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               揺り籠

          何処にも逃げられず 独りになった          
          何日も何年も 同じことの繰り返し
          揺れる前髪 戸惑う心 空中遊泳中
          全てがスローに 不安定なこの世界

          遠くのものは近く近くのものは遠い
          はっきり見えていた筈のものがない
          どうしても理解できないまま苦しみ
          どうしても捨てられないまま抱えた

          ふわふわと 何処にも着地できない
          どうしてもこうしても 同じことで
          揺れる心臓 割り切れないで悩んで
          なにも知らないくせに 知ったふり
 
          ふらふらと 行き先が決められない
          なにしても上手くいかないのはなぜ
          観覧車の中で 景色も見ないで眠り
          せっかくの宝物を喪った ほらまた

          上手くいかない 上手く息できない
          なにも歌えない なにも作れないで
          情けないな そこにあったものすら
          最も簡単に壊してしまった あの日

          鳥籠の中で 呼吸も止められない鳥
          僕らの縮図 誰も死に切れないのさ
          ブランコに乗って 揺れ続けた心臓
          祈ることも忘れて ずっと泣いてる

          また煌めいて揺らめいた雫 溢れた
          宝石のよう でも一瞬で枯れ落ちた
          これで今日は眠れるかい 震える手
          言葉の一つ紡ぎ出せず やるせない

          それでも僕らは 生きるしかなくて
          風に揺られながら 流れ着く先には
          きっとなにも転がっては ない筈さ
          そう信じても まだ揺れ続けるんだ

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無重力のプリズム                     

      ボロボロのベンチに座り 疲れを吐き出した午後4時
      はしゃぎ転げる犬 ボールに振り回される子どもたち
      無色の吐息で空気を汚す なにも知らないおとなたち
      知性とは程遠い 中身のない知育とがらんどうの公園

      積もる話も積もらないまま つまらない時間を潰した
      いつかのマザーグースの 実にも種にもならない情報
      静かなような騒がしいような 砂利だけが残った広場
      懐かしいような鬱陶しいような ガタガタのブランコ

      そこで出会って別れてまた出会って 時間を潰し合う
      近づけば近づくほど 遠くなっていくのは何故だろう
      月や星空はあんなに美しかったのに 見えなくなった
      自分は生まれてこのかた なにも手に入れてないよう

      塗り立てのペンキで着飾ってみても 本質はそのまま
      もはや折れそうなくらい大事に抱えて そっと逃げた
      隠れるようにして体裁を取り繕っても やはり虚しい
      そうしてまた時間を潰しあっては これでいいと笑う

      無邪気にさかあがりしてみたが 失敗ばかりして泣く
      最初から転ばない方法なんてないことに 気づけない
      ひとりになりたがったり強がってみたり やるせない
      いつだってこじらせて癇癪を起こしては 不甲斐ない

      ぐちゃぐちゃの脳に 戒律でも刻み込めれば楽なのに
      こんな混沌はくれてやるから まともな秩序をおくれ
      なにも知らないことも知らず ここまで生きてこれた
      名前も忘れた童歌を口実にして 涙も枯らしてしまえ

      なにも色を写さない水晶体 思慕で焦がし切れた網膜
      動かないブランコ 誰も滑らない滑り台に座っていて
      人の流れから隔絶された 無色の世界に酔いしれたい
      そうして人はひとりになって 重力と色彩に歩み寄る


            

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要注意人物

惰性で買った100円コーヒー 値段相応の粗雑な味
理性の欠片も売り飛ばしたのか 訊いてくるのも粋
疲れ果てたその心で スラムめいた世相を眺めてる
草臥れたワイシャツ ささくれこそ正義の象徴かも

宿題は出すが 勉強もするが 好き勝手やっていた
あの日の私はダウナーめいた態度で 煙に巻かれて
巻き返して 生きるも死ぬも勝手だとまた息巻いた
着崩れたブレザー そのズレこそ認めてほしかった

いつからかは思い出せない こじれていく自問自答
癇癪持ちのスノードーム あらお庭がグチャグチャ
玩具は片付けないとね その囁きだって毒なんだよ
くたばった腕時計は 時間を忘れムダに時間を潰す

掻き乱された思考回路 拗ねたフリをする愚かな女
無意味なカウントダウン 跳ね飛ばした上履きの音
知性の片鱗も見せつけない だって見せるのは無粋
正気の沙汰ではないことは わかりきっているのさ

学校は脱走するわ 喧嘩は売るわ 野放図もいい所
あのね 私が愛するのはニヒルなその心だけなのさ
言論弾圧するのは 私が居たら都合が悪いからだろ
くだらないね 100人の愚者が賢者1人に勝てない

