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Trans Far-East Travelogue㊹

兄貴達の姿が見えなくなってすぐ,嫁に「君,また勘違いしてるよ。まぁ,九州の人なら有明海があるから海と有明で有明海をイメージしちゃうか〜」と声をかける。
すると,嫁が「海で有明って有明海以外に何があるの?」と訊いてきたので「有明って東京だとお台場の近くのエリアの地名だよ。西日本に向かうフェリーの定期便の出発地さ」と返す。
すると「つまり,私が勝手に勘違いして怒ってたってこと?」と返ってきたので「そういうことになるな」と言って笑い返す。
すると嫁が恥ずかしそうな顔をしていたのでちょっと笑わせようとして謎かけを出してみる。
「両片想いだけど,お互いに意識して緊張しちゃってなかなか話を切り出せない10代の男女とかけて,有明から船で博多を目指す旅人と解く。その心は?」と切り出すと「バカな私には分からない」と返ってきたので「どちらも,こくらない(告らないと小倉をかけた)と遠回りになるでしょう」と言って正解を出すと嫁が一呼吸置いて「今の貴方とかけて,故・星野監督と解く。その心は?」と切り返してきたので「これほどまでにファンに愛されて幸せな男は俺以外にいないと自負しています」と少し照れながら返すと嫁がゲラゲラ笑いながら「次は、巨人軍とかけて,何と解く?」と訊いてきた。
そこで,「君への愛と解く。その心はどちらも,永久に不滅であります。」と返すと今度は嫁が照れながら「今の貴方とかけて,私と解く。その心は?」と返してきたので「大切なパートナーから浮気されずに愛され続け,それでいて自分のことを知ろうとして貰えるので本当の幸せ者です」と返すと「それは私のセリフ」と言って嫁が拗ねてしまった。
「可愛いヤツめ。これだから俺は君に首っ丈なんだぜ。さあ,帰ろうか」と声をかけると嫁も「私も貴方に首っ丈なんだからね」と言って笑いながら2人で寄り添って歩き出す。
明日,ついに俺は生まれ育った東京と暫し野別れを告げ、サンライズ号に乗り込んで四国・高松と徳島を経由して嫁の地元,福岡を目指してまた旅立つのだ。

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Trans Far-East Travelogue㊸

「兄さん,皆はどうなってる?」そう俺が口を開くと兄貴は「俺たちが風呂入ってる間にエルサレムに着いて別働隊とも合流したそうだ。アイツらはおそらく群山で泊まるんだろうな」と言うので頷くと,嫁が「皆まだ日本にいるのよね?エルサレムと群山って日本だとどこ?」と口を挟む。
そこで,俺が「平和はエルサレムのあるイスラエルの言葉,所謂ヘブライ語ではシャロームと言う。エルは確か冠詞だけど都という意味もあったはずだから,エルシャロームは平和の都,つまり平安京と言い換えられる。もう分かると思うけど,京都市のことなんだ。群山は韓国の都市なんだけど,西に向かって流れる大きな川が海に注ぐ所にあり,また日本が占領した時代には米の積出港として朝鮮半島全域から米が集まり,日本全国に出荷された歴史があり、今でもその地方では有数の港街さ。またその街の海,厳密には河口部には、更に前の時代からある古戦場もあるんだ」とまで解説していると嫁が「まるで大阪みたいな街ね。大阪も江戸時代には天下の台所で米が集まり,また淀川という西に向かって流れる川の河口がある。更にその前の時代は石山本願寺との合戦があったり織田信長が水軍と戦った古戦場もあるのって大阪みたい」と言うので「よく気付いたね。流石は俺の妻だ。君の言うとおり,群山と大阪市は似ている。だから,日本の群山=大阪市なんだよ」と言って締める。
すると,腕時計を見ていた兄貴が「海に,有明に行かないと厳しいのでもう行くわ」と言い、俺は兄貴の言わんとすることを察して頷き,彼女さんも兄貴に続くのでここで分かれることになった。
一方,嫁は1人,「私は玄界灘の方出身なのに,なんで有明海なの?」と言って不服そうに頬を膨らませていた。

