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無能異能浪漫探訪⑧ 本物見つけた

「いや実はな、ついさっき、君がこのアパートの3階までひょいと跳んでるところを目撃したんだけどな」
「げ、見られてたのか……。一応気を付けてたのにな」
トム君改め岩室弥彦氏は、しくじったとでも言いたそうな顔でそう呟いた。
「へへっ、これからはもう少し気を付けるんだな。……それで、ありゃ一体どんなメカニズムなんだ? どこにでもいるただのオカルトマニアにも分かるように説明頼む」
「ん……」
弥彦氏は、数秒考え込んでから口を開いた。
「あーっと、ヨリオ。超能力とかの類って、信じてたりします?」
「いや、信じるも何もあれは実在するべ。実際、君も謎ジャンプかましてたろ」
「お、おう。……まあ、言っちまえば超能力みたいなものなんすよ」
「なるほど理解した。じゃあ次の質問」
「まだあるのか……」
「オカルトマニアが『本物』に出会って、たった一度質問しただけで終わると思うなよ?」
「あっはい……」
「あの部屋、何なんだ? あの部屋に出入りする人間を君含め4人ほど見たが、同じ家に住む兄弟姉妹にしちゃあ、ちょっと似てないよな?」
「兄弟姉妹でも似てるとは限らないと思いますけど……まあ他人だけど。まあ、能力者の溜まり場みたいなもんっすね」
「マジで⁉」
思わず大声を上げ、弥彦氏に掴みかかる。
「マジだけど……耳痛え。あと手は放せ」
「ああごめん」

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復讐代行〜第19話 帰宅〜

断り方が分からず、連絡先をの交換を丸め込まれてしまった。これで先の件を早急に解決する理由を失った橘達は時間を置くことを提案してきた。
クラスでの不協和音を思えば正しい判断だ。
“俺”は抵抗しようとしたが、さすがに言い出せなかった様子だ。
2人に送られる形で帰路についた。
闇子の家に着くなり、俺は体を布団に投げ出した。
昨日見た母親はいなかった。
未だ慣れないサテン生地でフリルだらけのベット
落ち着かない…
赤黒く統一された禍々しい部屋は昨日見たよりも闇子の心の闇を感じさせた。
このベットで寝る気にもなれないが、スマホを見るのも余計なことを考えそうで避けた。
いつ彼からメールが来るか、正直怖いのだ。
メールの何がまずいって、客観的に自分が闇子であることを意識できないことだ。
もっと詳しく言えばメール上の「闇子らしさ」を俺は知らないからボロが出かねない…
いや、この部屋のイメージに沿えば「闇子らしさ」は出るのかもしれないが…
「しかし…」
世に言う地雷系というものなのか、ゴスロリなのか、細かい定義が分からないがこのインテリアを見ているだけで闇子の闇に心を喰われそうだ…
肌に擦れるサテンの違和感だけが自分が闇子じゃないと証明してくれた。

しかしなぜ…?“俺”は初日にしてこんな鬼門を選んだのだろうか、いや、理屈では理解できるが…
理解できる故に、信じたくなかった。
最も恐れていた、そして最も有り得ないと高を括っていたこと…

『闇子を餌に「崩壊」という結果を得る』
その切り札を切られたとしたら…それは同時に体を取り返す手段が無くなったことを意味する。
「ハナから闇子はこの体の精算も果たすつもりだったんだろうな」
そう思うとなぜかサテンのベットで寝るのも悪くは感じなかった。

寝てどれくらい時間が経っただろうか…
思えばこの体になってからきちんと休まることはなかったっけ…
そう思いながら癖でスマホを探した。
スマホの画面は19:28分を示していた。
思ったほど時間が経っていないことにはさほど驚かない。
何せ、通知画面のメールの方が驚きだからだ。
「なぁ青路、お前は今何を企んでる?」

to be continued…

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無能異能浪漫探訪⑦

「何だ、能力関係の知り合いかー。ちょっと待ってて、すぐ呼んでくるね」
「あ、はい……」
彼女はまたあの部屋に戻って行った。どうやら危機を脱することができたようだ。その場に座り込み、大きく息を吐く。ああ緊張した。
さて、偶然見かけたあのシーンのお陰で信用を勝ち取れたわけだが、当然俺はあいつの事なんか知らない。呼んでもらったとして、どうしたものか……。
そう考えていると、またあの部屋の扉が開き、最初に目撃したあの少年が現れた。こっちに来たが、顔も知らない俺を見て不思議そうにしている。
「あのー……どこかで会いましたっけ?」
少年が声を潜めて尋ねてくる。
「いや、初対面。ちょっと危機的状況を脱するためにダシにしましたごめんなさい」
「あっはい。で、あんたは誰でどんな用事なんです?」
「あ、はい、えー、俺は見沼依緒。ミヌマとでもヨリオとでもイオとでも好きなように呼んでもろて」
「ん、よろしくっす。俺は岩室弥彦」
「あー……すまん。さっき出鱈目並べたせいで、俺は君のことをトムと呼ばなきゃ怪しまれるかもしれないんだ。ちょっと話を合わせてくれ、トム」
「何故トム……まあ了解」
いろいろあったが、どうにか接触には成功した。ようやく本題に入れそうだ。
「それで、用件なんだが……」

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ツギハギにアイを。

つけっ放しのラジオが午後6時を告げる。直後、あの子が部屋に入って来た。いつものことだ。
通学鞄をベッドに放り投げ、あの子はおもむろに裁ち鋏を取り出した。裁縫が好きなあの子にとってはよくあることだ。
そしてそのまま、ぼくの方へ歩いて来た。裁縫道具を持ったまま部屋の中を歩き回るのも、よくあることだ。
そして、ぼくを持ち上げた。ぼくはあの子のお気に入りだから、これもよくあることだ。
そしてあの子は裁ち鋏を開き、ぼくの首を勢い良く切り始めた。これは初めてのことだ。
あの子はぱっくり開いた傷口から新品の綿を詰め込み始めた。ぼくの解れを直してくれるのも、昔からよくあることだ。
すかすかになっていたぼくの中身を埋めたあの子は、ぼくの毛色にそっくりな茶色い糸で傷口を縫い付け、『いつもの場所』にぼくをそっと置いた。
そろそろ終われると思っていたのに、また「穢」を貰ってしまった。
元々のぼくはもう、毛皮の7割と目玉くらいしか残っていないけど、それでもぼくはあの子を見守り続けよう。あの子の「愛」で引き伸ばされた、終わりまでの数か月か数年か。ぼくには何もできないけれど、ただあの子のために捧げるつもりだ。

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