瑛瑠が勘違いをしたように。
「さっきは、本当にすみませんでした。」
瑛瑠も、ぽつりと言葉を置く。
大丈夫、紡ぐことは出来る。
「英人さんを、ただの共有者だなんて、思ってはいないです。……酷いことを、言いました。本当に、すみませんでした。」
横に並んでくれていて良かったと思う。今の瑛瑠に、英人の顔なんて見ることはできないから。
すると、ごめんと横から返される。
「手荒な真似をした。」
瑛瑠は少し吹き出す。そこかと笑えてきたのだ。確かに、力だだ漏れ状態で引っ張られた。
英人がそんなことを言うから、それに乗っかることにした瑛瑠。
「痛かったです。痕になって残ってしまうかも。」
腕を擦りながら言う瑛瑠に、英人は目を見開く。
もう、大丈夫。だからまた、元の関係に戻りましょう。
言外の言葉を感じ取り、英人は微笑った。
「僕からの愛だと思ってくれ。」
瑛瑠も微笑む。
「重すぎる男性は嫌がられますよ。」
平行線が、少しだけ傾いたお話。
涙を奏でて
詩を描いた
詩は
虹じゃなくていい
ただ一滴の滴であれ
一滴あれば
くちびるを濡らして
漏れた吐息で
歌を響かせ
君を描いた
寒くて凍えそうな時
いつも君が隣にいてくれる
つらくて怖くてしょうがないときも
君は隣にいてくれる
隣に君がいるだけで心も体も温められてホッとする
真っ白な何もない
彷徨うにも彷徨えないような
立方体のなかに
座り込んでめそめそ泣いてる
君の肩に触れたかったんだ
取り残された僕の手に
昇華した君の残骸
君はどこにもいない
君はどこにもいない
嘘も
本当も
ぐちゃぐちゃに入り乱れた
本当は全部真っ黒だったんだ
真っ白な空間にぶちまけた闇
嘘じゃないけれど
本物でもなかったんだ
白と黒は無を争い合って
互いの輪郭が見えなくなるころに
気付くんだ
だから
嘘も本物もここにまぜこぜにしてしまおうぜ
こっち来ないで!
先を歩く君は、踏切の真ん中で立ち止まる。
人気のない夏の昼下がりの踏切。二人の間に茂る木の葉の影は、空の青と同じ色をしていた。
何でだよ
何でもよ
ヤケになったように彼女は叫ぶ。
昨日もそうよ。なんの連絡もよこさずにやってきたと思ったら、自分と学校の話だけして、おしまい
それは
うるさいわね!どうせ偶然を装って私について来ようとしたんでしょうけど、私、絶対にあなた連れてかないから
そんな言い方ないだろ
そういうところが嫌いなの
突然、踏切がけたたましくなり始めた。
なぜだか、背筋がすうっと凍っていく。
いつまでも未練がましくて
二人の間に、ゆっくりとバーが落ちてくる。
たまにしか会いに来ないくせに、私の話も聞いてくれない
それでも動こうとしない彼女に、足が金縛りにあったように動けないと知ってしまったのはいつだったか。
別れたの一年も前よ?もういい加減諦めて、忘れなさいよ
相変わらず踏切がうるさい。
彼女は不意に視線をそらすと、その先には電車が迫っていた。有無を言わさぬ速度で、迫ってくる。
いつの間にか傾いていた日が、真っ赤に彼女の顔を照らす。真っ直ぐに鉄の塊を見据えるその瞳は、怒ってるんだか、泣いてんだか。
そりゃあ私だって、忘れられるのは嫌だけど
迫る鉄の塊が、無情にも彼女の命を刈り取るその刹那。
あなたは自分の、道を生きなさい
風圧で乱れる髪の隙間から、ほんのり笑って見せた。
目の前を風と爆音が通過し、うるさかった踏切が鳴り止む。
しばらくして、またゆっくりとバーが上がり始めた。
さっきまで彼女がいたはずの場所には、影も形も存在していなかった。
……忘れられるわけ、ないだろ
8月、昨日。彼女の命日。
今日。僕の自殺が、失敗した日。
好きな人が出来た。
見た瞬間、声を聞いた瞬間、恋に落ちてしまった。
でも、その人は遠い遠い星のひと。
会いたいから、学校休まないで行こう!…みたいに気軽にいくことじゃない。
彼は本当に手の届かないひと。
でもね、諦められないの。
誰になんて言われても、これだけは無理。
だって………
大好きになっちゃったんだもん。
とあるマンガに出てくる女の子がこんな感じのことを言ってた。
“この世界に好きになっちゃいけないひとなんていないんだよ”
あの時は聞き流していてあやふやに覚えているこの言葉、今、とても胸に、心に刺さる。
嗚呼、本当に好きになんだなぁ…
会いたい。
会いたくてしょうがない。
話したい。
話したくてしょうがない。
触れてみたい。
触れてみたくてしょうがない。
こんなにも、大好きなの……
好きで好きでもうどうしようもないの…
とてもとても、苦しいの……
大好きなの…大好きなの…………
この想い、いつか伝えられたらいいのにな…
人は光にすがる
そんなにも綺麗に見えるか?
だれかが言うから見るんじゃないのか?
僕にとって光は包丁のようなものだ
一見 暖かく人を照らしている様に見えるが
僕にとって光は悪意に満ち溢れたスポットライト
の様に見える
温かい光で嫌われ者の僕を照らす
温かい光のはずなのに氷のように冷たく感じる
まるで他人の視線のよう
まるで鋭い針のよう
だから 僕は自分の力で前に進みたいと思う
光にはすがらない
辛いのは大変なのは今だけだ
頑張れば良いことが待ってる
なんて
私の苦しさを知らないのに言わないで
私の辛さを分からないのに言わないで
貴方が優しいことは知ってるけど
その優しさが凶器なこと
誰も知らないままでいい
私はその凶器に刺されて死んでゆく
「私、何か良くないことを言いましたか?」
恐る恐る聞くけれど、英人も首を傾げるばかり。しかし、特に追いかけもしなければ弁解するような真似もしないところを見るに、それが普通なのだろう。怒っているようにも見えなかったのは、勘違いではないはずだ。
「さっきの、瑛瑠の付き人の名前か?」
瑛瑠は頷く。そういえば、彼女は夢の中でもチャールズの馬鹿と叫んでいなかっただろうか。
一体チャールズは何をやらかしたのかと、瑛瑠は頭を悩ませた。
沈黙がおりた空気に、英人は息をついて、本日2回目の送っていくという言葉を告げた。
「ミルクティー、ご馳走様でした。」
「いや、大したもてなしも出来なくて。」
英人の家を後にし、今度こそ瑛瑠の家に向かって道を進む。
特に会話もなかったからこそ、瑛瑠はどう謝罪を切り出そうか、悶々と考えていた。
すると、英人がぽつりと言葉を置く。
「これも、見る人によってはデートに見えるんだろうな。」
たった一瞬の灼熱が
一つの街を
凍りつかせる
激昂の暴言が
君の心を
凍てつかせる
手首の火傷は
いつだったか
冷蔵庫の裏で焦がした
誰かを温める筈の炎は
時として
誰かを凍えさせる
燃える氷は
それに気づかない
熱を奪って滴らせる
寒いね
ああ、寒いな
...そろそろ帰る?
...あと少し
...そう
...うん
寒さが誰かを
温めたりもする