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Trans Far-East Travelogue㊷

兄貴達は無事に仲直りして手を繋ぎ、俺達を呼びに来て「調印式しようか」と耳打ちするので「白の二の舞は踏むなよ」と返して兄貴について行くと嫁は「白の二の舞ってどういうこと?」と訊いてきたので,「旧ソ連圏で一時期対立が深刻化した地域が多いことは知ってるか?」と返すと「ナゴルノ=カラバフ・アルツァフ紛争とかグルジア・ジョージア紛争のこと?」と返ってきたので「それも旧ソ連圏で起きた歴史の悲劇だけど,俺が言いたいのはロシアとウクライナの争い,いわゆるドンバス戦争のことさ」と返すと「一度ミンスク合意で停戦してたよね?あの後数年で反故にされて色々あったけど」と返ってきた。
そこで,「そのミンスクの街があるのは何ていう名前の国?」と訊き返すと「ベラルーシよね?ルーシは確かロシアって意味で…ベラは白ね。もしかして,白の二の舞って…」と返ってきたので「その通り。白の二の舞はミンスク合意の二の舞,つまり一度仲直りしたのにそのことを反故にしてもう一度いがみ合うことさ」と返すと兄貴が「ブラウヴォルフ,早く来い」と怒鳴るので「卒アルで俺のクラスが世界史選択でなぜかモンゴルの紙幣にあるチンギスハンの肖像画を差し替えられて俺がチンギスハン扱いになったからって,チンギスハンをはじめとするモンゴル遊牧民の伝説にある蒼い狼呼ばわりかよ…しかも,ドイツ語だし」と笑っていると兄貴が4人分冊子とペンを用意し出してそれぞれの冊子にサインした後お互いに冊子を回し合うので本当に国際会議のようになった。
「卒アルの寄せ書き交換会かよ!」と言う俺のツッコミの声と多摩川のせせらぎだけが田園調布の街に響いていた。

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Trans Far-East Travelogue㊶

午後5時,多摩川の駅に着いて女性陣と合流した
その後は兄貴が提案したように河原に行くと兄貴の言う通り,ちょうど沈みゆく太陽が輝いている
それを見て思わず「昔っから代々木のドコモタワーとかその他新宿の高層ビル群をバックに沈む夕陽を毎日のように観て来たけど,コイツは凄え。今までとは格が違う」と呟くと嫁が「そろそろ2人きりにしてあげない?」と訊いてくるので「そうだな。新幹線の写真でも撮るか」と返して歩き橋を潜り始めてすぐに頭上から轟音が響き,早く鳴り止んだ
橋の下を抜けて見上げると新幹線が新横浜方面に抜けているのを見て嫁が「あの新幹線,幕が黄色なのは見えたけど、行先表示は2文字でもよく見えないね」と言うので時刻から逆算してその列車が「のぞみ51号博多行き」だと気付き咄嗟にその新幹線に向けて「昔の俺みたいに関門海峡越えて離れた場所にいる人に恋した若者の夢を乗せてくれ!俺の希望は叶ったから次は他の人の望み叶えてくれ」と叫ぶと嫁が「あの列車,博多行きなのね」と言うので「君に会えなくて辛かったあの頃のように応援歌替え歌するか」と返して「想〜い届け!海越え君想う〜(実れ!)関門〜越えて想いは博多の君へ〜続く行け〜Mein liebe!あの娘に届いた〜♪」と歌うと嫁は「海越え〜貴方の為にやって来た〜♪」と外国人選手汎用応援歌の替え歌を歌っているので俺が「We are」とコールし2人で「married」と叫び,次に嫁が「I love」とコールしお互いの名前を呼び合い、そっと唇が触れ合った後に笑い出す
もう一組のカップルがそんな俺達を土手の上から見守っていた

