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五行怪異世巡『肝試し』 その⑧

悪霊の攻撃は、離脱しきれていない青葉と犬神に向かった。青葉は杖を盾代わりに構えたが、悪霊の腕は直角に折れ曲がりながら回避して2人に迫る。
「……あぁクソ、何やってんだノロマ共が!」
千ユリが叫ぶのと同時に、2人は無数の腕の霊“草分”に突き飛ばされる。悪霊の攻撃は代わりに“草分”の1本を捉え、命中と同時にぐしゃぐしゃに変形させた。
「ごめん……助かった千ユリ」
「うっさいさっさと立て馬鹿。そこのアホが攻撃に参加できないなら、攻め手がアタシの“野武士”とあんたの仕込み杖だけなんだからね」
「ああうん」
千ユリが出現させた武士の霊“野武士”と、再び立ち上がった青葉が並び立つ。相対する悪霊の全身は、それまで以上に醜く悍ましく捻じ曲がり、上下逆に向いた顔で3人を見つめ返していた。
「青葉、カウントダウン3からで突っ込むぞ」
「りょーかい」
「3(スリー)……2(ツー)……」
犬神が土の柱を数本、周囲に展開する。
「1(ワン)……行け!」
千ユリの合図と同時に、低い姿勢で青葉が駆け出す。“野武士”はその全身を煙状に分解して土柱の間を進む。青葉の振り抜いた杖は、悪霊の交差した腕に阻まれた。
(…………なんで? 攻撃が通ってない?)
青葉の頭の中で、カオルが呟く。
(カオル、どういうこと?)
(〈煌炎〉は『怪異を殺す刀』なんだよ。相手が霊的存在なら、まず間違いなく押し勝てるはずなんだけど…………あ、分かった)
その時、悪霊の背後に回っていた“野武士”が人型に再構築され、悪霊に斬りかかった。それも身体を折りたたむように回避される。青葉の攻撃を防いだままの両腕が変形伸長し、青葉と“野武士”に襲い掛かる。“野武士”は再び煙状に変化しながら躱し、青葉は“草分”に突き飛ばされることで回避した。

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我流造物創作:邪魔者と痩せ雀 その②

視線に気づき、使い魔は無感情に見開かれた眼をワカバに向けた。
「こんにちは。どこの子かな?」
ワカバの問いかけに、使い魔は忙しなく目を泳がせ、数秒の思案の末に口を開いた。
「創ってくれた人は死にました。マスターの命令で、“アルベド”という魔術師を殺しに来ました。“アルベド”という方はどこにいますかと魔術師のひとたちに訊いて、ここまで来ました」
はきはきとした答えに、ワカバは苦笑して更に問い返す。
「そっかー。今のマスターさんって誰だか分かるかな?」
「名前は分からないです」
「見た目は? 男の人? 女の人? 若い? お年寄り?」
「えっと、若い男の人です」
「そっかぁ」
「アルベド、殺して良いですか?」
かくり、と小首を傾げて尋ねる使い魔に、ワカバは何も言わず苦笑いを返した。
「……先生、駄目みたいですね」
「諦めんなや仮にも師と仰ぐ人間をお前なー。っつーかおネコォッ!」
アルベドに呼ばれ、おネコは片目だけを開いて彼の方を見やった。
「仮にも親かつ主の命の危機に何のんびり寝てやがる!」
「んゃぁ……」
おネコは欠伸をして、再び眠ろうとした。
「おぉい!」
「……んゃぁ…………」
「クソッ、あれでも俺の最高傑作だってのに……」
「最高傑作カッコ唯一」
「そこうるせえ」
軽口を叩くワカバに、アルベドは素早く釘を刺した。

