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Trans Far East Travelogue92

俺たちを乗せた新幹線は北九州の玄関口,小倉に定刻通り滑り込んだ。
早速手配されたホテルでチェックインを済ませ,部屋に入ると窓から小倉の夜景が一望できる。
俗に言う暴力団によって悲しく荒れた過去を経験したけれど、今では治安が安定して九州でもトップクラスの大都市に発展したこの街の歴史を知っていた俺は思わず「新たな〜♪時代へ挑め〜♪君の見上げる空へと続く道〜♪」と俺が好きな応援歌の前奏を口ずさんだら嫁が「ゆけ〜ゆけ〜ゆけ〜♪ゆけよ未来を信じ〜て♪江戸の風に乗〜って♪さあ世界で輝けよ」と見事な替え歌を披露してくれたので久しぶりに大笑いしてしまった。
そして,今度は嫁が「真面目な話なんやけど,誕生日プレジェント、何がよか?ほら,貴方はうちん誕生日にプロポーズしてくれたやろ?」と切り出すので「特に欲しいものはないかなぁ…カノジョも結婚相手も欲しかったけど,理想のパートナーそのものと言っても過言じゃない君が来てくれたからなぁ…だから、やっぱり巨人の日本一かな」と返すと嫁が「なら,あの応援歌歌えばよかね」と言うので「あの応援歌って言われても心当たりあるのが多すぎるんだけど,どれのこと?」と試しに訊いてみると嫁が部屋に備え付けのパソコンにイヤホンを接続して「この巨人の応援歌や」と言うので聴いてみると、俺と世代ドンピシャの曲が流れてきた。
「『声の限り力の限り応援し続けるから気持ち一つに立ち向かえ夢叶う時』か…懐かしいな」と呟くと嫁が「あと,貴方が好きそうなのもう一曲あるよ」と言うので今度は誰の応援歌か気になったので嫁に尋ねるも応援歌ではない上に、近い将来あげるであろう俺たちの結婚式で新郎新婦の登場曲として使うので秘密だと言われてしまった。
そうして一連のやり取りが終わった午前2時過ぎ,ようやくベッドに入ることができたものの,俺は中々寝付けず,体を起こすと嫁はテーブルに突っ伏して眠っており、不思議に思って隣を見ると不慣れなハングルを何度も練習してくれていたことがわかる一枚のメモが置いてあった。
そこには大きな文字で「생일 축하합니다」,つまり「お誕生日おめでとう」と書かれており,俺の誕生日の日付も書かれていたのだから無理もない。
俺は「覚えてくれてありがとう」と声をかけ,気付いたら毛布を嫁の背中にかけて俺も嫁と椅子をくっつけて眠っていた。

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Trans Far East Travelogue91

俺達は無事にチェジュ国際空港に到着し,飛行機も定刻通り大阪に向けて離陸した。
嫁は「日本帰れるんやね」と言った後旅の疲れが残っていたのか眠りにつき,俺は「よりにもよって大阪かよ…関西の薄味料理苦手なんだけどなぁ…」と呟き万が一に備えて後輩に用意してもらっていた分厚い時刻表を取り出して次の行き先を考えていた。
着陸後、後輩の「メードンとかどうです?明日のならお二人の分手配できますよ」という提案に「それ良いかもな!せっかくだし奮発しようぜ。でも,メーテンじゃなくて天サで頼めるか?」と返すと後輩は頷き嫁は「何の話?」と訊くので「明日の夜発の夜行バスで君と、とある面白い街に行くことになりそうなんだけど,その出発地が君もよ〜知っとる町なんよ。今日の新幹線でそこ行けそうだから、今夜現地入りしようぜ」と笑って返すと嫁も何か察したのか笑みをこぼす。
そうして入国審査も終えて市街地に行くべく乗り込んだ特急ラピートの車内で「先輩、9時半発最終ののぞみです。宿はBFでなんとか取れました。その後,明日21時のバスで7時半ビジネスセンター到着予定です。でら高い個室取れたのでごゆっくり。」と言うのを聴いて嫁が「今夜はどこ行くと?」と不安そうに尋ねるので俺が「さくらの券面見してくんない?」と声をかけると「はい、こちら小倉までの新幹線の切符です」とサラッと口にしたので嫁は「え?福岡帰ると?」と言ってかなり嬉しそうだ。
嫁とは対照的に作り笑いをしている俺を見て「先輩,明日1日我慢すれば明後日は天国ですよ」と耳打ちする後輩の一言に無言で頷き,窓の外を見るともう終点の難波が近い。
結局1時間半の余裕があるので3人で道頓堀に行き串カツを食べ、新大阪の新幹線改札に着いたら後輩は最終の快速に乗り換えて地元の刈谷に帰るとのことで東京方面の,一方俺達は新山口方面のホームに向けて歩き出し、定刻通りやって来た新幹線のグリーン車に乗り込む。
そうしてかつては海路で来た道を今度は陸路で西に向けて船より数倍速いスピードで瀬戸内を駆け抜ける。

