瑛瑠はふっと微笑んだ。
「わかりました。それでは、10年前に関係のある情報を探ること、努力します。」
こうなったら最後まで踊ってやるんだから。そう、決心する。
"10年前"。この言葉は、どうやらキーワードらしい。今、チャールズでさえ、一瞬の動揺を見せた。
しかしすぐに、華のように微笑み、瑛瑠に言う。
「はい。私もお嬢さまがイニシエーションを完遂できるよう、ささやかながらお力添えをしますね。」
イニシエーションを完遂。妙な言い方をする。
チャールズがこうしてヒントを少しずつ小出しにしていたと気付くのは、もうしばらく先の話。
しかし、とすぐに続ける。
「日常的に起こるわけではないのです。この国は大きなことが起こりづらいと言われているので、使う必要はない。旦那さまは、そうおっしゃっていたのだと思いますよ。
……さて、これくらいでしょうか。」
瑛瑠は思わず叫ぶ。
「待って!肝心なところを聞いていない!
イニシエーション終了は?期間は?情報って何!」
チャールズはあくまで冷静だ。
「落ち着いてください。とりあえず、明日同じような方々を見つけてくればいいでしょう。そうでないと始まりません。」
瑛瑠は睨む。
「――策士。」
「お褒めいただき光栄です。」
やられた。まず、そう思った。
父が隠していたい部分を引き出し、あくまで明るみにしてもいい部分だけ教え、肝心なところを教えないと言う。
やはり、ただのイニシエーションだとはとてもじゃないけど思えない。
きっと、その"情報"とやらが、大人たちの欲しいものなのだろう。
「いつまでここにいなきゃならないの。」
「イニシエーションが終わるまで、ですよ。」
瑛瑠は黙って睨む。時間だけが流れる。
今まで飄々としていたチャールズが、始めて折れた。
「降参です。可愛らしいお顔が台無しですよ。」
「答えて。」
「長くて1年、でしょうか。」
「1年……」
そんなに長い通過儀礼があろうか。その間に成人を迎えてしまう。
イニシエーションが、ただの"イニシエーション"ではないと、確信に変わった。
ゆったりと、沈んでゆく。
何が沈んでゆくんだろう。
自分?それとも違う人?それとも物?
それは何もわかんない。
けど。
何かが沈んで、ぷかぷかぷかぷか。
何かが浮かんでくる。
それが、心の奥底にある何らかの。
思い出せない思い出だったらいいのに。
このチャールズとは、面識があるように思えてならない。しかし、記憶を手繰り寄せる限り、初めましてである。このような容貌の青年を忘れるだなんてことができるだろうか。
「……お嬢さま?よろしいですか?」
「え、ええ。続けて。」
チャールズは困ったように息をつくだけに留まった。
「そこで、ですが。ここは仮名文化なので。」
どういうことだろう。
「高校では、祝 瑛瑠(はふり える)と名乗っていただきます。」
「……はぁ。」
間の抜けた声になってしまう。
諦めの境地。いっそ、開き直りの境地である。
パプリエール、もとい祝瑛瑠は受け入れた。
「つまり、パプリエールではないまったくの別人として、人間として生活していけば良いという解釈でいい?」
「物分かりがはやくて助かります。」
にっこりと微笑む。
瑛瑠はその笑顔に聞く。
「それでは、魔力を使う必要がないと言われたのは、どういうこと?」
「人間は魔力を持ちませんから。」
一瞬の思考停止。
「……確かに。」
魔力を持っているからこそ、相手を傷つけ得る。傷つけられないために魔力を持つ。お互いに釣り合った魔力を持つことで、争いは抑止される。
そうなると、魔力を持たない人間はそういうことはないのだろうか。
またもや心を読んだかのように、
「人間は人間なりに相手を傷つけるものを作り、傷つけられないように再びにたようなものを作り、同じように抑止させるようなシステムになっているので、私たちとさして変わりません。」
そんなことを言う。
このチャールズとは、面識があるように思えてならない。しかし、記憶を手繰り寄せる限り、初めましてである。このような容貌の青年を忘れるだなんてことができるだろうか。
「……お嬢さま?よろしいですか?」
「え、ええ。続けて。」
チャールズは困ったように息をつくだけに留まった。
「そこで、ですが。ここは仮名文化なので。」
どういうことだろう。
「高校では、祝 瑛瑠(はふり える)と名乗っていただきます。」
「……はぁ。」
間の抜けた声になってしまう。
諦めの境地。いっそ、開き直りの境地である。
パプリエール、もとい祝瑛瑠は受け入れた。
「つまり、パプリエールではないまったくの別人として、人間として生活していけば良いという解釈でいい?」
「物分かりがはやくて助かります。」
にっこりと微笑む。
瑛瑠はその笑顔に聞く。
「それでは、魔力を使う必要がないと言われたのは、どういうこと?」
「人間は魔力を持ちませんから。」
一瞬の思考停止。
「……確かに。」
魔力を持っているからこそ、相手を傷つけ得る。傷つけられないために魔力を持つ。お互いに釣り合った魔力を持つことで、争いは抑止される。
そうなると、魔力を持たない人間はそういうことはないのだろうか。
またもや心を読んだかのように、
「人間は人間なりに相手を傷つけるものを作り、傷つけられないように再びにたようなものを作り、同じように抑止させるようなシステムになっているので、私たちとさして変わりません。」
そんなことを言う。
かえる
蛙が啼いて
蛙が啼いている田んぼ
蛙が啼いている田んぼのあいだ
蛙が啼いている田んぼのあいだに外灯
外灯
外灯がない
外灯がないほうの
外灯がないほうのみち
外灯がないほうの路を選んで
外灯がないほうの路を選んで気が
気が
気がついた
気がついたら知らない
気がついたら知らないまっくら
気がついたら知らない真っ暗な公園
公園
公園のぶらんこ
公園のぶらんこで揺れて
公園のぶらんこに揺れて
公園のぶらんこが揺れて
揺れて…
(ファンタジー、とはちょっと違うのかな)
(かえるのうたが…みたいなものが描きたくて)