は身体を起こそうとする女性――“八尺様”に目もくれず、吉継を抱え上げる。
「とりあえず退散! 逃げるよ後輩くん!」
自身の異聞能力で強化された筋力で踏み切り、トラクターが踏み固めた農道に深い足跡を残しながら、潮はその場を離脱した。

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Tell us terrible Terrors:あけて その⑫

「僕は山の方を調べよう。君たちは村や入り口のエリアを見てくれ」
祖母宅を出たところで王蕗が提案する。
「別に構いませんけど……一人で大丈夫なんですか?」
吉継の問いに、王蕗はサムズアップを返した。
「大丈夫。自然環境なら頭数は簡単に確保できるから」
そう言いながら、王蕗は道端に生えていた雑草を指先でつついた。その下から、アイヌ風の衣装を纏った小人が数人顔を出す。
「おぉ、小人」
「わぁ~可愛い~」
「これが僕の【コロポックル】の異聞能力。『葉の下から人型を現す能力』とでも言おうか。まあ見ての通り、頭数は大量に確保できるから心配は無用だよ」
「これ全部王蕗先輩一人で良いんじゃない?」
「そう言わないの秋津さん……戦闘力なら君らの方が高いだろ? いや永江くんの能力は詳しく知らないけど……」
「そういやそうっすね。改めて俺の能力は【八尺様】なんですけど……」
潮は思わず吉継の顔を凝視した。
「あの……」
「あ、ごめん。で? どういう能力なの?」
「殴る蹴るの当たり判定を遠くに飛ばせます」
「はぇー便利。射程は?」
「2mくらいっす」
「何ともいえねえ……まぁ、荒事は私に任せなよ後輩くん」
「了解です……」
王蕗が手を叩く音に、2人は顔を上げた。
「それじゃ、二手に分かれようか。二人の動きは任せるよ。17時までには帰ってくる感じで」
「「了解」」
王蕗は大量の小人たちを引き連れて、山道を登っていった。
「さぁ後輩くんや、私たちも行くよ。私はまた村の入り口まで引き返してから、1つずつ道祖神マークしていくから」
「じゃ、自分は畑の方見ます」
「よっしゃ、健闘を祈るぜぃ」
スキップ歩調で村の道を下りていく潮を見送り、吉継が農地方面へ向かおうとしたその時だった。
『……て、て……け、あ……けて……』
聞き覚えのある声に立ち止まる。
(また“お姉さん”かー……ゆうべも思ったけど、健在だなぁ……)
しかし所詮は幻影と思い直すと、吉継は少しずつ近づいてくる声を背に、農道に足を踏み入れた。

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Tell us terrible Terrors:死にゆくお前に中指を! その⑤

“ハグレイ”の異能【Who put Bella in the Wych Elm?】の異聞態は植物操作である。操作対象は既存繁茂しているものに限られるが、略霊態で土中に植物の種子を生成できるため、能力使用が可能な状態ならば実質的に無制限の操作能力なのである。能力発動のためには『土壌への接地』が必要となるため、コンクリートの上から出すわけにはいかないのだ。
「……おい後輩ィ、お前何か攻撃手段無ェのかよ」
「あの再生力相手にどうこうできるような力じゃねえよ、俺の【ドッペルゲンガー】は」
「はッ、期待のルーキーが聞いて呆れらァ」
「俺の売りは攻撃力じゃねんだよ元から」
苛立たし気に爪を噛みながら、加奈は思考を巡らせる。
(つってもどうする……あたしの“異聞”でも攻撃単体当たりは有効打にならねえ。ってか相手の土俵に持ってかれるとワンチャン質量負けも……いやそれは無いか。土もコンクリも泥水もあたしの味方だもんな。つっても……圧し潰しで死ぬか?)
そしてその思考が故に、敵の動きに気付くのが遅れた。“ハグレイ”は拘束された両脚を自切し、即時再生した両足で立ち上がると、転がるように逃走を開始した。
「ッ! 逃げンなタコ!」
再び足をかけて倒すが、“ハグレイ”が伸ばした手はコンクリートの継ぎ目から伸びる雑草の根元に届いていた。
「“騒霊”逃げろ!」
陸斗の忠告に反応するより早く、コンクリートを突き破って樹皮質の『大顎』が出現した。それは一瞬にして加奈を飲み込むと、両顎部を固く閉ざしてしまった。
「なっ……“騒霊”!」
「…………舐めんなコラァッ!」
数秒と経たずに大顎が内側から吹き飛び、加奈が姿を現す。能力によって衣服や装飾を操作し、破壊用の『工具』に変えたのだ。
「クッソ……おい後輩、朗報だ。この『未確認能力』について分かったことが一つある」
「何だ?」
加奈は自身の左腕を掲げてみせた。彼女の服は裾が擦り切れ、皮膚が溶けるように損傷し出血している。
「!? 何があった!?」
「……多分、あれに食われると、普通の数万倍の速度で『生きながら腐れ落ちる』」

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Tell us terrible Terrors:あけて その⑪

翌朝、部屋に入ってきた王蕗の気配で、吉継は目を覚ました。
「おやおはよう永江くん。ごめんね、起こしちゃって」
「おはようございます……いえ大丈夫っすけど、何の御用ですか……?」
「大した事じゃないんだけどね……」
王蕗は部屋の隅に跪き、しばらく何かをしてから立ち上がる、という作業を四か所全てで繰り返した。
「何してるんすか?」
「…………盛り塩をね、交換したんだよ」
「何かあったんすか?」
「んー…………まぁ、常に新しくしておくに越したこと無いからね。……ゆうべ、何かあった?」
「まぁ……イマジナリー・フレンドに再会しました」
「よく消えてなかったね。……そういえば永江くん、能力何だっけ。ちなみに僕が【コロポックル】で秋津さんが【ダイダラボッチ】なんだよ」
「逆じゃないんすね」
「君も言うんだね」
「はは……俺の能力は【八尺様】ですよ」
「…………」
「…………」
「……君のお祖母さんが、朝食を用意してくれてるって。着替えてから居間においで」
「あっはい」
吉継が着替えている隙に王蕗が居間に戻ると、潮が起き出していた。
「はよぉ~っす……んぉ、王蕗先輩」
「……永江くんの部屋の盛り塩、窓側の二か所に劣化が見られた。何であれ、『何か悪いもの』が近付いていたのは確定だよ」
「……“八尺様”?」
「それは分からない。でも、窓側しか劣化してなかったってことは、『入ろうとはしていない』んだよ。いやはや謎だ……兎にも角にも、調査を進めないとだね」
王蕗はそれだけ言って、朝食の配膳の手伝いに向かった。祖母が作った朝食がテーブルに並んだ頃、吉継が居間に入ってくる。
「おはようございます」
「おはよう後輩ぃ」
「改めておはよう。しっかり食べて探索頑張ろうね」
「はい」
朝食を摂りながら、潮が切り出した。
「吉継くんよぅ、ゆうべ何か部屋に寄り付いたって?」
「え? そうなんすか?」
「王蕗先輩が言ってたよー」
「え、じゃあ寝た後のことかな……怖……」
「まぁ、盛り塩もあるし大丈夫だよ。でも何かあったら僕に言ってね。多少のことは何とかするからさ」
「私もー。悪いやつはぶん殴ってやるから安心しな後輩くん」
「ありがとうございます」

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Tell us terrible Terrors:あけて その⑩

村で越す最初の夜。日付が変わるかどうかという頃、吉継は自室で1人今日一日を振り返っていた。
(……今日は俺、何もしなかったなー……一応、祖母ちゃんから聞いた話を二人にも共有したから、成果ゼロってわけじゃなかったか。取り敢えず、明日からは俺もフィールドワークに出るぞー……)
その時、窓ガラスを叩く音が聞こえて吉継は顔を上げた。カーテンを開けて夜闇に目を凝らすが、窓を叩いたものの存在は見当たらない。
(……カナブンかな? まぁ良いや、早く寝ないと……)
布団に目を向けた時、再び音が鳴った。ノックするように連続2回、コンコンと聞こえる。あまりに有意味に聞こえるそれに、吉継は再び顔を上げる。窓の外には、白いワンピースを纏い鍔の広い帽子を目深に被った女性が貼り付いていた。その異常な光景に、しかし吉継が覚えた感情は、『恐怖』ではなく『懐古』であった。
「……お姉さん?」
女は呼びかけに答えること無く、扉を握り拳でノックしながら、ぶつぶつと呟いている。
『あけて、あけ、て、けてあ、けて、あて、あけて、あけてあけて』
(うわぁ、昔と同じだ……何を開ければ良いのか何も分かんないけど……)
ふと思いつき、静かに窓を開ける。女は僅かに目を見開いたものの、窓ガラスがあった位置の虚空をパントマイムのように拳で打ちながら、『あけて、あけて』を再開した。
(……窓じゃねえのか。分かんねえひとだよなぁ、このお姉さんも……)
何とはなしに、女の手を掴もうと手を伸ばしたその時だった。
木管楽器とも打楽器とも付かない、低く短い音が背後から聞こえてきた。反射的に手を止め、音のした方に振り返る。しかし当然何もなく、興を削がれた吉継は窓を閉め、カーテンを引いた。外からは引き続きガラスを叩く音と『あけて』という声が聞こえてくるが、吉継はそれを無視して消灯すると、布団に入り何事も無かったかのように眠りに就いた。
(……まぁ、所詮頭の中だけの友人だし……つか、まだ消えてなかったんだな……俺のイマジナリー・フレンド……)