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Trans Far East Travelogue90

浜辺の散策を終わらせて港に帰ると俺の秘書で韓国支部長代理から緊急事態を告げるメールが届いた。
本来俺達が乗ってきた船は中国の港にも入港する予定だが、国際情勢の変化により中国の市民権を持たない全員の入国許可が取り消されてしまったのだ。
仕方ないので船に戻ると兄貴をはじめ地位が最も高い台湾勤務の人にも既に現状が共有されており,今済州島にいる韓国勤務の職員を緊急招集してソウルも含めた本土の全支社と連携を取りなんとか済州島内でリゾート激戦区の中文地区にあるホテルから100人分の部屋は確保できた。
しかし,本船にはアジアにある全てのオフィスから代表団が来ているのでクルーを除いても5千人は軽く超えるし彼らに一定以上のランクの宿を手配しなくてはならず全く足りない。
韓国本土も対象にしてもまだ全員分は手配できず、結局兄貴の鶴の一声で済州空港発の国際線でまだ搭乗が間に合う行き先の人を全員帰国させることになり,船は有事の際の受け入れ先として指定された港で最も近いウラジオストクに回航し、俺と嫁は関空行きの便で帰国することになった。
そうして,最低限の荷物とパスポートだけ持った俺たちを乗せたバスは溶岩が見える高速道路を一路,空港のある北岸の新都市目指して駆け抜ける。

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Trans Far East Travelogue89

嫁と2人,昼下がりの済州島西部の砂浜を歩いていると嫁がポツリ「あんたはうちんことどう思うと?本音ば教えてや〜うち、あんたん理想ん妻になれとるかなぁ」と切り出すので嫁と目線を合わせながら「正直言って,君と結ばれて幸せだよ。元カノと比べるようでアレだが,アイツは口では『大好き』とは言ってくれたけど行動では全く俺のこと大切にしてくれなくて2度目のデートの時点で別れる覚悟をしていた。でも,君は積極的に愛情表現してくれるだけかと思いきや,ほぼ毎日試合があるプロ野球のその日の試合次第でメンタルがブレまくる俺に君はずっと寄り添ってくれるでしょ?その対応が嬉しいし、おかげで君のこともっと好きになるし、もっと大切にしたいと思うんだ」と笑って返すと、嫁は堰を切ったように泣きはじめ,俺は反射的に嫁を抱きしめる。そして,暫くして落ち着いた嫁が「うち、元カレと付き合うとった頃に散々酷かこと言われてキツから頑張って彼ん好みに合わせようと色々頑張ったと。ただ,結局短期間でん努力では彼ん期待に応えきらんで見限られてフラれちゃったけん、次ん彼氏は優しか人が良かて思うとった矢先、傷心旅行んつもりん旅であんたに出会うたと。そしたら,今はほんなこつ幸せやけん、どげん大変な時も自殺なんかしぇず生きとってくれてありがとう」と言うので流石に照れるが,「俺、1人でアレを乗り越えることなんかできなかった。でも,最初の希望をくれたのがプロ野球の巨人なんよ。『今年も日本一になれなかった。でも,来年こそは勝つからその時までは信じて生きていよう』の繰り返しでずっと足掻いてきて,10年目に例のオープンチャットで君と知り合って恋に落ちた。そしたら,その時から辛い出来事をを乗り越える大義名分が『巨人の日本一を見届けるため』というのと『九州の想い人に会うため』の2つになったんだよね。それから2年後に入った大学では上手くいかなかったけど巨人は12年越しの悲願を叶えたし,そこから更に2年後に君と結ばれたからな。こんな俺を選んでくれて本当にありがとう。これからもよろしくな、俺だけの女神様」と伝えると嫁が「生涯バッテリー宣言したけん,支え合うのは当たり前や」と笑い、その後真面目な顔で向き直り,「改めて,こちらこそ不束者ですが末永くよろしくお願いします」と言ってお辞儀している。
そして,気付いたら巨人交流戦優勝のニュースが入っていた。