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五行怪異世巡『肝試し』 その⑦

青葉と“野武士”がそれぞれの武器で同時に襲い掛かるのを、悪霊は明らかに不自然に身体を折りたたみながら回避し、腕を2人に伸ばす。青葉は跳躍によって回避し、“野武士”は無数の腕の霊“草分”に引きずられてその場を離脱する。
更に2人が正面から外れたのと同時に、犬神が自身の能力で土壁の破片を射出し、悪霊に直撃させた。土塊は着弾と同時に粉砕し、悪霊の周囲に土煙が上がる。
土煙の中から高速で伸びてきた2本の腕が3人を狙って暴れ回るが、その攻撃は犬神の展開していた土壁に防がれた。
「……うーん、ちょっと困ったな」
犬神の呟きに、あとの2人が視線を向ける。
「どした?」
千ユリが訊き返す。
「……いやさぁ。私のこの土を操る力はさ、私に憑いてる犬神にお願いして使ってるんだけどね? この子、どうも臆病なところがあってね? だから私が手綱握ってあげないとなんだけど……多分、あの悪霊のせいでこの一帯が穢れてるんだろうね。普段ほど自由に力が使えない。防御用の障害物を展開するくらいが限界だから、攻撃は2人に任せるね」
「へェ……役立たねぇヤツだなー」
「いやぁごめんね。あ、来る」
犬神の警告とほぼ同時に、土壁が悪霊に殴り砕かれる。千ユリはエイト・フィートに自身を引き寄せさせ、青葉は犬神を巻き込んでその場に倒れ込み、その攻撃を回避した。

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我流造物茶会:邪魔者と痩せ雀 その①

「せんせぇー、アルベド先生ぇー。ワカバが来ましたよー」
研究室に続く階段を下りながら、ワカバは室内にいるであろう“アルベド”に声を掛けた。
(……返事ないな。いつもみたいに術式構築の最中かな? それなら静かにしなくっちゃ)
そう考えながら、防音加工された扉を静かに開き、隙間から顔を覗かせる。
研究室の中央では、“アルベド”と呼ばれる魔術師の青年が、見知らぬ少女に組み伏せられていた。薄汚れた簡素な衣服を身に纏った痩身の少女は、両脚の膝より下が猛禽のそれを思わせる鱗に覆われ鋭い爪を具えたものに置き換わっており、背中ではところどころ羽根の抜け落ちた、痩せた茶色の小さな翼が生えていることから、人外存在であることは明白だった。
「あれ、先生。新しい娘さんですか? かわいいですねー」
言いながら、ワカバはデスクの上に荷物を下ろした。
「あぁっ⁉ ンなわけ無ェだろうが見て察せ!」
アルベドの言葉は無視して、ワカバは壁際の薬品棚を見上げ、その上に丸まっていた猫の特徴を表出した子供に声を掛ける。
「こんにちは、おネコちゃん」
「……んゃぁ…………」
“おネコ”と呼ばれたその使い魔は、小さく鳴き尾を軽く振って応えた。
「おーい向田ワカバァ、挨拶が済んだら助けてくれ頼む!」
「ん、どうしました先生?」
「見て分かんねーかなぁ⁉ 現在絶賛暗殺されかけてる真っ最中なんだよ!」
猛禽風の使い魔は鋭く伸びた足の爪をアルベドの喉元に突き刺さんと踏みつけを試みており、対するアルベドはその足を下から押し返し、残り数㎝のところで持ち堪えている。
「アルベド先生、結構恨み買ってますもんねぇ……」
「それは否定できねェけどさァ……」
「うーん……ちょっと待っててくださいね」
ワカバは格闘する二人の傍にしゃがみ込み、使い魔の顔を覗き込んだ。

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造物茶会シリーズ現行公開設定まとめ! その4

〈主要登場人物〉
・ナハツェーラー Nachzehrer
通称ナツィ。
二つ名は「黒い蝶」。
一人称は「俺」。
この物語の一応の主役にしてアイコン。
髪は短く癖のある黒髪と黒目で背丈はそんなに低くも高くもなく(156cm)、少年とも少女ともつかない容姿をしている。
服装は基本ゴスファッション(スカートは履かない)で、足元は黒タイツと厚底のショートブーツかメリージェーン(ストラップ付きパンプス)、手にはいつも黒手袋をはめている。
性格は面倒くさがりだけどツンデレ。
でもその強さは折り紙つきで、もしもの時は仲間をちゃんと守ってくれる。
数百年前、高名な魔術師“ヴンダーリッヒ”によって作り出された最高傑作の人工精霊にして使い魔。
人間嫌いだが、「緋い魔女」「緋い魔女と黒い蝶」では相方のグレートヒェンにデレてたりするのでものすごく嫌いって訳ではなさそう。
好きなものは紅茶と甘いもの(甘いものに関しては隠したがってる)。
ジークリンデと名付けた白いウサギのぬいぐるみを大事にしている。
右手に仕込まれた術式によって蝶が象られた黒鉄色の大鎌を生成したり、背中にコウモリのような黒い翼を生やして飛んだりできる。
普段はかすみやキヲン、ピスケス、露夏と共にかすみの主人の喫茶店の2階の物置に溜まってお茶をしていることが多い。
キヲンには好かれているし、隠したがってるけどかすみのことは好き。
ピスケスを通して“学会”から監視されている。
露夏のことはなんとなく気に食わない。
現在の主人は背の高い老紳士で、微妙な関係性。