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Tell us terrible Terrors:死にゆくお前に中指を! その④

二人は20分ほど歩き、川辺に下りると橋の下に標的の男を転がした。ただ落としたのではない。橋梁面とほぼ同高度、約15mからの自由落下である。一般的な人間であればまず死亡するはずだ。しかし、コンクリート面に直撃した男は衝撃と硬度によってひしゃげながらも、活動を続けており身体を起こそうと藻掻いていた。
「動いてんじゃねえよカスがァッ!」
動きの緩慢なその身体を石礫が貫き、右膝がちぎれ飛び残りの肉体が地面を転がる。
「やっぱ人間やめてんなァ……死ぬ気配無ぇぞ」
「“コードネーム・ハグレイ”、生前の呼称だけど……モチーフがよく分からねえんだよな……注意しろよ、“騒霊”」
「誰に言ってんだ後輩」
「お前に言ってんだよ」
「……問い直そうか。『お前風情が』『このあたしに』なんで舐めた口聞けてんだ、あ?」
「心配くらい素直に受け取れや」
「…………っつーか何アレ」
千切れ飛んだはずの男の右脚が、既に生え変わっている。しかし、その質感は一般的な人間の体組織のそれではない。表面は樹皮のような濃褐色で、硬くひび割れている。
「……再生能力……か? 報告には無かったぞ。剰霊能力の一部なのかあるいは、怪異としての特性か……」
「どっちでも良いけどさァ~、お前のせいで治癒の瞬間見られなかったじゃんかよ。どうしてくれんの?」
「もう一度やりゃ良いだろ」
男、“コードネーム・ハグレイ”はようやく起き上がると、2人に向き直った。その顔面もまた、樹皮状組織に覆われている。
「やんのはあたしだってのに、言いやがる……」
不満を垂れながらも、加奈は一握り分の土埃を刃の形状に再形成し、射出した。“ハグレイ”はそれを腕を盾にして受け止める。左腕は刎ね飛ばされたものの、即座に樹皮質の腕が再生する。
「……何秒?」
「4フレ」
「fpsを言えやfpsをォ!」
「60に決まってんだろが!」
「あたしはスマホ中毒者だからfpsといえば30派なんだよ! っつかよく分かったなオイ!」
「とにかく! 0.1秒弱で再生する怪物をどう倒すんだよ?」
「……どうすっかなァ……」
加奈は親指の爪を噛み、橋の下から出ようと背中を向けた“ハグレイ”の両脚をリボンで絡め取って引き倒した。

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Tell us terrible Terrors:あけて その⑨

祖母からの“八尺様”に関する情報提供は、およそ1時間にも及んだ。
「ありがとう、祖母ちゃん。いろいろ教えてくれて」
「当然さ。お前やお友達のためだからね。けど、今日はもう遅いからねぇ、外に出るのは明日にしておきな」
「うん。先輩たち、戻ってくるかな……」
玄関を出た辺りで見回していると、大柄な影と小柄な影が並んで坂を上ってくるのが目に入った。
「あっ戻ってきた」
「ういーっす探索1回目無事せいかーん」
「ただいま、永江くん。まずは情報共有しようか」
「はい」
吉継の後ろから、彼の祖母が顔を出す。
「おやおや二人とも、帰ってきたのかい。疲れただろう、おやつを用意してあるよ」
「えっやったぁ! ご馳走になります!」
「どうもすみません」
3人は居間のテーブルに着き、一口大にカットされたスイカをつまみながら今日の調査内容を共有することにした。
「まず私から。何の成果も得られませんでした! でもこの村自然豊かで私は好きになったぁ」
「僕は役場でこれを貰ってきたよ」
そういって王蕗がテーブルに広げたのは、役場で配布されていた村の全体図である。そこには赤いボールペンで、いくつか点が描かれている。
「このポイントは?」
吉継が尋ねる。
「道祖神だよ。まだ探索は途中だけど、それでも結構見つけたね」
数えると、赤い点は宅地一帯だけで10以上確認できる。
「はぇー……結構多いですね」
「ねー。道祖神って乱立させて良いやつなの?」
「まぁ……悪いモノではないと思うけど……」
「……あ、そういえば祖母ちゃんに聞いたんですけど、“八尺様”は道祖神の囲いの『外』には出られないらしいです」
不意に放たれた吉継の言葉に、潮が顔を上げ、地図を見直してから、再び顔を上げる。
「……『外』ってどこ?」
「……まずは、道祖神ぜんぶの位置が分からないことには……」
「それじゃ、明日は道祖神マッピングから始めようか。二人の分の地図ももらってきてるから」
王蕗の提案で、今後の方針が決定した。

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不動の渡剣 第壱章 第壱話 ①

いつも夢を見るとてつもない悪夢だ、俺は真っ白な部屋に閉じ込められていて白い光がぼんやりと俺の記憶を隠している、そして誰か分からない人の薄っすらと聞こえる声、知らない誰かの叫び声、「静!早く起きなさい!」その声で俺は目覚めた時計の針は2時47分で止まっていた、学校があるので俺は急いで家の外へ出たが何か胸騒ぎがした。「遅れてすいません!。」「お前が遅刻なんて珍しいな!後で生徒指導室な。」先生っが言った。「はい。」次の授業は文化祭の出し物の準備なので2年の方々は体育館に集合してください。「嫌だめんどくさいからいかねぇー!!」後ろで男子たちが愚痴を零していたが後ろを見ると全員の顔が引きつって行く「げ、氷姫…」この氷姫と呼ばれているのが俺の幼馴染の白神霙[しらかみみぞれ]だ昔から本当に氷のような女性で放課後は剣道に茶道、俳句に琴様々な事を得意とする凄い女性だ、そうだ俺の紹介をしておこう、俺の名前は駿河静[するがせい]俺は生まれたのが富士今では静岡と呼ばれている場所だ。俺の家計は代々富士流という流派の剣技を扱っていたらしいが俺が出来損ないなせいでその流派はもうなくなったっと同等だおっと練習が始まるみたいだ「ただいまより東京都立歩健高等学校の文化祭最終確認を行います。」そうここはエリートの中のエリートが通える伝説の高校歩健高等学校である。「よぉよぉよーく見たらお前雑魚雑魚の静君じゃ~ん。」こいつの名前は古葉光明[ふるばこうめい]古葉財閥の御曹司でありこの高校壱の暴れ者だ「先生の気まぐれで入学できてよかったでちゅね」こいつは俺の事を馬鹿にするのが好きで毎日三人でちょっかいをかけに来る。「貴方達何してるのかしら?。」霙がこちらに歩いてきたのを見た光明は声色を変えて話し出す。「あらこれはこれは霙さんお元気でしょうか。」こいつが霙に恋しているのは皆が知っているが声が変わりすぎて変な感じもする。

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Tell us terrible Terrors:あけて その⑧