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Trans Far East Travelogue 88

俺たちを乗せた船が先程着いたソグィポ(西帰浦)の港は韓国で最も高い山,ハルラ(漢挐)の南麓に位置しており,また韓国で2箇所しかない火山島のチェジュ(済州)島南部の観光拠点だ。
入国審査を済ませ,わざわざフェリーで韓国本土から8人乗りの大型車を運んで迎えに来てくれた従兄と4年越しの再会を果たして色々話し込み、車に乗って目的地の海岸に着いてもなお話は弾んでいた。
この様子を遠目から微笑ましく見ていたのは,韓国に留学した経験があり,ソウルに着いてすぐのまだ韓国語に慣れていなかった時期に偶然通りかかった人(当時中学生だった俺)に英語を交えて手助けしてもらった縁からその人と交際に至ったという経歴の持ち主であり、俺達夫婦,特に嫁と船上で会話し野球で直接対戦したこともあった元カノだ。
一方,それを見ていた嫁は自身は韓国語が分からないだけに俺と従兄の韓国語の会話が長すぎて待ちくたびれたのか、それとも俺達の会話を微笑ましく見守る元カノに対する嫉妬からか「世界で熱く光る♪都育ちの主役♪自慢の旦那と♪デートへ♪GO now」となぜか往年の横浜の選手の応援歌を替え歌しているので,俺以外の野球が好きな日本人メンバーもつられてプロ野球の応援歌を替え歌し始め、俺もつられて「さあ行こうかチュンナム♪우리 어머니의ふるさと♪恋実り幸せだ♪니 옆이 최고야♪」と韓国語も交えて即興で替え歌すると,一気にスイッチが入ったのか各々の応援歌替え歌の原曲は誰のものかを当て始め、気付いたら嫁の手を握って歩いていた。
「福岡育ちの♪自慢の嫁さん♪なぜこの美人が♪今,そばにいる」とか「光り輝き♪歴史も長い♪あゝ不滅なり♪嫁のふるさと♪九州・福岡県」と続けて替え歌すると,嫁が「夢が〜溢れる♪韓国滞在♪круто ♪мой муж ♪都の〜宝♪行くぞ行くぞどこでも世界中♪愛しの旦那の側にいて♪一緒がいいな♪貴方が大好きです♪」と替え歌で返すので俺も「福岡目指し駆け抜けた♪恋の思いは届き♪僕らの笑顔が今♪すぐそこにある♪」と返す。
済州名産の柑橘の花と磯の香りが天然の香水としてお互いをより一層魅了しあっていることや一連の替え歌メドレーの映像がSNSで流出し日本の野球ファンを盛り上げていたことに俺たちはまだ,気付いていない。

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Trans Far East Travelogue87〜新旧パートナー談義②〜

