あなたのその長い髪は
美しすぎる、
切ってしまおうか。
ざくざくさくざくざく響く
鋏の歌声いつまでも
「え、でもさ亜理那。、もしかしたら嘘ついてるかもしれないんだよ? あとさ、もしこいつの言い分が正しかったら、誰がそこに亜理那のシャーペン置いたの? ウチらこの教室にずっといたけど、そんな人見てないし」
「それな。周りの人だって見てないだろうし…そうでしょ?」
笛吹さんの取り巻きの1人が、そう周りに呼びかける。
この様子を見ているクラスの人々は、黙りこくっている。
「ほらね、誰も答えない。てことは見てないも同じよ。だから悪いのは―」
「でもそうかな?」
笛吹さんが、取り巻きの1人の言葉を手で遮る。
「あたしはそうじゃないと思うんだけどなー。本人は嘘ついてる感じしないし」
その言葉に、取り巻き達は愕然とする。
「亜理那まさか⁈」
「だ、騙されてるんじゃない?」
「ちょっと仲良くなったからって、すぐ信じるのは良くないと思うんだけど」
笛吹さんの取り巻き達が、ぐいとこちらに詰め寄る。
どう考えても大ピンチだ―もういっそ…
わたしは覚悟を決め、口を開こうとした―
ならば一体どうして。そう問うてみるも、答えが出てくるはずもなく。次第に全て夢だったんだとさえ思えてくる。
いや、実際そうだったのだ。神託の言葉も、いつかどこかで聞いた律文詩を思い出して勘違いしているだけだろう。何を言っているんだ。デュナの神託だなんて。ついに変な思い込みに走るほど精神が参ってしまったか。もしそうだとしたら、そう思うとますます夢のことなど頭のうちから消えていった。
ネロは体を起こすと、あぐらを組んで背を伸ばし、目を閉じた。足の先から踵、くるぶし、足首から脛、ふくらはぎ、膝、膝裏、太ももを上がって腰、背骨を通って首から頭の頂まで、ゆっくりと水のようなものが満たされていく感覚をイメージする。全神経を研ぎ澄まし、太陽が動く音さえ聞き逃さない。静寂は次第に騒音と化し、そして再び静まっていく。次第に全身がゆっくりと沈んでいく感覚を覚える。すっかり軽くなった体重は何倍にも膨れ上がり、石の床にめり込んで、潜っていく。
幼い頃、師に教わった『心の洗浄』だ。ネロの「師」の口癖は、常に心を清く保て、だった。何者にも支配されない、自分だけの世界。体は奪えても心まで奪うことの出来ないものなど恐れるに値しない、と。
少しずつ体全体が微動し始めるのに身を任せ、ネロは静寂を聞き続けた。
ガンガンガン。ガンガンガン。
「...No.2。客人だ」
格子を叩く音に、ネロははっと目を開けた。あれからどれくらいこうして座っていただろうか。足の感覚はすっかりなくなっている。
「お前に会いたいものがおるそうだ。支度しろ」
...俺に会いたい人?一体誰のことだ。俺にはもう知り合いなんていない。......生きているヤツには。
なぜ俺のことを知ってるんだ。それともよっぽどの物好きか、潜伏している右翼の思想犯か。いずれにせよ、看守を待たすのも不憫だ。痺れる足を引きずり、ネロは身支度を始めた。
こんにちは皆さん。マホこと萩美帆です。先日面白いことがあったので、お話したいと思います。
あれは先週の日曜日、ラジオ番組のテキストを買いに行った帰りのこと。視界の端に何か大きなモノが見えたので、そちらへ向かってみたところ、そこには巨大な生き物が居たのです。
ベースは人間似なものの、身の丈は4mか5m、6本の細長い腕、短い脛と長い踵を備えた力強そうな脚、その脚と同じくらいの長さの尻尾、何か不定形のオーラでも纏っているかのような真っ黒な皮膚等々。とても人間とは思えませんでした。