永江宅を出た王蕗は、一足先に出発していた潮を坂の下に見つけると、急ぎ足で追いついた。
「んぉ、王蕗先輩」
「やぁ、途中まで一緒に行こうかと思ってね」
「了解ぃ、どの辺で分かれます?」
「もうちょっと戻ったところに十字路があったろ? 僕は右に行こう。そっちに住宅が見えたから」
「ほむ。んじゃぁ私は入り口まで引き返してから道なりに探索していこっと。私の見たとこはマークしてくんで、上手いこと使ってくださいな」
「マークって……どうやんの?」
潮が立ち止まり、目を見開いて王蕗を見上げる。
「……そういや私ら、能力について1ミリも共有してない?」
「……してない、ねぇ……」
「じゃ、せっかくだから私ら間だけでも共有しときますか」
潮は片足を真上に振り上げ、勢いよく地面に足裏を叩きつけた。小気味の良い音が響き、次の瞬間すぐ隣にいた王蕗の頭に『情報』が流れ込む。その総量自体は決して多くは無い。『0秒前』『0.00.01.46』といった“時間”の情報と、『道の中央に立つ少女』という漠然とした“イメージ”だけだ。
「これは……」
「ふっふっふ、これが私の能力【ダイダラボッチ】の略霊態。『私がいたこと』を空間にマーキングする力です」
「へぇ……」
「ちなみに半径は30m固定」
「……不便だね」
「否定しがたい……」
「活かせるかは分からないけど、頭に入れておくよ」
「ちなみに先輩の能力って何なんです?」
「【コロポックル】」
「そのナリでですか……似合いませんね」
「ブーメランだねぇ。それに君、コロポックルが何か知ってるかい?」
潮は胸を張って答える。
「そりゃあ知ってますよ。何せ私、あだ名が“コロポックル”ちゃんなので。あれでしょ、北海道のフキの葉の下にいる小人」
王蕗がくすりと笑う。
「それは内地の人間が誤解した解釈だ。“コロポックル”、意味は『フキの葉の下の人』…………」
王蕗が手を前方に翳す。その中に、彼の身長以上の丈の植物の茎が現れた。
「Petasites japonicus subsp. giganteus……和名ラワンブキ。北海道は螺湾川沿岸に自生する、実在のフキさ。“フキの葉の下の人”の本質は“フキ”の方なんだよ。『人が下に入れるほど巨大なフキ』が存在するってだけさ」

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Tell us terrible Terrors:あけて その⑦

「吉坊や、お友達は外に出たんだね?」
吉継が居間に向かうと、祖母が声をかけてきた。
「うん、2人は自分の目で村を見て回りたいんだって」
「そうかい、お菓子でも出してやろうと思ったんだがねぇ……」
「そうだ祖母ちゃん。もしかしたら日ぃ跨ぐことになっちゃうかもしれないんだけど、先輩たち泊めても良い?」
「もちろんさ。それじゃぁ晩ご飯は腕によりをかけないとだねぇ」
「ははは、お構いなく……」
雑談を交わしながらも祖母の向かいに座り、吉継は本題を切り出すことにした。
「そういえば祖母ちゃん、聞きたいことがあるんだよ」
「何だい、実習に関わるのかい?」
「うん。ねえ祖母ちゃん、“八尺様”って知ってる?」
祖母は僅かに目を見開くと、背筋を伸ばして吉継の目を見つめ返した。
「…………吉継や、お前、学校でどんな勉強をしてるんだい?」
「普通の勉強だよ……まぁ、ちょっと特殊な事情はあるんだけど……」
「…………そうかい。お祖母ちゃんにはその“事情”っての、教えてくれないのかい?」
吉継は数秒思案してから口を開いた。
「……祖母ちゃん。俺が“八尺様”の名前を挙げた瞬間雰囲気変わったけどさ。『実在する』って前提で良い?」
祖母は静かに頷いた。
「……そっか。祖母ちゃん、俺たちは“八尺様”を倒しに来たんだ……あるいは封印。だから、少しでも情報が欲しい」
その言葉に、祖母は天を仰いで溜め息を吐いた。
「……吉継や、お前の学校じゃ子供を危険に晒すのかい?」
「大丈夫だって、祖母ちゃん。大丈夫だからこそ、俺たちが来れたんだから。本当に駄目なやつなら、学生にこの話下りてこなかったはずだもん」
「……そうは言ってもねぇ…………自分の孫が危険なものに近づこうとしてるなんて、飲み込めないものなんだよ」
「でも祖母ちゃん。情報が無きゃ、避けられる危険も避けられないよ。頼むよ、先輩たちのためにも、知ってることがあるなら教えてほしいんだ。どんな奴なのか、何ができるのか、弱点なんかはあるのか、そういうの」
力説する吉継に目を細めると、祖母は立ち上がって台所に向かった。
「話せることはそりゃ、たくさんあるさ。長くなるし、お茶でも飲みながら話そうか」

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Tell us terrible Terrors:あけて その⑥

吉継の祖母宅は、村内でもやや標高の高い、奥まった場所にあった。左右を畑に挟まれた道を抜け、上り坂を越えた先に、平屋建ての民家が横たわっている。吉継は慣れた様子で敷地内に踏み入り、引き戸の玄関扉を叩いた。
「祖母ちゃーん、俺だよ吉継だよー」
数秒と経たずに屋内から足音が近づき、引き戸が開かれた。
「おやおや吉坊久しぶりだねぇ。最後に会ったのはいつだったか……」
「村出たのが小6だから、3年前くらいかな?」
「もう夏休みかい?」
「まだだけど、学校の実習でこの村に用があってさ。学校の先輩もいるの」
その言葉で、祖母は吉継の後ろに立つ二人に気付いた。
「あれまぁあれまぁ、とにかく上がりなさいな、長旅だったでしょ?」
「うん。ってわけで先輩方、上がってください。祖母ちゃんちょっと俺の部屋使うね。ってか空いてる?」
「勿論さ。出てった時のまんまだよ」
「よっしゃお邪魔しまーす」
「お邪魔します」
3人は玄関を入って左手の部屋に入る。
「取り敢えずここを拠点にするってことで、やってきましょう」
「おー」
「助かるよ」
王蕗は持っていたオリコンを床に下ろし、腕を軽く振った。
「これ地味に重かったからさぁ……とにかくこれで、何も気にせず調査に踏み出せる。さて、何からしようか。足で探すか、聞き込みか……」
潮は荷物を床に下ろすと、ストレッチをして竹刀袋に入ったままの“霊凛”を一振り肩に担ぐ。
「私は能力もあるし、直で足使って探すよ。小さい村とはいえ、手分けした方が速いでしょ」
「じゃ、俺は祖母ちゃんが何か知ってないか聞いてみますね」
「僕も村をぐるっと見て回るよ。戦うにしても地形は掴んでおきたいし、村の人と会えたら聞き込みもできるかもしれない」
「よっしゃ、3人とも初動は決まった。さぁ散開! 打倒“八尺様”!」
潮の掛け声で、3人は各々動き出した。潮は先頭を切って家を出て、男子二人が部屋に残される。
「……菅原先輩は行かないんですか?」
「行くよー、ただ一応、準備は固めておかないとかなと思って」
「はぁ……」
王蕗は部屋の四隅に盛り塩を設置してから出発した。
「……俺も動くかぁ」
王蕗が玄関を出る気配を聞きながら、吉継は祖母の下へ向かった。

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Tell us terrible Terrors:死にゆくお前に中指を! その③

通信で聞いた座標を頼りに二人が辿り着いたのは、某駅付近のスクランブル交差点だった。休日午前中ともあり、多くの歩行者が行き交っている。
「後輩」
「見えてる。吐き気がするほどにな……」
「ってこたァ、ホシはこの辺にいるわけだ……」
陸斗の目には、歩行者一人一人に色濃く貼り付いた『死相』が、鮮明に映っていた。目を逸らしたくなる悍ましい光景に顔を顰めながらも、陸斗は一人一人の顔を検める。探すのは、この渦中にあって唯一『死相が浮かんでいない者』――つまり、『死の元凶となる者』の姿。
「…………ッ! いた。11時の方向、こっちに背を向けてる禿頭背広姿の中年」
「……アイツか。怪異ならどうせ周りから見えねェんだ、手荒に扱うぞ」
「この場で戦うわけにもいかないからな」
加奈は髪留めにしていた黒いリボンを解くと、ふわりと投げ上げた。彼女の能力【ポルターガイスト】、その異聞能力が支配するリボンは空中で1本の繊維へとほどけ、歩行者の隙間を縫って男に向けて射出された。そして一瞬にして全身を絡め取ると、空中へと持ち上げる。一連の展開に周囲が気付くことは無い。既に怪異へと変貌していたその男は、霊感の無い一般人には認識不可能だったためだ。
二人は信号の点滅し始めた交差点を渡り切り、空中に拘束した男を連れて人通りの多いその場を後にする。
「さて……こいつどこで殺そっかな。その辺の川原?」
「少なくとも人のいる場所はマズいよな」
「まぁ、しばらく適当に連れ歩いて、良い感じに物が多くて人の少ないところが見つかったらそこで始末ってことで。あたしに『死相』が出ないか見てろよ?」
「さっきからずと浮かびっぱなしだわ。めちゃくちゃ睨まれてんぞ」
「そりゃいきなりとっ捕まったら恨むだろ。ほらさっさか歩く」