嫁と元カノが2人で話し込んでいるのだが、両者ともツラそうな表情だ。まだ入籍前に元カノのことを思い出すことはあるか否か尋ねて当時のことがトラウマで時折悪夢を見ることもあると正直に打ち明けられたことを、そのトラウマを植え付けた張本人に説明しているのだから当然だ。 元カノは一連の話を聞いて途中から俯いているが、嫁は「正直言って,私は貴女を責めるつもりはないわ。なぜなら、貴女は貴女なりに考えて愛する人の為に最善を尽くした。でも,彼は色々な意味で他の人とは違う特別な人なの。ただ,残念ながらその事実に最後まで気付けなくて結果的に傷付け合っておしまい。結果がどうであれ,ベストを尽くした人を責めることはできないしわ。ただ,1番辛い思いをしたのは本人なの。それだけは覚えておいてね」と告げて感極まって泣き出した元カノを抱き締め、俺を呼ぶ。
「どうした?」と思わず訊くと「ほら,貴方って元カノから酷かことされたやろ?そん元カノから言いたかことがあるって言いよるけん話くらいは聞いちゃったらどげん?」と嫁が切り出し、元カノは「あの時は彼氏の貴方に一切歩み寄ろうとせず、結果的に迷惑をかけてしまってごめんなさい」と涙ながらに謝罪する。そして、俺は「いくら君が心を入れ替えてくれたからって、失われた勝ち星,引退してしまった選手はもう戻って来ない。でも,君がかつての過ちに気付いてこうして俺に謝ってくれた。そのことに俺は感謝してるよ」と返して俺も元カノを抱きしめるのを見て嫁は「あげん酷かことされたとに,そげん優しゅうして良かと?」と拍子抜けした様子なので「君と出会えたからもう良いんだ。いくら酷いことをした元カノだからって、これから俺達の結婚式の費用全額払ってくれる人を更に追い詰めるようなことしたら可哀想だし」と笑って返すと、「男の執念すごか」とだけ言って嫁が笑い出したので俺も「俺さ、君がプロ野球の試合結果に応じていつも俺への接し方をかなり変えてくれているの知ってるんだぜ?だから,そんな風に俺を大切にしてくれる人を俺も大切にしないとな」と笑いながら嫁の頭を撫でてやると元カノが嫁と握手を交わすのを「巨人ファンと阪神ファンみたいなもんだな」と元カノの今の交際相手で先輩が呟く。
そして、全員落ち着いたところで前方を見ると済州島の漢拏山がもう見えている。

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Trans Far East Travelogue86〜新旧パートナー談義①〜

俺も嫁も揃って船室でひと眠りし,暫くしてデッキに出て水平線を見ていると件の松山の先輩も交際相手である俺の元カノを伴ってデッキに出てきた。
すると,嫁と元カノが2人で会話を始める。「少し良いかしら?私,本当は今の貴女の夫と結婚する筈だったの…彼は本当に優しくて,私がデートで行きたい遊園地を挙げたらその場所でのイベントの時間とか全部調べてくれて,本当に好きだったの。でも,私の誕生日に遊園地デートした次の日に突然別れを切り出されて、連絡先ブロックされちゃって…でも,原因が分からなかったから彼と復縁したかったけど,もう彼は彼で幸せそうだから無理ね」と元カノが切り出すと、「彼は日本にも韓国にもルーツを持っていて、しかも気の毒なことに6歳の時から日韓関係が改善されるまでイジメや差別と10年近く向き合ったから、誰かの軽はずみな言動で傷付く人の気持ちが分かるの。だから,彼は貴女を傷つけないように大切にしてたのだと思うわ。ただ,本人から直接聴いたけど本当はデートで遊園地なんか行きたくなかったらしいわ」と嫁も返す。
「私の国ではマイナーで知らなかったけど,今の彼氏に教えてもらった野球なら元カレと復縁できるかもと思ったら…実際に野球したり試合を観てた時のあの人の笑顔、私と付き合ってた頃よりも幸せそうで…私が一方的に好みを押し付けてたと知って…」と元カノは涙を堪えながら答え、嫁は「彼が貴女も含めて元カノと付き合っていた頃が最悪のトラウマになってたって知ってた?」と投げかける。「いいえ,でも私達が一方的に彼に好みを押し付けてたからそう思われても仕方ないわね」と元カノが言うと「そうじゃないの」と嫁が反論し、「彼にとってトラウマだった理由,それは貴女達とデートで行っていた遊園地はかつて彼をイジメて何度も自殺を試みるまで追い詰めた連中が休日に集まって遊んでた場所で彼にとってつらく悲しい過去の象徴だったし、日韓両方で盛んな野球は今も彼の心の支えだけど彼が好きなチームはデートの日の試合で必ず負けて帰宅後1人で泣いてたのに、当時の彼女は野球を知らないから自分の気持ちを理解してくれなくて,極めつけにはその人の誕生日の試合で負けて決勝ラウンドに行けずに帰りの電車で泣いてたのに隣に座ってた彼女は笑顔で心が折れたって本人が言ってたわ」と嫁も涙を堪えながら続ける。

