時間は、新しい僕に変えてくれない。
でも、時間と共に変わっていく景色を見て、僕は嬉しくなるんだ。
物を見れば蘇る思い出が
たくさんある。
みかんであったり
駅の改札であったり
サッカーボールであったり
図書であったり。
悲喜交々、
全てやり直しが効くなら
やり直したい気もするが
それが今の自分の一部なら、
認めなければいけないことが
たくさんあるよ。
君らにも、物を見て
思い出す物はあるでしょうか。
思い出は
なににも代え難い、
財産ですよ。
お前が泣く理由も、その態度の理由も知らねぇよ。
今はそんなんでも、そんな感情表現が出来ない人はもっといんだよ。
もっと強くなれよ。
私と。
「すみません、長居しすぎました。明後日、今度は友人を連れて、4人でお邪魔します。」
2日後は予定していた報告会。歌名と望にも、ぜひここへ来てもらいたいと、瑛瑠が提案した。
前回はどのタイミングだったか未だに謎であるお会計済まされ事件があったが、今回はひとりなのでしっかりレジの前に立つ。すると、レジ横の腕時計に目が留まる。ウォッチスタンドにおさまるそれは、明らかにメンズであった。
花は苦笑いする。
「瑛瑠ちゃんも気付いちゃったか。まぁ、目立つに越したことはないのかもしれないけどねぇ……。」
語尾を濁す彼女は、慣れた手つきでレジを打つ。
「職業柄、指輪は付けないようにしてるの。食器を傷付けちゃうし、何より衛生上アクセサリーは良くないでしょう?でも、基本わたしひとりでまわしているから、何もしないのは心配だと言われちゃってね。」
指輪、と言ったか。
「旦那さまですか?」
確かに、結婚していてもおかしくない年齢ではあるが、身近にいるチャールズがあんな感じなので、考えもしなかった。
「そうなの。たまにコーヒー飲みに来たりするから、そのうち主人と鉢合わせることもあるかもね。」
それも旦那さんの一種の牽制なのだろうなと思い至った瑛瑠は、愛されていますね と微笑んだ。
誰かの悪口を言って
必ず一人にさせる
誰かが男と話せば
男好きだと非難する
誰かが可愛いと言えば
可愛いと言わなくてはならない
女って鬱陶しい生き物だ
君の手は真っ白で
見るからに冷たそうで
指先は氷の様に
透明に溶けていってしまいそうで
僕はふと手を伸ばす
大事に大事に
壊さないように
君の手に触れようとしたその刹那
張りつめた何かが弾けるように
僕の手に走った静電気
その痛みに顔をしかめる僕
君は素っ気なく視線をずらし
僕に綺麗な横顔を見せた
憂いに湿った
艶やかな唇に
そっと愛を。
ビル風を孕んだロングコート
3000メートルの上空からでも
目が合ったのがわかったから
今夜はもう 眠りたくない
きみの部屋のコルクボード
何年前のかはわからなくても
だれの写真かはわかったから
今夜はもう 眠れなくなった
夜風に吹かれて頭を冷やす
冷えた体にはあったかい缶コーヒー
角がたった立方体の心には
エモーショナルな澱が溜まる
自分に勝て!
上の言葉は絶対に不可能であると今から証明してみましょう。
まず、仮に自分に勝つことで得られる利益を1としましょう。次に、負けることで自分に与えられる損害を-1としましょう。
仮に本当に自分に勝てたとします。すると、現在の自分が得た利益は1。しかし過去の自分は未来の自分に負けているので、損害が-1。合計で自分の得た利益は1+(-1)=0
この通り0になってしまい、「勝つ」ということは出来なくなります。
したがって、「自分に勝つ」ということは不可能なのです。
「自分に負けるな!」という言葉なら、±0になるので可能です。
というわけで皆さん、「自分に勝つ」ことではなく、「自分に負けない」ことを意識しましょう。
あなたは何も言わないけれど
オイルに混ざるシャネルの5番は
二人の時間が限りあるものだと
教えてくれていたんでしょう
「正確にいうと側近の人なんだけどね、なんか王さまが僕に会いたいって言ってるらしい」
アーネストは手紙を取り出すと、ライネンに手渡した。
「ふんふん...。来るべし、ねえ.........」
「何かありますか」
「うむ......この、『冬宮』ってとこが気になるな」
「んっ、どこですか?」
「どこですかって聞くほどたいした手紙じゃないだろう」
「そういえばそうでした」
『冬宮』というのは、王宮ケア・タンデラム城のことだ。寒さの厳しいトルフレアの冬季に最大の防御力を誇ることから呼ばれるようになった通称だと聞いたことがある。
「『冬宮』ってのは俗称なんだ。それも国民よりも外人が呼ぶ呼び方だ。それをましてや宮中の人が使うかな、とは思うんだが」
「確かに、それもそうですね...。まあ、トルフレアも丸くなったってことじゃないですか」
「そうか......まあ、なんにせよ、お前はどうしたいんだ。行くのか?」
「そう、ですね......。ケンティライムには前から行きたいと思ってたし、行ってこようと思います。王宮に行けるなんてまあなかなか無いことでしょうし」
「なかなかとかじゃなくて、普通ねえんだよ!」
そう大声を上げたライネンは、どこか寂しそうな気もした。
「ま、ちゃっとケンティライムまで行って、ちゃっと王様に会って、ちゃっと観光して、ちゃっと帰ってきますよ」
「ちゃっとってなんだよ、ちゃっとって」
そんなこんなで、アーネストのケンティライム行きは決まった。それから一週間、アーネストは外回りや旅の支度など色々な準備をするのだが、その辺りは割愛。
「ねえ、ライネンさん」
「どうした坊主」
夕食中。ライネンが腕によりをかけて作ったのは真っ赤な鶏肉の料理だった。辛いのはあまり得意ではないアーネストはひぃひぃ言いながら食べていた。
「王都から手紙が来たんだけど」
「へえ、お前ケンティライムに知り合いでもいたのか」
「いや、そうじゃないんだけど」
「で、誰から来たんだ」
「ルーガル・トルフレア二世」
「ふーん」
「知り合いですか」
「知り合いも何も.........って、なぁにぃい???!!!」
ライネンはひどく体を仰け反らせ、目を見開いた。
「おまっ......ルーガルって......おまっ...」
「『おまっ』ってなんですか、ひらパー兄さんですか」
「ひら...何だって?」
「すいません忘れてください」
作者の地元愛が出てしまった。失敬。
「とっ、とにかくだ。お前なんで国王陛下から手紙貰ってんだよ」
鼓動が聞こえる
ぎゅっと握ったマフラーの裾
ちょっと赤くなったかわいい鼻先
寒いねって笑う君がきらきらしていて
一段と夜が明るくなった
あったかい缶コーヒーを手渡せば
半分こ、と笑うからずっとこの時間が続いてほしくなる
満ち満ちた紺色の空へ
流れ星だ!と指差す君のきらきらした瞳
全部が夜に溶けていくようだ
立方体の星空の中で
ずっと見ていたいねって君が言うなら
絶対にそれを叶えたくなる