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Tell us terrible Terrors:あけて その⑤

太陽が天頂に達する頃、ワゴンは山道を越えて小さな農村の入り口に停車した。スライドドアが開き、最初に潮が転げ出るように降車する。
「うげぇ……悪路過ぎぃ……」
「秋津さん、乗り物弱いのかい?」
後から降りてきた王蕗がその背中をさする。
「むしろ私以外の三半規管屈強過ぎない……?」
「まぁ……昔取った杵柄といいますか……慣れた道なんで……」
最後に降りた吉継が言う。
「僕は酔い止め飲んでたからねぇ」
王蕗も酔い止め薬の箱をポケットから出して答える。
「あっズルい! 帰りは私にも分けて!」
「了解」
助手席側の窓が開き、運転手の男が三人に声をかける。
「それじゃ、俺は少し下りた所で待機してるから、事が済むか手に負えないレベルで悪化したら、連絡してくれ。すぐ迎えに行くからよ」
「えー、おじさん一緒に戦ってくれないのー?」
潮が窓枠に掴まって口を尖らせる。
「俺は“語部”じゃねえの。怪異相手にゃ無力の一般人でしかないんだ、荒事は本職に任せるぜ」
「私らもアマなのに……」
「金貰って働く以上、お前らもプロさ。さあ頑張ってこい」
3人を置いて、ハイエース・ワゴンは元来た道を下りて木立の奥へと消えていった。
「……さて、やるかぁ」
王蕗が封印装備のオリコンを抱えて言う。
「っても何からする? “八尺様”ってこんな真昼間から出てくるの?」
潮が“霊火”のホルスターベルトを巻きながら問う。
「まずは探索拠点からかなぁ。いざって時の集合場所を決めておかないと。山の中だからスマホの電波が届くとも限らないし」
「あっ、それなら……」
吉継が手を挙げる。
「どうした永江くん」
「俺の祖母ちゃん家に行きませんか。祖母ちゃん今一人暮らしだから部屋余ってるし、場所的にも結構目立つ位置なんで」
「おー後輩の実家ぁ。見てみたーい」
「それじゃ永江くん、案内頼んだ」
「了解っす」
吉継の先導で、3人は村に足を踏み入れた。道中、道端に古びた人型の石像が目に留まる。
「おっ道祖神。お祈りでもしていく?」
「道祖神ってそういうものでしたっけ……」
「まぁ見守っていてくださいってことで」
3人は軽い会釈をしながら、道祖神の前を通り過ぎた。

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Tell us terrible Terrors:死にゆくお前に中指を! その②

人気の無い地下道に入ったところで、青年が口を開く。
「……今回のホシは」
「“アッチ側”に行っちゃったあたしらの先輩。残念だよなァ~」
「把握してんならさっさと動けよ……」
「やる気無いのに動くわけ無えだろ常識でもの言えよ。モチベ0で命なんか張れるかってんだ」
「俺らが動かなきゃ大勢死ぬんだぞ?」
「うるせえうるせえこんな声響く場所で言うことじゃねえだろTPO弁えろカス!」
「所構わず説教しなきゃならないこっちの身にもなれってんだ!」
「無能の世話しなきゃなんねえこっちの身にはなったのかよあァ!?」
男が足を止める。その気配に気づき、女性も立ち止まり正面から向き合った。
「……誰が『無能』だって?」
「あたしと組んだ奴で1人だって“有能”な奴なんざいなかった。だから全員死んだんだろうが」
「てめッ……! 失礼だとは思わねえのかよ……!」
「あいつらに口無しだバーカ。外ならぬバディのあたしの評価に外野から口出される覚え無ェんだよ」
「このッ……!」
その時、通信インカムに着信が入った。二人は同時に通信態勢に入る。
『“騒霊”、“二重身”、ターゲットを発見した。ヤツの現在地は――』
「……喧嘩は後だ後輩。さっさと行ってさっさと終わらせんぞ」
「分かってる」
“騒霊”と呼ばれた女性・茂木加奈と、“二重身”と呼ばれた青年・慈雲寺陸斗は、先ほどまでの口論が嘘であったかのように目つきを変え、歩き出した。
「おい後輩、“略霊”回し続けろ。『死相』が突然増え出したら敵前だ」
「言われるまでも無え」
今回二人が臨んでいる任務は、暴走した“語部”の討伐だ。陸斗の【ドッペルゲンガー】、その略霊能力は、対象の“死相”――『死に近づいている運命』を相貌として感知する。『暴走した“語部”』などという殺傷と破壊の権化が傍にいれば、死のリスクに近づいた事実が彼の目に掛かるのは明白だった。

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Tell us terrible Terrors:あけて その④

オリエンテーションから数日後の日曜日午前7時50分。養成校高等部校舎前に、3人は集合していた。
「おはようございます、秋津先輩、菅原先輩」
「よっす後輩くん~」
「おはよう永江くん。10分前行動とはしっかりしているねぇ」
「はい……で、ここで合ってますよね?」
「そだね~、8時出発って話だけど……車移動?」
「らしいね。“妖記廊”の人が車出してくれるってさ……と、噂をすれば」
エンジン音に3人が顔を上げると、1台の紺色のハイエース・ワゴンが最徐行で近づいてくるのが見えた。
「あのナンバー……うん、あれだね」
「おー、でっかい車だ~」
潮が先んじてワゴンに向けて駆け出し、後の二人も続く。停車したワゴンの運転席側の窓が開き、30代ほどの男性が顔を出した。
「お、全員揃ってるな。5分前集合とは感心感心。それじゃ、みんな後ろに乗りな」
3人が乗車してシートベルトを締めると、ワゴンはゆっくりと発進して校門を抜けた。
「さて、依頼内容については理解できてるかな?」
運転手の男が尋ねてくる。
「はーい、“八尺様”を倒す!」
「または封印する」
潮と王蕗の答えに、男は頷いた。
「そう。封印用装備については一番後ろのシートにオリコン(折り畳みコンテナ)があるだろ? そこに入ってるから。それから、全員分の“霊凛”と“霊火”もあるぞ。みんな講習は受けてるか?」
「もちろん!」「はい」
潮はサムズアップを示し、王蕗も首肯する。
「自分も行く前に受けとけって言われて受けました」
吉継も答えると、男は目を細めて頷いた。
「真面目な学生たちで何よりだ。目的地までは3時間くらいかかるから、好きに過ごしていてくれ」
車が赤信号で停止したタイミングで、王蕗は席から手を伸ばし、後部座席に載っていたオリコンを引き寄せた。
「おっ、流石王蕗先輩腕長~い」
「こういうところは背が高い強みだよねぇ」
王蕗はオリコンを膝に乗せると、封印装備を確認し始めた。潮はスマートフォンをいじりながら時間を潰し、吉継は再発進したワゴンの車窓から、流れる景色を眺めていた。

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Tell us terrible Terrors:あけて その③

教員はスクリーンを下ろし、プロジェクターを起動した。そこには依頼内容をまとめたスライドが映し出される。
「今回の事案は、県外某村への派遣依頼です。この中だと、おそらく君は知っていますね? 永江くん」
突然指名され、吉継は背筋を伸ばす。
「は、はいっ。俺の故郷っす」
「そうですね。土地勘のある君が参加してくれて、我々としても嬉しいですよ。さて本題ですが、皆さんにお願いしたいのは、準擬神格級怪異“八尺様”の討伐あるいは封印です」
“準擬神格級”――怪異存在の脅威度を測る指標段階の一つである。怪異存在の中でも強力で、一般人から畏怖と信仰を集める類の段階だ。これより上には、ほぼ神格存在と同列視されて伝えられる“擬神格級”がある。畢竟、“準擬神格級”は『上から二番目の強さ』なのである。
「“八尺様”はこの村で約470年前から存在が確認されている怪異存在であり、強力な妖力の持ち主です。しかし特殊な封印措置がされているようで、行動能力が大きく制限されています。そのため、皆さんでも十分に対処可能だと判断しました。幸いにも地元民の永江くんに経験豊富な秋津さん、専門的に学んでいる菅原くんが集まってくれたのですから、きっと解決できるでしょう。皆さんにはこの怪異の討伐または、より高度な封印措置を行ってほしいのです」
そこまで聞いて、王蕗が手を挙げた。
「はい菅原くん」
「“討伐”の方は良いとして……封印用の装備は?」
「それはこちらで用意しています。あとで菅原くんに預けておきますね。多分一番うまく使えるでしょうから」
「ってことは“道満式”か……? まぁ分かりました」
「ねー王蕗先輩、その“どーまん式”ってどういうやつなの?」
「えっと、雑に言うと『結界に閉じ込める』タイプの封印だね」
「はぇー。丁寧に言うと?」
潮と王蕗の会話が盛り上がりかけたところで、教員が手を叩いて制止する。
「話は後にしていただけると助かりまーす。続いて日程についてですが……」
その後、日程や持ち物、任務中の休校処理などについての説明が為され、オリエンテーションは30分ほどで終了した。

