まぶしい夜を縫うように歩く 食パンを咥えて曲がる 出会い頭のドッペルゲンガー そうだね 社会が悪いよね 悪くない、君は悪くないよ ナグサメのヤブサメ 射抜かれた心だ うれしくない最高を更新し続けて みんなイライラ、喉はイガイガ いつまでたっても潤わない 部屋と長財布とわたし 砂時計みたいに 逆さまにした海の黒が 滴ってる、塗りつぶしてる まぶしい夜を消すように歩く なけなしの魔法を溶かしつつ
最終電車のキスの味 首すじをするり白魚の群れ もやがかった町はロンドンの夜景 気の早いイルミネーション そりゃあんたの目が滲んどるのよ 白線を落ちないように歩く 途切れた交差点 わたしはどうする ララララバイ 路上のアルペジオが泣かしにくる ララララバイ 合鍵じゃ開かない扉の向こう 朝日にゃまだまだかかります 夜の帳を切り裂いてジャック 並のブランケットじゃ足りない温もりを
ろうそく並木の水曜日 舞い散る火花で 拝むように暖をとる野ネズミたち 二時間前からベンチに座ったままの 黒いコートの女は 森の奥にある煙突から登る煙を ぼんやり見つめていた 鐘の音がする フクロウは眼をこらす やがてろうそくの火が ひとつふたつと消えてゆき 野ネズミたちは姿を消した そして並木道は白く染まり 女はこの町から姿を消した
赤と白のしましま 秋を誘導する警備員 塾帰りの制服 夜の紺と混ざって猥雑 ハザードのちかちか 大人が誰かを待っている 晩飯を漁る黒い鳥 すぐ近くで焼き鳥のいい匂い 夜間工事、遮るパイロン 私の進路をとおせんぼ 誘惑はお構いなく 隣に添えるさくらんぼ
君が腕まくりをやめた日 町は秋雨前線のグラフの中 雨にはおしゃれな名前が 沢山あるんだよと 隣でぺらぺらと退屈話 私はもごもごと 鳴らない笛と格闘ひゅー
冷蔵庫を開けたのかと そんな気さえした玄関を出る 初めて嘘をついた朝帰り 少し一緒に歩いて そっけなく手をふると 君は魚のように翻った 他人ん家の匂いが染みついた髪 二の腕の跡がまだ消えない ねえ、今日わたしの誕生日 吹き消した平凡 ふらついた足元 朝焼け色に染まったシャツが 片足立ちの鳥のようで
季節がかわる 人は仕切り直す さて今日からと靴紐をしめる 春に躓き 夏に躓き 秋に躓き 冬に躓く 新しい靴はピカピカのまま 玄関でただ死期を待つ 靴箱は亡骸でいっぱいだ
町が色を失くして 月が輪郭をとり戻す 眠れなかった冬をひとり越して 木々の間を滴る星屑を 頬張って、たまに食いし張って 友達になった渡り鳥は 今頃南の島だろうか 名前はなんて言ったかな 星屑のような 甘くて美味しそうな そんな名前
クランベリーのような酸いも甘いも 掻き上げた髪、間違いもそれなり 花びらをつまんで空になげて あろうことか星になって ご機嫌なまつ毛は西をさす 草木は東と異議をとなえる 短い炎の一瞬のきらめき どうか優しさと出会えますように 今夜、見上げた一等星は 君がくれた花束のひとつさ
人波はさざなみ ため息の波紋 ビルの群れを縫って 今日ノートに写した数式が 明日の夕日を美しくするなら 神様にはまだならい ここから君と眺めたい 誰かが流した笹舟 願いと共にとなりの町まで ただいまとおかえり たったそれだけで 幸せになれる崇高な生き物です