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Trans Far East Travelogue85

俺達を乗せた船が九州沖を離れた頃、夫婦揃って船室の布団に入って早々,嫁が「済州で思い出したけど,日本におる韓国にルーツがある人達のうち多数派が済州島にルーツば持つ話ば聞いたことあるばってん貴方も済州にルーツはあると?」と訊いてきた。「まず,日本にいる韓国系の人の多数が済州にルーツを持つのは本当だけど、韓国の南部地域一帯にルーツを持つ人自体が多く日本にいて,そのうち済州の人も多いってことかな…理由はいくつかあるけど、かつての朝鮮半島は北が資源が豊富で比較的栄えていて,南側は九州に近付けば近づくほど平野から農業が厳しい山あいの土地になる。済州に至っては当時の技術では開発が難しい孤島で火山もあるから,経済的に本土の中部や北部ほど栄えておらず、しかも日本の中でも当時栄えていた北九州に近くて九州へ出稼ぎに行く人がいた。でも、時代が変わって韓国が独立した頃に半島全体の情勢は一気にきな臭くなって、他の地域と違う成り立ちを持つ済州は韓国の敵とみなされて多くの人が亡くなった悲しい時代が過ぎても暫くは貧しくて,日本に船で逃れた人もいて結果的に済州にルーツを持つ人が増えたんだ。俺の親戚は100%本土の人の子孫だから済州出身者はいないんだけど、俺は済州にもルーツあるよ」と返す。すると嫁が「貴方んことばり好きやけんもっと教えて」と言うので種明かしをする。「実は、母さんのお腹の中に俺の命を宿してもらった時に2人は新婚旅行先の済州にいた。でも、俺は日韓関係が冷え込んで日韓両国で差別やイジメと戦った小中の頃、野球を支えに生き延びたのと日本の血も引く東京生まれだから野球が好きな日本人として扱ってくれると嬉しいな♪」と返すと嫁は「貴方は東京ん誇りばい…カッコよかね〜」と言っているが俺はどう反応していいか分からず苦笑する。嫁は泣きそうな表情で「何か変なこと言うた?」と続けるので「東京の誇りって言ってくれるの嬉しいんだけど,カッコ悪いって言われた気が…」と返すと嫁は「ごめん…忘れとった…嫌われてしもたかな…」と泣き出すので「先祖の仇として憎んでいたはずの九州の人に恋して、その人の夫として幸せにしてもらっているから嫌いにはなれないし、君こそ福岡の誇りだよ。生まれてきてくれてありがとう。お陰で幸せ者さ」と本音を伝えて抱きしめながら口付けをすると嫁は泣き疲れたのか俺の腕でスヤスヤと寝息を立てて眠っている。

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来年こそ勝つよ

現在執筆中のシリーズ『Trans Far East Travelogue』のアイデアが少々煮詰まって続きが書けないので,気分転換がてら原点回帰をしてみようと思ってYouTubeを開いたところ偶々スポーツ関係の出来事を替え歌や自作の曲で紹介するチャンネルを見つけたので,そのチャンネルに2夜連続で投稿されていた福岡ソフトバンクホークスを歌っていた替え歌動画を参考に,それと同じ原曲で,岡本真夜さんの「TOMORROW」の替え歌で僕という1人のファンの目線から贔屓球団,読売ジャイアンツの勝利を願う応援歌を作りました。
巨人ファンでないと分からないこともあると思いますが,敢えて歌詞の解説は省きました。
以下はその歌詞です。

