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視える世界を超えて エピソード8:雷獣 その④

昼休みの種枚さんと白神さんの様子、何というか、違和感があるように思えた。2人がかち合った瞬間、空気が重くなったような、嫌な感じだった。
結局あの場のストレスを引きずっていたのか、4限の講義もあまり集中して受けられなかったし……。
そういえば白神さんも、たしか今日は4限までだったっけ。
「…………5限、サボるか」
そう決心し、講義棟から急ぎ足で出て、まっすぐ正門に向かった。
どうやらタイミングとしては完璧だったみたいで、少し先を歩く白神さんの後ろ姿が見えた。
歩調を早めて、追いつこうと試みる。そして、彼女に続いて正門をくぐろうとして、自然と足が止まった。
白神さんの目の前に、種枚さんが立っている。種枚さんはフードを深く被っていて表情は分からないけれど、何か話しているらしい。
何となく近づけずに距離を取って見ていると、いくらか言葉を交わしてから二人は連れ立って歩きだした。見失ってはいけない気がして、距離を取ったまま後を追う。

2人が向かった先は、自分が鎌鼬くんと初めて遭遇したあの公園だった。その敷地内には日没直前とはいえまだ少し人が残っている。いくら種枚さんといえど、まさか白神さん相手に荒っぽい真似をすることは無いだろう。
きっと大丈夫だと心の中で自分に言い聞かせ、どんどん奥の人目に付かない場所に入っていく二人の尾行を再開した。

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ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 20.エインセル ⑫

しかし目の前の十字路にさしかかった所でわたしはぴたと足を止める。
視線を感じてハッと右手側を見ると、路地の奥に”わたしと瓜二つの人物”が立っていた。
「え」
わたしが思わずそう呟くと、先を歩く耀平達も足を止めた。
「どうした?」
耀平がそう尋ねてきたので、わたしはあそこ!と路地の奥を指さす。
しかし耀平達が路地の奥を覗き見た頃には、そこに誰もいなかった。
「誰もいねーぞ」
「さっきから多いよな、そう言うの」
耀平と師郎がそれぞれ呟く。
「またそっくりさんって奴かい?」
師郎がそう聞くので、わたしはうんとうなずく。
「…そっくりさん、か」
不意に雪葉がポツリと呟いたので、わたし達は彼女に目を向ける。
雪葉はわたし達の視線を感じて、あぁこっちの話と手を振る。
「何、心当たりでもあるのか?」
耀平がそう尋ねると、雪葉はまぁねと答える。
「心当たりがあると言うか、そういう事ができる人を知っていると言うか」
雪葉がそう言うと、穂積はそれって…と言いかける。
雪葉は穂積に目を向けるとこう笑いかけた。
「…まぁ、そういう事さ」
雪葉はそう言って上着のポケットからスマホを取り出した。

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視える世界を超えて エピソード8:雷獣 その③

4時限目の後、白神は帰宅のために大学の正門をくぐった。そのまま歩道に沿って1歩歩き出し、すぐに足を止める。
「……およ、さっきの……千葉さんのお友達」
「よォ。シラカミメイ、だったか?」
「はいメイさんですよ。ちゃんと聞いてたんだ?」
「私は人の話は聞くタチでね」
「で、千葉さんのお友達さん?」
「種枚。呼び名は短い方が良いだろ」
「了解クサビラさん。わざわざ出待ちまでして、メイさんに何の御用で?」
「この場で話すとなると人目が気になるからなァ……良い場所を知ってるんだ。ついて来な」
そう言って白神に背中を向けて歩き出した種枚に、一瞬の逡巡の後、白神も続いた。

「……そういやメイさんよ」
道中、振り返ることも無く種枚が背後の白神に話しかける。
「何ですかいクサビラさん」
「あの子……チバとはどれくらいの付き合いだい?」
「それは長さで? 深さで?」
「とりあえず長さで」
「そんなに長くないよー。後期が始まってすぐくらいの頃に、わたしのいたサークルに入ってきた縁でね。だからまだ……2、3か月?」
「へえ、私とそこまで長さは変わらないわけだ。深さは?」
「週3でお昼をご一緒するくらいの仲だけどクサビラさんは?」
「私はあの子の命の恩人だけど?」
「…………」
「…………」
2人の間に、重い沈黙が流れる。そのまま数分、無言で歩き続け、不意に種枚が立ち止まった。
「……なーんだ、良い場所なんて言うからどこかと思ったら、ただの公園じゃないですか」
「夕方にもなればすっかりひと気が失せるからねェ。さ、行こうか」
ようやく白神に一瞥をくれた種枚が敷地内に踏み入り、白神もその後に続いた。

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少年少女色彩都市・某Edit. Outlaw Girls Duet その①

休憩室の扉をノックする軽やかな音が3度響く。
「入ってどうぞ」
ロキが言うと、扉が開き理宇が入ってきた。
「あ、ふべずるんぐ先輩。お疲れ様です。タマモ先輩は……?」
「ロキで良いよ。タマモはこの間の戦いで両腕骨折したからしばらく療養。座ったら?」
ロキに促され、理宇はタマモが普段座っている席の向かいに座った。その斜向かいにロキも掛ける。
「…………あのー……」
「…………」
ロキは理宇の存在を意に介することなくスマートフォンを操作している。
「あの、ロキ先輩?」
「……あ、ん、何?」
スマートフォンから目を離し、初めて理宇の目を見る。睨むようなその視線に臆しながらも、理宇は対話を試みた。
「今日は、何かやることあるんですかね?」
「いや特には」
「さいですか……。あ、これは全く関係ない世間話なんですが、ロキ先輩ってタマモ先輩といつから組んでるんですか?」
「……そろそろ1年かな。何だかんだで私がリプリゼントルになってからずっと一緒に戦ってる」
「へー。どんな感じで出会ったんです?」
「…………まあ、それはタマモ自身に聞いて。あいつが話したがらなかったら諦めてやって」
「あっはい」
しばらく無言の時間が流れたが、不意にロキのスマートフォンから通知音が鳴り、ロキが立ち上がった。
「行くよ。仕事だ」
「はい、了解です!」
「……あれ、あんた何ていったっけ」
「あ、魚沼理宇です」
「うん、じゃあ行こうか、リウ。あいつがいない分、私のこと守ってくれる?」
「お任せください!」