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「君がいた夏は遠い夢のなか」

 今日はお祭りらしいよ。
 そんな言葉が、ふっと耳を抜けていった。
 ひぐらしの声と一緒に、熱を帯びた空気がお囃子の音を運んでくる。笛が提灯まで誘っているようで、ひどく酔いがまわったような気になった。
 ひとりでいるはずなのに、なんとなく“みんな”を感じて、ふわふわと熱に浮かされている今日は、どうにもうだるように暑い。私は主役なんて柄ではないが、世界が私を祝福しているようにさえ、今日という日は感じさせる。それが、祭りというものなのだろう。
 主役は、誰かに見られているものである。
 だから、夜の片隅にいるその見物人に私が気付いたのは、彼もまたどこかで主人公だからなのだろうと、漠然と思った。
 夏は日が長いとはいえ、夏至を過ぎているのだから、夏の夜はおそらく思っているよりも長い。祭りには適しているかもしれない夏は、やはり都合がよいものである。
 見物人は、喧騒の輪からはだいぶん外れていた。提灯の灯りが届くには厳しい範囲に位置取りしている。全人類祭りが好きである、なんて暴論を唱える気はさらさらないが、興味がないにしては距離が近く、興味があるにしては距離をとっているものだから、私には理解できないながらも不器用な人なのだろうと、遠くから思う。ただ一点、遠かったのは、私の方かもしれなかった。
 私は見物人に、

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「私は私が嫌いだよ」
「君が嫌いな君のことも、僕は好きだよ」

3

告別の詩

今日もまた下らない太陽が上り
真っ青な空は吐きそうな程です
全身の気怠さは昨日の後悔達で
いつまでも僕の踝を掴むのです
こんな何でもない冬の朝だから
縮こまった体を少しだけ震わし
また今日も行くべき場所へ行く
目的などとうの昔に忘れました
こんな僕をこんな所に繋ぐのは
死ぬことさえ面倒に思う怠惰と
この世への未練かのような顔で
僕の心に居座り続ける恐怖です
自分の為に生きられるほどには
僕は強くなんてなれなかったし
誰かの為に生きられるほどには
僕は優しくなんてなれなかった
僕に死ねるだけの勇気があれば
僕はもっと幸せだったでしょう
努力することを覚えられたなら
僕はもっと幸せだったでしょう
それでもその何方でもない僕が
幸せだなと思う瞬間があるから
この世界はやっぱり意地悪です
僕の襟を掴んで離さないのです
貴方はこれをただの詩だと思い
また溜め息をつくのでしょうか
何れにせよ僕の中の浅ましさが
やっぱり僕は嫌いでなりません
誰に伝える気も無いかのような
こんな長ったらしい詞たちさえ
貴方は何故か拾ってくれるから
やっぱりこの世界は意地悪です
そんな詞ももうすぐ終わります
ですが最後に一つだけとすれば
僕は貴方のように生きたかった
それしか言うことは無いのです