驚いていると、その生き物が私に気付き、近寄ってきました。これは食われる、私の人生もこれまでか、と思いましたが、そうはならず、その生き物は日本語で話しかけてきました。
「うお、やっべ、見られた。えーっと、無理だとは思うが怖がらんでくれよ。こう見えても俺ァ人間なんだよ」
人間。とてもそうは見えませんが。とりあえず私は、能力で会話を試みました。
『えーっと……こんにちは』
「おォ!こいつ、直接脳内に!面白ェ!」
『私の能力「少年と魔法のロボット」です。貴方も能力者なんですか?』
「ウヒヒ、俺の他にも居たんだなァ、能力者!ああそうだよ」
『原曲は?』
「原曲ゥ?……ああ、アレか。この姿になる度に頭に流れるやつか。曲は『森のくまさん』。見ての通り異形になる能力だ」
『へえ!私の知ってる中でもかなり異色ですよ!その能力!』
「他にも居るんか?」
『はい。そういえば、お名前は?』
「あー……。まあ、同じ能力者のよしみで教えてやるよ。俺の名は阿蘇一寸(あそちょっと)。この名前あんま好きじゃないから言いたくないんだよなぁ……」
『それはすみません…。あ、私、萩美帆と言います』
「へェ。良い名前じゃあないか」
『ありがとうございます。そういえば、さっきの言い方、人間に戻れるんです?』
「ああ。戻ろうか?」
『えー、じゃあ、お願いします』
「おう、これが俺の人間モードだ」
あら、彼、意外とイケメンでした。
「そういう意味深なこと言うのやめてよね。」
「もう慣れてください。」
自己完結した瑛瑠に、望は笑う。
まだ英人と歌名の来る気配がないから、望も質問を用意する。
「じゃあ、瑛瑠さんは幸せ?」
優し気な笑顔に、瑛瑠も微笑み返す。
「幸せですよ。」
特に中身のない言葉のキャッチボールだけれど、この上なく幸せな言葉たちだろうとも思えるから、自然と笑顔がこぼれる。
そしてこの空間は、一瞬にして壊される。
「ちょっとおふたりさん!マイナスイオンなんか出しちゃって!ずるいよ!」
「歌名、仲間外れ同士、僕たちだけでマイナスイオンを出すか。」
「いい考えだね!英人くんがいる時点で望み薄だけどね!」
瑛瑠は、思わず望と顔を見合わせて噴き出した。
あの時僕が あそこに
いたなら どうしてた
だろうか
きっと いつもと
変わらない 平凡で
日常的な気持ちで
居るだろうな
あんなことになることも
知らずに
「おはようございます」って
人一倍 元気な声で
挨拶してるに違いない
テレビが事実を 淡々と
流しているよ
どうすることもできないね
怖いぐらいに
笑えてくるよ
じゃあ 自分は何が出来る?
何も出来やしないのか?
と
テレビを見ながら
思ってしまうよ
そうしてる僕は
テレビの前で突っ立って
いる
結局何も出来やしない
こう思ってる自分も
そう ただの
偽善者なんだ。
はりぼての言葉に
だまされるほどバカじゃない
かんじん要の皆々様が
のきなみ揃って右往左往
おおかみ少年の有り難いお言葉
おとなも子どもも似たり寄ったり
さも当然のように取り乱し
まに受けて 鍵かけて 抱き合っておしまい
み透かしたような
にんげんの言葉
くさった目をした
いきものたちが
ある晴れた日の
ひる下がり
るびを振って
のこりものと人間のことを
こう呼ぶことに決めた
びんに詰めた
じょうしきの欠片
としを重ねて
やすっぽくなった
じゅうはち年間みてきた
うき世が裏返った瞬間だった
だれかのスマホがけんこうこつをなぞってひとごみのなかにわたしのかたちをおもいだす
そっぽ向いて頬杖
うそつくときの癖
じゃまなメガネのフレームのせいで
なかなか視線が繋がらない
いっそ全部ガラスならいいのに
齧ったはずのチョコレートが
体温で溶ける、舌の上
甘ったるいわ。吐き気がするほど。