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視える世界を超えて エピソード7:潜龍 その⑦

石段を上り、鳥居をくぐり、境内に入る。“潜龍神社”は本殿の他に3社の摂社と4社の末社、舞殿があり、敷地の総合面積もかなりのものになっている。
神楽はその中でも本殿の手前に建つ舞殿で行われる。合計で半日もかけるような本格的なものというわけでは無く、7演目を合計4時間ほどかけて舞う構成になっている。
自分は普段、途中で見飽きて帰るのだが、ただでさえ人外のモノが少ない神社境内の中でも、神楽の最中の舞殿周辺には不思議と怪異の姿が見られず、清浄な雰囲気さえ感じられて、その場の空気感自体は好きだった。

犬神ちゃんに手を引かれて舞殿の前を通る。神楽は既に始まっていて、周囲には人だかりができていた。
つい足が止まるが、犬神ちゃんはそちらには全く興味が無いようで、構わずぐいぐいとこちらの手を引いて奥へと進んでいく。仕方なく彼女に従い、本殿の方へ向かう。
「キぃーノーコちゃぁーん、どぉーこぉー?」
犬神ちゃんは辺りをきょろきょろと見回しながら、種枚さんを探し呼びかけている。
「ほら君も、キノコちゃんのお気に入りなんだから一緒にあの子のこと呼んでよ」
「え、あ、はい。……く、種枚さーん」
「声ちっちゃい!」
「えぇ……?」

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少年少女色彩都市・某Edit. Outlaw Artists Beginning その⑨

彫刻から飛び降り、大きな影、エベルソルの下に駆け付ける。青白いヒトの腕が無数に絡みついたような気持ちの悪い姿の化け物が、公園の柵を蹴倒しながら猛然と突っこんできていた。
「おいクソッタレのエベルソル! なァに芸術以外ブッ壊してンだ生ごみ野郎がァ!」
エベルソルに対して挑発するように喋りかけながら、タマモはガラスペンで描いた光弾をいくつもぶつけた。化け物を構成する腕の表面には、弾が当たって焦げ跡ができたけれど、有効打にはなっていないみたいだった。まあ、こちらに気付いてくれたようだけど。
「ああクソ面倒くせェ。コイツそこそこ硬てェぞ」
「わぁ大変」
「お前も働くんだよロキ」
「まあまあ。まだペン使うのに慣れてないんだから……」
ガラスペンを取り出し、タマモに倣ってインキ粒をいくつか描き、エベルソルにぶつける。あまり威力は無かったけれど、練習はできた。こんな感じか。
「理想はここの彫刻全生存。最悪何個か壊れても作者さんに謝りゃ良い。気楽に行こうぜ」
「うん」
タマモがエベルソルの気を引いているうちに、少し走って奴の真横に位置取り、水玉模様の捻じくれた彫刻の陰で光弾のストックをいくつか用意する。小さい弾じゃダメージにはならないみたいだったから、少し時間をかけて大きめの弾にする。
数十個完成させたところで、攻撃に参加しようと彫刻の陰から顔を出す。エベルソルは腕のいくつかを防御のために前方に構えながら、タマモにじりじりと接近している。こちらからは完全に無防備だ。
こちらの用意した光弾のうち、3分の1ほどを一気に叩き込む。無事に奴の腕をいくらか千切り飛ばしたは良いものの、すぐに対応されて防御されてしまった。
「お、やるじゃねーのロキ。次はお前が狙われるぞ」
「えー」
たしかに、エベルソルの進路は私の方に変わっているみたいだ。流石に彫刻を巻き込むのはそれを守る人間として申し訳無いので、陰から出てタマモの方に駆け寄る。
「お前なんでこっち来た?」
「いや、つい……彫刻の少ない方にいたから」

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少年少女色彩都市・某Edit. Outlaw Artists Beginning その⑧

