『夏の最後の日壱』
うんざりするような熱帯夜、瞬く事の無い空。
時代が変えた景色の中、時間が止まった邸。
「こんばんは、風麿さん。」
「はい、おかえりなさいみゆりさん。」
みゆりの前には蕎麦茶が置かれていた。
「今日は戸隠の蕎麦を使ってみました。恐らくこの間のものよりは上等ですよ。」
風麿が言った通りこの間の蕎麦茶よりは美味しかった。
「.........。」
「.........。」
子供達が寝静まる頃に雑談が止まった。
少しして風麿の目が変わった。
「............話しますか。」
「お願いします。」
P.S.色々聞きたいことはあるかも知れないけど全部最後に書くね。
私は、「話す」ことができる。
だけどね、私の声は時々、
どこか見えないところで、音にならずに消えてしまうんだ。
私は、「見る」ことができる。
だけどね、私の目は時々、
大事なものを見ずに、偽物ばっかり見ようとするんだ。
私は、「歩く」ことができる。
だけどね、私の足は時々、
前に進むのを怖がって、後ろにばっかり進もうとするんだ。
「できる」って、難しいね。
「できる」って、切ないね。
そんな私たちだけど。
そんな私達には、「生きる」ことができる。
未来に思いを、残すことができる。
未来をしっかり、見つめることができる。
未来に向かって、走り出すことができる。
愛とか、喜びとか、それだけじゃなくて、
苦しみも、悲しみも、全部抱えて走るんだ。
目的地についた頃には、必ず、私だけの宝石になる。
そう、星に願って、
私たちは、生きていく。
その手を離して
弱い私を探さないで
あなたの声が、匂いが、優しさが
肺いっぱいに溜まるようで
喉から溢れてしまいそうで
1人で泣いていたいんだ
あなたの背中を忘れる日まで
涙を枯らしておきたいんだ
胸底に抑え込んだこの気持ちを
薄くすりへらして空に飛ばしたいんだ
だからその手を離して
弱い私に寄り添わないで
本当の言葉をつかわせないで