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甘い生活

 世界じゅうどの国も、中央が豊かなのは当たり前だ。
 埼玉がどうちゃらとか群馬がどうちゃらとかいう漫画が流行った背景にあるのは、日本は豊かなようでいて全体的に見たら貧しいってこと。東京という強国のもとに、地方という属国があると考えたほうが日本のありようを把握しやすい。
 日本はひとつではないのだと、関東エリアの外の人はよくわかってるんじゃないか。
「かなのこと親友だと思ってたのに、こんな形で裏切られるなんて思わなかった」
 トイレから戻ったるなの声で、考えごとに没頭していたわたしははっとした。
「あ、ごめん。悪気があったわけじゃ」
「悪気があったわけじゃないって!? 親友だったらわかんじゃん!……もういいよ。友だちやめよ」
「ごめん。ほんとごめんなさい。新しいの買ってくる」
「そういう問題じゃないから」
 ずっと仁王立ちのまま、るなはわたしをにらんでいる。わたしはただ、とけかかった氷を見つめるばかりだ。
「もうこれからシェアなんてしない。翔君もわたしが占有するから。かき氷ほとんど一人で食べちゃったあんたが悪いんだからね。さよなら」
 そう吐き捨てるように言って、るなは店から出て行った。
 一週間後、翔君にふられたのでやけ食いするから甘味処につき合ってと、るなからLINEがあった。
「わたしたち、やっぱり親友だよね」
 あんみつのバニラアイスを頬張りながら、るなが言った。
 わたしは笑顔でうなずき、ところてんをすすった。

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〜二人の秘密〜長文なので時間がある時に読んで下さると嬉しいです。

最近、先生が校長になるという噂が流れている。
手を伸ばしてもスルリと抜けていく先生に、少し寂しく思っていた。

廊下の角を曲がろうとすると声が聞こえた。
現校長の声だったので、隠れて会話を聞く。
先生と話をしていた。
“先生、校長になる気はありませんか?”
『今、答えを出さなければなりませんか?』
先生は質問を質問で返す。
“いやいや〜。今でなくていいんです。考えておいて下さい。”
『わかりました。考えておきます。』
会話が終わりそうだったので、私は静かに、でも急いで、踵(きびす)を返した。

私はお気に入りの窓に腰掛け、空を眺めていた。
『またここにいたのか?』
先生の声がするので振り返る。
「あ〜、先生。なんか久しぶり?」
『昨日会ったばかりだ。』
「そうだった、そうだった。」
『何かあったか?』
「別に何もないよ?」
『またここに来てるし、何もないと言ったときは大体何かある。』
「じゃあ、本当に何もないんだけど、1つ聞いていい?」
『あぁ。もちろん。何だ?』
「先生は校長になるの?」  『え?』
「先生、校長になるの?」  『何で?』
「噂がウジャウジャしてる。」
『私が校長になると君に何か不都合があるのか?』
「別にないよ?」
『じゃあ何でそんな事を聞くんだ?』
「先生が昇格すれば、おめでたいよ、そりゃあ。でも、今みたいに一緒にいれない。先生がどんどん遠くに行っちゃう気がする。ただそれだけ。」
『そうか。ただ、私は校長になるつもりは無い。』
「本当?」
『あぁ。本当だ。君もそう言ってくれているし、踏ん切りがついたよ。』
「何でならないの?校長。」
『私には似合わぬ職だろう?笑 それに、今のままで私は十分満足だからな。』
「ありがとう。」
『何でお礼を言うんだ?』
「今のままで良いって言ってくれたから?」
『何なんだ?それ(笑)』
私達は少しの間笑い合った。

先生が、これ以上スルリと抜けてしまわないように私はそっと“レプラコーン”にお願いをした。