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Trans Far-East Travelogue㊵

俺達を乗せたエアポート急行は定刻通りの16:25 横浜に着いた
そして,長い行列に合わせて行進する要領で階段を下りて改札を通り,もう一度長い階段で地下へと下りると目の前に東急線の改札口が見える
更に地下深くの東横線ホームに下りると16時32分発の通勤急行・和光市行きの電車が入線して来た
天下の大ターミナルであり世界有数の乗降客数を誇る駅,横浜では乗客は勿論降りるお客さんも多く,まだ帰宅ラッシュが始まっていないのに早くも混雑の影響で遅延が発生している
そんな中、嫁に「これから東急線に乗る。電車は通勤急行だから集合場所は多摩川でも田園調布でも自由が丘でも構わない」という1通のメッセージを送ると返事が来た
「多摩川駅集合でお願い。4人で話し合いたいから,河川敷が良いかも」とのことだ
その旨を兄貴にも伝えると「丸子橋の近くの河原が丁度いいな。夕陽が綺麗な筈だ」と返って来たので「了解。多摩川駅には5時頃着くよ」と返信してスマホを閉じると知らぬ間に電車は地下区間を抜けて白楽の駅を通過している
そして,その勢いのままに妙蓮寺の駅も通過して定刻通りに菊名のホームに滑り込んだ
菊名に着いておよそ5分後,大倉山を通過して綱島,日吉の順に止まり,元住吉を通過して早くも武蔵小杉の駅に到着した
次の新丸子を通過すると,待ち合わせ場所の多摩川駅はもうすぐだ

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Trans Far-East Travelogue㊴

「やっぱり,伊豆もいいけど温泉は関東の黒湯に限るな」「そらそうよ。俺の時は烏来がダメで代わりに行った北投が散々だったからなぁ…草津も合わなかったけど、黒湯との相性は抜群よ」
そう言って男2人,風呂から上がり談笑して帰り道,「俺は川向こうで嫁と合流するけど,兄さんはどうする?彼女さんと和解するもよし,昔の俺みたいに復縁拒否して新しい恋を探すも良し。そちらに任せるよ」と切り出すと兄貴は暫く黙っていたが「俺,アイツと話し合うよ。アイツがやったことは確かに許されないけど,中正の息子さんや岩里さんがなさった政策のように、和解に近づきたい」と言ったので俺は「台湾のことを引き合いに出すのも兄さんらしいな」と返す間に駅が見えた
「信号トラブルのため,八丁畷から京急川崎の間で京浜急行は運転を見合わせています」と言うアナウンスが聞こえる
切符の特性,もとい制約上逆方向に行くことはできないので,嫁は一駅隣の川崎でJRに乗り換えることができない
そのため,「蒲田で少し歩くけどそこから東急が出るので、多摩川か自由が丘で合流しよう」と一言送り,兄貴には「横浜で乗り換えて迂回するぞ。東横線乗れば多摩川か自由が丘で会える」と囁く

