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ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 6.ハルピュイア ㉒

「…え」
人々は沈黙し、その視線はその手に集まった。その人物は―
「―黎?」
当の本人は微かにうなずいた。
「は? まじで?」
「うっそぉ…」
意外な犯人に耀平とネロは呆然とした。
「まー黎なら言っちゃってもおかしくないかもなー…いつもちょっとぼんやりしてるし」
あ、今のは悪口じゃないからな、忘れろよ?と師郎は嫌味にも聞こえるかもしれない発言に付け足しをした。
「てか、何で言った? 何かと等価交換?」
なぜに?とネロは黎に尋ねた。
「…別に、『何か面白い話ない?』って言われて、最初は喋る気なかったから無視しようとしたけど、しつこいから仕方なく言っただけ」
本人は悪気もなさそうにさらっと言った。
「仕方なく、ねー…」
ネロはぽつりと呟いた。

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宿命

さっきから目頭押さえて
泣いているのは わかっているけど
指先から伝わる想いを
背中に受けて飛んでゆくんだよ
ここまで来られて
本当によかったと
夢かな?夢なら
醒めないでくれよ
それならこれから
あの日背負った数字は
今日から永遠だよ

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泣き虫

泣き虫だからわたし
きみの知ってる何十倍も
わたし寂しがり屋で甘えんぼだよ
だからね
きみはわたしに寄り添う義務があるんだよ
わたしを惚れさせて放置なんてひどいんだから

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空日記

文明が照らす夜を歩く

僕たちは雲が月を隠したことに気づかない

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世にも不思議な人々51 一つ目小僧その4

「で、どうやって僕ら二人から逃げるつもりなんだい?」
伏見が一つ目小僧君に尋ねる。
「こうする」
そう言って一つ目小僧君が、両手を前に突き出した。
「これが俺の能力だ。まず、手首より先のパーツを『減らす』」
その言葉通り、彼の両の手首から先が消えてしまった。
「次に、そこに肘から先のパーツを二股に『増やす』」
更に手首のあった辺りから、腕が生えてきた。
「これを新しく『増やし』た腕でも繰り返す。手首から先を『減らし』、腕を『増やし』、これを繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返して繰り返して繰り返して繰り返して繰り返して繰り返して繰り返して繰り返して繰り返して繰り返して繰り返して繰り返して!!!」
そうしてみるみるうちに増えていった彼の腕が、網のように上手いこと絡み合い、伏見・安芸を囲う檻となった。
「どうだ!これで逃げられないだろ!あとは少しずつ腕を『増やし』ながらじわじわと逃げていけば、俺の勝ちって寸法だ」
得意気に言う一つ目小僧君。我らが万能二人組は何も言わずにその檻を見ている。と、安芸の方が口を開いた。
「……こうして見ると、人の腕で出来た檻って、強度云々よりも精神的な面で脱出を阻んでますよねぇ……。隙間から逃げ出せないでしょうか?」
伏見も返す。
「いや、多分そこにまた腕が『増やされる』んだろう。これは見事。なかなかどうして詰みなんじゃあないか?」
そう言っている間にも、一つ目小僧君はじわじわと後退して確実に距離を離している。
「まあ、僕らには関係無いんだが」
ジッパーの能力で、二人はいとも容易く脱出。
「え……嘘だろ……。何なんだお前らは!?」
安芸が答える。
「万能能力者です」
伏見も続く。
「多機能能力者だ」
どうやら一つ目小僧君も観念したようだ。

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理由

歳の差って縮まらないのに
どうしてだろう
あの頃ほどあなたが
大人に見えない

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秋時雨

月が綺麗ですねを言いたい君は傍にはいなくて

隣にいると思っていた君は今では遠い存在

また私が君の隣を歩ける時が来たら

そんな時が来たら、伝えていいかなこの好きを

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おれんじ

夕方のにおいがした
うっすら浮かんだお月様に
君を想って
でも君はいないなんて思い出して
飛び回る蜻蛉を哀しく眺めて
夕方のにおいを吸い込むんだ
ふと涙が零れそうになる
そんな秋

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電車の端っこで息を潜めて
静かに言葉の羅列を並べる
知らない人ばかりの空間が
心地よかった
同じ国の旅行客
異国から来た観光客
地元の会社員
学校へと走る子供達
大きな楽器を背負った大学生
手を繋ぎ幸せそうな恋人
イヤホンを外して
私はその中に身を委ねた

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夢の時間

とんでもなく楽しくて明るくて大きくて幸せな思い出
いつまでも忘れたくない
死ぬまでずっと
夢のような時間だった

できればこの先何があろうと鮮明なまま思い出として覚えておきたい
あのときの景色、音色、気持ちすべてを
でも時間がたつにつれて少しずつ忘れていくんだろうな

だからせめてあのときあの場所に居たこと、あのとき感じたことだけは絶対忘れない
そうすればまた会える気がする
忘れてしまったことに

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ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 6.ハルピュイア ㉑

「…ソイツとはちょこちょこそこらへんで会うし」
「え⁇」
彼の発言に、わたしと亜理那と鷲尾さんは唖然とした。
「…え、マジで? ホントにちょこちょこ会うの?」
なかなか会おうと思っても会えないよね?と、亜理那は思わず身を乗り出して尋ねた。
だが尋ねられている側はポカンと顔を見合わせる。
「いや、なーんか知らないけどたまに干渉してくるってゆーか」
「なんか、出会いやすいというか…」
「うーん」
そこまでビックリする事?と彼らは首を傾げる。
…彼らにとって”情報屋”は、時々会う知り合いか友達みたいな感覚らしい。
「まーでも謎の興味持たれてることは確かっぽいよね~」
多分ボクなんだろーけど、とネロは言う。
「…だろうなぁ。ネクロは特殊な奴だしー…てか、なんで”アイツ”あの事知ってるんだ? 誰か…言った⁇」
おれは他の人に言ってないハズだけど?と耀平は他の3人に尋ねる。
「いや~俺も特に他の人に言ってないけど?」
「ボクは耀平たち以外に話す相手いないから言ってない、てか最近”アイツ”に会ってないし」
えーじゃ誰だよー言ったのは…と耀平があきれたように言った時、彼のそばでスッと手が上がった。