「うん、瑛瑠は笑うと凶器だね。」
うんうんとひとり頷きながら、踊り場の掲示板に背を預ける。
「まず、英人くんに話しかけられたのが最初なの。」
これまでの経緯を話してくれるようだった。
「彼のアンテナは最上級だね。隠れるのは得意だから、声かけられてびっくりしちゃった。
『君、人間じゃないだろ。』ってさ!」
たぶん今、もの真似が入った。
どうやら英人は誰に対してもあのスタイルは崩さないらしく、瑛瑠は知って はあ,となんとも気の抜けた返事をしてしまう。
「そんなことを聞くってことは魔力持ちなんだなって思って。」
「……正体を明かしたんですか?」
信用するには早過ぎやしないかと思うも、
「私、エアヒューマンなんだけどね、正直気付かれない自信しかなくて、自分で探す気満々だったんだ。それで気付かれちゃったからねー、凄いアンテナだなあと思ったら信じちゃったよ。」
ちゃんとした根拠を持っていて。
彼女も、できる子だ。
そう、瑛瑠は確信した。
「でね、」
何かを企むかのようにら含みのある笑みを溢した歌名。
「ウィッチとウルフを見付けたんだけど、ふたりが近いんだって言うの。誰のことか聞いたら、確かに近くてね。そこで初めてふたりを認識したの。
ウィッチにとってウルフは相性が悪いし、自分も相性が悪い。彼女はきっと自分を信用していない。でも彼女は必要だから、力を貸してくれ。そう、言われたんだ。」
今日は傘を忘れたの
だから君の傘に入らせてよ
ほんとはね
カバンの中に折り畳み傘
入ってるんだけど
好きだもの
君と一緒に肩並べて
帰りたいじゃない
靴紐が解けたら立ち止まって結び直すけど
時は立ち止まらないから、2人は解けたままになる。
見えてる傷には包帯を、触れ合いたいならキスをするけど
心には触れられないから、治癒もチューもしてやれない。
なら紐の端っこを持ってお互い反対に歩いていけば、結び目はきつくなって、離れられないって、you know?
バイバイディア大嫌いな君へ。
アルバムも見返したりしないから。
跳ね返す返答が心にあたって
寂しくなったんだ。貴様のせいで
いつもの習慣だったから、連絡しそうで堪える。
あれから3日経ったけど怒りor何かで気が気でない。
会いたいとも思わないけど何故か気になってしょうがない。
終わらせたわけじゃないのに何故かまた始めようとしている。
去年までとはまるで違うけど実はまだ好きなのかも。
つうかもともと結び目なんて緩んでねぇのに貴様が勝手にわかったフリしてたんだよ。大人になんのはどっちだ?取り敢えず。
バイバイディア大嫌いな君へ。
やりとりを見返したりしてるのは
自己分析のエレメントだから
寂しくなったんだ。貴様のせいで
いつもの空が少し、隙間だらけに見えてる。
「2人なら」なんてさ、いらないよ
待ち合わせ場所だけ送るから
バイバイディア大嫌いな君へ。
昨日見たおじさんの話を
したくなっちゃって
会いたくなったんだ。君のせい
いつもの習慣だったのに、連絡しづらくて困る。
取り敢えず、明日駅前の松屋で。
「瑛瑠って呼びたい!」
これまた雰囲気に合わない内容で。
「あと!私のこと伊藤さんて呼ぶのやめようよー、超他人行儀じゃん!
ね、歌名って呼んで。」
にこにことする歌名に、NOなんて言えない。それに、その持ちかけは瑛瑠にとって非常に魅力的なものだった。
瑛瑠は、できるだけ歌名の眩しい笑顔に近付けるように、にっこり微笑んで見せる。
「改めて。よろしくね、歌名。」
今度黙るのは歌名の方で。
「は、破壊力っ……!」
この子はいちいち反応が面白い子のようだ。
ふんふふんふーんふんふふんふーんふんふふんふーんふんふふんふーんふんふふんふーんふんふふんふーんふんふふんふーんふんふふんふーんふんふふんふーんふんふふんふーんふんふふんふーんふんふふんふーんふんふふんふーんふんふふんふーんふんふふんふーんふんふふんふーんふんふふんふーんふんふふんふーんふんふふんふーんふんふふんふーんふんふふんふーんふんふふんふーんふんふふんふーんふんふふんふーんふんふふんふーんふんふふんふーんふんふふんふーんふんふふんふーんふんふふんふーんふんふふんふーんふんふふんふーんふんふふんふーんふんふふんふーんふんふふんふーんふんふふんふーんふんふふんふ(以下略)
適当です。雑なのは勘弁。エリック・サティの代表曲です。
理想と程遠い人間になるのが嫌で
嘘を吐きまくって
それなりに綺麗な形を保ってきた
普通な人間になるんだ、という
自分中心の外側で
君の気持ちを考え、決めていた
この時点で未来は決まっていた
下向く姿は見てほしいの証
でももうしないと約束するね
許してほしいなんて思ってないけど
せっかくの友達だから
何度も確かめたはずなのに
普段の君からはそう感じ取れないから
やっぱり僕が決めていた
そのせいで僕も君も僕は大事にしなかった
今まで誰にも見せなかった君が
こぼれ落ちた何かを隠しながら
陽が届かない方へ走って行ったのに
どうして僕は一言言えなかったんだ
君なりに考えてくれて
出した答えが君の「ごめんね」
何で君がそんなこと言うの?
僕も「ごめんね」
スマホ越しじゃ、このくらいまで
明日目と目が会ったら、次は僕からいこう
それは、わざわざ昼にこの人気の無い場所へ連れてきたことと関係あることであろうと考える。
「魔力持ちということしか。」
言いたくないと少しでも思ってしまった自分に、まだまだ子供だなあと自嘲的に思う。
「それじゃあフェアだね!」
しかし歌名は、対照的に笑った。
フェア、とは。
「アンテナ鋭いめちゃすご英人くんに気付かれたのは、そこに秀でてるんだからもう諦めるけど、」
素晴らしいネーミングセンスに瑛瑠は感動する。
「他の人に気付かれちゃうとか、私のコントロールどうなってんのって話だもんね。まがいなりにも送られてきたんだからさ、自信なくしちゃうっての。
私も、瑛瑠ちゃんがウィッチだってこと気付けなかったよ。だから、そんなに悔しそうにしないで。」
けらけらと笑う歌名。しかし、ウィッチと言ったではないか。それに、英人のことも。
物言いたげにしている瑛瑠の様子を察したのだろう。
「うん、瑛瑠ちゃんに話さなきゃいけないんだけど……その前にさ。」
神妙な面持ちの歌名。
瑛瑠は黙って待つ。
もしもぼくときみが天の川を挟んで遠くの星へ引き裂かれても
ぼくはきみを愛していたくて
一年に一度しか会えなくたったとしても
どうにかして毎日でもきみのことを見つけに行くんだ
きみからぼくの記憶がなくなっても
ぼくの中にきみがいる限り
たとえ世界が終わろうとしていても
ぼくはきみを探し当てるんだ