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ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 5.クラーケン ⑨

わたしは、正直目の前で何が起きているのか分からなかった。
ただ1つだけ分かるのは、ネクロマンサーとコマイヌにとってかなりの異常事態が起きているということ。
2人がここまで驚いているのなら、かなりの状況に違いない。
一体2人は何にそんな驚いているのだろうか。
―まさか。
いや、さすがにそれは考えすぎかもしれない…でも。
もしやと思って、わたしは美蔵の方を見た。
「ねぇ美蔵…」
そう言いかけた時、ほんの一瞬だけ美蔵と目が合った。
―次の瞬間、不意に目の前が真っ暗になった。
意識を失ったとかそんなのじゃない、意識を保ったまま、周りが何も見えなくなったのだ。
その直後、何も見えない真っ暗な世界で声が聞こえた。
「―ずらかれっ!!」
え?、と声が聞こえた方に目を向けた数秒後、またさっきのように周りが見えるようになった、が。

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青写真

ラムネ瓶に屈折する光
五月蝿いアブラゼミ
古ぼけたカメラと
ファインダー越しの君

この時を、この夏を
大切に切り取ってゆく

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DOGS

夜になって 川に沿って
君と歩いて 犬が吠えて
俺はなんか 幸せだね

だってこんな 低い天井の
空 抱きしめられるのさ
みんなママを思い出して眠るような

そんな夜に
そんな夜に君といて
そんな夜に
そんな夜に君に触れていられるから


信じて 笑われて
それでも 歌ったりして
俺はなんか 馬鹿なんだね

だけど こんな厚い雲の上に
いる気分に やつらはなってる
君はどうだ。俺の横で目を合わしてくれるかい

こんな夜に
こんな夜に手を握って
こんな夜に
こんな夜に君と笑っていられるかな

みんなママを思い出して眠るような。そんな夜に
そんな夜に

そんな夜に
そんな夜に君といて
そんな夜に
そんな夜に君に触れていられること。

俺はなんか。幸せだね。

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猛暑日

今日は暑い、暑い、暑いなぁ…
あっ、
でも君を思う気持ちよりは涼しいか

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いつからか僕は
いつかの残骸

荒廃した遺構の
古びた骨格が
今の僕を支えている

今の僕は存在しないよ

今の僕は過去の残骸だよ

そうして過去に染まって
いつ僕は過去を抜けられるんだろうね

”今”を見逃さなくて済むようになるんだろうね

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ただいま、って言葉が

いつもより反響した気がしたんだ

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世にも不思議な人々㉘ 乙鳥の世界その2

そういう訳で、僕の家まで来たわけなのだが。
「チャチャさん、アパート暮らしなのですね」
「うん…ってあれ、鍵が開いてる。出るときに鍵をかけ忘れたかな?」
「……もしかして中に誰かいたりして」
「はっはっは、そんな馬鹿な。大体止まった時の世界で動ける人間なんて……え」
「そういうことなんでしょうねぇ」
「ええ……。けど僕の部屋の鍵を開けられる人間なんて、僕自身と、あと……もしかしてあいつ、いやまさか、そんな都合良く周りの人間が能力者なわけ……」
「どんなご都合主義でも起こり得るのが小説ですから」
「あんまりメタいことを言うなってば」
そして戸を開けてみると、中には僕のよく知っている人間が寛いでいた。
「よォ。遅かったじゃあないか。待ちくたびれたぜ、フッシー」
「……お前だったのか、鈴木」
「あれ、この人は確か」
「あれその子。おいフッシー、お前ついに……」
鈴木の野郎が安芸ちゃんと僕を交互に見て、僕に何とも形容し難い眼を向けてきた。
「違うから!そういうアレじゃあないから!」

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砂浜

バク転して変わった世界でさよなら。
またきっと逢いましょう。

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ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 5.クラーケン ⑧

…相変わらず、美蔵は意味の分からない事を言う、そう思った。
多分、進学した中学でもそういう事を言っているのだろう。―そして周りを困らせているに違いない。
―やっぱり、彼は昔とそこまで変わっていないんだなぁ…
そう自分の中で呟きかけた時、不意に路地の角から飛び出してきた人物と目が合った。
目が合った瞬間、わたしは少し凍り付きかけた。
というのも、その人物の目は恐ろしく鮮やかな赤紫色をしていたからで。
「…!」
赤紫色の目の少女ネロ…じゃなくて”ネクロマンサー”は、わたしと目が合った瞬間、戸惑ったように目を丸くした。
「…やっと見つかっ―え?」
ネクロマンサーに遅れるような形で角から出てきた”コマイヌ”は、わたし、というか美蔵の方を見た瞬間にぴたりと動きを止めた。
「え、は?、なんで…」
コマイヌはこの状況が呑み込めないのか困惑しきっていた。