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五行怪異世巡『肝試し』 その⑥

「クソが……あの悪霊……おい青葉、犬神。悪霊の専門家として、アタシから言っておくぞ」
「うん?」
「なになに?」
「悪霊の及ぼす『霊障』には、いくつか種類がある。直接の影響力だけじゃない、障る『条件』もだ。……奴は『触れるだけで』霊障を発生させる。しかも、物理干渉ができるレベルの格だ」
千ユリが左手を軽く持ち上げると、虚空に”エイト・フィート”の片腕が出現した。その腕は無残にも複雑に捻じ曲がり、ところどころ体内から骨が突き出ている。
「アイツに触るなよ? 死ぬから。多分、青葉の霊障耐性があってもシンプルに殴り殺される」
その言葉に、青葉は息を飲む。
不意に、悪霊の姿が揺らいだ。ふらふらと覚束ない足取りではあるが、ある程度の速度で3人に向かってきている。
「来る……ッ、いや、違う!」
そう叫び、青葉が前に出る。それと同時に、悪霊の足取りも速まる。
「コイツ……『逃げたみんなを追おうとしている』!」
言いながら杖で殴りつけるのを、悪霊は身体を大きく折り曲げるように回避し、すれ違いざま青葉の顔面に掴み掛かろうとする。その攻撃は武者霊“野武士”が地面に突き立てた刀に阻まれ、悪霊本体の突進は突如せり上がった土の壁に激突して停止した。
悪霊が緩慢な動作で身体を起こし、3人に顔を向ける。穴だけの鼻。耳まで裂けた口とそこからこぼれる長い舌。白目の無い薄汚れた黄色の眼と縦長の瞳孔。その顔は、人間のものとはまるで異なり、むしろ蛇や蜥蜴のような爬虫類のようだった。
「……ヒヒ、コイツぅ…………最初思ってたよかよっぽど異形のバケモノじゃん?」
ごきりごきりと音を立てながら悪霊の首と腕が捻じれ伸びていく、その様子を見ながら、千ユリが溢す。
「こんなのが何、外に出ようとしてるの? キノコちゃんの縄張りからも離れてるし……」
自然と崩れていく土壁と悪霊を交互に見ながら、犬神が言う。
「それだけは絶対に許しちゃいけない。……放置することだってできない。だから……」
3人の思いは一つだった。
「「「今ここで…………殺すしか無い!」」」

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造物茶会シリーズ現行公開設定まとめ! その1

実験的プチ企画「我流造物創作」の要項を上げた所、「造物茶会シリーズ世界の現時点で分かっている設定をまとめて欲しい」と言われてしまったので自分の中での情報整理を兼ねて設定まとめです。
ただ設定解説の都合上、未公開設定が断片的(つーかかなり)に出てくる可能性があるかも…?
とりあえず最初は用語解説です。

〈用語〉
・魔術 Magic
「造物茶会シリーズ」の世界における、“魔力”を用いて物理法則や常識を無視した現象を引き起こす術。
“術式”を組むことで使うことができ、これを使う人間を“魔術師”と呼ぶ。
この世界における現代では「魔術は一般人に秘匿すべきもの」という暗黙の了解があり、多くの一般人はその存在を知らないか、おとぎ話の存在だと思っている。

・魔力 Magical power
“魔術”を使うために消費するエネルギー。
空間や無機物に宿る不可視の力。
生物など有機物には宿りにくいが、人間は後述の“術式”を上手く使いこなすことで魔力を扱い魔術を行使できる(未公開設定)。

・術式 Sigil
“魔術”を使うために組む、魔力を媒介する回路のようなもの。
(以下未公開設定)パッと見はいわゆる魔法陣のように見えることが多い。
魔力を媒介する物質を溶かした液体で平面に魔法陣的な模様を描いたり、魔力を宿しやすい無機物に模様を刻みつけるなど、様々な方法で組むことができる。
平面の模様として組まれるだけでなく、高度な術式は立体的な形で組まれることもある。
一般的な“魔術師”はその場で術式を組んだりせず、事前に術式を組み込んだアイテムに魔力を流すことで魔術を行使することが多い。