「……そうだ、何か芸術っぽいのが多い所行こうぜ。エベルソルってのは芸術をブッ壊すことに命懸けてる連中だからな」
「なるほどー。それなら“芸術公園”とか?」
「おっ、名案」
通称“芸術公園”。この彩市在住のアーティストが制作した彫刻などの立体作品がそこら中に乱立する市民公園。屋外ステージもあって、ちょくちょくイベントが開かれたりもする、住民たちの憩いの場だ。
「こっからだと歩いて……10分くらいか。お前時間とか大丈夫か?」
「うちは門限とか結構緩いから大丈夫」
「そうかい。じゃあ行こうか」
適当な世間話をしながら、公園に向かう。タマモ、私より2つも歳上だったのか。敬語でなくても構わないと言われたので、言葉遣いはそのままだけど。
「……さて、着いたわけだが」
「いないね、エベルソル」
「いないなァ……」
殆ど日没といった空の下、公園には数人の一般市民が見られる程度で極めて平和そうな日常風景が広がっていた。
「……もう帰って良いかな」
「そう言うなよ。10分くらい時間潰していこうぜ」
「ん」
曲線的なシルエットをした石材製の大型彫刻に登り、公園全体を見下ろす。
「……本っ当に平和。エベルソルって実在するの?」
「一応、10回くらい遭ったことはあるんだけどなァ……」
少し離れたところに立っている時計をちらと見やる。もうすぐ5時か。
「5時まで何も無かったら帰って良い?」
「良いんじゃね?」
そのやり取りを終えた瞬間、まるで見計らっていたかのように大きな影が公園に近付いてきた。
「……あーあ、フラグ立てたりするからよォ」
「むぅ、まあ戦い方も考えたいし良いか」

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少年少女色彩都市・某Edit. Outlaw Artists Beginning その⑦

「……もうこんな時間か」
タマモの独り言に壁掛け時計を見ると、15時過ぎだった。
「なァ、ロキ。暗くなる前にチュートリアルといかねェか?」
「良いね。インキ弾の使い方、私も練習してみたいし。エベルソルってどこに出てるか分かる?」
「いや分からん。たまにお偉いさんから『どこそこに行け』って言われることもあるけど、今は特に何も無いからな。適当に怪しいポイントをぶらついて、遭遇出来たらブチのめすって感じだな」
「なるほどー。私、化け物と戦った事なんて無いんだけど……」
「誰だって最初はそうだよ。俺だってまだ両手の指に足りる程しか戦った事無ェもん」
「それもそっか」
「そうだよ」
タマモが椅子から立ち上がった。私も席を立つ。
「……じゃ、行くか」
「うん」

彼について歩き、フォールム本部を出る。彼は市街地に向けてのんびりとした足取りで歩いていた。
「……なァ、ロキ。どっか行きたい場所無ェか?」
「んー……あんまり強くないエベルソルがいるところ?」
「お前大分贅沢な注文するなァ……」
苦笑しながらも、タマモは迷いなく商店街に入っていった。そのどこかに用事があるのかとも思ったけど、特にそういうことも無かったみたい。青果店で果物の並ぶ棚をじっと見ていたくらいで、結局通り抜けてしまった。
「……最近は何でも高くて良くねェ。果物なんか簡単に買えないモンだから、ビタミン摂るのが面倒だぜ」
「野菜ジュースとかオススメだよ」
「あれ、あんま好きじゃねェんだよなー」
「ふーん」

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少年少女色彩都市・某Edit. Outlaw Artists Beginning その⑥

フォールム本部内を1周して、あの部屋に戻ってきた。タマモは設備について逐一教えてくれたけど、様子を見ていた感じ、半分くらいは彼も初めて入った場所だったようだ。
彼が少し血のついたままの椅子に掛け、促されて私も向かいの席に座る。
「最後にここが、数ある休憩室の一つだ。最序盤でスルーした部屋は全部休憩室だな。誰がどこ使うとかは決まってねェけど、リプリゼントルは好きに使って良いことになってる」
「へー……」
「さて……施設内見学は終わったが、何か質問とかあるか?」
「はーい、ありまーす」
「何でしょうフヴェズルングさん」
「タマモせんせー、私、絵が全く描けないんですけどどう戦えば良いんですか? このガラスペンで何かを描いて戦うんですよね?」
「あー…………」
タマモはしばらく目を泳がせ、テーブルに備え付けられていたメモ帳のページとボールペンをこちらに差し出した。
「ロキお前、犬と猫を描き分けられるか?」
「…………」
とりあえずペンを取り、さらさらと2つの絵を描いてみる。なかなかに酷い出来の、辛うじて四本足の何かと分かる絵が並んでいた。
「すげェや、違いがある事しか分からねえ」
「お恥ずかしい限りで……」
「別に恥ずかしいことじゃねェよ。俺も絵はド下手だ」
そう言いながら、タマモはページをくしゃくしゃに丸めてゴミ箱に放り込んだ。
「じゃあ、タマモはどうやってるの?」
「こうしてる」
ニタリと笑い、彼はガラスペンを取り出した。そのペン先からインキが垂れ、空中で一つの球形にまとまる。
「……さっきの紙捨てなきゃ良かったな。まあ良いや」
彼はメモ帳から新たに1ページ破り取り、宙に放った。そしてひらひらと落ちてくるページ片に、インキの球体、いや、弾丸を発射し命中させた。
「おー」
自然と拍手が出る。
「複雑なモン描けねェなら、単純なモンを武器にすりゃ良いんだ」