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黄色いおにいちゃん No.3

「ただいま」
「おかえり。…ねぇ、いっつもどこで遊んでんの。誰と遊んでんの。ケンくんママが大学生くらいの男の人と遊んでるって言ってたんだけど」
ママは僕の答えを待たずに言った。
「…うん。カズにいちゃん!優しいよ!」
「正気?学校で習わなかった?『知らない人と遊んではいけない』って」
「でも、本当に優しいもん。不審者なんかじゃないもん!」
「ふ~ん。どうなっても知らんからな」
知ってたまるか!もう、こんな家出てってやる!
靴を履いて家を飛び出した。
さっきより空は暗くなっていた。こんな時間に1人で外に出たことはない。自分から出てきたくせに弱音を心の中で思った。

「…カズにいちゃん」
「…」
カズにいちゃんはなぜだか知らないけど、そこにいて、抱きしめてくれた。
「もう、カズにいちゃんと遊んじゃダメなんだって」
「…」
「僕、もっと遊びたいよ」
「…そうか。…もし俺が今、君を連れていくって言ったらどうする?」
「えっ。…分からない」
「じゃあ、少しは怪しんでるってことか」
そうじゃない。そうじゃない。
「そうじゃない!」
「じゃあどうなんだ」
僕は答えられなかった。これは算数のテストなんかよりもずっとずっと難しい問題だった。でもカズにいちゃんはぎゅっと抱きしめてくれて、僕が答えるのを待っていてくれた。

どのくらい経ったろうか。
僕は見たことのある景色を眺めていた。

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鏡像編年史その③

「ミラークロニクル……、鏡の……えっと……?」
「年代記、または編年史。まあ、早い話が歴史を記すのです」
上手く翻訳できないでいると、片脚の男が続けてくれた。
「あ、どうも」
「良いのですよ。困っている後輩を助けるのも先輩の務めですから」
けれど、翻訳ができてもミラークロニクルが何なのかは全く分からない。
「で、何をすれば良いんですか、それ」
「なに、難しいことは一つとしてありません」
そう言いながら、片脚の男は持っていた手帳を開いた。それを見せてもらうが、中にはよく分からない文字がつらつらと記されていた。
「これ、何語です?」
「何語、と言われましても……、強いて言えば、『我々の言語』ですかねえ」
何だそれ。
「……まあ、それは良いとして、何を書けば良いんですか?」
「ああ、それは簡単」
男が指で宙をなぞり、絵を描き始める。その軌跡は不思議と空間内に残り続ける。
完成したのは、一筆書きでできた、写実的な頭蓋骨の絵だった。
「一人の人間が死ぬ、その時までに遺してきた『何か』ですよ」
…………つまりどういうこと?
「そうですねぇ、その問いに答えるなら……」
心を読まれた!?
「いえ、そんなことは全く。……そう、答えるなら、我々は標的の生きた証を保存する者たちなのです」

2

「えっ!?」
「てんせーって何ですか?」
「うっさい。君、もしかしてあの何もない空間に行ったり・・・?」
「はい!!そうです!!と言うことはあなたも本当に!?」
「てんせーって・・・」
「うっさいわ!今それどころかじゃねえええええ!!!!!」
「もしかして、えーっと・・・」
「ラミエルだ。」
「ラミエルさんも地球から?」
「ちきゅー?」なにそれ?サミルなら知ってたり・・・
「ちきゅー?」あ、うん。知ってた。
「地球からじゃないのか・・・」
「私は元からここで生まれたが?」
「なるほど!?元々ここの住民だったんですね!」
そっから転生者トークで盛り上がり、気がつくと・・・
夜やね。真っ暗。何も見えねー。こんな時は~・・・
「光魔法!!!」シュパンッ!!
ギャッ!?痛ったい!!なんで!?あ、弱点アイコンついてる。
え!?私が元魔王だから?なにそれ無理ゲー。
ってことは私光系魔法使うと自爆するってこと!?
そりゃねーぜ!!!!!(泣)
「どうしました?」
ヤッバ!ばれるとめんどい!!
「今何か光りましたか?」
「あ、うん!け、結構眩しかったね!」
「いや、赤い光が・・・」
赤?さっきのは白っぽかったよ?
「あ、ほら!!そこ!そこにも!」
そこを見ると・・・


続く

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鏡像編年史その②

「ッ!? 何だ!?」
鍵を拾った瞬間、足元から聞こえた声。咄嗟に飛びのく。
「……良い反射神経だ。わざわざ『それ』を取るだけのことはある」
さっきのと同じ声が、今度は背後から聞こえてくる。
「!?」
振り向く前に、何者かに目と口を手で塞がれる。
「んがっ!」
藻掻こうとしたけれど、直後に手が離れ、さっきまでいた場所とは全く違う空間にいた。
「ここは……?」
「ようこそ、もう何人目かのお人。これであなたも、晴れて我々の仲間入りというわけです。先程の非礼については、勘弁してくださいな」
さっきから聞こえてくる声が答えた。声のする方を見てみると、背の高い、足が一本しか無い男が立っていた。
「なっ、何者!?」
「そんなことはどうでも良いわけで。我々にとって名前にそう価値はありませんで。そういうわけで名乗りは結構」
「……じゃあ、何になら価値があるんです? 相手を呼ぶ時はどうすれば?」
「適当にしてくれれば。大抵の場合、私は『片脚の』だとか『しめじ野郎』だとか呼ばれておりますよ」
何故しめじ。
「何に価値が、という話ですが……」
片脚の男は、腕組みをしてしばらく考え込んでから答えた。
「我々の為した事に、でしょうかねぇ……」
「為した事?」
男は懐から一冊の手帳を取り出しながら続けた。
「ええ。あなたも聞いたでしょう? 『ミラークロニクル』。その編纂ですよ」

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じれったい

涙じゃないんだ
ベッドから滑り落ちた雨が
地面に落ちて
それはそれは芸術的な
シミを板目に作ったの 

本当なら僕らの
2番目の宝物になるはずのものを
僕たちは僕たちのために
使い果たしたんだ
必死だったんだ

何故、こんなにも
じれったいんだろう 
じれったくて
汗ばむの
くっついてんのに
距離だけはそれでもあって
初めは0.05ミリ
次は0.03ミリ
最後にはお察しの通り

能動的で最高な
盲目的で最低だ
僕らは白いシーツの上でしか
主人公になれなかったの
サクランボを君が口に放り込んで
僕はボクになる

君は自分で殻を破れないから
僕が破ってあげないと
でもそれって辛いでしょ?
我慢してよ、泣いちゃヤダ

ここに居る意味を君の中に
置いてきてしまったから
急いで取ってくるよ
ちょっと待ってて

何故、こんなにも
じれったいんだろう
じれったくて
汗ばむの
抱き合ってんのに
泣く寸前の一歩手前
シーツを濡らしたのは
だから、涙じゃないってば

断片的で直感的な
喜劇的で悲劇的だ
僕は多分僕のもので
君は多分君のもので
でもここでは
僕は君のモノ、君は僕のモノ

「熱」は予測変換で「君」に
「恋」も予測変換で「君」に
「愛」ですら予測変換で「君」なったのに
「僕」は予測変換で「君」には
なれっこなかったんだ

分かってるフリして
実はゼロすら知らなくて
バカみたい、バカみたい

何故、こんなにも
じれったいんだろう
じれったくて
僕はシーツに潜り込んで
君にしか聞こえない声で
メソメソ泣くの
君の隣で「君が居ない」って
メソメソ泣くの