涙の数だけ強くなれるよ
車で号泣俺のように
セの5チームに怯えないで
その日は来るよ
君の為に

突然勝てないなんて
チームで何があったの
新たな監督就任
成績悪化し悲しい
記録見たら
また勝てていない
抱きしめてる思い出とか
プライドとか
捨てたらまた
パレードできるさ

涙の数だけ強くなれるよ
ノーノー決めた
エースのように
相手の投手に
怯えないで
ボール選んでチャンスメイク

オフでも忘れられない
色んなことがあったね
ネットのおもちゃ扱い
この感じが悔しい
頼りにしてる
だからお願い
決勝点を
叩き込んで
小技も良いよ
皆で勝ち
胴上げ見せてよ

涙の数だけ強くなろうよ
リリーフ強化で見返してやれ
自分をそのまま信じていてね
俺達ファンは君の味方

涙の数だけ強くなれるよ
伝説生まれた
あの日のように
11チームに怯えないで
次こそ勝とう
ファンのために

涙の数だけ強くなろうよ
九連勝した
昔のように
チームをそのまま信じていてね
優勝しようメモリアルに
優勝しよう秋の空に

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Trans Far East Travelogue84

港に戻り船に戻ろうとするとターミナルの中には日英韓の三カ国語で国際線ターミナルの出発口を意味する「국제선 출발/International Departure/国際線出発」と書かれた看板が立っており,いよいよ海外へ行くことを実感させられる。
出国審査を済ませて船に戻ると甲板で待っていた日本支部長(釧路勤務)が「済州は中学の時以来だろ?楽しみか?」と声をかけてくれたので「楽しみですが,この滞在時間では日本や他のアジア諸国の人々に島の魅力を伝えるには時間足りませんよ」と笑って返すと「麗水と順天の滞在時間を代わりに長くしてるし,運転手は手配してある。九州にも留学経験のある人だから標準語も福岡弁にも堪能で奥さんも楽しめるだろうな」と返って来たので念のため担当ドライバーの名前と顔写真が載った書類を見せて貰うと,母方の従兄で思わず「ウェ?(「なんで?」という意味)」と呟くと群山支社に異動になった韓国人の同期が事情を説明してくれたが韓国語に堪能な人は俺以外におらず俺が全部和訳する羽目になり,あまりにも言葉が長いので全て翻訳し終えた後「ネプダミノムマナ。ハングゲソン,ヒョンハンテマッキジャ(『俺の負担が重すぎる。韓国では兄さんに任せよう』という意味で,長幼の序に厳しい儒教思想が伝統的に根強い韓国では学校の先輩は勿論,自分の従兄弟姉妹や結婚相手の兄弟姉妹の結婚相手でも相手が歳上なら『お兄さん』や『お姉さん』と呼ぶ習慣がある)」と冗談めかして話を締めようとすると同期は「タンニョニクレヤジ。ノガトゥンサラメマッキミョン,ウリケウェギワンジョニマンへ(当然そうしないとな。お前みたいな人に任せたら俺達の計画が完全にダメになる)」と真剣に応えるので苦笑いを浮かべ,嫁は「やっぱりウチの旦那さんは自慢の旦那さんやな」と目を輝かせているが「殆ど俺をネタにした笑い話だけど,韓国には『親しき仲には礼儀なし』という諺があるし俺が日本人だからこれくらいはよくあるさ。人によってはもっと口汚く罵倒するから」と笑って返す。
出港の汽笛が鳴り響き,全速力で航海すると玄界灘が光っている。

※韓国語には日本語にない子音の発音の他,単語の音が繋がって文字の表記と発音が異なるという特徴があるので、韓国語は原則口語での発音をカタカナ表記に置き換えて表記しています。