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Tell us terrible Terrors:あけて その②

吉継が会議室に入ると、並べられた長テーブルには既に一人、小柄な少女が着いていた。
「おっ生徒~。ってことは今回の“演習”の参加者?」
「あ、うん」
「よろしく~。私は秋津潮、高2だよ。気軽に潮先輩と呼んでくれぃ」
「えっ」
潮の自己紹介に、吉継は硬直する。男女で体格差があるとはいえ、ともすれば小学生にも見えるほど小柄な目の前の少女が、自分より年上とは考えつきもしなかったのだ。
「す、すいませんタメ口聞いて……永江吉継、1年です」
「気にすんなよぅ。ほれ座りな?」
「あっはい」
吉継がパイプ椅子の一つに腰掛けて間もなく、再び会議室の扉が開き、女性教員が入室してきた。
「あ、高校生組はもう来てますね」
「“高校生組”? ってことは中学生も誰かいるんです?」
潮の言葉に、教員は首を横に振った。
「もう一人は大学生の人ですよー。時間的にまだ講義があるのかな……」
その時、入り口扉がノックされた。
「あ、来ましたね。どうぞー」
扉が半分ほど開き、青年が顔を覗かせた。しかしその位置が異様に高い。扉の上枠に頭頂を擦るほどの高さに頭が浮いている。
「あの……? 入って良いですよ……?」
教員に勧められて、青年は半開きになった扉の隙間に身体を滑り込ませるようにして入室してきた。改めて現れた彼は、想定より遥かに長身であった。先ほどは身を屈めていたようで、背筋を伸ばすと身の丈は2mを越している。なるほど屈まなければ部屋に入るのもままならないわけだ。
青年を見た吉継と潮の感想は、まったく同じだった。
「「……長ぇ!」」
「……君ら仲良いね」
「あ、いや初対面っす……」「うんうん」
「そう……仲良くなれそうだね君ら。僕は菅原王蕗。よろしく」
二人と握手をして、王蕗もまたパイプ椅子の一つに腰掛け、窮屈そうに身体を丸める。
「それでは、本事案の参加者が全員集まったので、説明を始めますね」

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Tell us terrible Terrors:死にゆくお前に中指を! その①

駅前のゲームセンターからほくほく顔で出てきた女性が一人。所謂“地雷系”と呼ばれる出で立ちで、クレーンゲームで勝ち取ったのであろう巨大なクマのぬいぐるみを抱える姿は可愛らしいとさえ評されよう。そんな彼女の前に立ち塞がるのは、黒服姿の青年。
「……こんな所で何をしている?」
「あ? 見りゃ分かんでしょ、今日発売の『ててまるくん』巨大ぬいぐるみ取ってたのよ。500円で取れたんだかんね。あたし天才」
「……問い直そうか。『業務時間中に』『ゲームセンターで』何をしている?」
「……サボり?」
男は溜め息を吐き、口調に苛立ちを隠すことなく続けた。
「ふざけてんの?」
「うるっせェなァ~~~! 別に良いだろうがよどうせ時間は腐るほどあんだからァ~!」
「腐るほどは無ぇわ! 猶予がどれだけあるかも分かんねえんだぞ!」
「お前こそ業務絡みの内容不用意にくっちゃべてんじゃねェよクソガキがよォ~!」
「この程度で規定に引っかかるかよバーカ! テメェの勤務態度の方が万倍引っかかるわボケが!」
女性は答えず、手にしていた『ててまるくん』を青年に叩き付けた。
「あーやめやめ! お前と話すと喧嘩しか起きねェ!」
「そっちが真面目にやってりゃ起きるはずの無い喧嘩なんだよなぁ!」
「るっせ、先輩サマに説教なんざ1年早いんだよォ」
女性は肩にかけていたポシェットから通信インカムを取り出し、耳に装着した。
「あたしはあたしのペースでやっから良いんだよ別に。どーせお上は全部現場に任せるっきゃ無ぇんだからァ……」
二人は駅前のコインロッカーにぬいぐるみを押し込むと、その場を後にした。

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Tell us terrible Terrors:あけて その①

「これは、俺が生まれ故郷にいた頃の話なんだけどさぁ」
放課後の教室に、一人の男子生徒の囁くような声が響く。彼の周囲には、クラスメイトの男子生徒が数名。
「俺、県外出身で、山の中のド田舎の村で生まれたんだよね。小学校まではそこで育ってさ。中学上がるタイミングで親の転勤でこっち引っ越してきたのよ。で、村での話なんだけど、村に『めっちゃ背の高いお姉さん』がいたの」
「へぇー、どんくらい? 175? 180?」
クラスメイトの野次に、少年はニタリと笑う。
「推定2m以上」
「マジで!?」「やっば!」「それもう半分妖怪だろ!」「いやそれは2m級の女性に失礼やろ」
口々に盛り上がるクラスメイトたちを制止し、少年は話を続ける。
「で、そのお姉さん、俺が出かけるといつもいつの間にか付き纏ってたんだよね。身体がデカい分、とんでもない大股でさ、俺がどんだけ走っても引き離せねえの。で、そのお姉さん、『あけて、あけて』って言いながら俺のこと追いかけてきてたんだよね」
「何を開けるんだよ……」
「それが俺にも謎でさぁ。いろいろ試したよ? 目、口、ペットボトル、ノート、虫かご、ジッパー……でも、お姉さんが反応することは無かったんだよなぁ……」
「普通扉とかじゃねえの?」
「……その手があったか」
「え嘘本気で気付いてなかったん?」
「それでな。そのお姉さんの不思議なところが、お姉さんいつも、途中で追いかけるの止めちゃうんだよな。突然ぴたっと止まって、そこからじっと俺のこと見送ってくれんの」
「……ってのが、お前の『イマジナリー・フレンド』かー」
先ほどまでの怪談大会のような空気から一転、空気が一気に和らぐ。
「へぇ~、でも人型なの良いなー。俺のIF(イマジナリー・フレンド)なんかパンタグラフだぜパンタグラフ」
「電車の上に付いてるアレとお友達やってたお前の神経が信じられねえよ俺ァ」
「俺は黒猫だったからまだ普通だな」
能力者養成校の教室の一室で繰り広げられていたそれは、どうやら『自分のイマジナリー・フレンドについて語る会』だったようだ。
「やっべ、俺この後用事あるんだった。じゃあなみんな、楽しかったよ」
最後に語り役になった少年、永江吉継は鞄を手に取ると、急ぎ足で教室を後にした。

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Tell us terrible Terrors:のろい、まじない、きりはらい キャラクター紹介④

燿子の能力
【コックリさん】
・略霊:『儀式』による占術。儀式は「共に儀式を行う1名以上の参加者」「外部と接続されていない任意の文字出力手段」「火のついた蝋燭」を必要とする。まず、参加者以外から観測されていない状態で火のついた蝋燭を立てる。次に、参加者全員が文字出力手段に指を置く。この状態で「コックリさん、コックリさん」と文頭に加えて口頭で質問を行うことで、文字出力で回答が返ってくる。『コックリさん』は未来について回答することはできないが、現在以前に由来するあらゆる情報にアクセスすることができる。また、1度質問した参加者は、他の参加者全員が1度ずつ質問するまで再度質問することはできない。
文字出力手段は必ずしも”10円玉と紙”である必要は無く、文字さえ出力できるなら鉛筆を握るだけでも良いしタイプライターでも構わない。ちなみにインターネットに接続された機器では儀式に必須の『閉塞状態』に穴が開くため、儀式を実施できない。
・異聞:対象1名以上と自身を、黒い霧を練り固めたような球状結界に幽閉する。結界内で1度攻撃行動を行った者は、自分以外の全員が1度ずつ攻撃行動を行うまで再度の攻撃行動を取ることができなくなる。また、結界内でこの”語部”は、『コックリさん』と同様現在以前のあらゆる情報を獲得することができる。『こっくりさん』の儀式を、戦闘に適した形式に昇華したような形態。
・剰霊:『自分以外の参加者』を用意せずに略霊儀式を行うことで発動する。動物霊に憑依されることで、獣の如き敏捷性と高い知覚能力を得る。憑依されている間も自我は残ったままだが、動物霊の気分次第では肉体の主導権を乗っ取られることもある。また、剰霊能力発動中は、狐耳と尻尾が肉体に現れる。動物霊と”語部”双方の合意が取れなければ解除はされず、動物霊が許さない限り出ていってもらえないのは勿論、逆に動物霊が飽きても”語部”が引き留めるなら憑依は終わらない。
『こっくりさんの禁忌』を自らの手で引き起こす形態。