・魔術師 Wizard
“魔術”を使う人間。
色んな派閥に分かれている。
(以下未公開設定)魔術を習得するためには一般に“学会”と呼ばれる機関で術式の組み方や魔術師としての心得、魔術の歴史などなどを学ばなければいけない。
一瞬でも魔術を使った人間は魔術師と言っても問題ないのだが、一般的には“学会”などの機関や魔術師から魔術を教わり使いこなせるようになった者を魔術師と呼ぶことが多い。
最近はなり手不足が深刻。

とりあえず長いのでその2に続く。

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五行怪異世巡『肝試し』 その⑤

「……上って来た石段、結構高かったような……?」
青葉の呟きに、千ユリが視線を向ける。
「まあそれなりに? それが何?」
「あの勢いでうっかり転げ落ちたら、怪我じゃ済まないんじゃ……」
「ア・タ・シ・が・知ったことかよォぉぉ……」
「気にしてよ……一応基本方針は『人間を守る』ことなんだから」
言い合う2人の肩を、犬神が1度叩く。
「二人とも、出てくるみたいだよ」
犬神の言葉に、2人は素早く本殿の方を見た。半分ほど木材の腐ったその建物の前に、夜闇の中で尚浮き上がる漆黒の靄の塊が蠢いている。
「……多分、ここじゃぁ『神様』として扱われてたンだろーなァ…………けど、所詮正体は『悪霊』だ。アタシの戦力として、コキ使ってやるよ」
咥えていたロリ・ポップを噛み砕き、2本目を取り出しながら、千ユリが1歩前に出る。左の手を開き、靄から少しずつ姿を現わそうとしているその『悪霊』に向ける。
「“アタシの愛しいエイト・フィート”!」
異常に長身の女性霊が出現し、靄から現れた霊に組み付こうとする。その悪霊は”エイト・フィート”の両手を自身の両手で受け止めた。
「ッ……⁉ 退け!」
千ユリの合図に応じて、”エイト・フィート”は彼女の目の前にまで後退った。
「千ユリ? 何があった?」
青葉の問いには答えず、千ユリはその悪霊を睨みながら”エイト・フィート”を消滅させた。

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【プチ企画】我流造物創作 〈企画要項〉

どうも、テトモンよ永遠に!です。
突然ですが、今月で自作小説「造物茶会シリーズ」は投稿開始2周年を迎えます。
めでたいですね、いえい。
これもひとえにKGBさんやスタンプやレスを付けてくれる皆さんのお陰です。
ありがとうございます。

…という訳でプチ企画です。
ポエム掲示板の皆さん、「造物茶会シリーズ」の世界観を使って創作、してみたくありませんか?
個人的には少し前に、「ぼくが企画とかとは無関係に書いている物語を他の人が書いたらどうなるんだろう?」と思うことがちょいちょいあったんですよ。
まぁ端的に言えば「二次創作」を見てみたいって訳です。
そういう訳で、プチ企画「我流造物創作」を開催します。
ルールは簡単、ぼくテトモンよ永遠に!が書いている小説「造物茶会シリーズ」の設定・キャラクターを利用して文芸作品を作り、タグ「我流造物創作」を付けて投稿する、これだけ。
ただ公序良俗には気を付けてね。
あとちゃんと「造物茶会シリーズ」を読まないと書けない(はず)なのでまとめやぼくのマイページの過去書き込みに目を通した方がいいかも。
開催期間はこの書き込みが反映されてから今月が終わるまでにします(多少の遅刻は大丈夫)。
「造物茶会」の設定とキャラクターを使っていれば内容は基本なんでもいいし、オリジナル設定やキャラクターをぶち込んでも大丈夫です(二次創作なんで)。
作品形態も問いませんし、タイトルも自由です。
まだ分からないことが多い作品なので、“伏せられている設定”はぼかして描写してもオリジナル設定で埋めちゃっても怒りませんよ。

超実験的な企画ですがよかったらご参加下さい。
ちなみに質問などはレスからお願いします(設定については答えられる範囲で答えます)。
では、よろしく〜