その言葉を理解できないのは 難しいからではなく
あなたの頭が悪いからだ 難しい話じゃないでしょ
黒板にはまだ洗脳の跡 フラついてグラついた椅子
ヨロめいて耐え切れない机 もう一度出直してこい

怒り狂ってみても 泣き喚いてみても 野暮なこと
個性の開花は 知性と理性の昇華 なかなか上出来
惰性で買った200円コーヒー 値段相応の粗末な味
虚勢で着飾った路地裏の犬 見た目相応の大層な心

狂気の沙汰でしかないけれど きょう日これが限界
もたげる頭は大概にして ひと暴れしたら万事解決
そううまく行くわけはないが ひとまず結論はつく
絡まろうが埋もれようが 私にはなんら関係がない

要注意人物認定もこの辺で 最初から興味はないが
夜の風に安心して一眠りする猫 正しい朝の待ち方
誰の思惑も厭わず ひょうひょうと私は歩いてきた
スラムめく世相と情はよそに 私は今日も歩いてる


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処方箋

とっておきのおまじない 私だけのお守り
あの世に全部持っていけるなら 持って逝きたい 切符もお忘れなく
死に花を踏み潰されても これがあればきっと大丈夫
生きるのも死ぬのも同じこと

病室から病気のまま飛び出して 直す気もない睡眠障害も連れて
ようやく眠れるようになっても 大人しく眠る気は毛頭ないのよ

嗚呼 誰かこの私にお似合いな処方箋を!
甲乙丙丁並べるだけならば 誰でもできるでしょう?

用意しておいたこの呪文 俺だけの鎮魂歌
この世に何も置いて逝きたくない パスポートなら 何処でも置いてる
死に花は咲かないだろう 花はいらないから金をくれよ
起きるのも眠るのも同じこと

病床から病みが零れ落ちてきて 泣く気もない血も通わない夜で
やっと苦し紛れに言い訳できた だが実を言うなら信じたくない

嗚呼 誰かこの俺にぴったりな処方箋をくれ
くだらない御託はいらないさ いっそ毒でも盛ってくれ

喜びも怒りも哀しみも楽しみも さんざん喰べ尽くしたんだ
ただひとつある特定の種類の悦びをのぞいて お腹いっぱい

あらあなたも同じ駅へ? なら地獄の果てまでご一緒します
それとも新天地を探しにいきましょうか? それも悪くない

書きかけた処方箋 誰のものでも無くなった処方箋 ただの紙切れ
大層なことは書かれてないことはわかっているから はやく燃やせ

おかしいな 飲み込めない薬の名前ばかり なんの役にも立たない
悪魔に揺さぶられながら 堕ちていこうか どうせ何にもならない

手のひらから 処方箋が堕ちて行く 奈落の先の そのさらに奥で
同じように生きていこう 処方箋を持ってても捨てても同じことさ

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病床

昼間はなんの変哲もなかった
寝室は今や 突発性痛覚中毒症患者の病室
どうやらその異常は 彼らにとっては正常そのもの
締め付けられる胸の痛みだって もはや快感そのもの

太陽が昇る間は まともなフリ
でも 腕にある奇妙な痣は誤魔化せない
赤ボールペンも輪ゴムも 代わりにはならないようで
さあどうしましょうねなんて 彼には他人事

月が出始めれば 高揚感もひとしおだそうで
病室は今や 慢性的感覚異常症候群患者の住処
なにやらこの病気は 彼女らにとっては個性そのもの
異常というレッテルだって もはや勲章そのもの

太陽が沈むまでは 普通を装う
でも どうしても歪な痣は隠しきれない
カウンセリングは絆創膏にもなりやしない
ICUすらお手上げで 為す術もなく
さあどうしましょうねなんて 彼女には他人事

もう ほっといてくれねぇかな
俺はこれで幸せなんだ これが俺の幸せなんだ
もう 余計な世話はいらねぇんだ
アンタらの言う幸せにはうんざりさ

嗚呼 このささくれた心にも 優しく包帯を巻いてくれれば
あとはなんでもいいの
嗚呼 そんなことは覚えてないの
このごろのあたしは忘れっぽいのだから

今日もまた夜が寄り添ってきて 灯りを消して 目は閉じないで 
病みと戯れたいのに  邪魔をするな  馬鹿にしないでよ

生きている悦びに浸りたいだけだ
これをしないでどうやって生きていることを証明すればいいんだ
虚しく淋しい心を満たしたいだけなの
だったらほかにどうやって心を満たすの? あなたが満たしてくれるの?
どうしてわからないのだろう? どうしてわかり合えないのだろう?