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Tell us terrible Terrors:のろい、まじない、きりはらい キャラクター紹介③

清嘉の能力
【メリーさん】
・略霊:召喚体の使役。召喚体は身長60㎝程度の、ロリータ衣装の少女のような姿をしている。また、本質的に”人形”であるため、破壊されても駆動可能な関節が繋がっている限り、バラバラになった部位の一つ一つが独立して動き続けることができる。最大召喚数は1体。
召喚体は”語部”が直接的(肉眼で見る、声を聞く等)または間接的(映像や録画録音越しに認識する等)に認識したことのある相手を対象として、その背後に瞬間移動することができる。対象が移動した場合、召喚体は徒歩で追跡する。
召喚体は対象の位置を常に把握できる。
”語部”は召喚体の位置を常に把握できる。
・異聞:召喚体の使役。召喚体は身長1m程度の、ロリータ衣装の少女のような姿をしている。
召喚体は両手の指を鉤爪に変化させることが可能で、高いパワーとスピードを発揮することができる。
また、召喚体が放つ『私メリーさん。今、あなたの後ろにいるの』というメッセージを対象に聞かせることで、対象の背後に瞬間移動することができる。この時、メッセージは直接声にするのでも、電話や録音による間接的なものでも効果を発動できる。
対象の背後に障害物がある場合、対象の背後で出現に十分な空間がある最も近い位置に出現した上で、物理攻撃によって障害物を破壊しながら対象に接近する。
・浄霊:召喚体の使役。召喚体は身長160㎝程度の、ロリータ衣装の女性のような姿をしている。手足の関節は人形のような球体関節であり、体表は木材のような硬質性を具えている。
召喚体は”語部”の背中から生えるように負ぶさって現れ、その背から決して離れようとはしない。両手の指を鉤爪のように変化させることが可能で、高いパワーとスピードを発揮できる。この高い能力は攻撃に用いても勿論高い効果をもたらすが、真価は『防御』の際にこそ発揮される。
召喚体は自律行動し、”語部”への攻撃を防ぐために振るわれる破壊力と速度は通常時の数倍に至る。
『捨てられた人形の恨み』である”メリーさん”の望みであった「所有され、所有者に愛されること」を叶え、その愛にメリーさんが応えた形態。

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Tell us terrible Terrors:のろい、まじない、きりはらい キャラクター紹介②

名前:清瀬愛弥(きよせ・まなみ)
性別:女 年齢:15歳(高校1年生) 身長:163㎝
説明:能力者養成校への転入を固辞したことで“妖記廊”の目から外れている、野良の“語部”の少女。自分の能力の強さから全能感に支配されており、日頃から気に入らない相手は略霊能力を悪用して正面からボコボコにしたり、異聞能力で破壊行為を働いたりしていた。要するに不良。
イマジナリーフレンドである「なぜか顔を思い出せないお姉さん」は今も健在で、よく虚空に視線を投げたり何か独り言をしている姿が目撃されている。

能力:【ジャック・ザ・リッパー女性説】
・略霊:自身の人相を他者に認識させない幻惑効果を纏う。略霊能力使用中の”語部”は、他者から認識されこそすれど、その容貌が印象に残ることは無く、『そこに人がいた』という記憶は残っても『どんな人だったか』はまったく思い出せなくなる。
『切り裂きジャック』の正体不明性を現出したような能力。
・異聞:空間上に直線軌道で不可視の斬撃を走らせる。発動前に自身を起点として斬撃の向かう方向を指定することで、その上を斬撃が通過する。斬撃の移動速度は最大で約300㎞/h。最大射程は約40m。一度に出せる本数に限度は無いが、軌道をイメージするための”語部”側の思考力には限界があるため、基本的には数本ずつ用いる。
また、斬撃は軌道上の物体に接触するまでは『存在しない』ため、実体をぶつける以外の手段では干渉できない。
『切り裂きジャック』の殺傷性を現出したような能力。

備考:『切り裂きジャック』自体は歴史上の実在する未解決事件であって、厳密には『都市伝説』ではない。しかし『切り裂きジャック女性説』という派生説の物語性を借りたことで、『都市伝説の怪異』の領域に上ることが可能となり、能力として昇華されたのである。

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Tell us terrible Terrors:のろい、まじない、きりはらい キャラクター紹介①

名前:足立清嘉(あだち・すみよし)
性別:男 年齢:16歳(高校1年生) 身長:170㎝
説明:東京の能力者養成校の1つに通う少年。能力の覚醒自体は13歳とかなり遅かったが、元となったイマジナリーフレンドとの付き合いはかなり長く、3歳の頃から『自分にしか見えないお人形の“ハナちゃん”』が一番の友達だった。名前の由来は、『お洋服にたくさんついてるヒラヒラ(フリル)がお花みたいだったから』。
能力覚醒後、進学による多忙などもあり長らくハナちゃんのことは存在すら忘れていたが、“メリーさん”と交流することで、小さい頃の一番の友達を思い出し“浄霊”の才能を開花させた。

名前:野火止燿子(のびどめ・ようこ)
性別:女 年齢:13歳(中学2年生) 身長:150㎝
説明:東京の能力者養成校の1つに通う少女。通っているのは清嘉とは別の学校。
能力に目覚めたのは5歳の頃。幼稚園で平仮名を覚えてすぐ、当時既に覚醒しかけていた“コックリさん”の使い方を理解した。イマジナリーフレンド時代の“コックリさん”は、よく分からないひょろ長い獣の姿をしていた。今思えばイタチ系の動物だったかもしれない。
“語部”としての経験値は同年代と比べてもかなり高く、将来有望なルーキーとして“妖記廊”からも注目されている。
よその学校の生徒と協力して依頼に臨むと聞き、最初は「えーなんでー。同じ学校の子どうしでやれば良いじゃん」と思っていたが、別に嫌ってわけではないので素直に推薦に応じた。

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【再掲】Tell us terrible Terrors:設定 能力者の組織

・”妖記廊”
日本の”語部”支援機構。公的文書に名前が挙がることは無いが、政府や皇室にも存在を認可されている公的秘密組織。日本各地への能力者養成校設置、組合運営、国家規模での対怪異防衛戦略などを一手に担う、日本の”語部”のトップ。ちなみに日本の能力者支援の手厚さは世界トップクラス。2位が中国で3位がイギリスらしい。

・能力者養成校
各都道府県に最低1つ以上設置されている私立学校。ほとんどの都道府県には1校設置されており、例外として人口の多い東京と歴史のある京都には3校、面積のある北海道と妖怪伝承が多い岩手には4校、出雲大社のある島根と伊勢神宮のある三重には2校設置されている。日本全国で合計59か所。
いずれも幼稚園から大学までのエスカレーター式。中途編入や進学時に学園外に出ることは可能だし、一応“語部”と無関係の外部生も入学できる。最大の特徴として、文部科学省が定める通常の学習課程に加えて、『怪異学』と『能力制御』のカリキュラムが組み込まれていることがある。通常教育でカモフラージュされているため、一般人からは普通の私立校として見られている。
日本国内で新たに誕生した”語部”は”妖記廊”所属のある”語部”の能力によって即座に存在を把握され、進路を養成校に誘導される。
”語部”を取り逃さないために、入学者及び家族には手厚い支援が為される。

能力設定
【チェンジリング】
略霊:『赤子の誕生』を感知する能力。『赤子』の定義を『特定概念に新規に該当するようになった存在』と再解釈することで、日本国内における新たな”語部”の出現を察知することができるようになった。
備考:”妖記廊”所属のとある”語部”の能力。この力によって国内における能力者の誕生を感知し、即座に保護工作を講じることができる。

