瑛瑠はひとり、ホットミルクの入ったカップを両手で包み、ぼーっとしていた。
話しているとき、チャールズは顔色ひとつ変えずに耳を傾けていた。今はといえば、ちょっと待っていてくださいと言って部屋を出たきり戻ってこない。チャールズのちょっとの幅は一体どれだけなのだと思わないでもなかったが、話し込みすぎて疲れてしまったので、瑛瑠はぼーっとしていたとなるのだけれど。
瑛瑠の話の間、チャールズは真剣ではあったものの、いつも通りの――最近は表情豊かであると感じることもあるが――何を考えているのか上手く察することの出来ない顔をしていた。ああ、いつものチャールズだ,そう感じるも、自分の踏み込んで良い領域ではないのだとも理解してしまい、少し寂しくも思ったり。 ふと時計を見ると、11時を回っている。時間を意識しない夜は流れがはやいものだと思う。
「すみません、お待たせしました。」
「……何をしていたの?」
じっと見つめるも、ちょっと,と答え曖昧に微笑むチャールズ。
瑛瑠はひとつ息をついた。
TVで「TVの見すぎはよくない」って言ってる世の中なんだもんね
おかしいことばっかりの世の中だね
でも、この世界を生きてかなくちゃなんだよね
みんな誤解しているようだが、そんなものは無い。人を含めあらゆる生き物はただ在るべくしてそこにあるんだ。なので、生きる意味に悩んだり死にたく思ったりする必要無いですからね。尚、これは主観なので、好きなだけ批判して下さい。
きみが舐めて溶かしている
棒付きキャンディーの色が気になって
でも聞けなくて知りたくて
じっと横顔を見ていたら
ふいに視線が繋がった
きみが笑いながら引き抜いた棒の先には
色どころかキャンディーすら
きみに溶かされたあとだった
瞳が見えた。まっ黒な。
まっ黒で、それで光がいくつも浮いていた。
一瞬だけ目が合ったときのこと。
君が笑顔だったってことは覚えている。
くしゃっと目を細めて。僕には眩しすぎて。
だから目を逸らしてしまった。
僕はその時のことを、そんなことしか覚えていない。
でもそれでいい。その笑顔が好きだ。
心臓だけじゃない、息でさえ止まってしまう。
そんな笑顔が。
もう見られない、きみの笑顔が。
あなたの全てが美しすぎて
その指先
その目
その唇
その黒髪
あなたをつくる全てが
あまりにも美しすぎて
そして何よりも
あなたの心が綺麗すぎて
なにもかも完璧すぎて
そんな君が今
初めて涙を流したんだ
その涙さえも
どうしようもなく
美しすぎて
僕はそれをただ
見ていることしかできなかったんだ
瑛瑠はひとり、ホットミルクの入ったカップを両手で包み、ぼーっとしていた。
話しているとき、チャールズは顔色ひとつ変えずに耳を傾けていた。今はといえば、ちょっと待っていてくださいと言って部屋を出たきり戻ってこない。チャールズのちょっとの幅は一体どれだけなのだと思わないでもなかったが、話し込みすぎて疲れてしまったので、瑛瑠はぼーっとしていたとなるのだけれど。
瑛瑠の話の間、チャールズは真剣ではあったものの、いつも通りの――最近は表情豊かであると感じることもあるが――何を考えているのか上手く察することの出来ない顔をしていた。ああ、いつものチャールズだ,そう感じるも、自分の踏み込んで良い領域ではないのだとも理解してしまい、少し寂しくも思ったり。 ふと時計を見ると、11時を回っている。時間を意識しない夜は流れがはやいものだと思う。
「すみません、お待たせしました。」
「……何をしていたの?」
じっと見つめるも、ちょっと,と答え曖昧に微笑むチャールズ。
瑛瑠はひとつ息をついた。
4月8日、火曜日、快晴。
明らかに変な反応を見せたのは、まず、あたし、もとい、"俺"と一緒の部活に入ってる同級生の遠山春希ことハルさん。
「え、どうした?」
「似合ってるしかっこいいけども」
「なんかの罰ゲームなの?」
などと、明らかに戸惑っているご様子。
次に、いつもと明らかに違う反応を見せたのは、同じく部活の同期の町田凜ことりんこさん。奴は俺の顔と服装を見るやいなや大爆笑して廊下で人目もはばからずにのたうち回りやがった。
けど、俺の姿を見たあいつだけは、他の奴らとは反応が違っていた。
あいつは、俺の姿を見ると、開口一番に「素敵。かっこいいよ。」と、言った。
やっぱり、あいつには器の大きさじゃ勝てない。
それどころか、俺はあいつに勝てない部分が多すぎる。
でも、いい。
ここからだ。
ここから俺は、あいつに、藤村龍大に追いつくんだ。
俺は、松田由紀。
今日、俺は、髪型をツーブロックにして、スラックスを履いて登校した。
一応、戸籍の性別上は、女ではあるけれども、俺の、心の中は、男だ。
4月8日、火曜日、快晴。
まだ白紙の、俺の、物語は、ここから。
人はイマージュを愛したり憎んだりしているだけである
他者にとってのあなたはイマージュでしかない
あなたにとっての他者もイマージュでしかない
あなたにとってのあなたもイマージュでしかない
人物像というのは像つまりイマージュ
誰も実体をつかむことなどできないのだ
本当のあなたを知っている人はあなたを含めてどこにもいない
人見知りにとって知らない人は犯罪者
犬が腹を見せるのは服従ではなく防御反応
相手を信用していない証拠