京急お得意の逝っとけダイヤが発動したな

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Trans Far-East Travelogue㊳

俺に遅れること5分,兄貴も弘明寺に姿を現した
「兄さん,呼び出してすまない。気持ちは落ち着いたか?」と訊くと「呼び出したのはこっちの方さ。でも,新幹線のおかげで落ち着けたよ」と返ってきた
ここからは歩きながら話すことに
「俺さ,どうしても知りたいんだよ」と言って兄貴が切り出すので「俺が今日の件についてどう思うか,ってこと?」と訊くと「その通りだ。俺はさ,台湾で日本時代の前から生活してきて日本語教育を受けた世代の人達やその子孫と仲が良いから彼らを傷つけたあの事件を知らずに爆弾発言をした彼女を許すことができない」と返ってきた
「俺は兄さんと違って,昔から台湾で暮らしてきた人々,本省人と俗に呼ばれる人々と縁が深い訳ではなくて、2・28は教育格差や偏見と言った根深い問題とその問題のせいで苦しんだ人々の不満があって,あの闇タバコ事件でそうした起爆剤に火がついて爆発した,歴史の悲劇だと思ってる。
ここからは完全に俺の話だけど,俺の母親は韓国人で,韓国で教育を受けた経験の持ち主なんだ。そして,母方の従兄弟も皆韓国で教育を受けた。韓国といえば反日教育で有名なだけに,俺は韓国にいる日本嫌い人達の身内じゃないかと言う疑念だけでイジメられて傷付いた。だからこそ,俺は対立の歴史を学ぶことで自分と同じように対立の渦中,特に歴史や政治といった根深い問題に関する対立の渦中で生まれ育って苦しむ人を救うための手伝いをしたいと思った。それ故,俺は台湾について霧社の悲劇も学んだ。だからこそ,嫁から事の顛末を聞いた時は憤ったよ。いくら無知でも,大勢の大切な命が失われた惨劇を生き延びた苦労とバレンタインデーのチョコ作りは大変さのベクトルが違うし,一緒にしちゃいけないってことは常識じゃないかな?」と返すと「やっぱりそうだよな」と返ってきた
「でも,パートナーに不満があって,それが積もりに積もって爆発したのならともかく、この一件だけでいきなり突き放すのもどうかと思う。『惚れた女を愛し続け,時には俺達にしか分からないことを口頭にしろ背中にしろ何らかの手段で示し,教えてあげるのが男の仕事だ』って言っていたのは誰だっけ?」と訊くと兄貴が黙り込んでしまう
このどんよりとした空気感を何とかするため「話が重くなったな。温泉入ってリフレッシュしようぜ」と提案すると「それもそうだな」と言って兄貴も頷いている

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Trans Far-East Travelogue㊲

「もうこんな時間だと?」そう呟き焦って風呂から上がるも2人とも長風呂してタイムリミットに間に合わずにバスを逃すという失態を犯してしまった
「どうしよう…この次のバスまでかなり時間あるよ」と嫁が心配そうに言うのに反応して「今,何分だ?俺、この先の坂を下りた先の集落のバス停から駅に戻れること知ってるから、時間が合えばそっち使おう」と声をかけると「今,45分ね」と返ってきたので「風呂上がりに汗かきたくないけど,仕方ない。走るぞ。10分以内にバス来るけど,坂が長いんだ」と返すと「分かった」と返ってきた
野球のベーランの要領で坂道を駆け下り、見えてきた集落のバス停に着くと俺の予想通りに三崎口行きのバスが来た
「これで引き揚げれば大丈夫さ。この先は三崎口の駅で考えようか」と声をかけると「何か鳴ってるよ」と嫁が一言言うので自分のスマホを手に取る
画面を見て思わず「え?兄貴,やってくれたな」と呟くと「どうかしたの?」と嫁が訊くので「新幹線,のぞみに乗りやがった。今さっき熱海通過だから、新横浜まで20分弱で着く。俺が待たせる格好になるな」と返すと「新横浜から弘明寺って近いの?」と返ってきたので「あの兄貴のことだから、1番早い地下鉄の優等で上大岡に出て京急で一駅だろう。それだと20分もあれば上大岡に行ける。今から15分だと俺たち,まだ久里浜線内だべ?そこから20分で上大岡までは行けないよ」と言って頭を抱えると「大丈夫。ほら、駅が見えたし時刻表だと2分で特急出るから、それ乗ろ?」と嫁が言ってくれたおかげでパッと動けて無事特急に乗れた
それも、コンセント付きの新型車両だ
「ボックス空いてて良かったな」と言って嫁に語りかけるが嫁はスマホを見つめて「ブルーラインは…信号トラブル?」と呟いている
「となると、兄貴は横浜線乗らないとな…ギリギリかなぁ」と俺も呟くと「上大岡でエアポート急行に接続するってさ」と嫁が言うので「助かるよ。そっちは川崎で乗り換えたら一駅さ。お互いの幸運を祈る」と返す
間も無く、俺達を乗せた特急は堀之内に着き、通過駅のある区間に突入する
一方、時刻表通りなら兄貴は横浜線を待っている筈
果たして、待ち合わせ場所の弘明寺に着くのはどちらになるのか