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Tell us terrible Terrors:のろい、まじない、きりはらい 補記&テキスト外設定

・実は『召喚系能力』は語部全体で見ても比較的レアな能力です。特殊能力は本来、『怪異の性質を独自に昇華して武器とする』ものなので、怪異そのものの存在性を保ったまま実体として使役する召喚能力は、結構レアなのです。その中でも、清嘉の”メリーさん”はかなり自我が強く、召喚体自身の意思で形態を変えたりもするため、本当に異質な存在です。

・本来、怪異存在とイマジナリー・フレンドは別存在です。何故か清嘉の”メリーさん”はイマジナリー・フレンドとしての自認がかなり強いようですが、原因は不明です。いろいろな要素が噛み合った結果の奇跡の産物としか言いようがない。

・燿子の”コックリさん”も語部の能力としては珍しく、『異聞形態でも殺傷能力がほぼ皆無である』という性質をもっています。剰霊形態でようやくまともな戦闘能力(それですら攻撃力は燿子のフィジカルに依存してかなり低い)を獲得するという、あまりにひ弱な語部が燿子。

・実は一番ベーシックな語部は、3人の中だと愛弥(攻撃能力の無い補助用の略霊・攻撃能力の高い異聞・剰霊/浄霊未到達)。その愛弥ですら、一般的な怪異が元となった語部ではない。全員が全員特殊事例。

・能力の各形態(略霊/異聞/剰霊/浄霊)の併用可否は、各人によって異なります。たとえば清嘉の場合、1体の召喚体が段階ごとに形態変化しているため、同時使用はできません。清嘉のようなパターン以外だと、『略霊能力の使用をトリガーとして異聞能力以上が発動する』ものや『一形態の使用に集中しなければならないほど負担の大きい』といったパターンの能力がこれに当たります。燿子や愛弥は、各形態の効果が競合していないため、同時使用も可能です。

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Tell us terrible Terrors:のろい、まじない、きりはらい その⑱

清瀬愛弥の捕縛成功から数日後。清嘉のスマートフォンにビデオ通話が着信した。
「もしもし?」
『もしもーし、足立センパイ。お疲れ様です燿子ですー』
「野火止さん……あ、腕は繋がったんだ……良かった」
『いやぁ、友人にすごい“語部”がおりまして』
何事も無く繋がっている左手をひらひらと振りながら、燿子はカメラ越しに笑顔を見せた。
『センパイ、お給金は振り込まれましたか?』
「うん……何か、すごい額だった……」
『中高生がいきなり6桁のお金もらったら、金銭感覚壊れちゃいますよね~』
けらけらと笑う燿子に、清嘉も苦笑して頷く。
『そういやマナミちゃんってどうなったんですっけ? そっちの校長に引き渡してからのこと、私知らないんですよねぇ』
「何か、うちに転入することになったらしいよ」
『ふーん。周りに強い能力者がたくさんいる環境で鼻っ柱へし折られちゃえば、マナミちゃんも大人しくなりますかね?』
「だと良いなぁ……」
『あ、センパイセンパイ。私、“メリーさん”にご挨拶したいですー』
「えー……まぁ良いけど……」
略霊形態の召喚体を呼び出すと、“メリーさん”は物珍しそうに画面に顔を寄せた。その様子に、燿子は黄色い声を上げる。
『きゃーメリーさん画面越しでももちもち可愛い~! メリーさんこんにちはぁ』
『こんにちはぁ?』
『ご挨拶出来て良い子ですねぇ……』
「……もう良い?」
『あっはい、ありがとうございました』
“メリーさん”を膝の上に乗せ、清嘉は会話を再開する。
「それで、用事はそれだけ?」
『んー……腕が治ったのは見せたし……』
「あ、やっぱりそれも目的だったんだ……」
『ま、私相当な深手負ってたらしいですからねー。“コックリさん”から解放してもらったの、あれから三日後だったんですよ? あとそれから、マナミちゃんのその後も聞いたし……あっそうだセンパイ。打ち上げしましょう打ち上げ。祝勝会ですよ。私がそっちにお出かけするんで、一緒に遊びましょう』
「えー…………まぁ良いけど……」
『なんで女の子が遊びのお誘いしてるのにそんな微妙な反応してるんですか。まあ了承してくれるならそれで構いません。日程決めちゃいましょう。スケジュールは私が組みますから』
燿子の勢いに押されながらも、清嘉は休日の予定を確認し始めた。

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Tell us terrible Terrors:のろい、まじない、きりはらい その⑰

「ふむ……小僧、成長したのう……その呪い人形もな」
清嘉の背中に負ぶさるように抱き着いた“メリーさん”は、その背丈が160㎝ほどにまで伸びており、体つきも幼い少女のそれから成人女性と同等の頭身にまで成長している。
「うん……って“コックリさん”腕ぇ!? そ、もげ、取れてる!?」
「案ずるな、接ぐ宛てはある」
「そ、そうなんだ……?」
「燿子の自我は沈めておるから、あの娘がこの痛みを感じることも無いぞ」
「あ、やっぱ痛いんすね……」
「そんなことよりもほれ、敵前じゃぞ」
“コックリさん”の言葉に、清嘉は改めて愛弥に向き直る。
「ふーん……何か強くなったっぽいけど……木偶人形如き、私の斬撃の敵じゃないんだよッ!」
愛弥は同時に十数本の斬撃軌道を展開した。一斉に迫り来るそれらを、“メリーさん”は背負われた態勢のまま身を乗り出し、材木質を思わせる両腕を振り回して次々と捌いていく。斬撃がその両腕に触れる度に硬質な衝撃音が響くが、それらの一つとして召喚体表面に傷をつけることは無く、受け流されたり弾かれて周囲の地面や壁を切り刻むに終わってしまう。
「あー……“メリーさん”曰く……」
斬撃の弾幕に冷や汗を流しながらも、清嘉は不敵に笑って言い返す。
「『クソガキの刃物遊び如き、メリーさんの敵じゃない』ってさ」
(煽りでめっちゃ脚色したけど……)
その言葉に、愛弥の殺気が更に燃え上がる。
「ブッ殺す!」
激情のままに無数の斬撃を雪崩の如く撃ち出し続けるが、“メリーさん”の両腕がそれらを全て叩き落とすため、清嘉たちより後方にその破壊が及ぶことは無い。
「あと……“メリーさん”、滅茶苦茶硬いってだけでさ……」
次の瞬間、清嘉と“メリーさん”は5m近く開いていた愛弥との距離を一瞬にして詰め切り、愛弥の顔面を人形の掌で掴むように捉えた。
「パワーも割と、あるんだわ!」
そのまま渾身の力で振り下ろしたことで、愛弥は押し倒され後頭部を地面に衝突させた。
「がッ……っ……」
愛弥の身体から力が抜け、動かなくなる。
「……一瞬、じゃったのぅ。流石じゃな、小僧」
「“メリーさん”がすごいんだよ。それに、野火止さんと“コックリさん”も足止めしてくれてありがとう」
「うむ。燿子には妾から伝えておいてやろう」

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Tell us terrible Terrors:のろい、まじない、きりはらい その⑯

【コックリさん】の異聞能力によって張られた結界の中、燿子は少しずつ押され出していた。
「せやっ!」
獣の速度を乗せた、鋭い前蹴りを躱される。カウンターで放たれた愛弥の拳をどうにか腕を盾に受け止め、反動を利用して距離を取る。
「クカッ……お主、能力頼りかと思うたが、案外と空手もイケるクチじゃのう?」
「はッ、こちとら喧嘩慣れしてんのよ。雑魚がケモ耳生えた程度でイキんなよ?」
(ふむ……腹立たしいが事実。燿子の肉体は決して殴り合いに適した体格ではない。妾が速度と感覚を補ったところで、小さく、短く、軽い肉体は如何ともし難い……が!)
「それがどうしたァ!」
再び弾丸のように飛び出し、跳び蹴りを放つ。しかし――
「馬鹿じゃないの? 素手でカウンター取れるってことは……」
回避しながら愛弥の放った斬撃に身を捩るも、宙に置かれた身では行動能力に限界があった。斬撃を躱しきれずに左腕が飛ぶ。
「能力でも同じことができるってことなのよ」
「……クカカッ。面白くなってきよった」
(この損傷……身を裂かれる激痛如き、妾は慣れ腐っておるが、ただの人の身たる燿子には耐えられんじゃろう。悪いが眠っていてもらう他あるまいて……)
傷口を押さえながら、燿子――否、“コックリさん”は呼吸を整える。現在は彼女の手番であり、少なくとも自ら攻めない限り相手からの攻撃を受けることも無い。
(……それにしても『切り札』が『過去』になるのはいつじゃ! 随分と遅いではないか!)
“コックリさん”は愛弥との殴り合いの最中も、常に思考の隅で『再検索』を繰り返していた。求めていた情報が彼女の収集可能な『過去』となる瞬間を待っていたのである。そして、遂にその時が訪れる。
「ッ…………! ク、ククッ、クカカッ……!」
「……あ? 何がおかしいの? 痛みで気でも触れた?」
「クククッ……案ずるな小童よ。貴様を狩る『鬼札』が、最高速度でこの場へ迫っておる。最早この結界も不要じゃろて」
(小僧……! 出来るとは信じとったが……やはり“浄霊”を身に付けて戻ってきおった!)
結界をかき消すと同時、“コックリさん”の隣に一つの――正確には『一つに見えるほど密着した二つの』影が着地した。
「ごめん“コックリさん”! 遅くなった!」
『私メリーさん……今、所有者(あなた)の後ろにいるの!』

