私は少しだけ笑って、話を再開する。
「それからも私たちは、先輩と後輩だった。それ以上でもそれ以下でもない。色々思うことはあったと思うんだ、中学生だったしね。でも、今はもう覚えていないくらいには閉じ込めすぎていた」
涼花は何も言わない。
「あれは、先輩が引退するときだったかな。私、泣いちゃったんだよね。涼花もよく知っていると思うけど、私はとても涙もろいから」
「そうですね、知っています。思い浮かびますよ、先輩が泣いているところ」
優しく微笑むなあなんて、ふと思った。
「恥ずかしいなあ……そう、そのときにね、先輩が、腕を広げて、おいでって」
そう、おいでって言ってくれた。
涼花は目を見開いた。
「……先輩、腕に飛び込んだんですか……?」
飛び込めたら、何か変わっていたのかな。今でもそう考えることがある。
私はゆるく首を振った。
「できなかった。最後まで私は後輩だったし、先輩は先輩だった。私たちはずっと、先輩と後輩だった」
飛び込めたなら、きっとそれは少女マンガだ。
「先輩に憧れていた。それは、憧憬であって思慕であって聖域だった。それをある人は恋というのかもしれないけれど」
ため息で白く染まった帰り道
「寒いな」って誰に向けたわけでもなく呟く
誰かの肌のぬくもりが欲しいなんて思うほど
僕はロマンチストじゃない
手に入れたものはもう割れてしまった
エントロピー増大の法則だったっけ
失恋すらも科学的に考察するほど
僕はサイエンティストじゃない
あの時にあんなこと言ってなかったら
今日がもう少し暖かくなるのかな
また次があると考えられるほど
僕はオプチミストじゃない
こんな気持ちをそのまま伝えられるほど
僕は詩人じゃないんだ
街灯照らす明日は
すぐそこまで来てるのに
止まず降り注ぐ雨
「私にどうしろって言うの」
容赦なく心を打つ雨粒と
夜明け、離した手の中にまだ残ってる
あなたの熱
「振りほどけば消えるかな」
なんて冗談 嘘だった
気付けなかったんだ
「明日、天気になるのかな?」
なんて独りで呟いた
人と自分を比べてはならない。自分と他人は違う人
同じ場所で同じ事をしていても…
それぞれ違う道を歩んでいる。その人にはその人の
世界があって、それを生きている。
君は雨の日にだけ私の前に訪れる
少し、たった少し 寂しげな表情で
「おはよう」と言うんだ
まるで昨日 君と一緒に寝てしまったみたいにさ
そんな君は誰よりも空が好きで
よく一緒に星空を見たっけな
私の嫌な思いを消し去る景色を
一緒に探してくれたんだ
でも分かってる。
私の感情が口角をあげるほど
君が消えてしまいそうだったこと
私が悲しい顔をする度に
精一杯励ます君を見ていると
引き止めておく理由なんて
捨ててしまうのが正解かと思ったんだよ
君は「私の」雨の日にだけ 私の前に訪れた
少し、たった少しだけ
「おはよう」が聞こえた気がしたんだ
「ハロー」 「hi」
たったこれだけの、しかも一日越しの、信じられないほどちっぽけな会話。
それだけで良い。一つの大事なことは分かった。僕たちはまだ生きている。
浅い 遠い 狭い
世界はマイナス
たった一つの微笑が世界を壊す
泣いた 叫んだ 泣き叫んだ
声にならない声を
叫んだ 泣いた 泣き叫んだ
今日も僕はただの良い子
わたしきっと怒ってんの
君が思ってた人とちがったから
わたしすっごく怒ってんの
わたしは君を恐くなって
ほんの少しきらいになったから
怒ってるの
君はただひたすらに優しい人だとおもってた
だけど
君が与えた存在価値を
君がきれいに消していくから
ほんのちょっと信じられなくなったの
はちみつ色した麦わら帽子の
へこんだまるいところに
あなたへの愛とおなじだけの夕日の光を
私への愛とおなじだけの朝焼けの光を
集めてあつめて
ふたりでとけるの