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ガラスの眼球

こんにちは、純粋な眼球を買いに来ました。
ええ、そうです。2つ。
え?どのような理由でご所望か、ですって?
いやね、ご主人。私は言葉を書く人間なんですけれどもね。どうも最近は曇ってしまっていけない。それで街を見渡してみますと、澄み渡った視界じゃない。昔、というのは少年時代辺りでしょうか、見えていたものが全く、見えなくなってしまったんですよ。逆に扁平な形になったので視野は広がりましたけれどもね。物書きをさせてもらっている私からすれば、木や鳥や、人がうまく見えないっていうのは些か問題なわけでして。
それで、ですよ。ご主人。訊くところによると、眼球が曇ってしまうのは、どうにも”眼に入れた言葉”とか”耳に入れた言葉”が眼球を傷つけているからだそうな。それでこいつはなかなかに不可逆的な、例外はあるそうですけど、そういう現象らしくて。ええ。まあ大抵の大人はそんなこと気にしないで生活しているそうなんですけれども。視野が広い方が何かと便利ですし、ね。でもほら、先程の通り私は物書きでして、そうではいやはや困ってしまうのですよ。
ええまあ、そんな理由で。それで純粋な眼球というのは何処にあるんで?
ああこれですか。いやでも、これはなかなかに……まあ、小さいですな。ここに並んでいるものはすべて子供用ですかな?はて、大人用は何処にありや。
え?ここにあるものが全て?困りましたな。では他の店を当たってみるしか……。なんと、他の店にも売ってない?それは何故。
眼球というのは、ほう、成長すれば勝手に言葉が入ってきて曇り始めて。それ故まだ幼い眼球しかない、と。これ以上は曇った眼球しかないのですな。
なる程。分かりました。私は間違っていたようで。眼球は曇ったら交換できるものではなく、眼球が曇らないように丁寧に言葉を入れなければならなかったのですな。いやはや、今となっては手遅れかも知らないが、せめてこれから気をつけましょうか。
ご主人、ありがとうございました。また機会ができたら、いつか。
それにしても、ご主人。あなたも歳がいっていながらこれまた随分ときれいな眼球ではないですか。大切にしていればそんな硝子玉のような眼球にもなるものか。
ええ、ではまた。御機嫌よう。

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七月七日

 むかし、某大手企業の重役の娘で、織女という、まあまあ美しい娘がいた。
 織女の母は、織女の兄には甘かったが、織女には厳しかった。織女は厳しい母から一刻も早く逃れたかったので、大学二年のとき、法学部の牽牛という男と結婚した。牽牛の実家は織女の家より格上だったから親も文句は言えなかった。それに織女はすでに身ごもっていた。
 息子の太郎(覚えやすい名前にしたのは将来政治家にしようという考えがあってのことだろう)が小学校に入学するころ、大学時代の友人から、出版社の仕事をしてみないかと持ちかけられた。悪くない条件だったし、織女は幼少期から社会で自己実現したいと考えていたのでやってみたいと思った。牽牛に相談すると、猛反対された。牽牛の家は伝統的な金持ち。牽牛は、女性は家庭を守るもの。女性が家庭を守らなかったら家族は崩壊する。家族の幸せが持続的な成長につながる。家族が幸せだから財界は安泰なのである。といった考えにどっぷりつかっていたから、織女の考えが理解できなかった。
 この件をきっかけに、夫婦関係はぎくしゃくし始めた。ある日、太郎の教育方針をめぐって姑と大喧嘩した織女は怒りにまかせ太郎を連れ、実家に戻った。
 織女と牽牛は、それから間もなく離婚した。太郎の親権は織女が獲得した。牽牛とは、年に一度、太郎の誕生日の七月七日に会う取り決めになっている。

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私の手の振り方

感覚が鈍って、青くなってる。
プールのあとみたいで笑ったけれど。
この冷めた気持ちはきっと夏でも溶かせないかもしれない。怖いな。

もう1回、手を差し伸べられたら。
きっと振り払えはしないだろう。
そう。いつか君に笑いかけた日のこと
覚えてる。覚えてる。


笑って泣けるようになりました、笑顔で別れを告げました。それでもまだ懲りずに泣いたりしていますが。
言葉がA 4の紙から溢れたらちょっと風情がないかもね。ちょっと重くてつまんないね。
定まった目標が出来ました、あなたがいなくっても進めそうです。
寂しさだけが足枷として溶けないけど
引きずりながらでも笑ってサヨナラ。


苦しみのシークェンス濁しながら
時代を見据えたり斜に構えたりしちゃう。
嫌われたくはないけど好かれたくもない。
そう言ったところで操れない。

もう1回手を触れられたら。
なんてことを思ったりしちゃうんだけど。
そう。いつも君に支えられていたこと
覚えてる。覚えてる。


黙って泣くのはやめました、笑顔で手を振ることにしました。それでもまだ懲りずにずっと好きでいますが。
想いが交差し続けた君との日々を、忘れたくないのです。忘れられないのです。
絡まった未来のその先を、見通すことはやめました。きっと君もそうなんでしょう。ありがとうね。追いかけ続けたいんだ。


タイムリミットはあと少し。
止まれ針、時間を狂わせて会いに行こう
間に合いそうかな。
辿り着きそうかな。
わかんないけど。

無駄ばかりの時間も、待ちくたびれる会話も。全て宝物で、消えていってしまうけれど。


笑って泣けるようになりました、笑顔で別れを告げました。それでもまだ懲りずに泣いたりしていますが。
言葉がA 4の紙から溢れたらちょっと風情がないかもね。ちょっと重くてつまんないね。
定まった目標が出来ました、あなたがいなくっても進めそうです。
寂しさだけが足枷として溶けないけど
引きずりながらでも笑ってサヨナラ。


寂しさは通過点。わかってるってば。
苦しみこそマテリアル。知ってるんだよ。
黙っていたってきっと通じる。それくらいじゃダメ?
早く鳴き方を教えて。