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Tell us terrible Terrors:のろい、まじない、きりはらい その⑮

『ん~……じゃぁ所有者ぁ、昔話して?』
「えっ何突然。さ、猿蟹合戦とか?」
『ん~んっ。メリーさん、所有者ぁのむかしのはなし、ききたいの』
「……俺の昔話? 俺が小さい頃のことを話せと?」
『うん。10ねんくらいまえの、むかしばなし』
「覚えてねえよ……ギリ小学校上がるかどうかの頃合いだろ?」
『……じゃぁもっとまえ?』
「余計覚えてねえよ…………」
『所有者ぁ、ちっちゃいとき、おにんぎょうあそび、したでしょ?』
「え……」
抱かれたまま清嘉を見上げる“メリーさん”を、まじまじと見つめる。彼の召喚体はただ、感情の読めない曖昧な微笑みを浮かべているばかりである。
「…………これは“メリーさん”の話じゃないんだけどさ」
『うん。きかせて?』
「俺、三人兄弟の真ん中っ子なんだよ。兄貴一人、弟が一人いてさ、そういうわけで家で遊ぶにも玩具の取り合いになるわけよ……そんな中、唯一俺以外の誰も持ってかない玩具があったんだ」
『……うん。どんなの?』
「女の子の人形。そう……“メリーさん”みたいに赤いフリルがたくさん付いたドレスを着てて……長い金髪で……」
『うん……うん』
「幼稚園時代は、比喩抜きに毎日それで遊んでたと思う。別に、可動部があるとか光るとか鳴るとか、そういう機能は一個も無かったんだけどさ……お喋りしたり、ごっこ遊びに使ったり……」
『それから?』
「小学校上がってからは勉強とかあってさ。毎日遊ぶって感じではなくなったんだけど……たまに偶然見つけた時には抱っこしたり眺めたりしたっけな」
『うん。そうだね』
「そういや、中学で【メリーさん】の力を使えるようになって、能力者養成校に転入した辺りかな……転校とか、勉強や部活で忙しくなって、あの人形で遊ぶことも無くなったなぁ……なんで今まで忘れてたんだろ。俺、あだ名も付けてたんだぜ?」
『うん……どんなの?』
清嘉は“メリーさん”を抱き上げると、目の高さを合わせて見つめ合った。
「……今思えば、あの人形は俺の頭の中にしか無かったから、俺だけの人形だったんだろうな……。……“メリーさん”、あれは“メリーさん”じゃない。それは承知の上で……」
『うん、メリーさん、またそうよんでほしいの』
「――“ハナちゃん”。ドレスのヒラヒラ……あの沢山のフリルが花みたいだって思ったんだ」

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Tell us terrible Terrors:のろい、まじない、きりはらい その⑭

燿子が愛弥との戦闘を開始したその頃、清嘉は両脚片腕を失った“メリーさん”を抱えて、ビル街を離れて住宅街を走っていた。
(デートっつったって……何しろってんだよ……?)
『うぅ~……私メリーさん……もうダメかも……』
「ごめんって、一回仕切り直そう」
『やだ~』
「なんでぇ?」
清嘉は道中に倉庫を見つけ、裏手に回りブロック塀との隙間に潜り込んだ。その場に腰を下ろして息を整え、膝の上に召喚体を乗せる。その姿は、『略霊』形態の最も小さなものに変化していた。
『私メリーさん……いっぱいがんばったから、所有者ぁからごほうびほしいの』
「ご褒美?」
『ぎゅーってしてほしいの……メリーさん今、片手がないから、その分ぎゅーってつよく……おねがい?』
「はいはい……」
“メリーさん”の姿勢を調整して、抱きしめる。“メリーさん”はくるくると喉を鳴らして、頬擦りをした。
『メリーさん、頭もなでてほしいの……わしゃわしゃー、ってしてほしいの……』
「なんでそんなに甘えんぼさんなの……」
苦言を呈しながらも、言われた通りに頭を撫でる清嘉。
『んゃ~……メリーさん、今よわってるからあまえたさんなの……』
「そっかぁ……」
『あとあとぉ……えらいねーってほめてほしいの』
「あぁうん、よく頑張ってくれたな、“メリーさん”。ありがとう、マジで助かった」
(庇ってもらわなきゃ俺らが真っ二つになってたし)
しかし、“メリーさん”は清嘉の腕の中でいやいやと首を横に振る。
『そっちの名前じゃなくて、所有者ぁのつけてくれた名前でよんで?』
「……俺のつけた名前?」
『私メリーさん……“メリーさん”じゃなくて、所有者ぁが私のためだけにつけてくれた、あっちの名前でよんでほしいの……おねがい?』
「どっちのことだよ……?」
(俺、“メリーさん”のこと『メリーさん』としか読んだこと無いよな……?)
『……むぅ……所有者ぁがにぶちん……』
「えぇ……?」

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Tell us terrible Terrors:のろい、まじない、きりはらい その⑬

(……“野火止さんの身体は”、か……。お主、なかなか悪くない男と組んだものじゃのぅ。のう、燿子や?)
(ちょっと頼りない人ですけどねー)
精神下で燿子の魂と話しながら、彼女の身体を奪った“コックリさん”は愛弥と相対する。愛弥は雰囲気の変わった燿子に怪訝な目を向けた。
「何だお前、そのケモ耳……それがアンタの力?」
「えぇまぁ、そんなところで……あれ」
(コックリさん、身体返してくれたんですか?)
(動物霊は気紛れなのじゃよ。ほれ、敵前でぼさっとするでない)
(はいはいありがとうございます)
「さて……マナミちゃん」
「誰がマナミちゃんだコラ。気安く呼ぶな」
「まぁまぁ。あなたに勝てる人が戻ってくるまで、私に足止めされといてくださいよ。あなたの力じゃ今の私は殺せないので」
「あー?」
愛弥が1本の斬撃を飛ばす。燿子は膝の力を抜き地面にへばりつくようにして、その攻撃を回避した。
(ククッ、素人め。殺意が丸見えじゃ。これでは力を使うまでも無く狙いが見えるぞ)
(コックリさんの知覚能力とスピードが無かったら普通に私食らってたと思いますけど……)
(ええい煩い! 今はそれらが揃っておるのじゃから良いのじゃ! ぐちぐち言う童には仕置きじゃ!)
(あっ)
燿子の目が一瞬据わり、直後怪しげな金色の輝きを湛えて見開かれる。
「クカカッ! では始めようかの……“コックリさん”をなァ!」
燿子の『異聞』能力が発動する。両者を取り巻くように黒煙の渦が現れ、やがてそれは半球状の結界へと変化した。
「……何よこれ。こんなもので閉じ込めたつもり?」
「『つもり』も何も、もう貴様には抜け出せんよ」
燿子は滑るような動きで距離を詰め、愛弥の頬に裏拳を当てながら駆け抜けた。
「ぐッ……クソガキがァッ!」
愛弥の放った斬撃の軌道を、燿子は軽く身を捩るだけで回避する。
「クカカッ、鈍い鈍い!」
「クソッ、ならもう一発……!」
愛弥は再び能力を使おうとした。しかし、斬撃は発生しない。
「は? なんで……」
「決まっておろうが」
再び燿子が詰め寄り、跳び回し蹴りを放ちながら反動でそのまま飛び退いた。
「“コックリさん”は『順繰り回し』じゃぞ?」