瑛瑠はそのあと、しっかりと責任をとって英人にかけられた不名誉な疑いを晴らした。
彼にしては珍しく表情を顔に出し、不機嫌そうにする。
「すみませんて、英人さん。」
「僕を犯罪者にでもする気か。」
歌名の座っていた椅子に座った瑛瑠は、向かいの英人に謝る。
そっぽを向いてしまった英人に瑛瑠は困ってしまい、歌名と望に目で助けを求めるが、ふたりとも苦笑いを返すのみ。
「今回は、瑛瑠が悪い。」
「紛らわしい言い方はよしてよ、瑛瑠さん。ぼく、本気でぞっとしたから。」
ここまで言われてしまったら、反省する他ない。
瑛瑠は英人をつつき、再度困ったように謝る。
「犯罪者にする意図はまったくもってありませんでしたし、英人さんなら犯罪じゃないですから。」
そういうことではないし、そういうところだぞ祝瑛瑠。
3人が、完全に諦めた瞬間だった。呆気にとられている歌名と望を置き、一足先に冷静になった英人は、深いため息をひとつつき、苦笑する。
「もういい。瑛瑠はもっと表現力を学ぶべきだ。」
きょとんとする瑛瑠に、さらに言う。
「無防備なのは僕の前だけにしてくれ。」
その一言に対する狼男と透明人間の抗議により、朝の時間はさらに賑やかになるのだった。
「なあ、今度みんなで集まらないか? あの場所で、もう一度 別に今すぐ、行くかどうか返事しなくていい。当日でもOK」
「12月1日 14:12 既読済み」
「25日なんだけど、みんなはどうする? 俺は迷ってる。本当は行きたいけど…」
「12月12日 16:38 既読済み」
「…」
スマホの画面をスクロールする手が止まる。そもそも、そこまでたくさんスクロールするほど、見るメッセージはない。
新たなメッセージが来たのは、つい昨日の夕方の、4時くらいのことだ。
最初は、誰かが決断したのかと思った。でも違った。想定外の展開、まさかの確認みたいなメッセージだった。
もちろん、新たなメッセージの送り主は、最初の”彼”とは違う人だった。
これで分かったことは2つ―1つはみんな、互いの様子を見ていること。
もう1つは―まだ、みんな迷っているということ、つまり決めていない。
多分みんな、行くかどうか迷ってるんだろうと思った。ということは、全員あの場にそろう可能性があるということ。
「私も行きたいけれど―」
今のこの状況で、行けるのか? 会場には6人の中で一番近いとはいえ、親が行くことを許すだろうか。
(受験生、時間帯、約束―)
どうすべき? 私はどうすべき? 親に反対されるのなら、行かないほうがマシ?
それで志望校合格できなかったら、何を言われる―?
何気なく、窓の外を見た。最初のメールの送り主のところは、もう雪が降ったんだっけ?
「いいなぁ、12月で雪が降るんでしょ? じゃあ、ホワイトクリスマスじゃん! すっごい素敵~」
「はぁ⁉ 雪かきめんどいよ? なんなら、東京みたいに、年に1回降るぐらいがいんじゃね? こっちなんて、雪の夜は全然ロマンチックとかじゃないからな。真っ暗だよ、ふぶいてたりもする」
「いつか行ってみたいな」
「あ、イチゴもイチゴも!」
「あの~こっちも雪降るんですが~」
「いいね! いつかみんなの家、行ってみたい!」
「俺ん家はちょっと嫌なんだけど」
「えー、恥ずかしいのかよ~」
「兄妹がめんどくさいだけだよ」
ワイワイ笑いあった、あの日。また会おうと約束した、あの場所。
もしできるのなら、叶うのなら―
「どうでもいいけど、今日はふたご座流星群あるんだっけ」
ふと、そんなことを 思い出した。
冬の大三角を探す。
名前覚えてないけどね。
繋いでみる、
まるで、僕と君と彼みたい。
君は彼しか見てなくて、
僕は君しか見ていない。
見たらわかる、僕に勝ち目がないことは。
ただの片想いってことは
乾いた笑いで
涙を浮かべる
とある日の夜
はじめて自分で買った真っ赤なマフラー。
冬のにおいがしたからさっそくつけた。
ちょっと派手なんじゃない?って君は顔をしかめるけど。
いいの。
これは私の恋の色。
君のための恋の色。
結月視点
初めてあの曲を聴いた時、素敵だと思った。
あの曲は、雪の降る街で恋に落ちていく男女の話。恋なんて知らないけど、とても素敵だと思った。
ただ一つ確かなのは僕はあの曲に恋をしたこと。
首に巻いた、降り出した雪と同じ色のマフラーに包まれる顔があったかい。
また、音に恋するのかな。
“きれいな
きれいな
雪の音”
そう、ノートに書いて
今日は終わった。
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初めて番外編書きました。
三題噺に重ねてみました!
どうだったでしょうか?
感想、是非ください!
世界閉ざすフィンブルの冬
世界とぼくを、君のマフラーで繋ぎ止めてくれればよかったのに
すぐそこのラグナロクと、ひとつの恋と、ぼくの歌
夜空を見上げ
ふと思う。
君の誕生日は12月。
それならきっと
射手座か山羊座かな。
君の星座は
どこだろう。
ゆっくり探してみるけれど
射手座と山羊座は
夏の星座なんだ。
君の星座が
見えない夜空。
なのに
私の星座は
この夜空にある。
どうして。
君と私は
いつでもすれ違い。
「あれが、オリオン座。ほら、真ん中にみっつ、星がならんでいるでしょう?」
そういってオリオン座をさした
あなたの細くてしろい指先を
今でもはっきりと覚えている。
オリオン座は砂時計の形に似ているみたいだねって
そういったら
あなたがそうねって
ほほえんだことも。
旅にでた先で
あなたが教えてくれた
あの星をみつけるたびに
なつかしいようなせつないような気持ちになる。
あれは
あなたに会った最後の夜だった。
あの星は
あなたがくれた最後の贈りものだった。
今あなたのところから
オリオン座はみえていますか?
久しく乗っていなかった愛機の覆いをとった。8年前俺が恋して止まなかったBMW K1300R。マフラーも取っ替えてボアアップもして、かけがえのない俺の相棒だった。
けれどいつしか、仕事に追われ、色々と言い訳をしながら、ガレージに眠らせてしまっていた。しかし、それも今日で終わる。
三日間部長を説得した後、一週間の有給をとることに成功。こいつも多少整備して、日本縦断旅行をするんだ。この年末の忙しいときに何なんだと散々嫌み言われたけれど、そんなことは気にしない。あの頃のように、気ままに、スロットルを。排気音鳴らして走り抜けるんだ。あの頃の記憶が甦る。眠っていた俺のライダー魂が疼きだした。